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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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焼き魚はどこか魔法の味がしました。

「だから〜……本当に居たんだって!背中に羽の生えたちっこい生き物!」


「だからそれは顔真っ赤にして酔い潰れてたお前の夢だ。って言ってるだろ?そんな話したいならあっちでマナとサシャの二人にしてやって来てくれ。俺は忙しいんだ」


朝も朝、朝っぱらから何やら船のデッキ上。それも操縦桿のある付近がえらく騒がしい。声の主は勿論マスター。

話の内容は専ら昨夜見た「妖精」っぽい奴。の話だ……それを、朝起きた瞬間から今にかけて延々と耳元で騒がれる


いい加減嫌になってきた。声量もそうだが何より口が酒臭い。マスターが息を一つ吐く度に軽く吐き気を催す程だ


……さて、開幕から少し話が逸れたが

今、彼らは船の上にいる。船と言っても大型の物ではなく、どちらかと言うと漁船のような小型で機能性に重きを置いた物だ。エンジンはディーゼル式で、音が割と喧しいのが難点だが、燃費に関しては予想通り。寝る時はエンジンを切って冷却してやれば騒音も上げないので、それくらいの問題点には目を瞑る事にした。


さて、そんな船で何処へ向かうかと言うとそれはズバリ、「極東」……ではなく、「ヤショウ」という島国だ。

何故、極東ではないのか?それはただ単に


「生活物資が足りなくなる」

というごくごく普通の理由の元、導き出された答えという訳だ。

食べ物や飲み物もそうだし、船のメンテナンスや、エンジンを動かす重油の補給……まぁ色々とやらないといけない事が多いのだ。


と、そういう訳で今アレフらはヤショウへと航路を定め、安全運転で船を海上に滑らしていた。

さて、そんな中未だブツクサ言っているマスターは、話を一向に聞いてくれないアレフに見切りをつけ、この話に興味を持ってくれそうな女性二人の所へと向かった。彼女らは船首に仲良く身を乗り出し、四方八方に広がる青も青、真っ青な景色を楽しんでいた


「わっ、みてみてサシャ!あっちでなにかはねたよ!」


「えぇ〜見逃しちゃったわ。もっかい跳ねてくれないかしら!」


実に黄色い声が飛び交っていた。アレフは間違ってもあそこに割り込んで邪魔する気にはなれなかった。本当は船の操縦なんてオートに切り替えて自分もマナと遊んだり話したりしたいのだが、何分あそこまで女性らで楽しそうに話していたらどうしても割り込む気にはなれなかった。だがマスターは違う。彼は人の情緒や感情を余裕で踏み躙る男(牡馬)だった


「へいお二人さん!ちょっと俺の話聞いてくれよ〜!アレフがちゃんと聞いてくれないんだよ〜!」


「うわ、酒臭っ!マスター酒臭っ!」


やはり酒臭かった。サシャは手をブンブンと振って嫌な顔をするし、マナは無言で手で鼻を覆っている。心做しか目に嫌悪感が篭もっているような気がしなくもない


だが、やはりと言うかなんと言うかマスターは動じない。まだ体内にアルコールが残っているのかウザ絡みもちっとも衰えないし、臭いし。ハッキリ言って超絶邪魔。女性二人の優しさがそれを実際口にするのを押し留めているが、顕著に顔の方に現れた。マスターはそれでも動じないが……


「まぁまぁ、とにかく聞いてくれよ!実はな……俺、昨日夜警している時になぁ……妖精っぽいのを見たんだ!!!」


「「……………………へえぇぇぇぇ。」」


冷めた目線がマスターを射殺しにかかる。残念ながら、マスター当人は素知らぬ顔で口笛を吹いているが


「ふっふーん。魚なんかよりよっぽど凄かったぜ?羨ましい?羨ましいだろ?」


「……はぁ。どんなようせいさんだったの?アムタラであったハネみたいな?」


……マナ、貴女優しいわ。とサシャはポツリと呟き、それから諦めたように船首のヘリに腰掛けた。揺れたら落ちかねないが、気にも留めないといった様子


「いや、アレとはまた違ったな。何か超分厚いメモ帳を持ってた……気がする」


メモ帳、小さな羊皮紙をふんだんに織り込んだ豪勢な逸品。そんな物を持った妖精など、本当に存在し得るのか?

