地図に無い謎の孤島というロマンの塊、です。
船、今日も今日とて船で移動。マナは以前ヤショウで買い与えたおもちゃがまだ沢山あるから退屈せずに済むだろうが、何分大人組は海の青色も、波に揺られるこの感じさえもいい加減飽き飽きしていた。マスターは論外、未だ冬眠などと宣って寝ている。
そんな中アレフは毛布にくるまりながら操縦桿を握っていた。前方はフロントガラス、前に霜避けを使ったので視界が程よい感じとなっている、のだが
何故だろう……手元の地図に無い小島が前方遠くに見えるような気がしないでもない。あれか、蜃気楼だろうか?
蜃気楼は暑い時に出るような気がしないでもないが……まぁ、寒い時に出る蜃気楼だってあるかもしれない。
「マナ、サシャ。前方に何か見えるか」
因みに今日はマナもサシャも操縦室内でワチャワチャしている。具体的に表そうと思ったが、何分ワチャワチャしているから伝えようがない。言うなればおもちゃを広げて勝手気ままにしている……そんな二人に声を掛け、島の有無を言外に聞いてみる
「……島があるわね」「あるねー」
「やっぱあるのかぁ……行くか?」
二人共好みのおもちゃ両手に首をブンブン「縦に」振っている。これにて今日何をするか決まった。地図に無い謎の小島……そこに上陸し彼女らが気の済むまで中を探索、可能ならそこで夕食を食べて、寝る。
アレフは操縦桿を巧みに操り、船の航路を修正する。地図にも新しい線を書き記し、日程の計算を簡単にし直してそれも合わせて地図の端に書いておく
旅において予定変更は家族の如き関係切っても切り離せない物で、アレフもこれについては何の文句も垂れない事にしている。それどころか軽く楽しみにすら感じている。彼女らが行きたいと言うならきっとあの先にも何かしらあるんだろう…………ヤショウの時のようなアレはもう勘弁だけども
「じゃあ、全速前進!」
▶▶▶
────────────────────────────────────────────────あれ。
ここ、ここはどこだろう……頭が痛いし目もチカチカする。おかしいな、さっきまで「学校」に居て、それで廊下を歩いてたら「穴」に落ちて……それで
「落ちた先がここだった、と……」
駄目だ、頭が働かなさ過ぎて考えが非現実的な方に寄っていっている。それでは流行りのラノベで読んだ「異世界転移」その物ではないか…………だとしたら良いな。さよならリアル、こんにちは異世界。
どうぞこれから宜しく……お願い、致、し……ま………す。
少々の意識はプツン、という音と共に再び深い暗闇へと沈んでいった……。
ここは、地図にも乗らない誰も知らない謎の小島……名は、そう「名無し」。名無しの島と仮に呼ぶとしよう。意識を失い、再び眠りについた彼女はその島の中枢。背の高い木に囲まれ、まるで歓迎されてるかのように……その名無しの島に居た。
大小様々な侵入者がまさに今入ってきたのなんて夢にも思わないままに……
▶▶▶
「すな、すな!すなぁぁぁあ!」
「あっ、おい待てマナ!今、船停めてるからもうちょい待て!サシャァ!!!」
子供はまだしも俺より年上のはずのバカエルフまで砂浜を駆け回り始めた。追いかけるにしても、流石に船をそのままにはしておけないので、急いで小さめの丸太に船へと続くロープを括りつけ、全力で地面に突き刺す。砂浜と言えど、サラサラの砂ではなくそれなりの粘土を誇るようなのでこれで充分船は固定できるだろう……マスター?
知らん、多分まだ寝ているんだろう。
あんな駄馬の事は放っておいて、それよりサッサと二人の後を追わなくては……予定変更は楽しみと言ったが、何せあいつら、勝手にさせておくとろくな事にならない。
「パパーはやくー!」
「チンタラしてたら置いてっちゃうわよー!」
「だから待てって言ってんだろ!」
楽しみを待ちきれないのか、小島の中心へと広がる茂み。その手前で二人と合流し、幾つか「約束事」を決めてそれから中へ、ゆっくりと入っていった
島自体それ程大きい訳でもないので真っ直ぐ歩けば、直ぐに島の向こう側へ辿り着いてしまう。その途中で何か見つかる訳も無いだろう、と考えたアレフは唯一島の中でも目立つ背の高い木を目指す事にした。二人もそれについて文句は無い、何となくだがその辺りに面白い物がある気がする……あれだ、いわゆる女の勘という奴だ。
「マスターはおいてきてもよかったの?おきたときにびっくりしないかな。だれもいないし……しらないばしょだろうし」
「大丈夫さ、あいつは特別図太いからな。何も気にする事は無い」
マナの心優しい気遣いを他所に、マスターは現在船上で貯蔵庫の食い物を食べていた。どちらかと言うとアレフの予想が当たっていたという訳だ
さて、それはさておき……目的の一際背の高い木々の近くまで来た。やはり面積が狭い、あっという間に着いてしまった。見上げると寒々とした空に似合わない緑の葉が生い茂った木の頭が見える。何という木だろう、見た事も無い種類だ、と
「スンスン、スンスン……なんかへんなにおい。」
マナが鼻を鳴らして顔を顰めだす。どうやらサシャも何かに感づいたらしく同様に顔を顰める……何故だか、こんな二人の表情に既視感を感じる。何故だろうか、前にもこんな顔を見た気がする……確か、あの時は
「あぁ、魔法の臭いって奴か。それがするのか?」
