幽霊共は思いの外明るい奴らのようです
久しぶりにやる前回のあらすじ
マスターが掘られかけた、目的地についた。というわけで
「何か人の住んでいた痕跡を探そう。人がいるならその付近に固まっているはずだ」
「おぉー!パパかしこい!」
ふふん、そうだろうそうだろう
娘に褒められて簡単に気分を良くするアレフに、マスターは冷めた視線を送るがどうにも届かない
というかマスターもマスターで疲労困憊なのでもうそれどころじゃない。3日くらい寝過ごしたいくらい疲れた。精神的に
と、いうわけで島を探検することになったいつも通りの二人と一匹。荷台のサイズを元に戻し、マスターに括り付ける
「さて、行こうか」
「おー!」「おー……」
二人は荷台に乗り込む。移動で疲れるのはマスターだけなので二人は何か異変が出るまで景色を楽しむのみ
「んで、当分真っ直ぐ進めばいいのか?」
「そうだな。あ、マナ。あの鳥はここら辺にしか居ない鳥だぞ」
「わぁー……すっごいきれいなとりさんだね。なんかはねおおいけど」
今更だが、だいぶ昔アレフとマスターはこの辺りに来た事がある。勿論盗みの仕事をしにだが……まぁこんな事を言えばマナが羨ましがったりなんなりするだろうから言わないが、せめて知識くらいは披露しようかと思う
その為にはマスターの言葉などテキトーに返す他無い
「木々もよく見てみろ。普段見ている物とは全く違う所があるぞ」
進むスピードがそんなに早くないので
マナでも木の違いはわかるだろう。
なんてそんな事を思っている瞬間にわかったらしい。目をキラキラさせて俺の顔を見てくる
「いろがちがう!なんかくろい!」
「流石俺の娘だ。すぐわかったな」
何故この辺りの木々がやけに黒っぽいのかというと、簡潔にまとめるとそれは魔力である。常人には感知出来ないそれだが、世界でもほんのひと握りの「持つべき者ら」と我らが母なる大地はそれを簡単に感じ、我が物と扱う
しかし、この辺りは流れる魔力の量が極端に少ない。少ないと木々だけでなく土や水までくすんだ色合いになるのだ……というとこまでマナに教えてやると、難しそうに首を傾げていたが
段々と理解出来てきたのか、目の輝きが増してきた
「ふんふん……ふんふんふんふん。そっかー……まりょく。まりょくかー!」
(うーん……見る力もそうだが、頭の回転まで子供離れしてるのか……いや、本当に誇りだな。世界に誇れそうだ)
そんなこんなで大分歩き(マスターが)
かなり景色に変化が出てきた
「木々が少ないっつーか……切り開かれているのか」
「切り株も割とあるし、多分「そう」なんだろうな」
「そう」人がいる。という事だ
これは思いの外簡単に目的を果たせるかもしれない
「あ、パパ、おうまさんあっち!」
マナが正面を指差す。切り株を見ていたアレフとマスターは慌てて指差された方向を見てみると
「黒い煙……これってまさか」
「狼煙、だろうな。それも「敵発見」のやつ」
いやいやいや、それは最悪だ。まさかこんな所で敵対関係が生まれるとは思ってなかった。そもそも本気で人がいるとも思ってなかったのに
(ど、どうする……?)
