迅速の綿菓子は毒の味?です
「ようこそオオエドへ!」「これ差し上げます!」「楽しんでいって下さいね!」。ハナから順に、街に出てオオエドの人らに向かって言われたランキングベスト3である
現在、マナ、サシャ、リリの女性三人組はオオエドの広大な城下町へと繰り出していた。今日の朝方に帰宅してきたアレフが何故だかすんなり外出許可を出したのだ。昨日の夜、オオエドに上陸してすぐ様用意された街一番の宿に居た時は「消して外から出るな」だとか「逃げ道は二つ以上確保しておけ」等ピリピリした様子だったのに、朝になったら「外で遊んできていいぞ」全くどういうつもりなのだろうか
マスターも宿でアレフと共にのんびりしている。「襲撃」を危惧する様子は欠片とて見えなかった、どちらかと言うと心から満喫しているような感じ。マスターに関してはそれがいつも通りとも言えるが……
「わ、あれ綿菓子じゃないですか!?」
と、この場で二番目に危機感を感じていないリリが指差すのは白くてフワフワとした……雲みたいなお菓子。マナもそれに食いつき、目を輝かして私にねだってくる
「ねぇ、サシャ……サシャってば〜!」
「んー……でも、うーーん……」
正直、とてもこの国の食事に口を付けるも付けさせる気にもならない。アレフは言っていた、ハメられた。と……
宿、そして与えられた巨大な一部屋。そこに入ってすぐ、引き戸を閉め、聞き耳をたてても聞こえない程の小声でアレフは、そう言ったのだ。そして帰ってきたと思ったらあのザマ……考えられるのは二つ
一つ目は、この国は至極安全であってアレフの予想はハナから間違っていた。というもの、こちらなら平和的な解決が望めるので是非も無い
だがしかし二つ目、アレフは洗脳されてしまった……若殿と二人で向かった出先。確か遊廓とか言っていたか、そこで酒でも飯でも何でもいいが一口喰らい、それに含まれた毒で彼の脳味噌は敵の思うままに書き換えられてしまったというもの……こちらだったら最悪。当てにならないアレフを抱え、この街から逃げるっきゃない
サシャは決めかねていた。この二つの予想……果たしてどちらが合っているのか。どちらも有り得るだけに心から悩んでしまっていた
「ねぇーサシャー……」
「サシャさん?どうかしました?」
この子らの目は今日も今日とて明るく輝いている。今こそ自分のせいで疑問の色が浮かんでその輝きが少し損なわれてしまっているが……さて、どうしたものか
街の人々の目は誰も彼もが心からの歓迎の色、というより笑顔に溢れていた。偽物の作り笑いでなく心からの笑顔……顔や目を見て人の感情を考えるのはアレフから移ったのだろうか。アレフ程上手には出来てないのだろうが
正直誰も嘘をついているように見えない。昨日アレフを迎えに来た若殿ですら真っ当な人間に見えた……やはり自分はアレフ程人の心が読めない。どうにも自信がもてない
(にしても綿菓子の香り、素敵……!)
キュルル、とサシャの心の内を明かすように鳴った腹の音にマナの頬がニッコリ上がる。リリはずっと喋らない自分にさっきから心配そうな目を向けている
「いらっしゃいお嬢さん方!今なら特別に大きく作ってあげるぜ、どうだぃ?」
「あ、あれ、いつの間にか店先に……」
「おじさん、フワフワみっつちょーだい!あ、いっこだけぴんくのがいい!」
しまった、してやられた。綿菓子作りのおじさんは既に手を動かし始めている。今更止めてもらうのも気が引ける程には綿菓子の形も出来つつある。というか早い!三つ一度に作っている!
