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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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暗闇の先には絶景が広がっていました。


「ぐすっ……ぐすっ」


「マナ、大丈夫だから泣くな。少し暗いだけだ」


マスターの引っ張るいつもの荷台に

投げると光る不思議な石をいくつかぶら下げ終えたアレフは、その暗さに怯え年相応の反応を見せる我が子をなだめる


「けど実際暗いぜ。俺もここ嫌だわ、凄い歩きにくいし……」


「頼む、ここしか道が無いんだ」


いつも通りの二人と一匹は現在、山の中を無理やりくり抜き、何か不思議な物質で周りを固めて崩れないようにされた通称「洞窟」を進んでいた


もうかれこれ十分にはなるか。頼りの「光る石」は決して長持ちしないのでこうやって定期的に取り替えてやらないといけない


「よし、行こう」


ガタン、と一つ揺れてマスターが歩き出し、それに引っ張られて二人の乗る荷台もゆっくり進んで行く


「ぐすっ……パパ、おひざ……」


「ん?あぁ、こっちだ」


すぐ横にいるマナに手を伸ばしてやる

「光る石」があっても尚薄ぼんやりとしか明るくない洞窟内だと、一々こうしないと不安なのだ


そのまま手を引いて、あぐらをかいたその膝と膝の間にマナを座らせてやる


「マナ、暗いのは苦手か?」


「ぐすっ……うん、こわい。なんにもみえないもん……」


「なら一度涙を拭いて上を向いてみろ」


頭を撫でてやりながらそう言うと、マナは言われた通り急いで涙を拭き、自分の上を見てみる


「わっ、パパわらってる!」


「はっはっは。俺は暗い所に慣れているからな……ほら、なんにも見えなくないだろう?」


マナはハッとする。そしてすぐにニコーっといつもの笑顔を見せてくれる


「パパはやっぱりすごいね。パパのかおみたら、こわいのがどっかいって、なみだでなくなっちゃった!」


もう一度、マナの頭を撫でてやる

尊い。正直こんな事言われてしんどい

嬉しさで胸が張り裂けそうだ


(自慢の娘だ……本当に、数少ない俺の自慢)


「おいお二人さん、イチャイチャすんのも良いけどよ。別れ道だぜ?」


と、マスターに言われてマナの頭から正面に向き直すと本当に道が二つに別れていた。どちらも先に光が見えない辺り相当に深いのだけは一致しているようだ


「パパ、どっちいくの?」


この洞窟に来る前に物資補給の為立ち寄った村で、この洞窟、出口は一個しか無いらしいし、この別れ道のどっちかは行き止まりなんだろう


「なに簡単だ。マナ、指を出してみろ」


マナが人差し指を立てた手を見せてくる


「その指を唾で軽く湿らして、ジッと立ててみろ」


自分の指を使って実演しながら、マナになるべく優しく教えてやる。無意識に口調が悪くなっていく悪癖を自覚しているので、最近特に気をつけている


簡単な事なのでマナはすぐに真似して

アレフと同じ湿った親指を立てる


「……なんか、ゆびにあたってる?」


「風だ。あっちに出口があるという事だな」


二人から見て右側から微かに風が吹いている。全くもって古典的な方法だが

昔から今まで受け継がれているだけあって確実なやり方。だと思う


「パパ、いろんなことしってるねー」


「はっは!そりゃ違うぜお嬢ちゃん、そいつほど世間知らずな奴はいないぞ!」


マスターが唾を飛ばすほど笑い、ニヤニヤこっちを見て笑いながらそんな事を言っている


「お互い様だろうがよ……まぁ、マナが思ってる程賢い人間じゃないってのは確かだな」


「ほぇー?」


わかってるのかわかってないのかマナは微妙な反応だ。首を傾げてる辺り何を言っているかイマイチわからない方だろう


「ま、良いんだけどな」


「ほぇー?」


また首を傾げた。どうやら少しそれが気に入ってしまったらしく、その後も度々やってきた。とても可愛らしい


▶▶▶


「お、見えてきた見えてきた」


それから二、三回の休憩を挟んで結構

した頃。マスターが突如声を上げた


「ん、あぁ。やっと外か……思ったより長かったな……おい、マナ」


名前を呼んだだけでは起きなさそうだったので体を数回、軽く揺らしてやる


「んん……ふぁ、なにー?」


「前、見ておけ」


寝ぼけ眼を擦りながら、ゆるりとマナは前を……徐々に広がろうとする外の光を見つめ


そして


「……………………………………わぁ」


上から見る海は、一際美しい。特に何も遮るものがない、純粋な海と、空

それはそれは美しかった。何にも例えられない。唯一無二の光景


「前に通った海だな。今日もババアが赤い粉を流している」


「すっっごい、きれいだね……!」


そう、マナにこれを見してやる為だけにこの洞窟を通る事を選んだのだ


(これだけ喜んで貰えたなら、わざわざこっちを通った価値もあったか……)


