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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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リリ、異世界の苦悩。です

私、朝比奈リリは訝しんだ

何故だか知らないが、気付かない間に随分とこの世界、いや「彼ら」に馴染んでしまった。自分は異世界の住民で、本来ここに居てはいけない存在なはずなのだ。少なくとも「外来種」と言うのは元の世界では忌み嫌われる存在だった、この場合も例外ではないはず


それなのに、どうだろう……今、私は見知らぬ国の見知らぬ世界、見た事も聞いた事も無い材質のベットで横たわり、超絶可愛い幼女の添い寝兼抱き枕要因としてマトモに生活してしまっているではないか……どちらかと言うと前の世界より幸福係数が高いまである


ととっ、訝しんだのはそこではなくて

今居る国、名は「極東」その中の「オオエド」というらしいのだが……オオエド、オオ、エド?大江戸!東京の旧国名的なサムシングでは無いか。それに似通っているのは何も地名だけでは無い


例えば何日か前に食べた「綿菓子」、アレとかまんま自分の知る綿菓子そのものだった。見た時は内心とても驚いたのだが、今外に出ているサシャさんや自分にくっついて昼寝に勤しんでいるマナの手前大仰に驚きやしなかったが本当にビックリした。それに建物の構造も日本史に載っていたソレと酷似している……気が、する


「むにゃ…………すぅ。」


おっと、今のはマナがモゾモゾと動いた時の声だ。決して自分の喘ぎ声では無い……と、一応言っておくが自分こと朝比奈リリは腐った人種、いわゆる腐女子という生き物で、最推しのカプは床×天井、ミソは彼らを繋ぐ壁達の存在……これ以上は止めておこう。元の世界でもこの属性は隠してきた

何せバレると面倒で、イジられるくらいならまだマシで最悪避けられる。今まで仲良くしていた友人が、ふと居なくなるまである。それが元の世界の私


それが私、朝比奈リリ。


と、彼女が遠い目をして自分を省みていたその瞬間……低く、重い轟音。そして壁が弾け飛んだ

声も出ない、リリは綿菓子の驚きなど軽く凌駕する勢いで目をひんむき、口をあんぐり開けて音源の方に目を向けた……おっと、決して壁の方ではない


寝くしゃみと共に、軽く一息で壁に巨大な穴をぶち開けた張本人。見た目美少女中身美少女、だが超危険。そんなマナの寝顔をマジマジと見つめる


(く、口から煙が出てる……本当にこの子って……)


そう、何時だったかマナ自身から自慢げな口調で教えてもらった事がある。自分は世にも珍しき魔法が使えて、それも特別強大な炎が出せる、と……

そこで、ふと壁の方を見た。好奇心が全てを超越してしまい、チラリと目を向けた


結果、愕然

大きな穴が空いている事こそ分かってはいたが、その縁が酷く焼け焦げている。見るからにそこだけ火事の後。寧ろ壁の一部分が溶けてしまっているように見えなくもない


「これ、本当に貴女がやったの……?」


「すぅ……すぅ……」


返事は返ってこない。こそばゆくも耳に届くのは可愛く、安らかで尚且つ規則的な寝息のみ。あくまでさっきの一撃は「くしゃみ」という訳らしい……。


この世界に何故飛ばされたかはよく知らない、知らないが一つ。理解した事がある。それは────


(私、死ぬかも……)


悪意無き殺意、それ程怖いものもそう無いのだと確信するリリなのであった


▶▶▶


「ねぇアレフ、なんでこの街にずっと居るの?何時もならそろそろ別の所に移動する頃合いじゃない」


「んー……一応、待ってたいんだよな」


待ってたい?何を?とサシャは首を傾げる。手には一件以来どハマりしてしまった「綿菓子」。それもマナお気に入りのピンク色というハマりっぷり


「おっ、あったぞ。書店」


サシャの態度を見ないフリで決め込み代わりに本日の散歩、その目的地である古書店を指差す。一度宝具を盗みにオオエドへ入った時、大体の地理を覚えていたアレフがサシャの要望を叶えるべく歩いていた訳だが、何せ誤魔化し方にしては少々弱かった。サシャの目はアレフをまっすぐ捉えたまま動かない


「ねぇ、何を待つの?教えなさいよ、貴方、最近隠し事が多過ぎると思うの」


「んー……そう、だな。別に言ってもいいんだが……サシャ、ちょっとこっちに来い」


アレフはサシャの綿菓子を持ってない方の手を引き、建物と建物の隙間。いわゆる路地裏へと連れ込む。そこは人気はもちろん小動物の一匹すら姿が見えないほど静かで内緒話をするにはもってこいの場所だった


そんな細く暗い道の中腹でふと立ち止まったアレフは、掴んでいた手を離し肩口からサシャの顔を覗き見る


「……あくまで予想だが、良いか?」


「もちろん」


それから、アレフはゆっくりと語り出した。自分の見解、恐らく当たっているであろう予想を……聞き手のサシャは何度も相槌を打ちながらえらく納得したような表情を浮かべている、それだけ説得力があったのかと言うとそういう訳でもないと思うが、どうやら彼女の中では何かを納得出来る程の説明だったのだろう……っと、どうやらアレフが話し終えたようだ。


「なるほどね……でも危なくない?ソレ、私達がそんな上手に動ける保証なんてないわよ」


「最悪魔法で全部吹っ飛ばせば良いだろ……冗談、そんな事すればこの極東にも居られなくなってしまう。そんなの嫌だろ?アレだけ苦労してきたんだから、もう少し楽しまないとな」