「わぁ、おじさん凄いですね……!」
「ナッハッハ!この道四十年だからな!伊達に綿菓子だけで生計立ててねぇぜ」
褒められて気を良くしたのか更に綿菓子作りの速度が上がった。もう手元は早すぎてよく見えない程だ
あっという間、まさに「あっ」という間に……綿菓子三つ。そのうち一つはピンク色のフワフワ計三つは、完成した
「ほらよ!代金はツケにしといてやらぁ。ほれ、サッサと受けとんな」
どうやらこの男は、サシャが潔く綿菓子を受け取らないのは金云々の話だと思ったらしい……確かにあながち間違いではないのだが、問題の本質はそこじゃない。何か「毒」のような物の有無
それでこの綿菓子にも可能性があるわけで────
「いただきまー!」
「あ!マナ、待って!?」
パクリ……マナが、マナが一口頬張ってしまった。男の手からピンクの綿菓子を受け取り、自分が気付くより少し早く、食べてしまった
「あ、じゃあ私はこの白いのを……サシャさん、食べないんです?」
リリも、食べてしまった。
男は最後に一つ残った綿菓子を自分に押し付けるように手渡し、店内の椅子に座って新聞に目を傾けだした。邪険に扱っている。という訳ではなく、普段から客人に対してそういう対応なのだろう。こんな所作一つ取っても洗練されているように見えた
(……これが、綿菓子。見た感じ毒っ気はしないけど……魔法で「鑑定」でもしてみようかしら)
しかし「鑑定」は人によっては失礼だと言って鬼のようにブチギレる人も居る。そしてタチの悪い事に国によっては無断で「鑑定」の魔法を使う事を禁じられている場所もある。つまりこの眼前の男が魔法に多少なれども知識があれば一発でアウト。運が悪ければ文句無く檻の中、というわけだ
そんな訳で、少々気も引けるが既に綿菓子を口にした二人の少女、リリとマナの顔色や様子を見て毒の有無を判断しようと思う……最悪の場合に備えて治癒の魔法は用意してある。それもとびきり上級のを
「んっ……!?」
と、早速来たのか。マナは驚いたように目を見開き、綿菓子で膨らんだ口から声を漏らした
「お……」 「お……?」
ゴクリ、とサシャは生唾を飲み込む。緊張からかこめかみには冷や汗すら流れている。何せ治癒魔法は即効性が大切。特に毒のような危険なものはすぐ治してやらないと後遺症が残りかねない……と、マナが口を開いた
「お、お……おいひーーー!!!!!」
「うん、とっても美味しいです。サシャさんも食べてみて下さいよ」
(……遅効性の毒、可能性。いや、そもそも特別鼻の「効く」私とマナが気付かないのはおかしい……いや、でも)
キュルル、腹の方が文句を言ってきた
手元には完成した治癒魔法がある。例えエルフにしか効かない毒が入っていたとしても治癒さえあれば何とでもなるはず───────────よし。
(食べよ。)
んぁー、ぱくり
二人を凌駕する口の開け方をもってサシャは一口、純白の綿菓子を頬張った
▶▶▶
「ボス、アイマスクです」
「んあァ……すまんなァ。おいフーガァ、てめェ寝なくて平気なのかよ?何ならそこ、変わってやるぜ?」
「そんな眠そうな顔の人に操縦させるわけないでしょう。運転免許も持ってないくせに……それに、忍とは耐え忍ぶ事を信条に生きる者です。徹夜くらいなんでもありません」
そうかよ、とボスはとんでもなくデカい欠伸を一つ機内に響かせ、後部座席を全部使って横になる。その振動で機体が少し揺れた気がするが、まぁその位はキャパシティ内。そんな事で一々怒っていてはボスの側近なんて勤めてられないのだ
現在、夜。下に広がるは海、夜の月明かりに照らされた真っ暗な空、それを受けた海。実に真っ暗。気を付けないとこの闇に吸い込まれてしまうのではないかと心配になる程……しかし、フーガは何でもないかのようにヘリを操縦する。エンジンも余裕がある、全くもって順調と言えるペース。免許をとって以来の運転だが案外上手なものだ。とフーガは自尊心有頂天、鼻高々に意気揚々と邁進していく。何せ夜中で一人の作業……こうやって馬鹿みたいにテンションを上げないと死ぬほど退屈なのだ。正直、忍界隈で最も面倒な「歴史ある文化」と言える。ボスにはああ言ったが自分は耐え忍ぶとか苦手な部類で、どちらかと言うと脳筋肌。悩んだら特攻が得意技の人種……
「んん〜♪ん〜んん〜♪」
自分語りにも飽きたのか、フーガは鼻歌を歌い始める。それをかき消すほどの轟音が後ろから響いてきているが決してそっちに意識を持っていかれてはならない。こんなのはまだ序の口、ボスは眠りが深くなるにつれ轟音の音源、鼾がデカくなっていくタチの悪いおっさんなのである……
(あぁ、神様仏様……何でも良いんで大泥棒を無事に捕まえたら、どうか、どうか昇進して、この上司と離れられますように……)
フーガの何度目かも分からない程のこの願いは、果たして叶えられるのだろうか────────。続く




