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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
57/162

純潔、そして無垢。です(後編)

前回のあらすじ

サシャの体力が限界に達し、カナン夫妻があの世へと戻っていった。

あらすじ終わり


▶▶▶


「…………。」


「「「…………………」」」


誰も、何も喋らない。カナン夫妻が消えてから暫く経ったが誰一人としてそこから動こうとはしなかった。それどころか物音一つ立てていない。時間でも止まったのかという次元だ


そして一人、残され佇むマリアはというと、両親が消えていった夜空を眺めていた。そして、不意にグラリ、と姿勢が歪む。足下が急に頼りなくなり、地面へ倒れてしまう


「魔法、消えちゃいましたのね………」


最早涙すら流せないガラスの目玉をそっと布製の手で撫でやり、実に忌々し気に呟く。ほんの、ついさっきまで自分で立ち、歩き、生きていたのに。何と魔法で見る夢とは儚く、脆いのだろうか


「……でも、悪くなかった。ですわね」


うん。そう、決して悪い夢では無かった。父も母も存外向こうで仲良くやっているようだ。そこに自分が居ない事が少し残念だが、仕方ない。いずれあちらには行けるのだ。焦る事は無い


今はそれより、あんな無理難題に完全な回答を出してみせた彼らに、祝福の言葉と、後は褒美を与える方がきっと優先すべき事だろう。


「ウェルター……ウェルター、近くに居ますでしょ」


「はい、何でございましょう」


マリアが呼びつけると、屋敷の老使用人、ウェルターが何処からともなく現れる。アレフらはギョッとしたが、既に開口のタイミングを逸しているので今更口を挟めない。黙って現状を見つめる


「船の用意をしてあげて、それも急いで。もうすぐ「奴ら」が来る頃ですわ」


「はい、既に用意してあります。出航は何時でも……そして、奴らはもうすぐ来ます。今、町の入り口を見張る者から伝達がありました」


そう、とマリアは呟く。人形の顔では表情が上手く読み取れないが、恐らく焦っているのだろう。そして、打開の作戦を練っている


ここで、やっとこさアレフが口を開いた


「マリア、来る……って、何が来るんだ?」


それは、何やら嫌な予感を二人の気配から感じ取った上で、問う言葉だった

意識を失ったサシャをおんぶの形で背中に抱き、マナと手を繋いで何なら今すぐにでもここから逃げれるように心構えも用意してある。


そしてマリアの返事、「知恵の守護者」という返事に本気でアレフは逃げようとするのだが、何故だかマスターに止められる


「何しやがる」


「……別れくらい、言う時間はあるんじゃねぇか?」


マスターは、アレフでなくその横、手を繋ぐマナの方を向いてそう言った。見るとマナは、黙って俯いていて、誰が見ても名残惜しさが伝わってくる


アレフは考えた。猶予は何分ある?ウェルターの口ぶりからしてもうすぐに奴らは町へ入ってくるだろう。そうなると「鼻」の利く奴らの事だ。早々に居場所は掴まれ、命懸けの追いかけっこを強いられるだろう……だが、それでも、娘の「心残り」という物は出来る限り作らないでおきたい……今もそうだ


「……行け、マナ。但し手早くな」


「……!うん、うん!ありがとパパ!」


アレフが手を離してやるとマナは一も二もなく、今やウェルターに寄り添う形で何とか立っているマリアへと駆け出す。マリアもそれに応えるべくウェルターを制してフラフラしながら、数秒自力で立ってみせる。しかし人形の体ではやはり負担がデカいのか前のめりに倒れてしまう……が、少しマナの手が早かった。見事抱き合う形でマリアの体を支えた


「……マナ、そんな悲しい顔をしないで下さい。別に今生の別れというわけでは無いじゃありませんか」


「でも、でも……マリア、さみしくないの?……マナ、さみしいよ。」


「それは、勿論寂しいですわ……けど、きっとまた会えます。貴方の父親がきっと、きっと私達を繋いでくれます。それに私のパパとママが言っていましたが、どうやら私達は心で通じているらしいんです。なら、大丈夫ですわ。」