「……ま、わかったわ。とにかく「まだ」大丈夫なのよね……?なら、良いの」


そうして、路地裏を二人並んで出た彼ら彼女らは古書店の戸を静かにくぐり抜ける。会話はない。綿菓子も古書店を入るに至って急いで口に放り込んだ

流石に砂糖の塊をこんな所に持ってくる訳にはいかない


(にしても、自分を危険に晒すなんてアレフらしくないわね……それに、マナだけならまだしもマスターとか私、そしてリリまで纏めて信頼して身を預けるなんて……これもまた人の成長、なのかしら)


サシャは周りより一際ぶっとい書物の欄を見て周りながらそんな事をふと考えていた。感慨に耽っていた、とも言い換えれるような心持ちで、ふと


(まぁでもアレはあくまで「予想」流石の彼でも絶対は無いわ、良いとこ十中八九が似合ってる。だから、いや、うーん……)


目は本に向かっているが心境はまるで上の空。せっかくの「魔法専門」の古書店、珍しくアレフが先導して連れて来てくれたというのに頭の中はまるで別な事でいっぱいだった


「おいサシャ、これとかお前向け何じゃないか?表紙とか緑だし……サシャ、どうした?」


「え、あ、いや。な、何でもないの!って、これ私が書いたやつじゃない。それもまだ子供の時に殴り書きした……うわー、恥ずかしい。こんな所にもあるなんて……」


「私が書いた」「子供の時に」と聞いて驚いたのは何もアレフばかりでは無い。古書店の主で今は帳場に入っている老婆、彼女もまた驚いていた。度数等で現していたとしたらどちらかと言えば彼女の方がびっくらこいていた程だ


何せその本、界隈では人気の一冊で、魔法使いや魔法使いに憧れる童子までもが買い求める代物で、出数が少ない事で幻の書籍とまで言われているのだ

それを見た目のいいとこ十八の少女が書いたとか、嘘にしてももう少しマトモな嘘をつけ。と叫びたい心持ち、ではあったが……何せ若殿からの言いつけがある。「来客を厚くもてなせ」、と


だがちょっと許せない、カマをかけるくらいしてやらなければ……と、老婆は内心煮えくり返しながら席を立ち、二人の下へゆっくりと近付き。横に並んだ

老婆は随分と背が低いので、隣に居ても二人は中々気づいた様子を見せない

少しばかり待てば気づくかと思っていた老婆だったが残念、彼らは微塵足りとも気付く素振りを見せない。居ない者扱いされてる気分になった老婆は一つ咳払いをする、気持ち大きめに


「わっアレフ後ろ、後ろ誰か居るわ!」


「ん、あぁ。店主の婆さんだろ、何かようか?冷やかしに来たわけじゃないからゆっくり帳場で待っててくれよ」


やっとこさ気付いてもらえた老婆は手前のアレフを退けるように横へ押し、問題の少女、実年齢150歳は固い「エルフ」の少女をジッと見つめる。本当は睨んでやりたかったが、流石に後で咎められるかもしれないのでそこは自重しておく……にしても、怒りのせいなのか耳の形状が目に入っていない様子。エルフの耳は言うまでもなく人のソレより幾らもとんがっているので一目で分かるはずなのだが────


「お嬢さん、この本自分が書いたって言ってましたわよね?それ、本当かしら」


「?えぇ、本当よ。何でそんな嘘つかなきゃいけないのよ……ほら、作者の名前「サシャ・マジックネス」ってあるでしょ。サシャは私の名前、マジックネスは……まぁ、うん。愛称、みたいな」


サシャは必死で自分の黒歴史を掘り返していく。何故こんな事をしているのか自分でもよく分かってないが、例え恥ずかしい物でも自分が書いた物を自分が書いたって信じてもらえないのは何だか悔しい、自覚があるかは知らないが、サシャとはそういう性分なのだ


だが残念、段々と恥ずかしげなぶつ切り口調になったせいだろうか説得力は何割減、老婆も全く疑いの表情を隠さなくなってしまった


「……はぁ、じゃあ何かこの本の中から問題出してちょうだい。それを当てたら信じてよね」


「えぇ、構いませんとも……ではお貸し下さいな」


緑色の表紙で綴じられた分厚い一冊をサシャの手から受け取ると、老婆はページを凄い手早さで捲っていった。恐らく最も答えにくい物を探しているのだろう


そして、老婆の手がピタリと止まった。本のページは既に一番最後。何も書いていない所まで辿り着いてから止まった……そこからどんな問題を出すのかと言うと、アレフは傍から興味深そうに見つめていた。まぁ彼からすればその本が誰が書いていたのだとしてもどうでも良い話なので他人事である


さて、当の老婆はと言うと煮えくり性根をひん曲げて内心せせら笑っていた。自分の青春時代とも言えるこの思い出の一冊。しょうもない嘘なんかで怪我させやしない、と意気込んで出した「問題」は────っ


「この本の巻末ページに描かれているのはどんな」 「カエル二匹家一軒、川と山が一つずつ……あんまり本を落書き帳にするのは良くないと思うわ」


これで満足?と言いたげなサシャは呆然とする老婆の手から本を引っこ抜いて「これ買うわ」と、それから数拍置いて老婆がポツリと「毎度」と一言言って帳場へと下がっていった


「……なぁ、なんでわかったんだ?それも魔法か?」


「ううん、勘。私、勘がよく当たるの」


そう言って悪戯っぽい笑顔を浮かべたサシャはとても150歳でなく、老婆の思う通り17~8にしか見えなかったとさ。


続く


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