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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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レヴォ、それは革命の声。です

「うぅおぉぉ!!!」


「出、出た!アレフ一派の残党です!」


マナが突如物陰から飛び出てくると監獄の辺りに屯っていたボスとフーガ、そして一般の兵士達は色めき立ち、そして実に慌てふためいたが


「落ち着けェ!数で囲めば大丈夫だ!」


というボスの実に頼りがいのある一喝が背後から響き、今の今まで頼りないこの城の主しか知らなかった彼らは実に冷静な指揮官の有難みを知ってしまった。きっとこの話は噂話として瞬く間に兵士内に広がり今後コーガの支持率や人気を下げ倒す事になるのだろうが、それはボスの、強いては弟のフーガすらも預かり知らぬ話なので割愛させてもらう


さて、魔法を自ら禁じ武器持ちの大人達に肉弾戦を挑んだマナだったが、先ずは槍兵の一人、その懐に素早く沈み込んだ。元々小さな背丈が更にかがみ込んだ事により一瞬完全に視界からかの凶暴そうな少女が消えた槍兵は為す術もなく立ち尽くしてしまう。呆気に取られた、というのは言い得て妙だ。そんな隙を作り上げた張本人であるマナはアッパーで槍兵の顎をかち上げ一瞬にして意識を刈り取る。下手をすれば命ごと持っていきそうな一撃はその後ろに控える残りの兵らを怯ませるには充分過ぎる代物だった


その中でも勇んで前に進み出たのは一時期百人隊長として兵を取りまとめていた剣を携えた男だった。槍は懐近くまで入られると対抗手段が少ない、その点では徒手空拳相手には剣の方が幾らか部がある。という理にかなった考え四割、ここで功を挙げて今一度昇進しようという打算的な考え六割という実に様々な意味で程良いこの男だったが、マナからすれば元より大概の敵は倒すつもりでいたので誰でも関係ない


息付く暇もなく、マナは剣を持った男に向け走った。すると、突風かと見間違える程まで一瞬の内に加速したマナは相手が反応するより速く側頭部を蹴り飛ばした。男は嗚咽すら漏らす間もなく崩れ落ちる、もう誰も前に出ようとしない。今自分らの目の前に立ちはだかるこの少女は「異常な存在」で、自分らでは勝てないと心から理解したからだ。それほどまでにインパクトのある彼女の戦いっぷりだった


するとここで、今の今まで後方に控えて一喝してきり何の動きも見せなかったボスが腰が重いのかえらく低い唸り声を上げながら立ち上がる。彼が一歩前に進み出ると、兵らは躊躇無く左右に分かれて道を作り出す。そうしてマナ対ボスという傍から見ると逆に通報されかねない取り組みが決まった


「てめェがマナちゃん……大泥棒の娘ッてェわけか……流石にふてぶてしい面してやがるじャァねェか。なァ」


「パパをかえして、そしたらすぐにかえるから」


「帰さねェ……つッたらどうするよお嬢ちャん」


分かりやすい挑発、対峙する相手を見下す態度にマナは本来浮かべるべきの怒りとは全く違う類の感情。警戒を覚えた、何故なら父の敵であるこの大男はさっきまでの自分の蹂躙……もとい戦いを見ていたはずなのに全く怯んだ表情、仕草、声が見えないし聞こえない。本当に自分の事を何でもないそこらの少女と同じ様に扱っているのだ。


だが、ここで退いては意味が無い。とマナは一度深く息を吸い、吐いてから

「しゃあっ!」と喝一つ、そしてボスの大きな顔めがけて跳躍した。鼻に貼られた特別サイズの絆創膏は父とA5による一撃による物なのだが、マナは無意識の内にその箇所を狙った。咄嗟に、である。ボスは内心ほくそ笑んだ


(やッぱ親子だねェ。血は争えねェッて事か……ッとォ!?)


マナの跳躍、そこからの回し蹴りへと移る一連の動きは見てて惚れ惚れとする物でその完成度の高さにさしものボスも少し声を上げそうになるが、それよりも先に「手」が動いた。それも右手の方だ。まるで顔に近づく羽虫を払うような仕草でマナの蹴りを難なく弾いてしまう


その衝撃で、あえなく地面と衝突してしまったマナだが砂煙が上がって落ち着く僅か数秒、その間に少女は姿を消してしまっていた。ボスは完全に虚をつかれ思わず辺りを見渡すべく首を回してしまう


(これも、まえにぱぱがおしえてくれたんだっけ……)


それを待ってましたとばかりに二度目の回し蹴りがボスの横っ面、それも首が捻じ切れる方向に蹴り飛ばした。これにはボスも驚き、唾液が口から漏れ出るが。だがそれだけだ、それ以上は決して無い。首も捻じ切れないし骨が軋みもしない


「良い蹴りだがなァ……何せ軽い、軽すぎんだなァ。これじャ俺を倒せないぜェお嬢ちャん?」


「うるさい!パパをかえせ!」


マナは感情に身を任せて第二第三の蹴りを放つ。最早何の躊躇も無い、むしろ躊躇なんて半端な事をしていれば自分がやられてしまう事をマナは野生の勘、または女性の第六感で感じ取っていた。それ故に焦った、勝負を焦った


蹴りが軽い、と言われたのも起因したのか執拗いくらいに蹴りばかりを放っていたマナだったが、遂にボスが再び手で払い除けてしまった。マナは塵ゴミの如し地面に叩き付けられた、痛みで思わず表情が歪む。こんな目に会ったのは生まれて初めてかもしれない。


「もう諦めて帰んな嬢ちャん。俺相手に良くやッた、認めてやッからよ」


「やだ!ぜったい、ぜったいあきらめないもん!」


意固地になってタダをこね、マナは年相応の少女の如く涙を目に溜めて無言の講義を続ける。しかし彼女は理解していた、自身の攻撃ではこの大男を倒す事も、傷を付ける事も出来ないであろう事を………。いや、一つ


(ひとつだけある……とっておきだけどやらなきゃまける…………なら!)


