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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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狩る側、狩られる側。です

「お久しぶりです兄上、元気にしておりましたか」


「あぁフーガ何の問題も無い。今日はよく来たな。何、焦る事は無い先ずは飯を食わんか?」


城の中で一番広く、豪勢な造りの部屋

その上座に腰掛けるのはこの城、及びこの国の主であるコーガ、そして一段下がった下座で頭を垂れるのは弟のフーガ、そして一歩下がってボス。といった立ち位置。右近は部屋の隅、そして何かあれば即座に動けるギリギリのポジションに待機していた。服はそこらの大名と同じような着物、流石に黒装束は不味いのでこういった出で立ちなのだ


さて、そんな訳で対峙している兄弟だったが、その弟フーガは内心穏やかではなかった。何せこの国において特別な存在である兄を前にしても自らの上司、人呼んでボスの腑抜けた態度が一向に静まらないのだ。欠伸が全く止まらないようでしきりに「ふがァァ……」と言っている。こんな調子で大丈夫だろうか…………


「ボスさん、いつも弟がご迷惑おかけしています。自分はコーガ、オオエドを治める……まぁ、フーガの兄です。よろしく」


「ん、あァよろしく……御託は良いからよ、情報流してくれよ。天下の大泥棒様が今どこで何してんのとかよ、なァ」


ボスのあまりに遠慮のない物言いに部屋の空気が突如重くなったように感じたフーガは、肘で彼の脇腹を小突きいて小声で窘める。だが、その兄コーガは何ら気にした様子も見せず寧ろ口元を抑えて笑いだした


「くっくっ……全く、噂通りの人物だ。そうですね、ならば早速本題に……朝食はどうします?必要ありませんか?」


「いる、そりャいるに決まッてんだろォ!」


ボスはいつもと変わらぬ独特なイントネーションを持って元気に応える。あんたは子供か

(やっぱり道中、酒なんて与えるんじゃなかったな……すまん、兄上)


兄は懐が深いというか、何処か抜けているのでこのくらいでは怒りやしないだろうが……あの部屋の隅の恐らく「忍」なアイツ。あっちが怒りでもしたら面倒なので、やっぱり、うん。ボスには極力黙っていてもらおう…………


その後の情報交換は円滑に進行していった。どうやらアレフら一行は未だコーガが用意した宿に滞在しているらしい。流石にアレフ当人は今頃勘づいているだろうが、この広大なオオエドから逃げ切る事は不可能……という事らしい


「その心は?あの野郎は今までそんな状況をよォ軽く捻って今も逃げ回ってんだぜェ?そんな簡単には行かねぇと思うがなァ」


「ちょっとボス、まだ説明の途中なんですからお静かに……!」


「はっは!いやいや構わんよ。勿論、こっちも大泥棒を、舐めたりなどしてはいない。時にボスさん、このオオエドの面積はご存じですか?」


勿論知らない、ボスは素直に首を横に振る。それを笑顔で受けたコーガは流暢に答える


「実に13,780km²これがオオエドの面積であり、私の支配下です。そしてここの右近の手配によりその範囲全ての住民は「協力」してくれる事になっています……人の目、これほど強い警備の網は無いと思いますが」


なるほど、それは人の目とは確かに強力な「網」だろう。コーガのいう協力、という物の実態とやり口も弟の自分はよく理解出来る、出来てしまうのでそれがどれだけ強固な物だというのがよく分かる


ボスはどうだったのだろう、酒気の入った赤い顔のまま低く唸っている。これまたそれなりに長い付き合いなので察してしまうが、どうやらボスは納得していないようだ。眉間に皺が寄っているのがミソ


「とにかく、続きは朝飯にしましょう。狩りの基本はまず獲物を泳がす所からですよ」


「……あァ、そうさなァ。そうしよう」


ヒック。としゃっくり一つ、ボスは重い腰を何とか持ち上げてその場に立つ

その目はここに来るまでの、いやつい先程までの飲んだくれのどうしようもない親父の目ではなく、腕一つで数々の罪人を引っ捉えてきた「狩人」、又は何だかんだ知恵の守護者内でも一目置かれる「ボス」その人の目をしていた


