一般人覚醒?です
アレフがうたた寝を楽しんでいるちょうどその頃、マナたちはというと……
「ねぇねぇ、これからどうするの?」
「どうするもこうするも……ねぇ?」
アレフに言われた通り港に停泊する自分たちの船へと走った女性陣とマスターは、港に屯して彼女らを待ち受ける街の人間を見て回れ90度し、ちょうど近くにあった大きな箱のような物に飛び込んだ。それから間もなく追っ手らもそこへ辿り着いたが、彼女らの姿がどこにも見えない辺り道を変えたのだろうと勘繰り、またどこかへ駆け出して行った。つまりまんまと騙したわけだ
そして、今も尚そこに潜んでいるマナ、サシャ、リリの三人は息を潜め、いつまで経っても港から立ち退こうとしない街の衆を見ながら延々と似たような問答会話をしていた
「第一、例えあいつらがあそこから退いたとしてアレフと……あといつの間にか何処かに消えたマスターと合流しない限りどうしようも無いのよねぇ」
サシャはため息混じりにそう呟いた。
アレフは別としても、マスターは一体どこに行ってしまったというのだろう
アレフと別れたその後は間違いなく自分らの前方を走っていたのに、いつの間にか居なくなっていた。港の方が騒いでない辺りあっちも上手に逃げたようだが、せめて一言くらい残していって欲しかったのが正直な所だ
と、今の今まで口を閉ざして忙しなく辺りを見渡していたリリが何かを見つけた様に遠くを指差して口を開いた
「あっちから、何か来ます。何でしょう、アレ……何だかちょうどここを狙っているように見えるんですが」
「どれどれ……アレはオオエドスズメね。この辺にしか居ない割と珍しい鳥なんだけど……珍しいわね、一羽だけで行動しているなんて」
サシャの言うオオエドスズメというのは基本的に群れで行動し、春期や夏期はオオエドに、そして秋期や冬期といった寒い時期は暖かい土地へこれまた「群れ」で移動する。単体で空を飛んでいるところなんてそうそう見れる代物じゃないという訳なのだが……今まさにそれが近付いてきた。真っ直ぐこちらに向けて
サシャは港を見つめるマナにもその旨を素早く、そして手短に伝えて自分たちの入る「大きな箱」の開閉できる上部分を少し開けて、小さな鳥を迎え入れる準備をする
本当にこちらへ向かってきているかは定かではないが、もしかしたらアレフが使いを出して来たのかもしれないと踏んだサシャは迷わずそういった行動に移した
そして暫くもしない内に、目当てのオオエドスズメは彼女らの居る「箱」の前に来た。だが近付きこそしてきたが何故だかある程度の距離で止まり、その場でホバリングし出した
サシャがチチチッと口を鳴らし、小鳥を呼んでも小鳥は首を横に振り決してそれ以上近付こうとしない、それどころかハッキリ聞き取れる口調で
「そこ、地域のゴミ収集箱ですよ」
と、優しく諭されてしまう始末。それを聞いたリリはヒッ、と小さく叫んで飛び上がり、サシャに至っては無言で大きな箱……もといゴミの収集箱から優雅に退出しようとし出した、結局マナが引っ張って静止させたが。
「あの、あなたふつうのとりさん?それともパパかおうまさんのとりさん?」
「……貴女はマナですね。そう、貴女からすれば「パパ」に当たる存在の使いです。いやはや、中々に鋭い質問をするお嬢さんで」
ゴソゴソと再び箱の中で自分の位置を定めだしたサシャを目端に捉えつつも
マナは、自らをアレフの使いと名乗る小鳥を正面から見つめる。もしかすれば嘘をついているかもしれない、と多少なりとも疑っているからである
リリは隅っこでジッとしている。様子を伺っている、というよりは場の空気を読んで静かにしている、という様子
「申し遅れました、自分は『A5』主人アレフが所有する……まぁ、俗に言う宝具です。今は鳥を傀儡にしていますが普段はトランプのカードに模しております」
そう言って小鳥は恭しく頭を垂れて挨拶を済ませる。A5、確かに父から聞いた事のある名だとマナは納得した。隣のサシャも何度か頷いている
リリは……まぁ今は良いだろう。放置
しておく事にする