「うん、なんかあっちのほうからする」
そう言ってマナが指さしたのは前方、先程言っていた背の高い木の方だ。サシャも頷いているし実際しているのだろう……一般人の自分には分かり兼ねる所だが
何にせよ、元々目的地である木々から臭いがするのなら話は早い。どの道そこには向かう予定だったので、その途中かそこらで原因は分かるだろう
「じゃ、行くか……一応、気をつけろよ?魔法が関わってんなら、絶対危険もあるんだろうし」
「「はーい」」
こいつら、本当に分かっているんだろうか……とにかく、自分含む三人は歩いた。歩いたと言ってもそんなに距離は無い。何せ面積の狭い小島、目的地にはすぐ辿り着いてしまう。
そんな事言ってる間にも、ほら着いた
「あっ、あそこ!誰か倒れてるわ!」
サシャが木々の奥、ここからではよく見えないがそこはエルフ特有の目の良さ。というか茂みに対する目の慣れか
何にせよ人が倒れているなら大変だ。アレフ、マナも既に駆け出したサシャの後を追って走りだす
茂みを抜け、木々の間にポツンと出来た隙間、そこに一人の少女が横たわっているのが目に入った。ちゃんと人だ
これで獣とかだったらどうしようかと内心心配していたが、どうやら杞憂で終わってくれた……いや、人も人で問題はあるが
アレフは少女のすぐ横にしゃがみこみ
首筋にそっと触れてみる
「脈は正常……命に別状は無いな。良かった」
「んー……マナちゃん、やっぱりそうだよね?」 「うん、ぜったいそうだよ」
マナとサシャの二人も少女のすぐ側でしゃがみこみ出した。何がやっぱりそうだと言うのか……すると、二人はおもむろに少女の腹部、見慣れない服装に覆われたそのお腹に向けて手をかざし出した。その手の光方を見るにどうやら魔法を使っているらしい……暫くもしない内に二人も満足したのか、手をかざすのを止め黙って見守る。アレフも同様、静かに少女を見つめる
(にしても、これは何処の服だ?見慣れない作り、飾り、そして髪色も純黒。極東の人間も黒髪は居たが、あそこの女にしては少し「背」がデカいか……?)
女というか、極東は軒並み身長が低い人間ばかりである。高くてもサシャくらいだろうか?少なくともアレフは初の入国当初半巨人扱いされた経験がある
「────んっ」
そして、少女が目を覚ました。ゆっくりと深く暖かい眠りから、別れ際にグズる子供のように、ゆっくりと……
そして意識は徐々に覚醒していく。
「え、あれ?あ、貴方達だれ!?」
先程とは違う。自分の周り、その異常性をハッキリ感じ取った上での疑問。
自分を囲むようにしゃがみこむ貴方らは誰だ、という素朴な疑問。これに彼らは笑顔で答えた
「わたしマナ!」「サシャよ」
「アレフだ、その様子じゃ何故自分がここに居たのかも分からないんだろうな」
「え、あ、はい……あの、はい……。」
少女は忙しなくキョロキョロと辺りを見渡している。やはり極東の人間ではないのだろうか?見知らぬ島に来てビックリ。と言うよりは見知らぬ「世界」に来て死ぬ程怖い。という目をしている
「名前は?」
何にせよ名乗られたら名乗り返すのが礼儀。そこくらいは守ってもらおうとアレフはいつの間にか出来るようになった自然な笑みで少女に促す
「あ、す、すみません。私、朝比奈。朝比奈リリって言います……えと、それでここは……?」
アサヒナ・リリ……ううーん聞いた事の無い名前の綴りだ。一応世界中に足を運んだアレフだが、本当に聞き覚えが無い。だがまぁ今はそこに深く聞き詰める様な事はしないでおく。それよりもアレフの横、サシャとマナがうずうずしてヤバそうだ
「ねぇ貴女、魔法って使える?それとも魔術?呪術とか言ったらぶん殴るけど」
「ふぇ!?ま、魔法?使えるわけありませんよそんなファンタジーな物!」
そうよねぇ……とサシャは深く、何度か頷く。そもそも魔法(魔術等含む)を使える人間などそう居ないので、それは予想していた。なら何故彼女から魔法の臭い、それも魔法上位に当たる「転移」の残り香が…………。
「ねぇおねえさん、どこからきたの?」
「何処からって、日本の東京からよ。いや、修学旅行で小笠原諸島のホテルに居たんだけど……何か眠くなって、起きたらここにいて……あれぇ?」
「とうきょう……パパ、しってる?」
「知らない」とアレフは素直に答える。知らない物を知っていると言ってもばが混乱するだけなのが見えているので大人の見栄などハナから無視する気概である。さて、それでどうするか……少女の口振りからして言っている事に嘘はないのだろう
確かに彼女は「トウキョウ」云々からここへ来たのだろう。そして、どうせ行く先も無い……そしてアレフを見つめるサシャとマナの目が「この子からいっぱい話しを聞きたい。」と猛烈に叫んでいる、圧がヤバい。特にマナ、目から火でも出すつもりなんじゃなかろうか
「………はぁ、じゃあリリ。俺らの船に乗れよ。ここで野垂れ死にたいなら別に良いけど」
「あ、はい!喜んで!宜しくお願いします!」
流石にこんな寒い時期に少女一人を孤島に置き去りっていうのは自分の良心が許してくれない。そういうわけで
アサヒナ・リリという謎の少女が旅に同行する事になったのでした
因みに、マスターは寝床に戻って二度寝を楽しんでいましたとさ…………。
続く




