家族がこの人生に彩を与えてくれました。
「おい、おい聞いてんのかアレフ。起きやがれこんちくしョう!呑気に昼寝なんざしてんじャねェや!!」
「うるせーな……何だよおっさん、籠の中の鳥に何か用かよ」
誰が鳥だよ、とボスは苦笑しつつも格子上に腰を落ち着け、首を曲げ見下ろす形でアレフと相対する。因みにアレフは仰向けに寝転んでいて、両腕は頭の後ろで完全にくつろいでいる形
「あんま心配してねェみたいだな。そのふざけた格好見てる限りだとよォ?」
「何の心配をするんだよ……アイツらは俺よりずっと強い。無理難題はきっと圧倒的な力でねじ伏せているに違いないさ」
それに自分の使いも出しているしな。とアレフは口中で呟く、ボスはそれに気付くこと無く聞こえた部分だけがアレフの真意だと素直に受け取って頷く
「違いねェな。あいつら全員魔法使いなんだろ?いッぺんに指定保護「貴重」人物に選ばれてる魔法使いを三人も取り揃えるたァ、流石だわなァ」
「ん?あぁいや、リリは……一人変な服装の子が居ただろう、あの子は違う。あの子はただの一般人だ、ちょっと訳アリのな」
「ほォ?そりャどういうこッた、ついさッきその子が魔法を使ッたのを見たッていうタレコミが来たばッか何だが?」
ボスの言葉を聞いてアレフは驚きのあまり、体を起こして口をパクパクとさせる。本当は「有り得ない」くらいの事を言おうとしたのだが、ボスの口調があまりに真面目くさっていたのでどうにも疑いきれなかったのである。そうでなくとも以前サシャから「あの子は魔法を使えるかもしれない」と聞かされたばかりなのに
「その話、詳しく聞かせてやくれないか?昔からの馴染みだろ、そんくらい融通聞いてくれても良いんじゃないか」
「ガッハッハッハ!罪人に情報を流す守護者は居ねェよ!居るのはちョッくら気を抜いちまうアホタレくらいのもんだぜ」
そう言ってボスは上を、城の最上階を見上げた。あの開いた窓の奥にきっと自分の部下がいて、その兄と共に馬鹿みたいに笑い合っているのだろう。こうしてまだ「大泥棒」は健在だというのに
「……嘆かわしいねェ、全く」
「育て方が悪かったんじゃないか?それか育てた奴が悪かったか……冗談だ、だからそんな睨まないでくれよ。お前の顔昔より怖いんだから」
「ハハッ!伊達に歳食ってねェッて事だな!」
「一緒にするなよ」
そう言って笑い合うと、ボスの顔がより一層顔のシワが際立って見える。きっと自分もそうなのであろう。
こうやって見ると随分と歳を取ったものだとアレフは何処か哀愁漂う心境に浸ってしまう。そうしてもう一度寝転がり、そのまま昔を懐かしみ始めた。そういう行動事態が歳を取った証拠だというのも気づかないままに………。
▶▶▶
さて、ボスの言う通りリリが魔法を使った?という噂は街中へあっという間に流れ、未だしつこくリリたちを狙い走る彼らの意識を大幅に改変させた。
それまでは一番非力そうで、脳も無さそうなリリが狙われて重点的に追われていたがこの件で力関係は一度崩れ再構築された。その結果
狙いはマナへと変更された
それまでは事前の情報で知られていた炎の魔法使いという二つ名の異様な格好良さと、少女というか弱い出で立ちだったので彼らも気後れし、わざと直接狙わないようにしてきたがこうなっては仕方ない。と、例え魔法使いだろうと相手は少女、力で負ける事は無いだろうとタカと腹を括り腕を伸ばした追っ手らの魔の手は……………
一瞬にして黒焦げになった。
と言っても全身が焼け焦げたわけではない。流石にそれは死んでしまうのをマナは理解しているので、あくまでその手を文字通り圧倒的な熱量を持って焼いた。致命傷には決してならない
あるとすれば一生その手に残る火傷キズくらいのものだろう
