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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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ヤショウ上陸、漕手の憂い。です

「ねぇ、お金ってどうしてるの?」


昼、船の上でふとサシャがそう呟いた。横には死んだ目のアレフが操縦桿を握って船を操作している。そう、二人は今操縦室に居た


そして、急にそんな事を聞かれると大概の人間は戸惑うだろう。お金をどうしてる?金貨の鋳造方法でも教えれば良いのだろうか……アレフは露骨に怪訝な表情を浮かべ、サシャは自分の聞き方が不味かった事を察する


「いやね、私アレフが働いてる所とか見た事無くて……それなのにお金で困ってる所も見た事無いのよ。それって変じゃない?」


「あぁ、なるほどな。そういう意味か」


アレフは納得し、なんでもないように続ける

「ただ単に金目の物をちょくちょく売っぱらっているだけだ。旅の先々でな」


「金目の物?宝石とかって事?」


「そうだ」、と短く肯定を示す。何せ実際そうで何一つやましい事など有りはしない。だから堂々と答える事が出来る


それに対し、サシャは黙って首を捻る。というあまり納得のいってなさそうなリアクションを見せる。

というか先程操縦室に上がり込んできて暫く黙っていたかと思えば急にこれだ。一体全体何故こんな事を聞いてきたのだろうか


と、やっとこさサシャが口を開いた

「ふーん」、と僅か一言だけ……待ってみてもそれ以上口を開く様子も無い。本当に何故こいつはそんな事を聞いてきたのだろう


「なぁ」「何でこんな事聞いたかって?」


「……あぁ。」


被せられた事は少しイラッとしたが、答えるつもりがあるならそれで良い。こんな事で一々苛立っていたらストレスで早死にしてしまう


サシャは続ける


「それは…………ふふっ、何でだろうね。よくわかんないわ。意味なんて考えずに聞いたから」


「何だそれ。その質問をするつもりでここへ来たんじゃないのか」


そうじゃないの、とサシャは小さく笑う。何が面白いのか口を手で隠すようにして笑う。全くもって女心とは不可解なものだ、理解出来ない

サシャはそのまま一頻り一人で笑い、気が済んだのか、「ふぅ」と一息ついて操縦室の出入口に手を掛ける


「気が済んだし外で遊んでくるわ。じゃあ、引き続き頑張ってね。船長さん♪」


「あぁ、用が出来たらすぐに呼びつけるからな。船員」


……返事が無い。見ればもうサシャは操縦室を後にしていた。ドアが開きっぱなしなのが何よりの証拠だ


(……まるで嵐だな。自分のやりたい事をやってそれが終わったらすぐに消えやがった)


ドアを閉める為だけに動くのも面倒なので、開け放しのドアは見なかった事にして視線を戻す。見据える先は遥か彼方の「極東」。まぁ、もうすぐ進路を変えて小さな島国「ヤショウ」へと向かわないといけないのだが……


さて、そんな訳で突然の嵐が過ぎ去った静かな操縦室だが、やる事は単純だ

操縦桿で船の進路を細やかに調整し、レーダーに時たま映る反応に気を配る

以上。それだけである

他には何も無い、案外簡単な物だ


本当はオート。いわゆる自動操縦も一機能として搭載されているのだが、残念ながら船が年寄り過ぎてボケていた。一日丸々自動操縦に任せてみたらそれまで真っ直ぐ北西に進んでいた筈なのに、北東まで綺麗に逸れていた。えげつない「ズレ」。これを修正するだけで数日もかかり、思わぬタイムロスをしてしまったので自動操縦は暫く封印する事になった


おかげで愛するマナとの触れ合い時間がガクンと落ち込んでしまった。それと比例するように日に日に体の元気が無くなってきている気がする。このままじゃいつか死ぬんじゃなかろうか

夜が明けて太陽が沈むまで一人こんな所に引きこもっていたら間違い無く自分の魂は死ぬと思う。先程のサシャもきっと気を使って逢いに来てくれたのだろう……そうじゃなければただ単に冷やかしに来たか。どっちかだ


