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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
90/162

その女エルフ危険につき、です。

花火、それは場所や人を問わず……まぁ個人差こそあるだろうが少なくとも僅か一瞬ほどは目を奪われ、早る足を止める存在。己の魔法、その類まれなる才能を器用に操作して放ったマナの花火もまた同じような効果を持っていた。オオエド城中の人間だけでなくオオエドの街全体からも見えたその壮大な一発は見るもの全ての心を奪い、場所によってはかの大泥棒を捕まえた事による祭りの余興かと大騒ぎし、手に持った酒精を豪快に飲み出す所もあった


しかしそれはマナの望む所ではなく、更にそれからの行動はむしろ反対、予期せぬ方へと転がっていった。例えばこれだ


「『ボス』様、フーガ様、お伝えします。庭の北東部、「紫陽花」館の方で侵入者を確認。状態から見て女エルフであり魔法を操る「サシャ」と巨馬「マスター」で間違いありません。彼らは現在右近と左近、忍び兄弟によって足止めされております」


「ほォ。成程なァ……だってよ、アレフ。残念だったな、希望の光が今、一つ……いや、二つ潰えたぜ」


「…………………。」


報告を終えた若い男は、足早にその場を去っていく。恐らく新しい情報とそれによって伝えて回る足の役を任されているのだろう……さて、これで監獄を囲む人間がボスとフーガの二人に戻ったかというと、答えはノーだ。むしろ超増えている、増えてしまった


あまりにも続け様に混乱を起こしてしまったからだろうか、警備兵らは統率力を失ったコーガの下から離れ、図体もデカく無駄に頼りがいがあるボスの居る青空下の監獄へと集まって来てしまったのだ。現在コーガは給仕の女性にあやされ、何とか落ち着きを取り戻そうとしていた。統制を取るのは全て大年寄に投げてしまっているのだが、投げられた側の大年寄としても困り果ててしまったので文句無く部下をボスへと形だけ預けた、という訳だ


おかげで人がワラワラとしていて潜り込む隙間すら有りやしない。マナとしては完全に墓穴を掘ってしまった結果となった


(どうしよう……ひとすっごいふえちゃったよ。)


当人は珍しくも額に冷や汗を浮かべて全力で苦悩していた。普段のマナなら決して見せないような表情を浮かべ、軽く親指を食んで必死にどうするべきか考えている。完全にやらかした、調子に乗って花火なんて撃つんじゃ無かった。魔力だって無限にあるわけじゃない、今日は特にリリへの分譲等でそれなりに使ってしまっている。サシャ程の許容量ならまだ余裕もあるかもしれないが、それと比べるとマナは既に心許ない事になってしまっている。

前々から楽しみにしていた「大技」の事を考えるとこれ以上はあまり無駄遣いをしたくない


(となるとまほういがいでなにかかんがえなきゃ……でも、わたしになにがある。まほういがいに……?)


大した脳も無く、剛毅な度胸も人一倍の運動能力も多勢に無勢、今は何の意味も為さない。まさに今、マナは自分で自分の無力感をひしひしと感じていた。歯を食いしばり、涙が溢れそうになるのを必死に耐える


(ないてるばあいじゃない……いまはパパをたすけることをかんがえなきゃ。)


目端に浮かびつつあった涙を指で拭き取り、何度か深呼吸し前方にある現実を再び見つめる。幾度の確認は大事だと日頃から父に言われている。今こそそんな基本を忠実に追っていく事が大切なのだ


さて、改めて見てみるとやはりとても厄介そうな景色だ。大人らの中でも一際デカいボスとその傍らにくっつくフーガは分かるが、他の腰に剣を携えた「サムライ?」だとか槍を背中に背負った「あしがる?」の人らが合わせて数十人は居る。間違いなく両手の指では足りないだろう

子供である自分の相手出来る許容人数を軽く超えている。どうしたものか


(うぅ……あんまりじかんはとれないし。なやんでるばあいじゃない、よね)


結局、マナが選んだのは決死の覚悟を胸に抱いた「突撃」だった。無謀とも言えるかもしれない、だがとにかくやるしかないのだ。自分が延々と悩んでいる事で別行動しているサシャやリリに迷惑を懸けかねない。それは避けたい