どうやらマスターも俺と同じような事を考えていたらしくこっちを見てニヤッと笑う。先ほどの馬鹿にした様な笑みではなく(良かったな)的な意味なのだろう


「ねぇ、パパ?」


「どうした」


マナが潤んだ目でこちらを見つめてくる。泣きかけの顔なのにどこか楽しそうだ。本当に可愛い


「もしかしてさ、ここよりもっときれいなとこって……あるの?」


そんな事ばかり考えていたので、この質問ばかりは即答できなかった。純粋に予想外だったのだ、でも


「あぁ、あるさ。きっとな」


脳で整理するより早くこの言葉が俺の口から出た。それを聞いてマナの目は「期待で」さらに輝きを増す


「じゃあいこう!いっぱいみたい!ほらおうまさん、あるいてあるいてー!」


「ちょ、おい急かすなよ。ここの景色はもう良いのか?」


マナは荷台から立ち上がりマスターの尻尾を掴んで、ブンブン振り回す

相当興奮しているらしい、マスターがなだめにかかっても聞く耳持ってない


さっき馬鹿にしてきた分のお返しだと

アレフは助けに入らず、しばらく絶景

……海の方をジッと見つめていた


(絶景……ババアに渡された写真の背景、結構綺麗だったな)


ポケットから色褪せた写真を取り出し

改めてジッと眺めてみる

ど真ん中、一番目立つ場所に一人の青年が笑顔でポーズを取っている。これはあの老婆の彼氏……という奴だろう


問題はその後ろ、青年の背後だ

何やら何時か行った極東の国で見た事がある様な建物がある。湖も


(ここなら、マナも喜ぶか……問題は細かい位置どころか、大まかにもこれが何処で撮った写真か分からないという事か)


「おいバカアレフ!写真見てないで助けろよ尻尾取れちまうだろぉ!?」


マスターが全力で怒号を飛ばしてくる

見るとマナは未だ掴んだ尻尾をブンブンと振り回していた


「仕方ない……おいマナ、離してやれ」


マナの手首を掴んで強めの口調で諭してやると、案外すんなり放す。えらくキョトンとした表情をしているが、もしかして記憶でも飛んだのか


「あれ?いま、マナなにしてた?」


「嫌なにも。マナ、マスター、そろそろ行くか……目指すはあっちだ」


アレフはビシッと指差す


「あっち……って海じゃねぇか。俺泳げないぞ」


アレフが指差したのは、海。水以外何も無い海を差していた、が別に海の中を目指す訳では無い。その先だ


「船に乗ろう」


「ふね!?なにそれー!」


マナがまた目を輝かせる。船とは何かと聞かれて何と答えれば良いか分からなくなってしまったが、この目を向けられたら「わからない」と言うわけにはいかない


「……まぁ、水の上を進む乗り物。だ」


「へぇ……すごいねー……!」


どうやら納得して頂けたようだ

何分、船なんて俺もマスターもマトモに乗ったことなんて無かったから満足な回答が出来るかわからなかったが良かった


「と、いうわけでマスター、港町に向かおう」


「あー……ここら辺で言うと「リリハラ」か。行った事無いが、どんな町なんだろうな」


アレフもマスター同様直接行った事は無いが、港町と言うとやはり人々の気性が荒く、男女共に日焼けしてて筋骨隆々なイメージがある。勝手なイメージだが


「ま、行って見りゃわかる。マナもそれでいいか?」


「うん!」


元気な返事だ。それと同時にマナは荷台によじ登り再び俺の膝に腰を落ち着けた。気に入ってもらえたのだろうか


(だとしたら親冥利に尽きるな……)


自然と頬が緩んでしまう……にしてもいつの間にか、躊躇無くこの子を自分の子だと思えるようになってきた


「……ふふっ」


「何笑ってんだよ気持ち悪ぃー」


マスターが茶化してくる。が長年共に過ごしてきた仲だ、多少なりとも察しているのだろう。それ以上は言ってこない


それから、二人と一匹は誰から言うでもなくその場を静かに離れた

次の目的地へ向かう為、今生きる幸せを逃さない為に―――

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