まさか人に向けてマナの火炎放射をぶちかます訳にはいかないし。そうなると俺とマスターが戦うか、話し合いに持ち込むしかない……出来るかな
(そもそもこのご時世に狼煙なんてやってる連中……会話すら出来るか怪しい)
「一旦止まるぞ!」
極力荷台の中が荒れないように、緩やかにスピードを落とし、完全に停止した二人と一匹は、改めて周りを確認する
「比較的開けた林のど真ん中……」
「完璧相手のホームだし、俺らまるで的だな。俺とか特に獲物としか見られてなさそう」
そりゃ船の中でもそうだっただろ。なんて軽口を一発かましてやりたかったが、残念そんな余裕は無い。何せマナがいるのだ。俺の誇りが
「マナ、荷台の奥に隠れておけ」
「え、でも……」
「良いから、早くしろ……俺らは大丈夫。これでもお前の数倍生きてるんだ」
小さな頭を一回、出来るだけ優しく撫でてやる。
「……わかった。」
どれだけ納得してくれたかはわからないが、マナは言われた通り荷台の奥
いくつかの積まれた木箱の奥にその体を隠す
「……マスター、もしダメそうなら俺を置いてけ」
「はっ!らしくない言葉だなアレフ、死んでも生きるのがお前だろうによ」
マスターの言葉を聞いて思わず笑ってしまった。確かにそうだ、こんな所で旅を終える訳にもいかない
と、木々の隙間から気配を感じ始めた。余程数が増えたのか、殺気でも漏らしているのか、はたまた両方か
何にせよ、そろそろ来るだろう
「仕方ない。A5と「もう一つ」使うか」
ポケットをまさぐると、すぐに目当ての物を見つける。それをいつでも出せるように構えつつ。状況を冷静に見極めにかかる
「すんっ……来るぞ」
マスターの匂いを嗅ぐ音と、それによって敏感に危険を察知したマスターの普段とは違う色の声が響く
と、同時
「ひゅー……どろどろどろ〜」
という間の抜けた声がそこら一帯に響き渡る。アレフとマスターは警戒を緩めない
「う~ら〜め~し~や〜……」
「う〜ら~め~し~や〜……」
「う〜ら〜め〜し〜や〜……」
「「「う〜ら〜め〜し〜や〜♪♪♪」」」
なんと三重奏だ。それも結構美しい
「おいアレフ……それ、出さなくて良さそうだぞ」
「あぁ、それどころかマナを隠す意味も無かったかもな」
もうすっかり毒気の抜かれた一人と一匹は何となくこの後起こる出来事を予想し、傍観することを決め込んだ
「たまの客人と舞い上がり〜♪」
「友一人〜を焚き上げて〜♪」
「ぜ〜〜んりょく〜で、驚かせに、かかぁったのに〜♪」
「「「全然驚かないなお前ら!!!」」」
「うおっ」
アレフの眼前に薄く透けた人体が三つ……三人?現れた。普通腰でも抜かして驚く所だろうが、人一倍肝の据わったアレフは、軽く声を上げるだけで終わる
「あー、幽霊か。なるほどな」
「マナ、出てきても良いぞ」
最後のとっておきとばかりにその神秘の姿を現した三人は、それを軽く受け流した一人と一匹に憤りを覚え、地団駄を踏む。が、足音は聞こえない
(ま、幽霊だしな……にしても三人、それも全員男か)
これは当たりかもしれない。以前海に赤い石の粉を流していた老婆、リドリーの話が全てあっているのなら、島流しにされたのは全員男。こいつらは死んだヤツら、その残留思念なのかもしれない
「ふぇ……もういいの?パパ、けがとかしてない?」
「あぁ大丈夫だ。どうやら「そういう」奴らじゃなさそうだ」
「ち、畜生!この野郎驚かないだけじゃなく俺らの事を舐めてやがる!許せねぇぜタキア!」
タキア、と呼ばれた三人と中心に位置する男は腕を組み、どうするかを考えていた
「んー……仕方ない。おいお前ら、俺らの村に来いよ。色々聞いてみたい話があるんだ」
と、どうやらタキアが三人のリーダー格なようで、残り二人はこの判断に素直に従った。ここで断る理由も特に無いので二人と一匹は、宙を歩き、案内してくれる幽霊三人の後をゆっくり着いて行った
▶▶▶
