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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
56/162

純潔、そして無垢。です(中編)

前回の続き……と、行く前に先ずは死人、カナン夫妻を現世に降ろした方法と言う名の禁忌紛いのやり口について語りたいと思う。


先ず、アレフとサシャはカーネルの家に行って帰ってきたその深夜。日付が変わるかどうかという時間帯に宿からこっそり抜け出し、町外れまで出ていた。


そんな所になんの用事があるかと言うと……まぁ幽霊を降ろすのだ。と言ってもカナン夫妻を直接呼ぶ事は出来ない。らしい


「そもそも死人を呼ぶ事だって禁忌の一つなのに、そんなヒョイヒョイ都合良く呼べるわけないじゃない。」


気になって聞いてみたら、そうすげなく一蹴されてしまったので取り敢えず分からないなりに理解したふりをしておく。こんな所で揉めてる時間はない……と、言う事でワンクッション置くことにした。そこで出てくるのが「写真」である


サシャは知らないが、アレフ及びマナとマスターには幽霊の知り合いがいる。少々一悶着があったが、無事に昇天させてやった二人の老夫婦だ。名はリドリーとタキア。リドリーがたまに偉そうな老婆で、タキアが陽気さが取り柄な爺。彼らから手渡された一枚の写真。今回はこれを使う事になった


「じゃ、やるわね。」


眠いのか度々目元を擦りながら、地面に何やら描いていたサシャが魔法の開始を告げる。大概の魔法がそうなのだが、使用者以外が近くに居るとろくな事にならないので、例に漏れずアレフは素直に離れて見守る事にした。

それをしっかり視認してから、サシャは魔法の詠唱を小声で唱えていく。テンポよく、リズミカルに……噛んだりすると一からやり直し。最悪死ぬ。


魔法という物は傍から見れば何でも出来る便利で特別な才能なのかもしれないが、使える側からすれば結構な苦労を強いられる。何より精神的に疲れるのだ

サシャは生まれつき四つの魔法を同時に発動出来る、所謂「天才」なのだが

実際にそんな事をやったのは人生百五十年余りの中でも一、二回程度だろう


何せ一つでも大変疲れるのに単純計算でその四倍の疲労度合い。日によっては過労死するレベルだ。しかし、アレフの考えたやり方では最悪ソレを実行しないといけない。死ぬほど嫌なのだが、否定するにも他に何か思いついている訳でもないので従うしかない。

否定するなら代わりの案を一緒に提示するのがサシャ自身の拘りであり、自分ルールなのだから────、と、突如サシャを中心に円状……半径五メートル程度だろうか。何やらその範囲に異様な雰囲気が立ち込め、サシャが叫ぶ


「よしっ、詠唱終わり!おいでませ霊体様っ!」


瞬間、先程の半径五メートル程度の異様な雰囲気がサシャの足下、そこに描かれた小さな円及び写真へと一極に集中していく。まるで竜巻でも呼んだのかと問いたくなる程のその圧巻の光景を、アレフは固唾を飲み、黙って見つめていた。どうか上手くいきますようにと心から願いつつ……………そして


「うぉっ!?何だ、ここ!何でこんな所に居るんだ俺は!」


「ちょっと貴方、少し落ち着きなさいよ。見るにここは現世、そして私達は何やらここへ呼ばれたようですよ……ねぇ?魔法使いさん」


どうやら願いは通じたようで、前と毛ほども変わらないタキアの様子は少し笑えるし、リドリーのタキアに対する呼び方、それが「貴方」に変わっていてこれまた何だか胸が温かくなる錯覚を覚える


そんな二人に対するサシャの挨拶はいつもの傲慢かつ怠惰なソレでなく、とても優雅なお辞儀から始まった。


「初めましてリドリー様、タキア様。私エルフの娘。サシャです……此度は私の呼びかけに応じて下さり、ありがとうございます」


「お、おぉ。何だこんな美人なねーちゃん見た事無いな……何せあの世に居るのはジジババばっかりだしな。なぁリドリー……リドリー?」


「…………はぁ。いえ、そうですね。貴方にこの手の事を叱っても仕様がないですわね……それで、サシャさん?何の用事でしょう」


「それは────」「それは俺が説明する。随分と久しぶりだな、お二人さん」


突如自分の背後から声がしたのに驚いたのか二人は殆ど同じタイミングで同じような驚きの表情でこちらを振り向いた。そして声の主がわかると途端に相好を崩す


「ほんと、久しぶりね」「あぁ。前見た時より少し父親らしい顔付きになってる」


「顔付きって……そうか?自分では分からないがな……あんたらも少し変わったな。どうする?用事の前に雑談にでも耽けるか?」


魔法の成功、危険の終了を察したアレフは大股で彼らに近づきながら、そう提案する。ここまで来れば焦る事は無い。久しぶりの再会、感慨に浸るのも悪くないと思っての事だったが、タキアより早くリドリーが首を振る。横に


「いいえ、何分こっちもデートの最中だったの。申し訳ないけどムードが冷めきる前に終わらせたいわ」


「わかった、なら手短にいこう。爺もそれで良いな?サシャも」


二人とも縦向けに首を振ってくれた。という訳で、アレフは言葉通り手短に事情、現状、そして願いを伝えた


「────だから、あんたらにカナン夫妻の方へ話をつけてほしいんだ。それでこれを渡して欲しい」


アレフの手の中にはそこら辺の地面に転がった小さな石ころがある。タキアはそれを受け取り何やらマジマジ見つめたり、ひっくり返して用心深く手で感触を確認しだす。何だろう、死後の世界には石ころ一つ落ちていないのだろうか。いや冗談、普通の人は唐突に石ころを手渡されたら何かしら不審に思うだろう


