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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
61/162

チェスと将棋で「チェ棋」、です。

「ヤショウ」船の工場、通称ドックと呼ばれる大きな建物を港口に備えたその小さな島国に彼らは居た。

実に二週間ぶりとなる地面の上、決して揺れないベッドでの睡眠を浴びるほど楽しんだ彼らは、自らが乗る船を診てもらう為にそのドックへ向かい、それから二手に分かれた


片方はアレフとマナ、もう片方がサシャとマスターという取り合わせだ。

サシャとマスターはドック近くで待機し、アレフらは街へ繰り出して前回言っていた「暇潰し」の道具探しをする。という流れになっていた


そして今、その二人は国で最も栄えている通りにいた。


▶▶▶


「わっ!あれ、あれなに!?」


「あれは猿まわしっていう……あの小さいのが猿っていう生き物でな、人が指示を出してそれ通りに動かす見世物だな。」


せっかくなので近くで見物する事にした。傍から見ても見物料を取られる心配もしなくて済みそうだから安心して見れる。たまにだがこうやって道端で見世物をやり、それを見に来た客らにとんでもない値段の見物料を取る輩も存在する。しかしここは誰もが笑顔で見世物を見て、そして猿が何かする度にわっと喝采を上げているので、恐らく大丈夫だろう。客らもグルなのかもしれないが


「おさるさん、かわいいね〜……」


「そうか?人の赤ん坊を見てるみたいで俺はヤだな」


そんなアレフの皮肉めいた発言に頬を膨らまして「なんでそんなこというのー!」と抗議してくるマナ。やはりこちらの方が余程可愛いと思う


「さて、そろそろ行こう。あまり道草を食ってる時間はないんだからな」


軽く手を引っ張ると渋々、といった様子でだがちゃんと着いてくる。聞き分けのいい子に育ってくれてくれて本当に嬉しく思う。そんな訳で猿まわしを後にし、目的の店、または屋台を探す

島国ながらそれなりに観光客でも来るのか、結構な種類の屋台が立ち並んでいる。ここだけ見ればそこらの大都市の一角に見える気がする


おかげで目当てが中々見つからない。

猿まわしの時に言った言葉のせいでマナも少々ご機嫌ななめだ、こういう時はやはり────


「マナ、何か食おう。あいつらの分もお土産に包んでもらって」


食いもんに限る。特にマナのような女児を相手に和解を申し込む時には甘味片手に行くべきだと古い本にも書いてあった……気がする。何にせよこの場合は大正解だった


「たべる!でも、なにたべるの?」


「んー……アレとかどうだ?たい、焼き?よく知らんが、きっと甘いぞ」


甘い。と聞いた時のマナの顔はまるで太陽の光の様な底抜けの明るさ、そして心からの温かさがあった。これを絵にして美術界の戸を叩けばあっという間に世界へ名声が轟いてしまうだろう

それ程美しい笑顔だった。そんな顔をされて甲斐性を見せない男も居ない


「たい焼き」と四文字だけ無骨な看板に書かれた屋台へ向かい、これまた甘味が似合わない無骨な爺店主にカステラを四つ注文する。その内二つは土産用にしっかり包んでもらうよう伝えた


「ほらよ」


「どうも、これ勘定な。釣りはやるよ」


暫くもしない内に、魚模様の大判焼きが二つ。熱々のまま紙に包んで店主が渡してきた。少しマナには熱いかと思い渡さずにいたら猿まわしの時よか頬が膨らみだしたので慌てて渡してやった。せっかくの甘味、笑顔で食わないと美味しさ半減だ


「こっちは土産用だ。しっかり持って帰んな」


勘定と交換のような形でたい焼きが二つ入った紙袋を受け取る。店主は本当に口数が少ない。もうこれ以上何かを喋るつもりはないのかそっぽを向いて新聞を読み出した


「……どっか座って食うか。あと熱くないか?何なら持っててやるぞ」


「だいじょうぶ、マナあついのへいきだもん」


そう言って座る所は無いかと辺りをキョロキョロ見渡している。やはり魔法の炎を出せるだけあって熱には強いのだろうか……だとしたらサシャも諸々に強いという事か?後で聞いてみよう


結局、程よく腰を落ち着けれる場所を見つけれたのはたい焼きが程よく冷めてからだった。熱いまま渡される料理というのは大概熱いままが一番上手いと相場が決まっている。このたい焼きも例外では無いだろう……まぁ、良いか。こういうのも