息を数回吐いて、体内の酸素を入れ替える。たったそれだけで体中の熱量が増してくる。すると今の今まで少し感じていた恐怖や躊躇の心が頭から消えてしまった、「スイッチが入った」という表現が最も正しいのだろうか


そして


「うぅうおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


という年端もいかぬ少女らしからない地層深くから轟き渡るよう咆哮を持って天地を震わせ、そしてマナは突っ込んだ。己の失敗は自分で償うのだと、文字通り目の色を変えて─────。


▶▶▶


サシャと右近、マスターと左近による激闘は未だ続いていた。その中でも特筆すべきはやはり忍び兄弟の絶妙なコンビネーションだろう、時たま「忍術」で相手の動きを封じ、その背を拳か脚持って吹っ飛ばす。これをモロに喰らい続けたサシャは既に呼吸を乱し、正常な意識を保つのに必死な程だった


今は傍らにマスターが寄り添う形で何とか立っているが、今にも崩れ落ちそうでそしてそのマスターすら体の所々に傷を負いゼーゼーと息を切らしていた。勝負の優劣は明らか、右近と左近は勝負を決めるべく一撃必殺の合わせ技を放ちにかかる


「案外呆気なくて拍子抜けだったが……これで右近の面目躍如にもなるだろう。なぁ右近、良かったな」


「あぁ左近、お前のおかげだな。今度飲みに連れてってやる。無論俺の奢りで」


長く複雑な印を結びながらも彼らはそんな会話をのんびりと笑顔で交わしあっている。勝った気でいるのだろうがそれも仕方ない、何せ今驚異を目の前にしても捕らえるべき「的」の二人は動きもしない、反抗する体力も無いのだろう。余裕だ


「じゃ、少し眠ってて下さいね」


「大人しくしていただければこちらも丁重に扱いますので、それでは……!」


「「喰らえやこらぁっっ!!!」」


結んでいた印を解き放ち、忍び二人は高らかに決め台詞を叫ぶ。意気揚々と吐いたその言葉はまさに「二流以下の雑魚」っぽいソレだったのだが、二人は気にしない。結果、何があったかと言うと…………諸々が突如空間を裂いて「降ってきた」のだ。先程口寄せで呼んだカエルやネズミは勿論、彼らがその体中に忍ばせておいた苦無や小苦無、まきびしや暗具の全てが空からサシャとマスター目掛けて降り注いだ。間も無く刃物全てが二人目がけて突き刺さり、そしてトドメと言わんばかりに巨大なカエルとネズミが上から轟音を立ててプレスした

万事休す。助かる余地はないだろう────残念だが、これで彼女らの冒険は終わってしまった。

そう確信した、左近はもう何も我慢する事は無いと馬鹿みたいに高笑いし始めた


「なっはっはっは!やった、やったぞ右近!生け捕り出来なかったのは少し叱られるかもしれないが、それにしても余りある功績だ!昇進間違いないぜ!」


左近はそう笑顔のまま右近の方を振り向き、首を傾げた。返事がない上に笑っていないのだ。右近が

欠片程も笑っていない、この成功において最も喜ぶべきは彼なのに頬一つ動いていない。思わず左近は訊ねた


「どうした?」


「……う、うそだ。うそだろ……」


ソレがあまりに小さい声だったので左近は右近の口元に耳を近づけ、やっとこさ意味を理解する。そして改めて彼の顔見てみると、そこには恐怖が映っていた。見せかけではなく、心からの恐怖が


(な、なんだ……?今こいつには何が見えているんだ……?)


そして左近は気付いた、自分の兄弟であり長年の相棒を兼任している彼が今サシャとマスター。今頃圧死して死体もペシャンコになっている「はず」のその方向を見ている事を、そしてそちらに恐怖の根源が居る事を……左近は釣られて見てしまった。先程までの笑顔や高笑いは一切無い、そこには右近と全く同じの「恐怖」が「未知への恐怖」が色濃く浮かんでいた


