一般人から見た異世界はヤバい、です。
朝比奈リリ、彼女は地球、及び東京至って平凡な少女
今までも、そしてこれからも……これは永遠に変わらない彼女唯一の特徴。普通、そう限りなく普通なのだ。特別明るいわけでも無いが、学校生活に支障が出ない程度に友人もいる。親友では無いのがミソだが。まぁ友人は居る
勉強も、家族も、運動にしても何をとっても至って標準的。そんな彼女は現在高校二年生……修学旅行が最大のイベントとなる、ある意味高校生で最も楽しい時期である。そして彼女もまた
そのイベントへ向かった。場所は小笠原諸島と言う「島」そこまで船で向かった。とても綺麗な景色で、クラスメイトらがガンガン騒いでいた……リリは道中の移動疲れで眠ってしまったが。
そして目が覚めたら、見知らぬ所に居た。起きた当初は何故だか脳内に靄が掛かったように物事がちゃんと考える事が出来なかった。普通に考えて緊急事態のド真ん中だったのに、「あ、異世界転移じゃね?これ」くらいの感想しか得なかった。また直ぐに寝てしまったが……
「と、まぁこんな感じですかね……。えっ、ていうか本当に異世界なんです?ここって」
「貴女からしたら異世界なんでしょうね。それにしても興味深いわ……何処かの魔法使いの暴発なのかしら。」
そんなリリは現在、船の中。リビングとでも言うべき場所のソファに腰掛けていた。それも緊張気味に背中を伸ばしたまま
眼前にはこれまたソファに座る耳の長い綺麗なお姉さんと、可愛らしい真っ赤なお目目をガンガンに見開いている少女が揃ってこっちを見ている。怖い
「さっきも言ったけど、転移魔法だとかその辺の魔法はこぞって難易度が高いのよ。だから暴発とかも全然有り得るし、その結果副作用として誰かしらが時空を超えるってのも……有るのかしら。」
「へ、へぇぇぇ…………。」
因みに、魔法の存在というのはもう理解した。というか諦めた……目の前で炎を噴かれたり、暴風を無から出したりそれでクソでかい魚を獲ってるのを見たら信じざるを得ないという物だ。
特にこの幼女、確かマナちゃんと言ったはずだが、突如爆炎を生み出すものだから余りに驚いてしまい一周回ってアレフさんにドン引かれてしまった
それにしても我ながら現実とのシンクロ速度が半端ないと思う。魔法だとか転移だとか、恐らく目の前の女性がエルフだとか……驚くぐらいスンナリ受け入れてしまった。自分が思っている以上にメンタルが強いのかもしれない。それか元々サブカル文化に肩まで浸かってたので、憧れからなのだろうか。
「ねぇねぇリリおねえちゃん!」
元気良く手を挙げて発言権を得るべく声高らかに自分の事を「お姉ちゃん」と呼んでくれるこの少女、マナちゃん。
ぜひ妹にしたい。でも怒らしたら炎噴き出すかもしれないし、そんな怖い妹はやはりダメかもしれない。尻に敷かれそう
あ、因みに自分が口を開く度にどもるのは如何せん目の前の二人が超絶美人なのも関係し得るのだが、そもそも自分の根っこが「陰」の者だからだ。お気になさらず
「はっ、はい。何でしょう……」
例に漏れずどもってしまう。が、ちゃんと意味のある事を口に出来てる時点で上出来、後はマナちゃんの言う事なす事に返事を返す。頑張れ自分
そんな感じで意気込んでいたからだろうか……私は思わず驚いてそして唖然となって、声が出なくなってしまった
「きょういっしょのべっとでねようね!やくそく!」
─────────そんな事を、まるで天使のような笑顔で言われてしまったら糞サブカル女である自分は、ただ無言で頷くしかないでしょうが
▶▶▶
三人に増えた女性陣を尻目に、今日も今日とてアレフは操縦室で操縦桿を握り締めていた。毛布を被って暖をとっているのもいつも通りの光景となりつつある
「ヤショウで熱石でも買っとくべきだったな……後、食料。」
人が増えるのは一切予想していなかった。故に当面の食料問題がアレフ最大の悩み、魔法で魚を獲りまくるのも一手なのだろうが何せマナは成長期。栄養はなるべく偏らせたくない