「パパ……こここわい……」
「大丈夫だ。ほら、ちょっと来い」
マナを抱き上げ、自分の太ももに乗っけてやる。いつの間にかこれをやるのにも抵抗が無くなってきた
マナもこれをやると落ち着くようで、途端に震えや不安の眼差しがどこかへ飛んでいく
「おーおーお熱いねぇ」
「いつもこんなんだぜ?キショいだろ」
前で下っ端幽霊と、掘られかけた馬がなんか言っているがもう無視だ。反応しても、無駄に言い返されるだろう
マナの体を覆いながら、アレフはそんな事を考え、同時に幽霊三人組に連れてこられた町を見渡す
(やっぱり何か暗いな……それに寒い)
第一印象といえばその辺りだろうか
先程まで馬鹿みたいに晴れ渡っていたのに、ここだけ黒く分厚い雲に空を覆われている。暗くて寒い理由はそれなのだろうが
「……だれもいないね」
「あぁ。多分他の住人もこいつらみたいに幽霊になっちまったんだろ……マナは幽霊苦手なのか」
「だってこうげきしてもいみなさそうだもん……こうげきできるならこわくないもん……!」
はっはー。まったく、流石はマナ、流石は我が自慢の娘。どこまでも可愛い
と、幽霊らは酒場らしき建物の前で止まった
「この中で良いか?」
「子連れなんだが」
「酒なんか置いてないさ。安心してくれ」
タキアはそう言ってアレフの返事など聞きもせず勝手に入っていってしまった。下っ端幽霊二人もそれに続いていってしまった。入り際こっちを振り向いて「早く来い」みたいなジェスチャーを残していった
「……俺、留守番で良いわ」
「そういやお前も幽霊とかダメだったな。というかさっきまでよく普通に話してたな」
まるで初対面とは思えない程、気軽に会話していたというのに、今になって膝を震えさせている。一体どういう神経してやがるのか、まぁいい
「マナも留守番しておくか?別に無理をして来なくても構わないんだが」
「うぅー……や、やだ!パパといっしょにいきたい!」
マスターがこれを聞いて「俺を一人にしないでくれ」みたいな事を言いたげな顔をしている。が、知ったこっちゃない
これが親愛度の差、日頃の行いだ
と、いうわけで二人は手を繋ぎ
酒屋の戸をゆるり。と押した
▶▶▶
「「「うーらめーしやー!!!」」」
「陽気が過ぎるだろ」
思わずアレフが突っ込んでしまう程中は明るく、そこに居る足が無かったり、顔が抉れてたりしている奴らまで笑顔に満ち溢れていた。全力で出迎えてくれている感じだ
「いやいや……外と中で雰囲気違い過ぎだろ……ってマナ大丈夫か!?」
見るとマナが泡を吹いて卒倒しかかっていた。こんなマナ初めて見た、かわい……いや、そんな事言っている場合じゃない
「その子はこっちで横にしてやれよ。ほら、こっちのソファーだ」
タキアが手招いた方向に程良いソファーが合った。取り敢えずそこにマナを寝かしてやり、自分もその横に座る
目の前にはテーブル、そして興味津々でこちらの顔を覗く幽霊達、はっきり言って気持ち悪い、が。致し方ない
「で、今日はこんな所に何の用だ?俺達捕まえて密猟たってそう簡単には捕まらないぜ?泥棒さんよ」
「残念だが、そんなアホな用事で子供連れてくるかよ。危ないだろ……それに泥棒はもう辞めたんだ。ってか何でわかった」
「臭いと目だな。ま、違うなら良いさ。それなら何なんだ?ここら辺は見た通り魔力の流れも悪いし、何も無いぞ」
ふむ、そろそろ出す頃合だろうか
恐らくこの町に居座る幽霊共はここに今居る奴らで全員だろう。これだけ居るんだし多分そうだ
なら、居るならすぐに見つかるだろう
「実は、えーと……あった。こいつを探しているんだ、知ってるか?」
ちょっと一瞬見つからなかったが、無事見つけた写真をタキアに見せる
どうやら物を持ったりは出来ないらしいので、俺が手に持ったままだ
「………………………なぁ、これって」
まず反応したのはタキアでは無くまた別の幽霊、頭蓋骨が割れて脳みそが丸見えだがそんな事まるで気にせず顔をニンマリ歪める