見たのは、予想を遥かに超える「異常」だった


「な、なんで、なんで……!?何でだ!?何故「生きているんだ」!?」


「逆に……アレで私達が殺られると思う?それも大人しく「術」が完成するまで待ってあげて、ねぇ。不思議に思わない?こんなにアッサリ行くなんて」


そこには、カエルにネズミにその他諸々を片手で楽々持ち上げるサシャの姿があった。マスターはその背後を覆うように立っている、何故だろうかさっきまでと雰囲気がまるで違う。さっきはあんなにも疲れ果てて息を切らしていたのに、今はまるでそんな様子が見えない。寧ろひたすらに落ち着き、冷静そのものと言えた


「ち、畜生っ!おい右近いつまで惚けてやがる!」


「あ、あぁ!左近こそ気を付けろよ!」


全く、こんな時までお互いを気遣えるなんて何て出来たコンビなのだろう。この仲の良さをそれなりに発揮しきれば唯一無二の強さだったのだろうが残念、相手が悪かった。魔法使いにとってそんな事は些細な事でしかないから


「『エアロ・ランブル』……私オリジナルの魔法よ。ついでに少し講義しておくけど、魔法っていうのは「理解」よ。だから日々成長するの、無限大なのよ」


見ると、サシャはカエルらを「持ち上げている」訳ではなく、少し浮かせている。空気の圧で見えない壁を作り、それであたかもその腕で全体重を支えている様に見せかけている、らしい


そして、忍び兄弟は無謀にも突貫した

彼らからすれば危険なエルフと馬が復活したとはいえさっきまで間違いなく優勢だったのだ。その勢いを信じ、盲信し、突っ込んでいった


「だからお前らいつまで経っても田舎っぺ忍びなんだよ……なんてな。」


「吹き飛べ、『イルカンド』」


サシャが唱えると、それまでまるで幽体のようにフラフラと頼りなく宙に浮いていたカエルとネズミその他諸々は突如として右近と左近の方へ爆ぜるように「発射」された。もうそこに意思はない、ただの弾として容赦ないスピードで発射されたソレはもう頭が恐怖と盲信埋め尽くされた二人へとぶつかった。避ける、避けないの話ではなく人が反応出来る速度を超えて衝突し、そして難なく吹き飛んだ。


▶▶▶


「あぁ疲れたぁ………」


「はっ!日頃の運動が足りないんじゃねーの?本ばっか読んでるからバテんだよ」


意識を失った彼らに治癒の魔法を施したサシャは今、マスターの背に乗り移動していた。何時までも同じ場所に留まっているのは不味いだろうというマスターの意見を飲んだのである

さて、そんな憎まれ口を聞くマスターにサシャは頬を膨らませ力無くその大きな背をペシっと一度叩く


「演技とかずるいわよ……アレフじゃあるまいし」


そう、マスター曰く先程の息切れや大量の汗はもれなく全部演技だというのだ。証拠に今は一滴ほども汗をかいていないし、息も切らしていない、悔しいが本当の事なのだろうが

せめて仲間の自分くらいには教えて欲しかった、というのがサシャの正直な所である。まぁそんな事口にこそしないが


「……ま、敵を騙すなら味方から。って言うだろ?それだよ。騙した事については後でちゃんと謝ってやるからよ〜」


「何よそれ……ごめんなさいくらい今言いなさいよね」


「えぇー、マジでかよ……小っ恥ずかしいな……すまんかった。はい、お終い」


ごめん聞こえなかった、と二度目を催促するサシャだったがマスターは素早く話題を切り替えて難を逃れる。その話題というのが「この後どうすんだ?」というサシャとしても大事な事だったのもマスターの術中と言えるだろう

結果、彼の読み通りサシャは謝罪云々の事を頭の隅に追いやり、手で頬を覆って「この後」について思考を切り替えた


「……取り敢えずリリの回収ね。それで、それが終わったら私だけでマナの所に行くわ。貴方はリリを乗せてここから逃げて」


「良いぜ、リリちゃんの居場所は心得てんのか?それとマナのも」


「リリはさっきの見張り台爆発の現場付近を探せば倒れてると思うわ……マナは……ごめん、知らない」


だろうな、とマスターはため息一つ着いてから自らの大きな体の向きをのそりと変更する。今は亡き見張り台が元あった場所の方角だ


「じゃあ道中説明してやっからちゃんと聞いとけ……あと索敵、敵の気配がしたら教えろ……行くぞっ」


「おっけ!」


そうして一人と一頭は風の如し速さでその場から走り去っていった。続く

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