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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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暗闇に吹く一陣の風、です。


「おーおー騒々しい、たかが爆発一つでよぉ……どうせおめェの仲間なんだろう?アレフよォ」


「さぁどうだろうな。お前も野次馬に混じって爆発した所でも見に行ったらどうだ?面白いかもしれないぜ」


充分な睡眠を取り立って軽く体操をこなすアレフを横目に、ボスは轟音と共に熱風を城内にまでたなびかせた先程の爆発、その方角を見た。城壁の中は幾つかの建物があるのでその壁に阻まれて空に昇る黒煙しか見えないが、おそらく今頃野次馬らが屯ってガヤガヤやっている事だろう。城の人間も確認と称して外に出たのを先程見たばかりだ


しかし、下に居るアレフの落ち着きっぷりを見る限りそこまで心配のいる物ではないのが分かる。恐らく奴の仲間の仕業なのだろう、間違いない。さもなくば寝起きの体操なんて始めやしないはずだ


(もしそうなら割とすぐに「ここ」へ来るんじャァねェか?フーガの野郎も呼んで準備してェ所だが…………。)


ボスは憂鬱な表情で高く、高く聳えるオオエド城を見上げる。城の主である兄と共に城内へと戻ってからもうずっと顔を見ていない。一向に降りてこないのだ、きっと今も尚浮かれてしまっているのだろう


「育て方が悪かッたんかねェ……ま、俺一人でどうにかするか」


「親の苦労ってのは傍から見ると陰鬱な物だな。子供には絶対みせられねぇわ」


アレフの軽口が琴線に触れたのか、ボスは檻の蓋となっている鉄格子を足でガンガンと何度も踏み、蹴飛ばす。アレフは口を尖らしながらもそれ以上は何も言わず、体操を終えてまた床に座り込んだ


「俺ァな、陰鬱だとか暗ェ言葉が軒並み嫌いなんだ。人に言われると特にダメだ。なァアレフ、お前は絶対逃がさねェからな」


「……穏やかじゃないな。お前が美人な女性ならその告白を受けてやっても良かったんだが、残念、むさい男は無理だ。」


「ハッ!お前のその余裕は一体何処から来てんだかなァ……っと、何か用か?」


その時、ボスの元にえらく焦った形相で駆け寄ってくる一つの影があった。見るとコーガに仕える城の人間の一人で、普段は門前の掃除などをしている若い男だった。城に入る時に少し会話した事があったのでボスは一目でわかった。と同時に不審に思った


「何故お前がンなとこに居んだ?仕事ほッぽらかしてちゃ叱られちまうぜェ?」


「いや、それが旦那!侵入者ですよ侵入者!ンなとこでのんびり大泥棒とお話してる場合じゃないですよ!」


そんな事を伝えにわざわざ走ってきたのだろうか。それも伝言役に掃除版を遣わすなんて余程城内が混乱しているのだろうか……。何にせよそろそろ来る頃合だろうと思っていたボスは大して驚く様子も見せず、鼻をほじって取り出した「ブツ」を檻へと弾き飛ばす。

中に居る「大泥棒」から、何やら汚ぇ!等の怒声が聞こえてくるがボスはそれを軽くいなし、代わりに掃除番へ一言


「問題ねェや。ほれ、行け」


と手でシッシ、と追い払ってしまった

掃除番は旦那がそう言うなら、と大人しく引き下がり自分の持ち場へそそくさと逃げ帰っていった。誰だってこんな面倒な事嫌がるだろう、ボスは男を諌めるような事はせず鼻くそに対し大いに怒れるアレフへと向き直った


「どの道その侵入者はここへ来るだろうしな。遅かれ早かれ……くくッ、なァ?楽しみじャァねェか。」


────返事は、無かった。

というのもアレフはこの手の言葉に鼻から返事するつもりが微塵も無かった

だがまぁ、無言というのもなんだ。だから一言だけ、とびっきりクールに決めてやるとしよう


「どうだかな?」


そんな言葉一つでも、ボスの眉間にシワを寄せるには充分過ぎる程に今のアレフは不気味に光って見えるのだった


▶▶▶


さて、鳥となり女性陣にアレフの状況を伝えたA5は、何故だか女性陣に着いていかず途中から違う道を行っていた


「ここにも居ない……一体何処に?」


どうやら捜し物をしている様だ。上空からしきりに下方を確認し、見つからないと嘆息している。と、いうのも突如姿をくらましたあの「駄馬」。アレを探しているのだ。

様々な通り、港、念の為遊郭街の方も見てみたがあの不細工な面は何処にも見えず、A5は若干焦りつつあった


間違いなくアレフ脱獄を実現させるには必要な存在なのに、こういう時に限って居なくなる。早くしないと女性陣が城に侵入し出してしまう……城に。


「城、城……………あっ。あぁ!?」


自分は大変な見落としを、それもとびきり大きな奴をしてしまっていた。そうだ、主人アレフとマスターは一度あの城へ忍び込んでいるのだ。宝具である隠れ蓑を盗む為に…………ならば


「ならば急いで引き返さないと!こんな所で油売ってる場合じゃなかった!」


幸いにもここからオオエド城の距離はそんなに無い。急いで飛べばそこまで時間は掛からないだろう……かくして、A5は再び空を必死こいて羽ばたいた。主人らの助けとなるべく、必死に