メモ帳の価値をよく分かっていないであろうマナはしきりに「ふーん」と相槌を打っている。まだ半分酔ってるマスターは言わずもがな、だ


「それに、何だったかな……『何で見えるんだ?』みたいな事も言ってたな。アレ、どういう意味なんだろうな……」


「えっ、みえたらダメだったのかな。サシャ、なにかしってる?」


見えちゃいけない妖精、それもメモ帳持ち……サシャはふと、とある一つの伝説を思い出した。童話にもある結構メジャーな物だ。その名も


「『天使』、とか?ほら、聞いた事ない?この世界を創り、今も拡げている「カミサマ」っていう人の使いで───」


サシャはそこまで言って言葉を切った

マスターとマナは未だ続きがあると思い黙って待っていたが、サシャはもう全く別の事を考えていた。それは……


「魚が、跳ねたわ」


▶▶▶


さて、サシャも人(馬)の事を馬鹿に出来ないくらいの天然っぷりを披露しているその頃、アレフは自分から見て左側、船から見ても左側面に異変を感じていた。レーダーの方にも何やら反応がある。熱反応なので生き物には違いないのだろうが、そこらの魚にしては少し大き過ぎる。潜水艦かと一瞬驚いたが、ならばレーダーに引っかかるのはおかしい

(ここら辺の潜水艦は電波妨害なる物を持っているので、レーダーに反応しない。するとしたら海面に顔を見せている時だが、見てもそのような物陰はない)


さて、その他に可能性があるとすれば

やはり魚だろう。それもそれなりに大きな、いわゆる巨大魚。だとしたら本来なら焦り、逃げる場面なのだが……


「おいお前ら、左にデッカイ魚が居るぞ!捕まえて食べちまおう!」


「え、魚っ!?魚は私、白身魚が良いわ!ほら二人共、戦う用意!」


操縦室からの叫びに対し真っ先に反応を示したのはやはりサシャだった。食い盛りのはずなマナよりよっぽど食い意地が張っていて、たまに荷台の食料を隠れて盗み食いしている程だ。因みにそれを見つけた時は、マナによる説教が延々と続く事になった。


────と、呼ばれた「魚」も声に反応したのか海水を盛り上げ、大きな水柱を伴ってその姿を現した。ナイスタイミングと言えるだろう………でっかぁ


「いやデカイな。思ってた二倍デカい」


ちょっと予想外だったが、まだアレフは冷静だった。身の安全、それに加えマナやサシャ(駄馬は要らん)の命が脅かされる危険も感じないので、至って落ち着いたままだ。何せ、相手は所詮魚。どれだけデカくとも「魚」なのだから


「よーしマナ、行くよ!『イルカンド(暴風)』っ!!!」


海底から湧き上がってきたんじゃないかという勢いで海竜巻が魚を空の彼方へと吹っ飛ばしていった。無情、魚は悲鳴を発する事も無くただそこらの紙切れ同然に舞い上がる


そう、だから「怖くない」のだ。この世は弱肉強食……真理がそうなのだとするならば、こちらが圧倒的に強者、食べる側なのだから────


「マナ!」「うん!」


マナの手から炎が出る。そのまま重力に従って下に落ちる訳でなく、炎は少女の拳を纏っていく。まるでグローブの様……そして、マナはその手で


「いっけえぇぇぇぇぇ!!!!」


天を殴った。纏った炎のグローブはミサイルの様に空の巨大魚を見事穿ち、そのまま全身焼き尽くす。圧倒的熱量、あっという間に程よい焼き加減にしてみせた。巨大魚にもう意識は無い


魔法と言う名の圧倒的な不条理に抗う事も許されず、まさに瞬殺。一瞬で殺されてしまった


充分に焼きあがったのをしっかり視認してから、サシャは己の放った「イルカンド」風の魔法、その一つの出力を徐々に緩めていく。その間にマスターが何処からかシーツを引っ張り出してき、船のデッキ上に焼き魚を置くスペースを作る


やがて、静かに焼き巨大魚は船へと置かれた。死んでいるとはいえその巨体、重いのに違いはないので一瞬船のバランスが崩れたが、そこはアレフ。

しっかりと船を操って船の転覆を防ぐ


魚のサイズは、頭と尻尾がデッキからはみ出るほど……と言えば大きさが伝わるだろうか。何にせよ、物資を極力節約したい彼らからすればこれほど大きな食料源の確保はとても有り難い事


これを海からの恵みだと感謝をし、焼き魚の身を欠片ほども残さず食べた後は残った骨を海へと戻す。水葬というやり方だが、これで死んだ魚の魂が少しでも報われる事を心から望み、腹を膨らませた彼らは黙祷を捧げる


これは、長きに渡る海上生活の何でもない一日。明日はきっと今日よりも楽しくなる。明日はきっと、マスターの口も酒臭くないだろう……そんな願いも込めて、彼らは静かな眠りについた


明日はもっと、良い日になる───。

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