因みに熱石というのは文字通り熱を発する小さな石で、部屋に一つ置いておくと一気に室内気温が上がる優れもの
そんな事をボンヤリ口にしていると、不意に戸が開いた。見れば飯の時以外久しぶりに見た不細工面が居た
「何の用だ、飯ならまだだぞ」
「違ぇよ……なぁ、あいつ誰だ?服とか見た事ねぇ感じの作りなんだけど」
実に面倒だが、俺はマスターにリリの事を教えた。と言っても知ってる事なんて殆ど無いので実に簡単な説明だったが……それにマスターはどれ程満足したのか、眠そうな目のまま何度か頷いてからゆっくり口を開いた
「なるほどなぁ……また面倒な物拾っちまったのか。何でも良いけどそんなに情注ぐなよ?もっと面倒になるぜ?」
「安心しろよ、情に関してはお前が一生最下位だ。俺の人生の中でな」
これ以上奴の顔を見ていたら吐き気を催しそうなので、美しいフロントガラスとその先に広がる海原を見ながらマスターにそう投げた。奴がそれにどういう反応したのかは見えないし、分からなかったが……まぁ満足したのだろう。ゆっくりと部屋から出ていった
…………………ドアは閉めないまま。
「……寒いなぁ、おい」
▶▶▶
その後、夜
アレフの作った夕食(主に魚料理)に舌鼓を打ち、シャワーが無い事に愕然とし、そしてサシャのえらく生地が薄い寝巻きを借りて寝床に着いた、リリは
(な、何か普通に一日が過ぎようとしている……!)
いやまぁ有難い話ではあるのだが……と、リリはガッツリ葛藤していた。横にはマナ、約束通り同じベッドで寝る事になったのは良いが何分お風呂に入れていない。それは今自分に抱き着いて眠りについている美少女も同じはずなのに何故か全身から凄い良い香りがする
それに比べて自分はどうだろうか、臭くはないだろうか……こういう緊張の仕方をすると余計に変な汗をかいて臭いが増しかねないが、もう留めようがない。何せ自分の薄い胸に縋るように美少女が顔を擦り寄せているのだ。そりゃ緊張もするってもんでしょうが
それに、果たして自分は元の世界に帰れるのだろうか……ラノベからの経験則として、こういう場合大まかに分けて二つに別れると思う
一つは「永住」、ハナから帰るつもりの無い、主人公が無双しやがるタイプが多い気がする
二つ目は「探訪」、帰り道を探して世界中を渡り歩くタイプ。最初は弱めの主人公が段々と強くなっていく物が多い、気がする。自分はどっちかと言うとそっちに分類されるのかもしれない
(いや、ていうかそんなに『アッチ』に戻りたいのかな……?何でかあんまりホームシック、お家に帰りたい感が湧いてこない。友達らがどうこうとかもあんまり……無い。本当、何でだろう)
というかあっちの世界では今どういう事になっているのだろう。私が急に居なくなって先生方がパニックになって捜索し回っているのだろうか。案外友人らは落ち着いて部屋でトランプでもやってそうだ。薄情にも思うが、高校で多少仲良くなった友人なんてそんな熱量なもので、仮に自分以外の誰かしらが行方不明になっても「へぇー、大丈夫かな○○○〜」ぐらいで終わらせてそうな気がする
それと比べて今、この世界はどうだろう。何度か夢見る度に「いや、有り得ない」と首を横に振ってきた魔法、及び異世界がすぐ側にあり、美少女が自分に抱き着いて寝息をたてている。優劣は既に決まった
「……まぁ、いっか」
どうやらまだ自分は頭がぼんやりしているらしい。そういう事にしておこう
事の優劣もとい、善悪の決定は明日の自分がしてくれる事だろう。もう眠い
マナちゃんをギュッと抱き締めると高めの体温を直に感じれて段々と落ち着いてきた。汗は逆に引いていった
「おやすみ、マナちゃん」
瞼を落とせば、暫くもしない内にリリは眠りについた。静かな寝息をたて、夢を見始めた
誰も居なくなった自分の事を探していない、元の世界の夢を──────。
続く




