娘を背に空を駆けましょう。
作戦はこうだ。アレフ一人、突如街のど真ん中に飛び出し目一杯騒ぎ立てる
その間に女性三人組が船のエンジンを叩き起して、停泊所から少し移動。それからアレフを拾い次第オオエドから逃亡……マナが一撃ぶちかましたいと言っていたがチャンスがあるとしたらこの辺だろう
それで、取り敢えず今は待機しているのだが……
「あっ、そうだ。駄馬が居ないのか」
と真っ先に……いや、やっとこさ気付いたのはアレフだった。それは宿からこっそり抜け出そうと窓を開けたその時だった。正直そのまま気付かないフリをしてオオエドから出てしまおうかと思ったが、口について出てしまったのでそういう訳にもいかない、後ろをついてくる三人とも「あ、マスターか」となってしまっている
本当は奴らが本格的に動きだすまでは何処かでジッと身を潜めているつもりだったのだが、どうやら作戦変更とシャレこまないといけないらしい。更にアイツが居そうな場所なんていうのも全くもって皆目見当もつかない。そこまで遠くには行っていないのだろうが
探すのが面倒な事に変わりはない、というか一体何時から居なかったのだろう……全然、気付かなかった
「それじゃマナとアレフで探しに行きなさいよ、私達ジッと待ってるから」
「異議なし、でーす」
と、言うわけでアレフとマナの二人が問答無用で街に出る事になった。リリはともかくとしてサシャはどう考えても楽することしか考えていない、当人曰く「マナに機会を」との事だったが絶対に本音ではないだろう、とアレフは小声で愚痴りながら建物と建物の隙間を足音立てずに進んでいた。後ろにはマナがいる
「ね、ねぇパパ、どこいくの?なにかアテがあったりするの?」
「いや、何も無い……とにかく呉服屋に行こう。そこで適当な服を見繕ってから街を歩こう。じゃないと直ぐに見つかるだろうしな」
着物が主流のこのオオエドにおいて完全に洋服な彼らは否応なしに目立つという訳だ。この細い隙間を抜けるとすぐそこにある呉服屋へ飛び込み、金を置いて適当な服を持ってくる。そういう流れだとアレフはマナに説明する。本当はアレフ一人で行きたかったのだが、マナも着いてくる事になってしまった。可愛い子のワガママをすんなり許してしまう自分を戒めたい
さて、そんな訳で細道を抜けたアレフは頭だけ出して左右を確認する。街の人間は普段通り所狭しと駆け回って、各々の仕事に励んでいるように見える
だが、その目が異常。三週間程度で得た「普段」、普段のソレとは違っていた
どう見ても敵意、あるいは悪意が篭っていた。しきりに辺りを見渡し、何かを探している
「まるでゾンビパニックだな。たった一日でまるで別の街じゃないか…… 」
「んー……どうしよパパ、ここをいくのはすっごいむずかしそうだよ」
さて、どうしたものか。マナの言う通りここを直進し呉服屋へ入店するのは至難の業と言えるだろう
ふと、何となく上を見上げてみた
「…………やるか。マナ、おんぶしてやるから、ほら、乗れ」
「やった!パパのおんぶひさしぶり!」
マナは喜んで飛び乗ってくる、大して重くもないのでこれなら動きに支障も出やしないだろう……昔やっていた泥棒家業を思い出す、何だかワクワクしてきた
細道の上側、何らかの管が何本かある
もしそれを伝い、建物の屋根に登れたら、もしそこから呉服屋まで「飛び移れば」それはとっても幸せな結果を産むんじゃないだろうか
そう考えたアレフは、迷いなく跳ねた
まず一本目の管を両腕で掴み、反動を上手く使い上へ飛んだ。そしてもう一本、二本、同じ要領でどんどんと上へ登る。この間アレフは全く背中のマナを気にせずに居た。ブンブン振り回されて完全に酔ったマナに後で怒られるのだが、まぁそれはまた別の話
「よし、到着……やっぱ上なんて注目してないよな。予想もしてないだろうし」
足音も無く建物の屋根に飛び移ったアレフは、ニヤニヤとイヤーな笑顔で下を見つめた。皮肉な事に人とは捜し物に熱中すればするほど視界が狭まり、より見つからなくなるという決まりがある。今回も例に漏れず、彼らは予想だにしない上など欠片ほども気にせず
ただ前方や後方をしきりに見つめている。
「じゃあ、飛ぶか……行くぞマナ」
「うぅ〜……」
マナの呻き声など気にも留めない。アレフは勢いよく空へと跳躍した、軽やかでとても少女をおぶっているとは思えないしなやかな動き……今、この瞬間に限ってアレフは輝かしい「あの頃」に戻っていた。筋肉痛や疲労なんか気にしなくて良い若いはつらつとしたあの頃を……そして、着地した
呉服屋の屋根、これまた足音の一つも立てないままに