「やっぱり?」「俺もそう思った」「だよな」「いや懐かしいな」「あぁ、思い出すよな」「ここに来た時のな。あんまいい記憶じゃないけど」「なぁ!」
「「「「「「タキア!!!!!!」」」」」」
………タキアのこめかみを汗が伝う……ような気がした、実際幽霊は汗をかかないのであくまでそんな気がしたというだけだ
「……それ、俺の写真だ。すげぇ若い時の」
「えっ」
「な、何でそれをお前が持ってんだ?風でどっかから飛んできでもしたのか?」
だいぶ気が動転しているようだ。幽霊のくせに慌てて、語気が強まってきている
「タキア、お前リドリーって女は憶えているか?」
「!……あぁ、忘れようもないさ。俺の スイートハニー……笑ってくれよ、俺はあの子を見つけ出せなかったんだ。」
今度はしょげてセンチメンタルな事を言い出した。テンションの変動が激しい、これは面倒臭い方の奴だ。感覚でわかる
「もしあの時俺がリドリーを見つけれていれば!俺はここには居らず、あの子を幸せに出来ていた!こんな所で餓死せずに済んだんだ!なぁお前ら、お前らもそうだろう!?」
そーだそーだ!と他の幽霊達は拳を振り上げて同調する。中には拳が無くなっている者もいるがその辺お構い無しだ
「今こそ歌おう!歌ってあの頃の悔しさ、悲しさ、自分への憤りを今一度思い出そう!」
おぉー!と場が盛り上がった
嫌な予感がする
「さぁ!」
嫌な予感が当たった。幽霊達は騒ぎ踊り、高らかに歌を歌い、途中でマナはその余りの騒々しさに目を覚まし、幽霊達が暴れ回るその光景を見て再び目を回し
挙げ句の果てに俺まで歌わされた
段々と乗せられてしまった俺は、結局最後の最後までこの騒ぎに付き合い切り、全員の気力が尽きるまで踊り、歌い上げた
…………………そして、時が来た
「はぁ、はぁ……んで、そのリドリーがお前の事を今も思って、海に赤い石の粉を撒いてるって事を伝えに来たんだ」
「そ、そうなのか……いや待ってくれ。幽霊ってこんなに息上がるのか、意外だ。ちょっと待ってくれ落ち着かせるから、ゲホッ」
結局、タキアは一度リドリーに会いに行く。という事になった
「こんな姿で驚かれるかもしれないが……こんな所まで出向いて、一緒に騒いでくれた友人の心意気を無下には出来ねぇ。一度、話してみる」
何て事を言ってくれた。こんな所まで来たかいがあったってものだ
そして結局、終始目を回しっ放しだったマナを背に担ぎ、アレフとタキアは店の外に出た
「おいマスター、起きろ。そして準備しろ」
「ふぁ……時間かかり過ぎだろ。んで久々に聞いたわお前の歌声。キショい程上手いな。キショいけど」
寝起きのくせによく喋る駄馬だ。掘られれば良かったのに
「よーお前ら。この後どうするんだ」
アレフはもう一度タキアの写真を取り出し、本人に見せる
「ここに行きたいんだ。タキア、お前この写真この島のどこで撮ったんだ」
長い時間、共に踊り歌い合いだいぶラフに話しかけれるようになった。なったのだが、タキアは首を傾げる
「ここじゃねぇよ?」
え。ここじゃない?
「その写真リドリーが持ってたんだろ?なら、俺がこっちで撮ったんだとしたら、この写真をあの子が持ってるわけないだろ?」
(……そ、そ、そうかぁぁぁぁぁぁあ………………………………あぁぁ)
まさに、ぐぅの音も出ないとはこの事だろう。マナの意識が無くて良かった
この上無く格好悪い
「……アレフ、俺も気がつかなかったし、そんなに気を落とすなよ」
「あ、あぁ……」
無理、テンション激落ち。ちょっとこれはありえないレベルの見落とし、読み違い。やはり泥棒家業を辞めてから脳みそが鈍っているのだろうか
結局、船で渡る前の元の陸に戻る事になった……のだが、マナが目覚めてからもアレフとマスター、特にアレフはどんよりしていた
ちょっといつも通りじゃない二人と一匹の旅が、今一度始まる。