そういえばこの船での生活も遂に10日を越えた。毎日同じ景色しか見ていないので、時間の経ち方が多少狂っているが恐らくあっているはず

自動操縦のズレさえなければ昨日にはヤショウに入れたというのに……まぁそれでもこのペースなら今日の夜には

恐らく港入り出来るだろう


と、何やらデッキの方が騒がしい

何だろうか、また魚でも釣り上げたのだろうか?他にやる事が無いとはいえ毎日毎日飽きないものだ


「パパぁーー!!みてーー!!!」


おっと、愛する娘が俺を呼んでいる。いつ聞いても癒される声だ。いつか本格的にレコーディングをして世界に売り出してみようか?いや、やはり止めておこう。独占欲がビンビンになる。


「どうしたぁー?何か見つけたのかー」


部屋の窓を開け、潮風を受けながらデッキの方へ叫んでみる。見た感じ何もなさそうだ。いつも通りマナとサシャが釣竿を垂らして船のヘリに腰掛けているだけの様に見えるが……


「そのままみててねーー!!」


マナはそう大きめの声で言うと、立ち上がって竿を思い切り引っ張り上げた

どうやら魚が釣れそうだから呼んだらしい……というか、よく動いている船の上で釣りが出来るな。魚もよく食いつける。反射神経が良いのだろうか


「やぁ!」


ブゥン、と竿に括り付けられた紐、その先に引っかかる魚が天高く舞い上がる。というか釣竿もそこら辺の流木で出来ているのによくしなる。まぁ今そこはどうだって良いのだが……


「パパ、みたー!?マナ、じぶんでつったよー!」


「あぁ見てたぞ。今日はそれで美味しい飯を作ってやるからなー!」


いや癒された。時間にして先程のサシャと大差ないのだが、癒し度数がの桁が違う。超可愛い、尊い、これだけで今日を生きながらえる事が出来るだろう


さて、もう少しの頑張りだ。晩飯は恐らく船でとらないといけないだろうが

何としてもあの天使をふかふかのベッド、陸の上で眠らせてやらなければ


換気のために窓は開けたままにし、アレフは気合を入れる。いつの間にか目には生気が戻っていた


▶▶▶


夜、と言っても日はまだ落ち切っておらずどちらかと言うと夕に近い夜。アレフの気合いに呼応したのか、見事エンジンの調子を上げたディーゼル船のおかげで思っていたより少し早く目的の島へ辿り着く事が出来た。


その名もヤショウ。取り柄といえば船のメンテナンスが出来る通称「ドック」があるくらいだろうか……何せ行った事の無い島だ。人から聞いた話しか知らないから何とも言えない部分がある


と、唐突にドアが開いた。いや、元から開いていたからただ単に誰かが操縦室へ入ってきた。誰だろうか


「パパ、やしょうってあそこ?」


「あぁ、マナか。そう、あそこがヤショウだ……晩飯はどうする?船で食うか」


「うん!」とマナは元気良く頷く。そんなに魚料理が楽しみだったのだろうか

何にせよここまで来たらもう焦る事は無い。船のエンジン出力をギリギリまで抑え、惰性でゆるやかに動くようにする。その間に手早く調理を済まして皆で夕食を済ます魂胆、という訳だ。


「マナも、マナもりょうりしたい!」


「なら少し手伝ってくれ。今日は包丁の練習をしてみるか?」


たったこれだけの事でマナは明るく、その上全力で喜びを示してくれる。こうも喜ばれるとやりがいを感じるし、何より元気が出る。まさに生きがい


出来ればヤショウで何か暇を潰せるものを幾つか買ってやろう。せっかくの笑顔を有り余った時間のせいで曇らせる訳にはいかない。幸いにも金は有り余っている。この時ばかりは今まで自分が苦労して集めた宝の数々に感謝しないといけない。荷台に山ほど積んでた時は場所も取るし、重いからマスターの足も遅くなるしで良い事が無かったが、こんな役の立ち方をするとは思わなかった。人生何があるかわからないものだ


……そんな訳で、結局ディーゼル船がヤショウの港入りをしたのは日もすっかり落ちて月が煌々と夜空を照らし出す頃だった。

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