さぁ、狩人が動き出す


▶▶▶


さて、ならば狩られる側即ちアレフらはと言うと……呑気に部屋で朝食を食べていた。全員を頑張って起こしたマナは不服そうだったが、アレフが大丈夫。と言うと素直に従った

このパーティーに置いてアレフの意見はあくまで絶対であり、故に何時だって信頼足り得る物だとマナは考えている、だから当たり前の如く今回も信じた


「それでさ(モグモグ)どうやって(モグモグ)ここから逃げるの?(モグモグ)」


「サシャ、食いながら喋るな。品が無いぞ……逃げ道はちゃんとある、伊達に街を飲み歩いていた訳じゃない」


部屋に溜めておいた食料をありったけ口の中に詰め込み、それぞれがそれぞれの朝を過ごしていた。こういうのに慣れたアレフ、マナ、サシャの三人は比較的落ち着いて腹に食べ物を詰め込んでいたのだが残るリリ、一般人であり最も場馴れしていない彼女は一体何が起きるのかとしきりに部屋を見渡し

わかりやすく不安がっていた


「リリ、大丈夫か?別に死ぬわけじゃ無いから安心して食えよ。この高菜にぎりって言うのも美味いぞ」


「あ、うん、ありがとう……あの、これから何が起きるんです?話を聞いてたら、何かから逃げるっていうのは分かるんですけど……」


前にリリがアレフの部屋を訪ねた時以来、彼に対しては若干お堅い敬語を和らげていた。まぁそれはそれとして、理解してない仲間が居るならちゃんと説明してやるのが筋という物だろう


「その通り、逃げるんだよ。逃げる相手は知恵の守護者っていう……刺客から逃げるんだ。コーガ、この国の主の口ぶりからしてここに来た刺客はその弟フーガと、多分「ボス」って言う奴だ。」


ボス……?とリリに加えてマナも首を傾げる。サシャは朝食をかっ喰らうのに必死で話すら聞いていない。


「ボスって言うのは、まぁ俺の追っかけというか……昔からずっと俺を狙ってるんだ。一度偶然利害が一致した時に共闘した事があるんだが、相当ヤバかったぞ。何せ小細工が何一つ通用しないんだ。力で全部跳ね除けやがる……ま、簡単に言うと盗人潰しだな」


それがボスだな。と一度まとめるとアレフは手元のおにぎり、その欠片を口に放り込む。話を聞いた二人共それなりに納得出来たのか無言でおにぎりを頬張った。もう今日限りでこの料理を食べる事は無いか……あったとしてもとても遠い未来になるだろう。そう考えるとただの握り飯もいつもの数倍美味く感じるという物だ


「にしても、何か違和感があるんだよな……頭数が足りない気がするんだ。お前ら、何か心当たりは無いか?」


「わいわよ(ないわよ)」「なーい!」「わかんない」


「んー……じゃあ俺の気の所為なのか。なら良いんだが」


アレフは不思議そうに首を捻り、大根とやらの漬物を口に放り込んだ。何分握り飯の具が軒並み味が濃いのでこうやってマメに口の中を漬物でリセットしなくてはいけない。これもまたオオエドの味覚という奴だろうか、当分味わえないであろう代物なのだからそれも大切に味わおうと思う


「……ねぇサシャ、まほうをつかうときがあったらね、マナがつかってもいい?」


「(ゴクンッ)良いけど、どうしたの?何か試したい事でも出来た?」


「うん、できたの。パパも、いい?」


「良いぞ、ただ使い過ぎて倒れられても困るし加減はしてくれよ」


マナは静かに首肯し、ニギニギと自分の手を握り込む。いつも炎を出す手の平のど真ん中、そこに意識を集中し以前からやりたかったイメージを頭の中で何度も繰り返し思い描き直していく

理想は何時かサシャがやっていたパレードのような魔法ショー……華やかで見る人の心を奪うような魔法


三週間程度の僅かな滞在となってしまったが、とてもお世話になったこの大きな街にせめてもの恩返しをしよう。自分に出来る最大で、最高の形で……

尚且つ、自分らの逃亡の助長になるような……マナの理想はどんどんと膨らんでいく。留まる所を知らないまま、どんどん、どんどんと────


そして彼らは部屋を後にした。まるで元からそこに居なかったかのように美しく調度品らを整え、影も形も無く消え去った

かくして、狩られる側即ちアレフら一行もまた動き出した。消して捕まるまいと、太陽の隅に映り込むうすら影の様にそう、ひっそりと……。続く

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