「もうほんきでぶっぱなしたい!ねぇサシャ、だめぇ?」
「駄目に決まってるでしょ!流石に人が死んだら不味い事になるわよ。我慢が辛いのは分かるけどもう少し我慢なさい、アレフを助けるんでしょ?」
ぐぅ、とマナは未練の一声こそ残しつつも大人しく引き下がり、静かに隊列の殿役を続けた。隊列はサシャが先頭、リリを挟んでマナが殿。といった形だ。前回の反省を活かして誰か一人を置き去りにしたり迷子が出たりしないようにと考えられた結果だ
傍から見れば少々幼稚かもしれないが実際やって見るとこれが案外良い効果を発揮した。サシャは程良いペースで二人を引っ張り、時に人気の無い道へと瞬時に判断して潜り込んだりして見事なリーダーシップを発揮し、真ん中のリリももう置いていかれまいと必死に喰らいつき、マナも完璧に仕事をこなしていた。おかげで予想外のスピードで城の城壁付近へとやってこれた
目的地について先ずやる事、それは状況確認。アレフから以前習った
見張りや怪しい目が無いかしきりに確認した三人は、次にこのサシャの背よりずっと高い城壁をどうするかを頭をくっつけて話し合いだした
「魔法で飛び越えるとか?」
「だめ、ぜったいめだつもん。」
「あの、それなら……」
リリが意見を述べるために小さく手を挙げる。マナとサシャは矢継ぎ早に紡いでいた言葉らを一度引っ込め、リリを見つめる。黙って見つめられるのであまりの圧にリリは一瞬身をすくませるが、勇気を胸に「意見」を言った
結果、その策が採用される事になりその用意がすぐさまとり行われるのだった。
▶▶▶
「……なァアレフ、お前は明日の朝一番に本部へと連行されちまう。そうなッたらこんな風に話す事も出来ねェ。だからよォ、最後に一つ聞かせてくれや」
「物によるな、眠いんだから手短に頼むぜ」
オオエド城内、中庭、特別第一級危険人物用「牢獄」別名、「一方通行の格子」
誰が呼び始めたかは定かでは無いがきっと命名のセンスの一欠片ほども持たない人物だったのだろう、おかげでこの牢獄が出来て早数十年、しかし未だ城内でもあまり定着していない名だった。
さて、そんな所で昔から何かと関わりのある、いわゆる所の腐れ縁である彼らはその関係上、意外な程親しく語り合っていた
「あァ、俺が聞きてェのはなァ、アレフお前よォ、昔の真っ当な泥棒時代と比べて随分と顔が明るくなッた気がすんだよ。自覚あっか?逃げてる時とかすんげェ楽しそうだッたぜ」
「……あぁ、なんだその事か。それなら簡単な事さ。恐らくあんた……ボスが思ってるより、ずっとな」
アレフはそこで一度大きく区切りをつけ、勿体ぶるように何度か無意味な寝返りを打つ。ボスもそれを戒めるような事をせず、ゆっくりと風が風の気の向くまま静かに待った
そして、踏ん切りも着いたのかアレフがゆっくりと口を開いた。見上げた空に愛する子の顔を思い浮かべながら
「そりゃ間違いなく新しい「家族」の存在だろうな……マナって子がいるだろ。赤髪の小さな女の子だ、あの子が俺に幸せとか、楽しみとか色々と俺のクソつまらない人性に彩りを加えてくれた俺には勿体無い存在なんだ……もう良いか?言ってて恥ずかしくなってきた」
「ガッハッハッ!!!昔のおめェはそんな顔もしなかッたぜ、それもきッとそのマナ?ッてェこのおかげなんだろうよ。感謝してやんなィ、もう、一生会えねェだろうけどな」
「……やっぱ死刑なんかね、俺」
ボスは厳かに頷いたのが見える。その顔には喜色や微笑の類は微塵たりとて無く、それどころか何処か悲しく、寂しげに見えたのは気の所為だったのだろうか。格子越しのアレフにはよく分からなかった
そんな事があったのとほぼ同時刻だった。城の外で大きな爆発音が響いてきたのは────。
続く