「この石を持っているとサシャが呼び出しやすいんだ……まぁ、呼び鈴みたいな物だと思ってくれたら良い」


「ふーむ……なるほど、わかった。そういう事なら渡しといてやる。何せ俺とカナンは向こうじゃ親友だからな!」


リドリーも構わないといった様子で頷いている。そういう訳で、無事にサシャとカナン一家の間に一本のラインが敷かれ、次の日の夜呼び出す事に成功した。という訳だ


────随分と前置きが長くなってしまった。さぁ、ここからは本編といこう


▶▶▶


カナン一家三人がそのまま静かに抱き合う事数分。今の今まで頑張り、苦痛に耐えていたサシャに限界が来た。一度目は耐えたが二度目はない。遂には目眩で足下をふらつかせ、アレフが支えなければ今にも倒れてしまいそうな程だ。


「サシャ!?だ、だいじょうぶ……?」


「え、えへへ。大丈夫、問題ないわ。少し足がもつれただけ……うん、こんな所で私が倒れたら台無しだもの。大丈夫……大丈夫……」


大丈夫、大丈夫とサシャは永遠にブツブツ呟いている。しかしどう見ても顔色は悪いし今にも倒れそうだ。体重を自分で支えられないのか、アレフの手に全体重が掛かっている。少し筋肉が痺れてきたが、今そこに文句を言う事こそ全てを台無しにしかねないので黙って耐える事にする。


「サシャ……」


「なぁ、アレフ。このままじゃサシャが駄目になっちまう……そろそろ潮時なんじゃねぇか?」


複雑な表情を浮かべるマナに加え、黙りこくっていたマスターまでそんな事を言ってきた。そんなのこっちだってわかっている。だが、俺が覚悟を決めて口を開くより少し早く、彼らの方に小さな変化が訪れた


「あ、あれ……?パパ、ママ……足が」


「ふむ……どうやらもう時間が来てしまったようだ。全く、何時になっても楽しい時間とは早く過ぎてしまうな」


「全くです……ふふっ、マリア。そのような心配そうな目をしないで」


幽体、それは元々実体を持たない。そこらに吹きさらす風のような物なのだ

それを魔法で無理やり型作り、魂を宿し、現世に存在させる。そしてそれは

サシャがもし倒れればもう保たせる事は出来ない。霞となって徐々に実体のない存在になっていく……今のカナン夫妻はまさにそれだ。


これに誰よりも驚いたのはマリアだった


「そ、そんな……二人とも行かないで下さい!ずっと、ずっと一緒に居てください!もう、もう……置いていかないで……」


マリアの目に大粒の涙が零れる。一つや二つでは効かない、無数の涙が……

それと共に、促されて本音も零れた。

見た目相応の子供らしい本音、口調で


親の二人はそれを何処か悲しく、それでいて温かな目で見つめる。誰にだって時は等しく流れる。仕方ないのだ。

最初に説明を受けた時から覚悟はしていた。別れが何より辛くなるだろうという事は……だから、だからこそ以前とは違う。以前彼女を一人にしてしまった時のようにはさせたくない


だから、こんな事を教えようと思う


「マリア、君はもう一人じゃない」


心からの言葉、親としての矜持、ちっぽけな心持ちを


「君は見ない間に随分と幸せそうな目をするようになった。心から幸せって目だ」


「それはきっと周りに良い友達、そして仲間が出来たからだ。違うかい?」


マリアは涙も拭かないままに首をブンブン横に振る。友達と思える人も仲間……とは少し違うが信頼出来る人も確かに出来た。父の言う事は合っている


「僕達もそうだ。勝手ながらに死んではしまったが、何時だって胸には愛する娘の事を考え、口は聞けないが静かに見守っている……何時だって、そうだ」


何時しかカナン主人の目にも、夫人の目にも涙が浮かんでいる。二人とも自分の体に残された猶予の少なさを悟っているのだ。本人らにしかわからない物寂しさもきっとあるだろう……だが娘の手前、格好つけたくなるのが親心という物で、例に漏れず主人は敢えて随分と透けた胸を張り


「だから悲しむな!マリアの周りには皆が居る。ここに居るアレフら、屋敷の使用人、町の皆、そして両親が……君を、何処にいてもきっと、一人にしない。心の中で君の平和を、幸せを願う。だから、もう君は……一人じゃないんだ」


「あらあら……貴方ったら子供みたいに泣いちゃって。マリア、貴女も泣かないで、大丈夫。私達家族なのよ?何時だって一緒だわ。必要なら夢にだって呼ばれてあげる」


「パパ、ママ……!約束!約束ですからね!また、私の前に、その姿を……!」


だから、だから自分たち親二人の願いは一つ。たった一つ……それは


幸せになってほしい。ただ、それだけ


自分の思うように、死んだ自分達の影を追うのでは無く……だって貴女はもう、一人じゃないのだから────


そして、二人は静かに光となって消えていった。最後まで、泣きながら、そして笑みを浮かべて………。


続く


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