▶▶▶


同時刻、マナとサシャは城の中庭を走っていた。と言っても二人一緒に、という訳では無い。サシャはなるべく目立つ場所をわざと選んで走り、敵らしい人らが瞬く間に増えていくのを直に感じていた


「やーい!早くしないとアレフを助けちゃうわよ!このウスラトンカチ共!」


我ながら幼稚な煽り口調。だが群衆を一定の方向に揃えるにはこんなのでも充分に効果を発揮する、以前アレフが言っていた……何だか彼からとても姑息な知識ばかり教えて貰っている気がする……まぁ、今は良いか

今はそれよりも己の役割。いわゆるデコイ役を必死にこなす事だ


(多分まだまだ時間掛かるだろうし、バテないようにしないと……!)


と、サシャがスピードを抑えつつ大きな蔵を通り過ぎた瞬間。目の前に二つの影が突如として飛び込んでくる

衝突してはいけない、と頭より先に体が衝動的にブレーキをかけたサシャは

すんでの所で影にぶつからずに済む


「ちょっと!急に飛び出して、危ないじゃないの!」


「やぁすみませんねお嬢さん……何せ自分らの得意分野がコレなんでね。」


灰色の衣装に全身を包んだ男が愛想の良い笑顔を浮かべて一歩前に出た

サシャは背後から追ってくる下っ端らの足音を感じ、チラリとそちらを振り向く

それが、いけなかったのだろうか「忍」を相手に一瞬でも目線を外した事が。


「ねぇお嬢さん」


「え?」


声の主は先ほどと同じ、おそらく灰色の男だったのだろう。だがサシャがそれを視認する事は無かった、それより先に視界が暗闇で埋め尽くされてしまったのだ。意識はある、だが


(な、何これ魔法!?いや、違う、違うけど……あぁもう落ち着け自分!)


方向感覚がおかしい、上は何処だ。今自分は何の上に立っている?それより先程の二人、そして後ろから追ってきたアイツらは何処に行った。これではまるで────、「幻術……?」


「惜しい!忍術って奴ですよ、事前の準備時間がちょっと長めなのがネックですが、キチンと発動すればこの通り。魔法を有するエルフをも捕らえる事が可能です……くくっ、説明が丁寧過ぎましたかね。なぁ右近」


「そうだな左近、何時だってお前は喋り過ぎる。さてお嬢さん……名は確かサシャ、だったかな。その暗闇しかない空間はさぞ辛いでしょう?今すぐ助け出してあげましょう」


黒色が優しく語りかけてくる、サシャは思わずその声に身を委ねて楽になってしまいそうになるが、歯で思い切り舌を噛み、その痛みで何とか踏ん張る


「いった……あぁもう面倒!アンタらには申し訳ないけど、ちょっと痛い目見てなさい!」


血塗れとなった口の中で手早く呪文を唱える。魔法で幻術、もとい忍術ごと彼らを吹っ飛ばす。こんな所で足止めを食らっている場合では無いのだ


「吹っ飛べ、『イルカンド』っ!!」


………………。無音、無風、視界は以前真っ暗のままで、自分が目を開けているのかどうか心配になってくる程


「あ、あれ……何で?」


「そりゃここが、僕らのホームだからですよ。貴女のしたい事なんて何一つとして出来るわけがないでしょう?」


「さ、諦めて両手を挙げて頭の後ろに組んでください。大人しくしていただければこちらも丁重にお扱いしますので」


サシャは、一度口の中に溜まった血を唾液と共に外へ吐き出した。が、それが地面に着く音も、そもそも自分が血を吐いた感覚すらボヤけてよく分からなくなっている


(不味い、このままじゃ……どうにか、どうにかしなきゃ。でも、どうやって)


この時既にサシャは正常な判断能力を失っていた。今彼女は白を黒だと本気で思うくらいには雑然としていた。それを確認した右近と左近は「作戦通り」だと、お互いを賞賛し、褒め称えてあっていた。特に右近はつい先程大恥をかかされた所だったので汚名挽回とばかりに気合を入れていたので喜びもひとしおだった


「よし、じゃあそのまま大人しく着いてきて下さいね。直に大泥棒さんに合わせてあげますから……くふっ」


「左近、まだ油断するなよ。くふふっ」


二人の姿が見えないサシャは分からないが、今二人はとてもにやけていた。油断するなと警告した右近すら頬をだらしなく緩めて作戦の成功を喜んでいた。否、作戦の成功。即ちピクニックの終わりは帰るまで、と決まっている


そして、その油断に漬け込むかのように一陣の風が吹いた。それはつい先程まで何も感じ取る事が出来なかったサシャも感じ取れる。不思議と暖かい風だった


「お前本当に逆境に弱いなエルフ女。おかげで姿を見せなきゃならなくなった。後で泣いて詫びやがれこの野郎!」


この声もまた風に乗って運ばれてきた空耳だったのだろうか、わからない。だが、その風がサシャの暗闇を一度に払い去ってしまった


「聞いてんのか?サシャ」


逆光で良かった。きっと顔が見えていたらこの感動も薄れていただろう。何せ今、自分の目の前に立つこの巨大な馬はとんでもなく「不細工」なんだから


続く

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