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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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さらばオオエド、旅は次なる地へ。です

サシャやマスター曰く、自分が捕えられた後の城下町も暫くは騒ぎが落ち着かず、所によっては熱気が更に高まりつつあったらしい。そうなると真っ直ぐ堂々と帰路に着く、というのも少々難しい物になるだろう。ならばどうするべきか


「もう面倒だし真っ直ぐ行くか。おいマスター、背中にマナも乗せれるか」


「勿論、俺のデカい背は目麗しい女性を乗せるための物だが、今だけはこの子ら乗せてやれるぜ」


口上についてはノータッチでいかせてもらうが、何にせよアレフは腕のマナをうつ伏せの形でマスターの背に乗せてやる。既にリリが寝ているのでその横、極力邪魔をしないようにソッと寝かしてやった


「そう言えばね、リリも魔法使えるようになったのよ。凄くない、ねぇ?」


「わぁお、マジでかぁ……凄いな、いやマジで……いや何となくそうなのかもとは思っていたけども、だ……」


二人と一頭はノソノソとオオエド城から自分らの船を停泊させている港へと「歩いて」いた。ただしドロドロに汚れてるとはいえ着物を着込んでいるアレフとマナ以外は、その格好上すぐに素性がバレかねないのでその点は工夫した


先ずは小型化して収納していた荷台を取り出し、呪文を唱えサイズを元に戻す。それをマスターに引かせて旅の商馬車の体を偽る。本職の方には怒られるかもしれないが傍から見ればわからないくらいにはちゃんとそれらしく見えた。

今すぐ服を着替えることが出来ないサシャとリリは荷台の奥、周りからは死角となる場所へと隠れてもらい、ジッとしておいてもらう。幸いにもリリの方は魔力の失調(仮)で未だに意識を失っている。サシャはともかく口は少ない方がより安全だ

どれだけ静かにいようと努めても不慮の事故というのは何時だって何処だって着いて回る、安全は大切にしたいというのがアレフの脳内、その総意だ

意識が無いという点ではいつの間にか眠っていたマナもそうなのだが、この子はアレフと同様に着物(焦げ付き)を着ているのであえてマスターの手綱を荷台から引くアレフの横に着いてもらっている。といっても座らせる事は出来ないので横にして、頭をアレフのふとももに預けるといった姿勢を取らせた


「んじゃ、マスター……頼むぜ」


「おう、任せろ。その代わり目的地に着いたらアレフ、お前がどうにかしろよ」


「勿論、任せろよ」


そんな訳で、マスターの足でもってアレフ一行はオオエド旅行最後の山場へと向かい始めたのだった。


▶▶▶


サシャの言う通り、街の至る所では未だに探査が行われていて迂闊に顔を出せばいっぺんに身バレしかねないとアレフは内心冷や汗を掻きつつ、それでも尚手網を握ってマスターに指示を出す。こういう時こそ堂々としている事が何より大事なのだ。アレフの盗人時代からの教訓、何となく当時を思い出している今のアレフだからこそ肝を据えて取り組める教訓だと言えるだろう


それが幸いしたのか何とかアレフは彼らに感づかれる事も無く道を進み、程なく港が見え始めた。サシャが「やった」と喜んだように声を上げたので少し慌てたアレフだったが、周りの人らはそれに気づく様子を見せない。元から関心が向いてなかったらしいが、本当に背筋が寒くなった。アレフは怒ったように振り向き、「ゴメン」とジェスチャーで謝ってくるサシャを一睨みする


(そうカッカすんなよ……ほら、ゴールは近いんだぜ?)


(そのゴールで待ってる奴らを誤魔化すのが面倒だからカッカしてるんだ……)


港が見えたという事は、もうそれほど距離がないという事だ。

恐らく港に、もしくは船の前にも待ち伏せするオオエドの民が多数いることだろう。考えるだけでクソ面倒だ。

魔法で強引に引っぺがすのもアリかと思ったが何せマナとリリは既に倒れてサシャもそれなりに辛そうな雰囲気を醸し出している。無理強いは出来ない


となるとやっぱり口でだまくらかすしかない。と言っても喋れる馬やエルフじゃ悪目立ちしかねないので結局アレフがやるしかない、という事だ。面倒臭い、面倒臭すぎるのだが何せ自分は皆に苦労をかけてまで助けてもらった側。口で感謝を伝えるのなんて趣味じゃないから決してしないが、その代わりに行動で感謝を示すのが筋というものだろう…………そんな訳で、着いた


