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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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寝起きのビンタ、痛かったです。

そして、その日が来た

真っ先に気付いたのはマナとコーガの二人、人並外れた嗅覚を持つ二人が街に訪れた異変、その騒音に勘づいた。

因みにアレフは寝ていた。前日も酒を飲んでぐっすり寝ていたので眠りも深く、起きる気配は微塵も無い。いつの間にか盗人の勘も鈍ってしまったのだろうか


「パパ、パパおきて!パパってばー!」


そうやって愛しの娘に揺り起こされなければ恐らく昼までそのまま眠っていたあろうアレフは、眠り眼を擦りながら惚けた声で「何だ、トイレか?」等とほざいている。流石のマナもこれにはカチンと来たようで、手加減こそしつつもアレフの頬をパチコーンと平手打ちをぶちかました。こういうのを肉体的交渉術と言うのだと最近サシャに習った

効果は抜群だったようでアレフはベッドから転げ落ち、不思議さと驚きが混じったような表情でマナを見つめていた、それも無言で。呆気にとられた、と言う方が正しいのかもしれない


「おはよ、パパ。目は覚めた?」


「あ、あぁおはようマナ。何だかえらくご立腹だな……?」


はぁ、と今も背中に「危険」を感じる少女に対しアレフは未だボンヤリしている。目が覚め切ってないのか、酒が抜け切ってないのか……どちらにせよ急がないといけないのに違いはないので

マナはアレフの背を押し、流し場の水で顔を洗わせて何とかシャキッとさせようとする……うん、シャキッとした

その証拠に彼は遠く、マナが危険を感じるのと全く同じ方向を鋭く見据えだした。


「思ったより早かったな……マナ、残りの奴らも起こしてこい。最悪俺みたいにはっ倒しても構わない」


「うん、わかった!」


マナは駆け出す。最悪もう一、二発グーでぶっ飛ばしてでも起こす気でいた彼女だったが、顔を洗った父の顔が予想の数倍しっかりした物だったので、ターゲットを部屋に残るお姉ちゃん方に移す事にした、振り上げた拳の行く先があるのは幸せな事だ。だがサシャはともかく異世界人のリリは手を出してはダメだ。最近知ったが彼女はこの世界基準に考えるととんでもなくか弱い存在ならしい、昼寝の際に間違って開けた壁の穴に死ぬ程怖がっていた


と、言い草こそアレだが目的は見失っていない。何せ今も尚彼女の背中、海の方から「危険」の臭いが段々と近付いてきているのを肌にビリビリ感じていたから。そしてその先にある、恐らく父は分かっている「危険の根源」の事を思うと……マナは必死に駆けた。何せこういう時は総じて良い事が起きないのだから


そして、そんな娘の背中を見送ったアレフは海へ向き直り、耳を澄ました。

既に日は頭頂部を覗かせている、何日もの滞在で理解したがこのオオエドの住民は朝が極めて早い。人によってはもう動き始めている者も居るはず……なのに、今朝は「静か」。奇妙で、何処か恐ろし気なまでに静寂……どれだけ耳を澄ませても、物音一つ聞こえない


(……嵐の前の静けさ、先人は全く上手いこと言った物だな。)


この奇妙な静寂こそがその後確実に訪れるであろう「嵐」の合図。そう考えると実に頭が冴え渡ってきた、さっきまで自らに蔓延っていた意識の混濁が嘘みたいな程に、アルコールも顔を洗った際に流れ出た様で二日酔いの気持ち悪さも無い、コンディションは極めて良好と言えよう


「ま、何が来ようとも……」


何とでもするけどな。と青みがかった空に嫌味な笑顔を残し、彼もまた少女の後を追って歩き去って行った


▶▶▶


「コーガ様」

「わかっておる……なぁ右近、今日は良い天気だな。」


マナともう一人、ビビッと何かを感じ取りいつもより幾らも早い時間に目覚めたコーガはこれから会うであろう面持ちを考え、これまたいつもより派手な衣装で着飾る。目一杯のオシャレ、一国一城の主としての誇りを一面に押し出した一品


