影に蠢く小さな影、です。
「ちょ、ちょっとあんた今まで何処に居たのよ!?」
「何処って、ずっとこの蔵に居たぞ。放っといてもお前らが勝手に場を掻き乱してくれるだろって思って、それに乗じてアレフを持っていくつもりでな。」
「なら一言くらい言ってきなさいよ!勝手にいなくなって……ちょっとだけ心配?したん、だから……ね?」
何でそこだけ疑問符が付くんだよ。とマスターはため息混じりながらも以前変わらぬ笑顔をサシャに向ける、これがもう少し顔の整った馬にやられたら流石のサシャもときめいたのかもしれないが、残念。マスターはそれでも不細工だった
だが、今に限ってはそんな不細工さが逆にサシャの心に安心感を与える
「ちょいちょいちょーい……乱入は聞いてねぇな。どうする右近、一度引くか」
「……いや、これ以上の失態は避けたい。たかが馬が一頭増えただけだ。左近、良いな?」
あぁ。と灰色の忍びは即座に複数の印を結び、そして掌を地面に叩きつけた
その瞬間、大きな煙が彼の背後に立ちこもりそこから影がうっすらと見えた
「口寄せ、って奴だ。不細工な馬には不細工を……っと、冗談だ。頼りにしてるぜ五右衛門」
「んげぇ」
やがて煙が晴れた。それ以前にマスターは煙の中に居るのが何か経験から察していたが、これが初対面になるサシャはそういう訳にもいかない。その姿を見て一瞬その場に凍りついてしまった
「で、で、で………でっかいカエルぅぅううううううう!??!?!?」
「落ち着けよサシャ、実態があるだけさっきの幻術よかよっぽどマシだろ?まぁ……あんだけ不細工だと気持ち悪がるのもわかるがな」
「んげ、んげ」
煙から現れた巨大カエルはマスターの言葉に不機嫌そうな表情で左近の耳元でそう言った。内緒話にしては音量が大きく、内容こそわからないが何やら文句を言っているのはサシャにも分かった。そして、一人内容を理解した面持ちの左近がおもむろに口を開き
「てめぇにゃ言われたくねぇよスカタン。だとよ、マスター。お前と五右衛門は前もこんなんだったな」
「そうだったか?あんまりに不細工な面だったから記憶から消しちまったよ。夢に出そうだ、酷い夢にな」
五右衛門と呼ばれた巨大カエルの眉間にシワがよる。分かりやすく機嫌を損ねているらしい、見かねた左近は時間をとっては不味いと判断したらしく、素早く五右衛門の頭上に乗り、指示を出していく。それは眼前の不細工な馬ととびきり綺麗なエルフの女性を引っ捕らえろ。という物だった
ここでやっとサシャの存在に気付いた五右衛門は目の色を変えて粘膜たっぷりの舌を垂らし始めた
「キ、キモッ……」
「いやいや、お前の地元にもカエルくらい居ただろうがよ。こんなんでビビってちゃもう一匹……名前は、忘れたけどそいつもキツい見た目してんぜ?」
と、マスターがサシャを窘めるという珍しい光景を繰り広げている最中に黒い忍び、右近の方も口寄せの準備を整え左近同様に掌で地面を叩いた。無論煙が吹き出し、そして晴れる
その中から出てきたのは…………。
「ひ、ひっ、」
「あ、そうそう。名前はねずおだったけっな。相変わらずグロい見た目してんな、お前」
「ちう……ちうちう、ちう。」
ねずおと呼ばれた「巨大なネズミ」は右近に顔を寄せ、何かを抗議している。何度か頷きそれを聞いていた右近はおもむろにマスターの方へ振り向き
「そのエルフの美女は幾らで買ったんだ極悪ひん曲がり面。だとよ」
「むっかぁ!おいサシャ、アイツら魔法でぶっ飛ばしてやれ!俺が許す、さぁ遠慮なく……サシャ、おいサシャ?」
「ひっ、ひっひっ……ひゃあ。」バタン
「サシャ!?」
何事にも限度はある。例えば、顔面の気色悪さ等だ。マスター一匹ならまだしも巨大なカエルとネズミまで揃い踏みされると流石に精神が持たない。それがエルフながらに、いや、エルフだからこそ自然に見飽き、愛情を失ったエルフだからこそこの動物の純粋な気持ち悪さに、遂に意識を失ってしまった。
その場で「立ったまま」意識を失ったサシャを見て驚いたのはマスターだった
あまりの展開の速さに頭が追い付かない警備らの雑魚共は勿論だが、口寄せで巨大生物を呼んだ張本人である忍び兄弟ですら驚きのあまり、絶好のチャンスを前に唖然と口を開けてしまうしかなかった
(ちっ、仕方ねぇ!)
このまま立ち尽くす訳にもいかないと奮起しなおしたマスターはたったまま気絶したサシャを自分の背に乗せてそこから慌てて駆け出した。それをみすみす見逃した忍び兄弟は慌ててそれを追いかける。勿論巨大生物の頭、もしくは背に乗って。かくして追いかけっこ第二回戦は実に奇天烈な形で開始した、奇しくもリリが立てた作戦の本筋から外れないままに
▶▶▶
同時刻、マナは彼らとは対照的に極力人気の無い「影」を征っていた。たった一人で、呼吸の音すら殺して自らの父が捕まっているはずの牢獄を探し回っていた
(ここもちがう……あとは、あっちだけか。っとと、あせらないあせらない。)
人の足音、気配を敏感に感じとったマナは即座に物陰に潜みやり過ごす。こうやって城の敷地内に入ってから何度もあった窮地をくぐり抜けてきた。幸いにも小柄なマナが隠れる分の物陰が沢山あったのも幸いだったのだろう。一度も見つかる事も無く、着々と牢獄の位置に目星をつけつつあった
そして足音の主が通り過ぎるのを待ってから、マナは幾度の周囲確認をしてから飛ぶようにその場を走り抜けた。
目当てはつい先程目星をつけた大きな建物の……見張り台だろうか。その裏の方、あそこが最後に残された「ありそうな所」だ、そこ目がけてマナは走った
(あ、あれさっきのおっきいおじさんだ!じゃ、あそこらへんにきっとパパが……!)
どうやら当たっていたらしい。マナの知った顔が何やら下を向いて喋っている。会話をしているのだろうか、もしかしたら相手は父、アレフなのかもしれない。さて、ここに来て最大の問題が発生した
(……どうやって、おじさんにみつからないようにちかづこう。)
そう、マナで言う所の大きいおじさん。その名もボスに見つからず、決して騒ぎにならないようにまずは近付かないといけない。恐らく彼の足元に父が居る。ならば彼をどうにかしないといけない
(まほうで……?いや、それじゃひとがあつまっちゃう。それじゃ、ダメ)
マナは思考を巡らす。ここに来て下手な行動をしてサシャ達を巻き込んでのこの策をパーにしてはいけない。この策を思いつき、勇気を持って真っ先に行動へ移した勇気あるリリへの冒涜になるだろう。それはマナの心にある正義が許さない、故にマナがこの場で選んだ答えは────────。
続く




