オオエド城脱出、です。
やり口はとても簡単な物だった。マナは予想外としても、誰かしらがきっと現れて監獄内の自分に対して注意が薄れる瞬間があるはずだとアレフは信じ待ち続けていた。だがただジッと座って待つなんて面白くない、折角なら何か用意してやろう。そんな事を考えていたアレフが真っ先に思いついたのは「絵」だった。俗に言う騙し絵という奴だろうか、幸いにも書く物は持ち合わせていて見張りについているボスもあまり中を見ないので苦労せず絵は完成した。自分自身が床に寝そべって寝ている絵だ、絵心があるか否かと言われると首を傾げる出来だが、遠目に見る限りはバレる心配も無いだろう
書き切ったら後は楽な話だ、隠し持った隠れ蓑に素早く身を隠して隅っこにより来るべき時を待つ……待ちに待って更に待つという気の遠くなる話だがやらないよりかはマシだと思うのでアレフは終始キチンとやった。おかげでボスも、途中から現れたフーガも異変に気付く事も無く時は過ぎていった
そしてマナが現れた事によりもんが開け放たれそして明確な「隙」も出来た
その間に隠れ蓑を頭から被ったまま壁をよじ登り抜け出て、後は適当な所に忍び込んでおく。そうすれば後に残った自画像とでも言うべき絵が自分の影武者となって自分の存在を守ってくれる
そんなアレフの考えは見事的中した。
「ま、バレそうだったけどな……いやはや、流石に我らがボス。全く……本当に厄介極まりない」
じゃああの小僧は?ボスが変装だと暴き、アレフだと信じたあの小僧は一体何者だったのか……その答えはアレフ本人の手の中にあった
「いやはや、お前もよく働いたな……時間だけで言えば過去最長なんじゃないか?」
アレフはその手の中、一枚のカードにそう優しく語りかけている隠れ蓑と同様に世界有数の宝具の一つ「A5」、その姿を自由自在に変えるトランプカードサイズの一枚だ。彼が先ずは小僧の、そしてアレフの姿を模していたのだ
今は既にその姿はいつものカードに戻っている
さて、そんな訳でこれらがアレフの仕組んだ一連の「仕事」な訳だが、見事全てに引っかかった彼らに知恵の守護者ら二人はと言うと…………
「ぐゥ……畜生、畜生めが……怪我はないか?フーガ」
「はい、大丈夫です。ボスこそお尻から落ちたように見えましたが、大丈夫ですか?」
「これから数日は椅子に座れねェくらいだ。問題ねェよ……」
いやいや、問題大ありだろう。フーガは心の中でそうツッコむが決して口にはしない。直属の上司であるボスが大丈夫だと言うのならきっと大丈夫なのだろう、それに今心配するべきは他にある
そうアレフだ。自分含め二人は無様にも檻の中に落とされてしまった、忍びをやっていて良かったとこれ程までに思ったことは無い、さもなくば自分もボス同様に尻から落ちて痛い思いをしていた所だろう。だが、自分は忍びだ
忍びならこの位の高さひとっ飛びで抜け出せるという物だ。今すぐ出て、自分だけでもアレフの相手をするのだ。幸いにも向こうの腕には少女という「枷」がある、一体一の喧嘩勝負なら勝ち目はないかもしれないが、これならチャンスもあるだろう
「その為に先ずは出る事……っ!」
「あ、しまった。閉めるの忘れてた」
フーガの口中の呟きを耳敏く感づいたアレフは、自分の失敗を思い出して即座に動いた。それはフーガが一度自分を閉じ込める時に紡いだ詠唱、童歌のワンフレーズの様に軽やかなリズムで唱えたそれに門が呼応する
「なっ!?」
それはフーガが見事な跳躍を見せ、勢いもそのままに監獄から飛び出そうとしたその瞬間だった。ンゴゴゴゴ、と低く重い音が唸りを上げて門、又は口のように開いた唯一の出入口が勢いよく閉じ切られてしまった。フーガはジャンプの勢いもそのままに監獄の天井代わりに張られた鉄格子へ頭からぶつかってしまった。勿論、彼は衝撃でそのまま落ちる
「んが………っ」
あえなく墜落したフーガをボスが受け止めるが、もうこれで彼らが出る手段は無くなった。フーガが再び門を開ければ良いのだが、残念な事に今ので意識が飛んでしまった
「チェックメイト、だな。おいお前ら退いてくれないか。さもなくば怪我するぞ……っと、これ渡さなきゃな」
アレフは膝を曲げ、格子の隙間から何かを落とした。それがボスの下へ届くのを待たずアレフは立ち上がり、一伸びしてから再び歩き出した。もう誰も邪魔する奴は居ない、堂々と「歩いて」
その場を離れていったのだった
▶▶▶
因みにアレフが置いていった物はボスが受け取った。並以上にデカくごついその手に受け止めたボスは、ゆっくりと宿敵の置き土産を眺め。大いに驚いた
「どういうつもりだあの糞野郎ぅ……」