「えぇ、絶好の捕獲日和でございます」


「城の物は起きているか?まぁ聞くまでも無いが」


証拠に下の部屋が先程からドタバタしている。大方この右近が城中を騒がせたのだろう。と言っても嘘を流したわけでなく、纏めて全部真面目な情報。

おかげで見事に城中は大パニック、大騒動となっている様だ。これが嘘の情報なら、そう上手く人を騒がせる事は出来ない。何時だって人を動かせるのは「事実」なのだ

これで全員寝ているとか言われたら、彼らを呼ぶ前に除霊師を呼びつけなくてはならなくなる


「全員起きておりますとも、下街をご覧下さい。民衆もゾロゾロ感づき始めた様ですよ」


「ふむ……そうさな、皆今日という日をジッと待ち構えていたんだものな。宝具というこの国の、オオエドの誇りを難無く盗み出してしまった「ドブネズミ」退治の日を……さぁ右近、お前も準備してこい。面会には俺と一緒に出てもらうからな」


「御意」


トンッ、という足音一つと共に、それっきりの言葉や足音が無くなる。命令に従い、自らを着飾りに出たのだろう

そして暫くもしない内に仕えの者達が襖越しに自分を呼ぶ声が響いてきた


「旦那様、朝早く申し訳ございません!先程右近様から────」「静かに」


「起きておる。それより朝飯を用意してくれ、出来るだけ腹持ちのいい奴を頼む」


「は、はいっ!」


今度は廊下を忙しなく駆ける重音が聞こえる。仕えが走っているのだろうがどうやったらここまで右近との差があるのだろうか。焦り、つまりは心持ちの差、余裕の程が違うのだろう。


「今、自分はどっちなんだろうな。なぁ愛する弟よ……っと、見えた見えた」


コーガは立ち上がる、水平線の向こうから微かに見える飛行物体。弟曰くヘリコプターと言うらしい鉄の塊は未だゴマ粒のようだが、直にその荘厳な鉄塊の様を覗かせてくれる事だろう。コーガは立ち上がったついでに目一杯息を吸い込む。オオエドの空気は美味い

それも冬季の朝、澄んだ空気ともなればまた一段と格別のご馳走となる。


肺全体に冷えた空気を溜め込んだコーガは一変に吐き出し、頭の中を完全なクリア状態にする。そしてまたその場に座り込んだ


物音の一切を感じさせないままに、コーガは必要な「準備」を終えたのだった


▶▶▶


「ボス、見えましたよ。そろそろ起きて下さい……朝食は向こうで食べますので今暫く待っていて下さい、ボス?」


「あァー……やァッと、着いたのかァ?ふがあァァ……!ああ、ねむッてェな」


「これから兄……もといオオエドの主に会うんですから、もう少し気を引き締めて下さいね。あと服装も、寝相のせいでクシャクシャになってますよ」


うるせーなー……と後ろのボスが愚痴る声が聞こえてくる。それと一緒に頭をボリボリと掻き毟る音も……無効に着いたら食事より先に風呂の方が良いかもしれない。ここ数日一度足りとも後部座席、更にはボスの顔も見ていないがどうせロクでも無い事になっているはずだ。正直見たくない


それに後部座席そのものもドログチャになっている事だろう。後で目一杯掃除をしなくては……そして帰り道は自分だけヘリに乗り込み、ボスは輸送船で帰ってもらう。飽きっぽいボスの事だ。ヘリ生活にも辟易している事だろうしその提案も飲んでくれるだろう。

これにて自分は快適なヘリ生活を手に入れ、ボスも楽しく地元に凱旋出来る


勿論手には縄、その先には「大泥棒」。

自分の昇進がかかった大事な「商品」である彼を捕まえる鍵は、限りなく兄が握っている。彼の根回しが作戦の成功率をそっくりそのまま反映していると言えるだろう


故に、フーガは心配していた。何処か抜けている兄の面持ちを思い出し、身震いまでしてしまった。いや大丈夫、兄も一国一城の主となったのだ、自覚くらい芽生えているだろう……と自分の不安感に強く言い聞かせる


オオエドは遠く、しかししっかりとその姿を見せた。日が全身を見せる頃には上陸も出来るだろう。フーガは強くハンドルを握り締める。今日という人生で最も意味のある一日を過ごす覚悟を込めて────。続く

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