何にせよこの鳥の応対を場の雰囲気に任されたマナは真っ先に父の安否を聞いた。どれだけ待っても影すら見せない父を最も心配していたのは紛れもなく彼女だから。因みに次点はリリ、サシャは「まぁ大丈夫でしょ」といった様子を決め込んでいた
それに対してA5は、何度か頷いてからゆっくりと、そして厳かに口を開いた
「彼は……捕まってしまいました。ボスとその部下の手によって、連れ去られて行ってしまいました」
「嘘!あのアレフが!?」「ちょっとサシャさん、声が大きいです。ほら、こっちを向いている人が……!」
リリとサシャがA5の言葉に騒ぎ立てたが、意外にもマナは落ち着いていた。事前に幾つかの予想を立てていたのだがその内の一つにソレがあった、だから比較的驚かずに済んだという訳だ
「……たすけれる?」
「どうでしょう、投獄されている場所が中々に厄介でして……それと言うのも、屋敷の敷地内なのですよ。警備も四方八方に置かれていて、どうにも侵入は難しそうなんです」
「……そっ、か。」
マナは深く頷き、一つ大きな結論を出そうと口を開いた……が、それより少し早く、港からこんな声が聴こえてきた
「居たぞ、ゴミ箱の中に居る!!あそこだ!」
瞬間、彼女らは飛び出した。一番俊敏な動きを見せたのはサシャで次点はマナ、べべは朝比奈リリ。それも結構な距離が開いている
というのも、前二人は魔法使いというチート的存在なのだがリリはそうでない。異世界からの来訪者というだけで何の能力も持ち合わせてない一般人。
おかげで彼女らを見つけた街の人間に背中を掴まれかけたが、A5が必殺の糞爆弾で目潰しをし。何とか逃げ続ける
「はぁ……はぁ……っ、ど、どこまで行くんですか!?」
「何処って……ねぇマナちゃん、何処に行くの?どうせアレフは助けに行くんでしょ」
「うん!だからね、このままおしろまでいこうとおもうの!」
マナは前方、遠くを見据える。そこには父が囚われているのであろうオオエド城が壮観にも建ちそびえていた
マナは決意する、いつだったか囚われた自分を助けに来てくれた父の如く、今こそ自分も父の窮地を救う時だと
マナは駆ける。いつの間にかサシャをも追い抜き、額には汗を浮かべ息も切らしながらそれでも必死に足を動かした
「いやはや全く、世の中は広い……現世にあのような少女が居るなんて……凄いなぁ」
ぎこちなく羽を動かし、空を征くA5は下方を見つめ何時だったか自らの主人が言っていた事を思い出す。「魔法使いってのは凄い奴らなんだ、だから味方にしたい。というか敵にしたくない」
という言葉を……確かその時の表情はとても愉快そうな物だったと思う
さて、意図的では無いにしても結果的に最後尾へと着いてしまったリリは息も絶え絶えに追っ手から必死に逃げ仰せていた。既に前二人は視界から消えつつある
何だったらこのまま放っとかれて自分は捕まえられるのもアリかもしれない
そうすれば、アレフと同じ牢屋に入れてくれるかもしれない……なんて邪推を楽しみながらリリはなけなしの体力で足を動かした。上を飛ぶ鳥が程良く助けてくれるので捕まる事はそうそう無いのだろうが、果たして城まで自分の体力は持つのだろうか……
(あぁ……凄いキツい。今更ながら何で自分はこんな事をしてるんだろう……)
そうだ、確か魔法使いのミスでこの世に呼ばれてしまったのだろうとアレフは説明していた。何となくだがきっとその通りなんだと思う、それと同時にサシャからはこんな事を言われた気がする。「貴女、もしかしたら魔法が使えるかもね」、と
と、その時。リリの服を追っ手の一人が掴んだ。勢いでバランスを崩して尻もちを付き、あっという間にリリはオオエドの金目当てな大人達に取り囲まれてしまった
目端に涙を浮かべ、助けを求め空を見上げるがあの鳥は何故か傍観している。遂に見捨てられてしまったのだろうか……そう考えると何だか悲しみを超えて無性に腹が立ってきた
「……なんで、」
「なんで!私が!こんなめに!」
「合わなきゃいけないのーーー!!!」
瞬間、世界中から時を刻む音が消えた
続く。