ポンポンと、くすみ擦り切れた手でマナの背中を優しく叩くマリアの顔には笑みが浮かんでいた。涙の跡こそ頬に残っているがその姿は見えない。いつの間にか泣き止んだらしい

代わりに、優しい微笑みを浮かべていた


もし、もしもサシャが頑張っていればマリアはまだ愛する両親と会話、又は触れ合えていただろう。自身の体も不自由のない物へ戻ったままだった……しかし、マリアは決して一欠片程も後悔してはいなかった。


「だって私達、「友達」でしょ?」


「……うん、うん。そう、そうだね……グスッ、うん。ともだち、だもんね!」


結局二人は、ウェルターが「知恵の守護者が町に入ったようです」という警告があるまで永遠と抱き合っていたのだった…………。


▶▶▶


「ここがカナン!そしてここに、かの悪名高き「大泥棒」が滞在しているのだな」


「はい。それにしても異様な雰囲気ですね……港町という事でもう少し騒がしい様子を予想していたのですが、これは……」


知恵の守護者、彼らは馬に乗って町の入り口をくぐった。総勢百人足らず。

一人の犯罪者を捕まえるためにこれだけの人数が出てくるのは文字通り前代未聞。それを指揮するのも「ボス」の直属の部下で「忍」フーガの上司である頭に白いテンガロンハットを被ったえらく派手な形相の男と、その横で馬を止める地味な男。特徴も特にない何処にでも居そうな痩せぎす


彼らを先頭にして騎馬百体無いくらいが町に乗り込んで来た、のだが何故だか奇妙な程静か。そして異邦人である自分たちが押し掛けてきた何の反応も見せやしない。町民はまるで何も見えていないかのようにノロノロと歩いている


「ふむ……いや、構わん。元より町民には何の期待もしておらん。おい貴様ら!この町に奴が居る!探せ!見つけた物には特別報酬を出すぞ!」


行けぇ!と白テンガロンが号令を出すと、後ろの知恵の守護者らが大声をあげて散っていった。十騎一個の集団になり、事前に地図で確認しておいた通りに別れ、必死に探す。因みに白テンガロンの言った特別報酬というのは趣のない言い方をすれば、「金」だ。法を守る為の集団と言えども金には目の色を変える辺りが人の業とも言える


「とにかく、これで直に見つかるだろう……だが、そこからが勝負。おい、網の準備は怠ってないな?」


「はい、こちらに」


痩せぎすがテンガロンに小さな網を手渡す。これはサイズ変更のしやすさと頑丈さが取り柄の特注品。大泥棒を捕まえるようの特別製だ

これを使って見つけた大泥棒を何としてでも捕まえてみせる……そして、ボスに褒めてもらい、自分も昇進する


(そんなの、最高じゃないか。うむ、絶対成功させなくては……ボス、待っていて下さい。私がやり遂げた時は貴方の横にフーガ等ではなくこの、この俺を…………!)


テンガロンは何処かうっとりした様子で報告を静かに待った。夜空を見上げ、呑気に惚けていた。だが、痩せぎすの男はこの町に入って二度目の違和感を感じる


「……何やら、向こうが騒がしいような……?」


そう。町の奥、もとい中心の方から何やらやかましい男らの歌声が聞こえてきたような気がするのだ。何故だろうか?港町という事で少々期待していたのが外れて、思わず幻聴でも聞こえ始めたのだろうか