マナは一度ボスとの距離を取った。人智では有り得ないとされる運動能力を持ってされる華麗なバックステップは兵の目には捉えきれず、対峙するボスと特別速い物を「見慣れている」フーガだけがその動きを視認出来た。何を目論んでのソレなのかは感づけなかったようだが


(イメージはじゅんびどおり、まりょくがギリギリのこるくらいにちょうせいして……よしっ、いける!)


「ぜったい、パパをたすけるんだぁ!」


瞬間、ほんの一瞬で自らの魔力を練り切ってマナは魔法陣を自らの背後に発現させた。いつもの明るい赤のソレでは無く、赤黒く、何処か禍々しい印象を覚えるその魔法陣から「何か」がのそり。と顔を覗かせた、その正体をこの場にいるマナ以外の誰もが理解出来なかった。いや、正直な所マナ自身もよく分かっていない。

これが上手く行ったなら後でサシャに細かい話を聞いてみるのもいいかもしれない、マナはそんな事を頭の隅で考えながら、敵である彼ら大人達が射程距離内に居ることを確認してから背後の存在に命じた


「『レヴォ(放て)レヴォ(放て)レヴォ(放て)』っっ!!!」


一つ目の命令に魔法陣からその姿を現した巨大な「獣」は、主の言う所へ狙いを定め、二つ目の命令でその大きな口を前回まで開けて中に紅蓮の炎球を覗かせる。そして三つ目の命令でそれを


放った、次の瞬間────ゴゥン。という激しい音を立てて「獣」の放った炎球が着弾、巨大な業火となり周囲に爆炎を振り撒いた

これに対し誰よりも早く動きを見せたのはやはり「ボス」だった。彼は己の剛腕を盾にして炎を防ぎ、更には兵らの前に立ってここに居る人間の全てを護れる形をとった。獣の放った炎が球状だったのが彼らにとって唯一の救いと言えるだろう、結局ボスの片腕こそ使い物にならないほどには焼け焦がした物の「それだけ」だ。マナからすればたまったもんじゃない


「ぅ、ぁ…………。」

魔力の消費が思っていた数割増しでキツい、一瞬にして魔法陣の維持が出来ないまでに弱まり、獣は消えてしまった。本当にたまったもんじゃない


(も、もうこれいじょうできることなんて…………ごめんなさい、パパ。マナは、もう……むりっぽい)


目線はふらつき、霞み、もはや焦点すら定まらなくなりつつあるがそれでも尚、せめてもの抵抗としてマナは自分のとっておきを片腕一本で防ぎ切った眼前の化け物をキツく、キツく睨みつけた


「ほんッとに、今俺は心から尊敬の念を覚えてんぜ……何で気力も魔力も尽きたちみッこい魔法使いがそんな目ェ出来んだよ……マジで、笑えてくんぜ」


だが、それでも俺の勝ちだとボスは死んだ片腕を気にする素振りも見せず無遠慮にマナの方へと近付く。マナももう足の指一本動かない、ただただ近付く足音に対し敵意ある視線を向ける事しか出来ない、更に彼女へ近付けばきっと奥歯がギリギリと擦れあっている音が聞こえてくるだろう。それほどにマナは自分の無力感、そして悔しさに苛まれていた


「ちョいと失礼するぜ」

ボスはそうマナに一言断わってから俵担ぎでマナを自らの肩に乗せる。自分の尽くを全て受けられた相手にまるで荷物のような野蛮な扱いを受ける事はもうマナからすれば拷問のように感じられた。歯噛みのし過ぎで口から血が垂れてくる程だ


そしてそんな事に気付きながらも素知らぬふりのボスは黙りで一部始終を眺めて……いや、呆然と見つめていた不甲斐ない自分の部下を見やり、声を掛ける


「おいフーガァ、監獄開ける用意しやがれや。この子も一応入れておこうぜ」


「────あ、は、はい。すみませんボス、少々惚けていました…………」


見たらわからァ、と笑い混じりにフーガを詰るボス、しかしフーガの頬は引きつって終始上手く笑えていなかった

それ程までに自分の上司、今自分に意識があるながらにグッタリとした少女を預けてくるこの「強過ぎる」上司に感銘を受けていたのだ、魔法陣から獣というには荘厳さが桁違いなソレを目にした瞬間から完全に脳をフリーズさせていたフーガからすると、自分の身を賭して後ろの我らを護ったボスはまるで勇者、もしくは英雄だろうか


とにかく、手渡された「物」を甲斐甲斐しく受け取る事が先ずは先決だとフーガは一度自分の中に区切りを付けてしっかりとマナを抱き抱える。あんなにも奮闘していた少女の体とは思えない

羽のような軽さだった。そんな感想が真っ先に頭に浮かべたフーガはかぶりを振り、監獄の門を開ける言葉を知るのはこの場で自分だけなのだ。しっかりしなくては……と元の凛々しい表情へと無理矢理戻したのだった


続く



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