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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
55/162

純潔、そして無垢。です(前編)

前回のあらすじ

夜まで寝ていたマナがマリアの部屋まで迎えに行った。以上……そして、今何をしているかと言うと……


「ねぇ、ねぇマナさん!一体何処へ向かってますの!?」


走っていた


走っていた……とは言っても、実際に足を動かしているのはマナ一人で、マリアは俗に言う「お姫様抱っこ」の形でマナに抱き抱えられている。最初こそ「恥ずかしい」だの「降ろして」だの喚いていたが、疲れたのかやがて大人しくなった。今はマナが予想外の方向に走り始めた事によって少し元気を取り戻してしまったが……


さて、その予想外とは何処?簡単、外だ。何せ父とサシャは外で待っている。マリアが見たらきっと驚いてくれるだろう……その為に自分が出来る事はマリアを外へ連れ出す事。屋敷内の使用人らに見つからず、感づかれず


屋敷内、それもマリアの部屋へのルートを正確に記憶している自分にしか出来ない所業だと、父は励まし、そして頼ってくれた……今自分は友達の為に、そして父親の期待に応える為に走っているんだ。マナは軽い優越感に浸りながら、来た道を真っ直ぐ戻り、誰にも見つからないまま、つい先程入口として使った窓のヘリを蹴って……


見事、宙へと舞った。


「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


トン、と。マナは軽く着地する。じゃないと不必要にマリアの体を傷つける可能性があるから。なのだが、見ればマリアは知らぬ間に意気消沈し、精根尽き果てていた


「ま、マリア!?しっかりしてー!」


「あれが、スカイダイビング……うぅ、もう二度と経験したくありませんわ。」


何やら呻いているが、ちょっと何言ってるか分からない。このまま屋敷の敷地内で騒いでいれば何時しかウェルターに見つかってしまうので、耳だけマリアの呻きに傾けて、再び駆け出す。屋敷の敷地を囲む背のとびきり高い塀もひとっ飛びに越えていく。とても人並みサイズの人形を抱えているとは思えない身のこなしに、これまたマリアが悲鳴を上げるのだった


さて、それから暫く。町の中でも少し寂れた所。目的地として事前に定められていたお墓が沢山ある所、いわゆる墓地に辿り着いたマナはキョロキョロと周りを見渡す


「うーん……ここなはずなんだけど……あれぇ?」


「あれぇ?じゃ、ありませんわ!あれだけ怖い思いをしたのに墓地って!、お墓を見せて「ほら、君のパパとママだよ」とか言うつもりなんですわ!私言いましたわよね?そう言ったとんちは受け付けない、と!」


「わかったわかった……こわいおもいさせちゃったのはあやまるから、ちょっとおちついて。って、いたいた!おーい!パパー!つれてきたよー!」


「おー、マナ!それにマリアも!思ったより早かったじゃないかぁ!」


何だか年下相手に窘められた気がしないでもないのだが、それを突っ込む前にマナが遠くを向いて元気よく叫び始めた。見るとアレフが手を振って「こっちだ!」と場所を示している。遠いので断言は出来ないが何処か焦っている様に見えなくもない……


(一体何をするつもりですの?何だか寒気がするし、それに彼とエルフ嬢の傍に見えるあの二つの青白い光は……?)


何分遠いからかよく見えない。それともこのガラス製の目玉のせいだろうか

魂の器が成り代わってから何かと不便な思いこそしてきたが、この時こそそれを恨んだ事は無い。確かにちょっと怖いが、それより彼が、アレフが自分の為に何を用意したのかワクワクして仕方が無いのだ


「マナ、走って構わないので、早く!」


「うん、まかせて!」


マナは腕に抱くマリアを笑顔で見つめ、何かイタズラ心の垣間見得るウインクをした後、先程同様真っ直ぐ駆け出す。今更だがこれはかなり早いのではないのだろうか?自分を難なく抱える腕力もそうだが、この子は自分の思っているよりもっと凄い人物なのかもしれない…………。


そんな事を考えている内に、遠くに見えたアレフらがすっかり近くになった。どれだけマナの足は速いのかと少し気にもなったが、今はそれよりもアレフの「回答」だ。恐らく、あの薄ぼんやりと光る、二つの……人影







父と、母だ。


何故か父と母に似た光がアレフらの傍で静かに佇んでいる。


「ま、マナ……?」


何故かマナが腕を解き、足を地面へと静かに置かせる。無茶だ、このボロボロの足で自重なんて支えれるわけ……


「だいじょうぶ、マリアはあるけるよ」


……立てた。足を少し動かしてみる、何の問題もない。まるで体が人の物に戻ったようだ

ゆっくり、そして優しくマナが私の背を押す。自然と足が出た、一つ、そして二つと地を歩く。しっかり台地を踏み締める。余計な靴を履いていないので、夜の地面のヒンヤリとしていて、それでいて砂利の細やかな痛みが足を包む。いつ以来だろうか、この触感は


「マリア、先ずは遅れてすまなかったな。この人らを呼ぶには夜まで待たないといけなかったんだ……ほら、あんたらも娘ばっか歩かしてないで近づいてやれよ」


そう言って、アレフとサシャの二人はそれぞれの光。マリアの父と母の姿をした薄ぼんやり光るソレの背中を押してやる。すると、押された二人は何の抵抗も、声も無くただ静かに前進した