いや、だがしかし、歌声はドンドンこちらへ、それも段々と人数が増えていっているように聞こえる……もしや


「奇襲……、か?いや、まさか……でも相手は大泥棒。有り得る、か?」


何にせよ、ここに居ては不味い。即座に動かなくては……奇襲を崩す、又は逃れる方法、それは敢えて突っ込んでいく事だ。勿論一握りの勇気を添えて


「旦那、緊急事態です。突っ込んだ方が宜しいかと……旦那?ねぇ旦那!」


「ん、あ……あぁ?何だよせっかく人が良い気分に浸ってたってのに……って、おぉ!?おい何かこっち来てんぞ」


テンガロンは驚いたように目を見開き、少しパニックになっている。一体何目を開けて夢を見てくれているのか……寝るのは仕事が終わってからにして欲しい。文句は尽きないが今は言っている場合じゃない、口早に自身の予想と、その危険性を伝える


結局、予定より数秒遅れたが、テンガロンと痩せぎすは近付いてくる歌声へ馬を駆けさせた。と言っても民間人に危害を加える訳にはいかないので多少抑えつつ。だが


「見えた!あそこがこの馬鹿騒ぎの核だな!」


暫くもしない内に、ソレは見えてきた。

それは全員も全員、片手に木のジョッキを掲げ、喉が壊れるまで高らかに歌い上げる「喧騒」もしくは「祭り」。それは、彼ら知恵の守護者が町に入った時に見た静けさ極まる物とは正に対極。

まるで長年掛けられていた「魔法」又は「魔術」が一瞬にして解けたような……熟成された底抜けの明るさが町全体に膨張し、見れば所々馬が騒ぎに飲み込まれ二の足を踏み、その間に人間は馬から引きずり降ろされ、酒を飲まされている。


これは、何だろうか……強いて言うなれば、地獄。地獄か?地獄だろう。

そしてやはりと言うかなんと言うか、痩せぎすとテンガロンも飲み込まれた。酒臭い、だが文句を言う間もなく口に酒精を注ぎ込まれる。


「が、ガボガボ……!や、やめボハッ。止めろ!離せ!俺は貴様らと飲む為にここへ来たんじゃバフッ、な、ない!」


「うるせぇー!知らねぇー!久しぶりに屋敷の娘さんが町に姿を見せてくれたんだ!飲まずにいれるかっての馬鹿野郎!ほれ飲め!死ぬ程飲め!ガッハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!」


ゴボボ、ゴボボボボボボ、ボハッ。最早テンガロンも痩せぎすも口を聞けなくなってしまった。痩せぎすに至っては元々酒に弱いのもあり、早々と意識を失っている。顔は真っ赤を通り越して真っ白だ。


その中でもテンガロンは必死に辺りを見渡した。目当ては「大泥棒」ともう一人、今回の作戦においてもう一人の「仕掛け人」として事前に伝えておいたこの町に住む貴族の一人娘「カナン・リリ・マリア」だ。酒臭い男も先程、屋敷の娘がどうこうと言っていた。きっと近くに居るはず……何処だ、何処にいる?


「バフッ!(いたっ!)」


見つけた。それ程遠くない、声をかけて取り敢えずここから助け出してもらわねば。年下の娘に助けを乞うのは少し気が引けるが、致し方ない。遂行の為に手段は選んでいられないのだ


「おい、マリア嬢!聞こえているのか!マリア嬢!知恵の守護者だぞ、おい!」


「まぁ!来ていらっしゃったんですね!わざわざ遠くから御足労ありがとうございます!町総出で歓迎致しますわ!ねぇ、皆さん!お客さんはめいっぱいもてなしましょう!」


「「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」


全員、酒に酔っているからだろうか。とんでもなくノリが良い。見れば知恵の守護者、馬から引きずり落とされた何人かは既に酒に溺れ、喧騒を楽しみ出す者が現れ始めた……テンガロンもまた、ガタイのいい海の男達に囲まれ、酒精漬けにされていく。

だからだろうか。久しぶりに屋敷から出てきて民衆の前に立った貴族の娘。その姿が何処か人らしくない、という事に誰一人として気付かなかったのは


そして、港から喧騒を背にこっそりと出航する小さな船が見えず、気付かなかったのも仕方の無い事なのかもしれない────。


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