それは見間違えもしない、隠れ蓑その物だった。紛れもない本物、その証拠……と言えるかは分からないがアレフの簡単な手紙も着いていた。ボスはおもむろにそれを開き、一通り読んで即破り捨てた。そこに書いてあったのは「もう使わないから返す。それを俺から奪い返したって言ったら本部の糞共も文句言わないだろ?じゃ、またいつか〜♪」……なんていう感じの物だった
「舐めてんのかあの糞野郎……絶対、絶対に捕まえてやッからな!大泥棒!!」
そんな怒号が、当人が既に去った後の妙に静かな空に響き渡った────。
▶▶▶
「あ、アレフ!おーい!」
「おぉサシャ、なんか久しぶりな気がするな〜……元気だったブフォ!?」
マナを俗に言うお姫さま抱っこの形で抱き抱えたまま歩いていたアレフは出会い頭野蛮な女エルフに腹パンをぶち込まれた。不意打ちという事もありモロに食らったアレフは衝撃で膝をついてしまった
「……ったく、心配かけさせといて何が久しぶりよ。馬鹿じゃないの?久しぶり過ぎて平和ボケしちゃった?」
「あぁ、悪い悪い……げほっ、でも急な腹パンは不味いだろうよ。見ない間に獣でも魂に飼いだしたのか?」
その後も二、三回言葉の応酬を繰り広げていた二人だったがそんな場合出ない事をどちらともなく思い出し、また歩き出した
「急がなくていいの?ここ、一応敵陣なんだけど……もしかして本当に」
「平和ボケはしてないぞ、別に焦る必要が無くなっただけだ。厄介な守護者二人は抑えたし、オオエドの主は勝手にビビって城から出てこないし……トップが機能しないなら部下も当然動けないだろうし、もうここは安全だ」
この説明はつい先程まで忍者兄弟二人と激しく争いを繰り広げていたサシャからすれば少々納得のいかない物だったが、こういうのにきっと慣れているアレフ当人が言うのだから、と溜飲と共に反論を飲み込んで城の正面玄関となる大門へと真っ直ぐ歩いた。警備についていた兵は全て城へ篭ってしまったのか、それとも未だに敷地内でサシャ達を探し回っているのか全く姿が見えない。もし後者なのだとしたら今頃彼らは永遠と見つかりやしない相手にとても情けない姿を晒している事だろう。自分の知るところでは無いのでサシャはそれ以上気にしない事に決めて黙って歩いた。訂正、話したい事が一つ頭の中に飛び込んできた
「ねぇ、マナの出した「アレ」見た?」
「アレ?……あぁ、アレか。勿論見たぞ、それも間近で。正直ちびるかと思ったぞ」
「アレ」、それはマナが以前からやりたい、使いたい、試したいとくどいまでに言っていた「大技」、いわゆる所の召喚魔法なのだが、それは魔法に疎いアレフからすればどうでもいい事だ。問題は魔法陣から出てきたあの荘厳さすら感じさせるあの「巨大な獣」
ボス含めあの場に居た人間の誰もがその獣の素性を知らない様子だったが世界を盗み歩いたアレフと、無限に近しい知識を有するエルフのサシャはその獣を「知っていた」
「「ドラゴン…………。」」
「やっぱり、そうよね」「あぁ、あれは炎系統の奴だ、以前生で見た事があるからまず間違いないだろう」
二人が口を揃えて言った「ドラゴン」。それはマナの好む童話に何度も何度も繰り返し登場し、その度勇者に倒されるある意味健気な巨大トカゲの名だ
マナが魔法陣から召喚し、意のままに操っていたのはそんな世界に名高い大物で、それも火龍の筋。とても凶暴性が高くもし旅の道中で出会ったら遺書ごと焼き消されるから必死こいて逃げろ。と言い伝えられるほどにヤバいドラゴンなのだ
「……起きたらこの子に色々聞いてみなくちゃね。」
「なんでこんなに寝顔が可愛いのか?とかな」
そんな訳で終始冗談が尽きなかったアレフの口回りだった。サシャはその尽くを適当に受け流し、そして恐らくマスターがやった開きっ放しの大門をくぐり抜ける。アレフはその後ろを同じように進んだ、その先、遠くに大きな影が見えた。思わず足を止めかかるがその影が人の物で無いのに気づき、そこに佇むのが誰なのか察する
「……脅かすんじゃねぇよマスター」
「てめぇが勝手に驚いたんだろ?俺のせいにすんじゃねぇよドジ野郎」
もし時と場所の条件が違えば一触即発の雰囲気に流され今日も今日とて喧嘩になったのだろうが、流石に両者ともそんな場合じゃない事は心得てるし、何より互いに眠った少女を抱えているという事もあり、手早く心の剣を鞘に収める。
「さて、最後の山場だ。抜かるなよ?お前ら」
「うっさい、この中で一番気が抜けてんの絶対アレフでしょ」
「ぶはっ、言われてんぜおい、なぁアレフよぉ〜!?」
この後、やはり喧嘩が起こった事は言うまでもないだろう。続く