港へと着いた。アレフの予想通り必ず船の元へ現れると懲りずに信じ、待ち続ける存在が複数人……両手の指じゃ足りない程度確認出来た。小さな船を海と自分らで取り囲むように立ち並んでいる、だがしきりに何かをペチャクチャと語り合っていて港に突然現れた荷馬車に気づく気配が無い

近づく前に話題を聞き出しておこうと決めたアレフはソッと聞き耳をそばだててみる。すると


「なぁ、流石にもう来ないんじゃねぇか?城に連れてかれちまったんだろ?」


「いや、だが、まだ……何せ「大泥棒」だぞ?そう簡単に済ませるわけがない。もう一悶着くらい起こすさ、きっとな」


おおよそそんな感じだった。距離があるので殆どは予想からなる組み立てだが話題の中心を「大泥棒」が占めているのは間違いないと言える。即ちまだ自分の事を諦めていないんだ

極東人のしつこさに思わず歯噛みするアレフだったが、いずれ意を決したように荷台から飛び降りてその人集りへと走って近寄った


「なぁおい!お前ら、あの大泥棒をまだ探してるんだろ?」


「ん?あぁ、そうだ。お前も一つ噛みに来た口か?」


突如現れたドロドロに汚れた着物の男を前にしても彼らは快く迎えてくれた。身内、というか同じオオエドの人間だと思い仲間意識を見出しているのだろう。彼ら、及び普段のオオエドの普段のおおらかさが垣間見得る一幕だったが、次のアレフの言葉に彼らの表情が一変した


「あの大泥棒、もう知恵の守護者らにしょっぴかれたらしいぜ?それに、もうすぐ本部から迎えが来て本部へ連れてかれるらしいし……もう手遅れだろ。」


「な、なっ!?しょっぴかれたのは知ってるがわざわざ本部がお出迎えしやがるってのか!?」 「いやでも、あの大泥棒相手なら無くは無いだろうよ、なんたって世界に知られる犯罪者なんだからよ」


アレフとしても、目の前で自分の事を犯罪者、犯罪者と言われるのは快い物では無いのだが彼らに悪意が一切無いのは分かっているので表情には出さない。それより今は彼らの心に灯された火を消してしまう事を優先しなくては


「それに、アレフ一味の残党も既に捕えられたって話だしよ……遅れたてめぇが言うのもあれだが、もう手遅れだぜ」


「「「む、むぅぅ…………。」」」


結局、この一言が決め手となり港に集う人集りは一人残らず自分の家、または酒場へととぼとぼ向かうのだった。

その背中に限りない哀愁を漂わしながら……。


▶▶▶


「やァッと出れたぜ、イチチッ……おー尻が痛てェや。ヒリヒリしやがる」


「す、すみませんボス、自分が気を失ってしまったばかりに……」


「いやいや、ンなに自分を責めんなやフーガァ、途中こそ心配させられたがよォ、結果的に随分と成長してんだぜ?おめェ」


アレフがマナを腕に抱えて去ってから暫く、やっとこさ意識を取り戻したフーガが何とか開門の呪文を唱えて知恵の守護者である二人は何とか監獄から地上へと脱出していた。今の今まで呆然とその場に立ち尽くしていた兵らもやっとこさ正常な判断能力を取り戻して微力ながらソレに手を貸した。


「さて……どう報告したもんかな、これは……流石に布キレ一枚持って「これがあの大泥棒、アレフの真の姿でさァ!」とは言えねェしなー……それしかねェのかなァ……。」


「いや、それ以前にオオエドへ返しましょうよソレ、それで感謝状を兄上に一筆認めてもらってそれを手土産に……という形が一番現実的かと」


しかしそれでは己の昇進はきっと雲散霧消する事だろう。フーガは理解していた、だがそれについて言及する事も顔に出す事も、そして後悔する事も決して無かった。この辺がボスの言う成長、という物なのだろうか

フーガは自分の心境、即ち一刻も早く昇進し上がれる所まで一息に駆け上がる。という考えがいつの間にか一新されている事に気づき、少し相好を崩す


(だってあんな戦い見せられちゃあなぁ……あれで憧れない方が男して嘘だろう?って奴だろ、きっと)