「「いただきまーす」」


ガブリ、二人ともほぼ同時にかぶりついた。息ぴったり、僅かこれだけの事でアレフは少し頬が綻んでしまう。歳のせいだろうか……にしても、このたい焼き


「中身、あつっ……美味っ、あつっ」


「パパ、はふはふ。くちのなかではふはふするんだよ!」


娘が教えてくれた通り口の中でハフハフと熱を逃がしてみる。すると最近すっかり冷えてきた空気のおかげでいっぺんに口のたい焼きが冷まされていった。何だ、娘は天才なのか?今更か。


「んむっ……これ、おいしいね!すごい、はふ……あまいんだけど、あますぎ、はふ……なくて……」


何とかたい焼きの食レポをしようとしているが途中のハフハフ音が邪魔している。しかしマナの言わんとしている事はよく分かる。確かにこのたい焼き

という食べ物。確かな甘さはあるがそれは砂糖漬けのような胸焼け必死の甘さではなくどこかほんのり、と甘い。そんな感じだ……そして、自分はこういった味付けの出る場所をよく知っている


「極東っぽいな……」


そう、呟いた時だ。ふと何気なくチラリと隣……マナが座っている方とは逆側を見ると、思わずギョッとしてまった。見知らぬ人がジッとこちらを見つめているのだ。いや、目だ。この人は俺の目を見つめている


もう既にしつこい程言っているが、彼

アレフは目から、その人の考えや感情を読み取る事を得意としている。この場合で言うと、その見知らぬ人の目から感じたのは「怒り」、だろうか?むしろそれしか感じられない、一種の純粋で純真無垢な目だったと言える


「パパ、どうしたの……って、あれ。おじさんだーれ?なんでパパのことジッとみてるの?」


「…………君のね、父さんがここの事を極東っぽいって言ったんだ。だから見ている、手は出しちゃいけない。だから全身全霊の怒りを込めてこうやって見つめているのさ」


そう、見知らぬ人……もといここ「ヤショウ」の人間、その男は積もった怒りを目だけに込めて目の前の少女へ説明するのだった


▶▶▶


所変わって「ドック」前、サシャとマスターが待ちぼうけを食らっているここだが、ここでも見世物あるいは余興が始まり、沢山の見物客で賑わっていた


押せよ退けよの大渋滞、その中心に居るのは何を隠そうそのサシャとマスターである。二人……もとい一人と一匹は間に何やら板が置いてあり、規則的に駒が置かれていた


「ほれっ、これでどうだ。」


6二銀、ゴキゲン中飛車が狙い目の攻めっぷりを展開するのはマスター。対するサシャはじっくりと場を広げつつ、次々繰り出される攻めの応酬を柔軟かつ華麗にいなしていく


「はい。さっさとしてよね」


サシャはルークを1つ進めて餌にし、目の前の駄馬を誘い出す形に持っていく

いなしていくとは言ったが、防戦一方だと思われたくはない。着々と反撃の用意はしてある。この駄馬、打ち筋も攻め一本の素直そのものでとても分かりやすい。小さな餌でも一つ撒いておけば躊躇無く食いついてくれるだろう


いわゆるルアーリング、という奴だ。チンケな手だと日頃はサシャ自身が避ける打ち筋だが、こういう単純な相手。そしていつの間にか増えた観衆を少しでも沸かしてやろうと、強かな笑みと共に手番を終える


この馬とエルフ、それも若い美人のエルフという物珍しさ極まった取り合わせに観衆もとめどなく増えていった。見ればドック内で勤務中のはずの男らもチラホラと見える。油臭い青のつなぎがその証拠だ

そもそもサシャとマスターがこんな事をやり始めたのも彼らドックの人間らが盤と適当なコマを渡してしまったからである。盤上の異種格闘技戦、人呼んで「チェ棋」。マイナー過ぎて競技人口がこのヤショウ内にしか居ないというから驚きだ


そんな物珍しい事を物珍しい奴らがやっているのだから、最早場所など関係なく人は増えていくのも仕方のない事で。マスターが自前の蹄で小さな駒を摘み、一手打つ度にどよめきが起こり、サシャが細い指で形様々な駒を取り、優雅に手番を終わる度に歓声が上がっている


「なぁサシャ、俺すげーアウェイ感あるんだけど気の所為かな」


「前に酔ってウザ絡みしてきた罰が当たったのよ。甘んじて受け入れなさい。……はい、これでチェックよ」


「んげぇっ!?」


またも歓声が上がる。おかげでドックの門から顔を覗かした老父の怒声、こっそり抜け出してサボっている奴らへ向けて放ったソレも届く事無く、虚しく飲まれてしまった


故に恐らく、いやきっと知らない事だろう。「また」もアレフとマナが実に面倒な事、そして人に捕まってしまった事など……ましてや長々とヤショウと極東の違いを語られている事など、知る由もないだろう────────。

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