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一方、狩る側であるコーガたちはというと豪勢な朝食を食べ終え、オオエド側、つまりコーガの用意した馬に跨り具合を自分好みに合わせていた
ボスは自分の足が良いと言ったが、馬の方が早いので結局、皆仲良く馬での移動となった
「ボスの馬、足ガックガクなんですけど……大丈夫です?ソレ」
「だから馬はヤなんだよ……弱くて話になりャしねェ。やっぱ奴を追うには人の脚の方が合ってんだよ。げェッぷ!」
ボスは食べ物で膨らんだお腹を擦りながらそう大声で愚痴る。確かに飯を食うまでは格好良くキメていたボスだったのに、目の前にご馳走が並んだ瞬間からもうダメだった。意地汚いクソ親父に戻ってしまった
そうして今にも倒れそうなボスの馬も含めて四頭の馬が首を揃えて向かうのは「遊郭」という……まぁ女性と酒や食べ物を飲み食いする所なのだが、何故朝っぱらからそんな所に行くのかと言うと、コーガ曰く「彼らは必ずここに現れる」らしい。そこまで言うならと自分ことフーガもボスも承諾し、忍である右近に先導されて遊郭へ向かうという事と相成った。その道中、フーガは最後尾に着いていたコーガの元まで引くと何気ない口調で聞いてみた。何故アレフらが遊郭などに現れるのか、そして何故それがわかるのか。という素朴な疑問を
「いやなに、簡単な事だ。フーガ、マスターという馬は覚えているか?顔は特別不細工だが、脚力に優れたあの馬だ」
「あぁ、覚えているよ……けど、それがどうしたんだ?」
「奴は今、遊郭で酔い潰れている。彼らが逃げるとしても仲間を見捨てて行きやしない。きっと迎えに来るだろう」
なるほど、それを迎え撃とうと言うわけか。狙いはよくわかったが、しかし心配だ。かの大泥棒を相手にするというのにいささか手口がチープ過ぎやしないだろうか……兄の考えた作だけに必要以上に心配してしまう。この心、一生兄には伝わらないのだろう。この弟心という奴は
何にせよ、そうして狩る側は遊郭へ颯爽と馬を進めて行った。途中呉服屋を横目に見た時、何やらちょっとした騒ぎがあったように見えたが誰もリアクションをとらないままに通り過ぎてしまった。もし、もう少しちゃんと見ていたら分かる事もあっただろう
例えば、えらく見覚えのある男と、最近資料で送られてきた「火を噴く少女」っぽい二人が何とか着物を着付けている所だとか…………
▶▶▶
場面戻りに戻って、リリとサシャペア
彼女らは「隠れる」という取り決めを遂行する為にアレフとマナが行った後もジッと物陰に潜んでいた。たまに人の歩行音が響いてくるが、他と比べて比較的に一通りの少ない場所でしゃがんでいた。アレフらが帰ってくるまで暇を潰さなくてはならないのだが、何故だかサシャがリリに講義をかましていた
「魔法っていうのは、世の摂理に則って絡まった紐を解いていくイメージで発動させていくの。とても難しいけど、一度成功したらコツを掴めるのも早いわ、ここまでで分からない所ある?」
「いや、何て言うか……思っていたより現実的なやり方なんだなって、もっと未知なる無限エネルギーとかでファンファンやる感じなのかと思ってました」
サシャの説明が自分の知る全ての魔法少女にも適用される場合、あの子やその子も結構頭こねくり回して魔法を使用しているのかと思ってしまう。少々夢が壊れてしまったが、それに関して目の前のサシャに文句を言っても仕方無いので、受け入れる事にする
「……貴女も使える気がするのよねぇ。魔法の臭いが最初に会った時から全然無くならないもの……だとしたら外的要因による臭いじゃなく、自身が発していて……いや、良いわ。それよりアレフに敬語を使わなくなった事について教えてもらいましょうか」
「あ、あぁ。それは」リリは一切を事細かに説明した、隠すような事でも無いので恥さえ忍べば躊躇する事も無いだろう
一部始終を黙って聞いたサシャは、最終的にニコニコとした笑顔でただただ頷くだけの機械と化していた
「ふふっ、アレフも変わったわね。昔のあの人ならそんな格好つけ……もとい気の利いた事なんて言いやしなかったのに」
「そ、そうなんですか」
「そうよー、アレフってもう少し前……人からすればそれなりに経ってるのかもだけど、何にせよ昔はもう少し野蛮だったわ。見た目も中身も……って言っても昔のアレフ全然知らないけどね」
またサシャは笑った。これだけ声を上げて場所がバレないのか心配になってしまう。サシャはそんなの気にもしていない様だが……早く帰ってきてくれないだろうか、マスターを連れて、手早くここに来てはくれないだろうか。
サシャがこれ以上暇を持て余して騒ぎ始めない内に…………。続く