フーガがそんな自分史上珍しい感慨を覚えている、その時であった


「おい!貴様ら何をやってるんだ!?」


そんな酷く聞き慣れた怒号が響いてきた。声の主はそこに居る誰も彼もが気付いたが、誰もそちらを振り向こうとしない。口裏を合わせた訳でも無いのに一斉に聞かないフリ、気付かないフリをし出した。それに怒ったのは声の主……そう、コーガだった


「おい、たった今城に知らせが入った!貴様らあの大泥棒を取り逃したそうだな!……おい、何か答えたらどうだ!それとも罪悪感で物も言えぬか!?」


コーガは一人で捲したてる。本来そちら側に着くべきの兵らも素知らぬフリで難を逃れようとしている。全く酷いヤツらだ、とボスは苦笑しながらコーガを傍目に見やった


「よォ、何でだか久しぶりな気がすんなァ。元気してたかよ?」


「黙れ!このっ、この約立たず共が!俺がどれだけ……苦心して今までやって来たと思う!民衆を操るのがどれ程大変だったと思う!何笑ってんだおい!」


どうやら思っていたよりご立腹らしい

ボスが柔らかな笑顔で軽口を言ってもそれにすら過剰な反応を見せ、そして大いに激昂する。手のつけようがないとも、どうしようもないとも言える。この場合のどうしようもない、と言うのは「残念な奴」、という意味でのどうしようもない。だ


それに対しボスは不気味な程ニコニコ笑っている。何故だかとても上機嫌に見えるが、それがかえってコーガの腹心地を悪くさせたようで


「貴様ァ……ニヤニヤ、ニヤニヤとしやがって!馬鹿にしているのか!?おいそこな兵共、そして愛する弟よ、こいつを捕縛しろ!痛めつけてやる!」


「ひュー……怖ェなァ。」


コーガはたった今、この瞬間にこの場の異質な雰囲気に気付いた。誰も自分の命令に従おうとしないし、それに誰も彼もが何かニヤニヤと自分を見て笑っているのだ……ここまで来ると怒りを超えて、何だか怖くなってくる。

耐えかねてその笑みの原因を問おうと口を開いたコーガだったが、それより早くフーガがコーガの下半身目がけ指をさし、そして口を開いた


「兄上、その……下が」


「下?下が何だ───────っ!?」


パックリと裂けていた。それはもう美しく一閃の軌跡を描いているのだ

きっと空に鳴り響く轟音とそれによる地揺れに縮み上がっていた時に恐怖のあまりに無理な姿勢を取ったせいだろう。正装のした部分が綺麗に裂けていて、さながら西洋に伝わる神話に出てくる老人が念で叩き割った海洋の如き様であった。それに気がついたコーガの顔はまるで茹でダコの様に顔が真っ赤に染まり切り、何を言うでなく踵を返して気持ち早歩きで城内へと戻っていってしまった


完全にコーガの姿が見えなくなった後


「ぶ、ぶふっ……」というフーガの我慢の範疇を越えた笑いの漏れが引き金となり、その場に大きな笑いが産まれた


「ブッハッハッハッハァ!何だありャ、あいつ面白すぎんだろォ!」


「あ、あれでも兄なのでぶふっ。そう言わないで下さいよふはっ……可哀想じゃないですかぷふふっ」


「「「ドワッハッハっハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハ!!」」」


もう誰もこの笑いが恐らく城内まで届いているであろう事など気にも留めない。それほどまでに面白いとも言えるし、何よりついさっきまであまりに空気が張り詰めすぎていたのもあり、一度に弛緩してしまい誰も彼もが歯止めを効かせれなくなってしまっている


かくして、オオエドは再び元の暖かな活気を取り戻した。つい先日までこの街に大泥棒が現れ、見事に引っ掻き回していた事など嘘だったかのように静かに、そして穏やかに

しかし、以前と明確に違いがでた点があった。一つは宝具の「隠れ蓑」が取り戻された事、これを藩主のコーガは自分の手で取り返したと公言しているが民衆の大方な予想としては「大泥棒が飽きて返したんだろう」という所であった


そして、もう一つの違い。それは……


「あっ、又裂け藩主だ。」「しっ!人前で言っちゃダメでしょ!」


コーガが街へ遊びに出る度にそんな声が聞こえるようになったのだが、それについてはまた別の機会にするとしよう。そう、きっといつか訪れるであろう別の機会に

だからそれまでは────────。


続く

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