「え、え……?パパ、と、ママ……ですか?本当に?」


「「…………」」


光は何も語らない、口すら開かない。

真っ先にその異変に気付いたアレフは横で呆然と立っているように見えるサシャの脇腹に軽く肘打ちを入れ、「おい!」と小さく、且つ鋭く声をかける。


「えっ、あっ……ごめん、忘れてた」


惚けた表情を引き締め、実に3つ目の魔法同時発動を敢行しにかかるサシャ

精神をすり減らし、集中しきらないと出来ないらしく、事前の打ち合わせから「こういうミス」はあるかもしれない。そうアレフに伝えていた。


そして、サシャの手に小さな魔法陣が浮かび、そして消えた瞬間。二人の光が唐突に口を開き始め、ポツリと呟いた


「マリア、なのか……………………?」


「っ!?えぇ、えぇ!私はマリア!やはりその声はパパですわね!という事は……」


「ふふっ、マリア。見ない内に随分と大きくなりましたね……ねぇ、旦那様」


「あぁ。若い頃の君そっくりだ」


マリアと共にたわいない会話に勤しむ二つの光。及び人影……その正体は死んだはずのマリアの父と母、即ちカレン夫妻だった。マリアは驚いて涙すら流している。そしてここで四つめの魔法


『リコール(無償修理)』という魔法を唱えるとあら不思議、一瞬にしてマリアの人形ボディは元々の人の体、恐らく人形の体に成り代わる直前のマリアに戻ってしまった。どういう理屈なのだと聞いてみたい衝動に駆られるが、恐らく長くなってしまうだろうから今は置いておく。それより今は眼前で行われている感動の再会の方が大切だろう


「パパ、ママ……どうしてここに?二人は、もう……死んだはずじゃ?」


「あぁ、死んださ。情けない話だがね……全くもって申し訳ないよ。ごめんなマリア、一人にして」


「ずっと貴女に謝りたかったのだけど……死人って大変ね、謝罪の機会も満足に得られないんだもの」


そう言ってカナン夫人はアレフとサシャの方を少し向いてウインクをした。病で臥していた時もそうだが、この人は度々こうやってお茶目な一面を見せる。特に命の恩人でもあるアレフにはそれを顕著に見せていたが、バレると確実にカナン主人に睨まれるから是非ともやめて欲しい。まぁ、今だけは許すとするが


それからマリア含むカナン一家の親子水入らず、家族団欒の時間は刻々と過ぎていった。いつの間にかマナはアレフの横に移動し、何だか羨ましそうな、それでいて羨ましそうな目で彼女らを静かに見つめていた。

アレフもこの温かい雰囲気に包まれ、暫く浸っていたいところなのだが残念そうは問屋が卸さない。何故かと言うとこのカナン夫妻、サシャの魔法で意図的に降ろして来たのだ。


どうやって降ろしてきたか、というのはアレフの手にギュッと握られた写真、その中に映る何時ぞやの「幽霊老夫婦」らが大きく関与しているのだが、今はそれを語らないでおこう。何故なら


「ア、アレフ……っ、も、もう限界。」


今も尚、夫妻を現世に留め続け、且つコミュニケーションを取る用の物や一定の範囲内だけでマリアを元の姿に戻してやる物、そして自身の魔力、精神力を一定に保つ物と実に四つの魔法を同時進行で稼働させ続けているサシャの方に限界が訪れた。因みに長い長いエルフ史の中で真の英雄と讃えられている伝説のエルフが七つの魔法を同時に発動できたらしいので、そこから考えてもやはりサシャはかなりの天才なのだな……と、予想より少し早いサシャの限界に対する焦燥と共にそんな感慨を得たアレフは、サシャへ静かにこう告げる


「もう少し粘ったら鹿肉を食わしてやる」


「わかった任せて」


実に単純である。


▶▶▶


「ちゃんとご飯は食べているかい?」


「えぇ、使用人の皆さんが美味しい料理を食べさせてくれていますわ。」


「何か不自由とかしていない?」


「えぇ、ほんの少し前までありましたが今は何もありませんわ。」


マナの感じた不自由というのは、他でもない自分の体、人形の体の事なのだが、今はサシャの魔法で元に戻っているのでカレン夫妻には至って普通に見える。マリアもそうだ


「なら、この町の管理も大丈夫そうかい?マリアの事が一番心配だったが、何せ自分の名を持つ町だからね、少し心配してたんだ」


「うふふっ、パパったら……それじゃ親愛なる使用人の方々の事は心配してないように聞こえますわよ?実際、この町の運営や管理はウェルターら使用人が殆どやっています。感謝してもし足りないくらいですわ」


そ、そうか。と主人は娘の口と下の達者な成長ぶりに驚きを隠さない表情で後ろ頭をポリポリと掻く。それを見て夫人の方が笑顔でなにか言おうとしたのだが、それをマリアは手で遮った


「あの……パパ、ママ。私、頑張ってお二人の質問に答えましたわ……だから、その……ご褒美を…………」


マリアはそこまで言って顔を真っ赤に照らし、俯いてしまった。それを見た夫妻は見るからに幸せそうな笑顔で互いを見やり、そしてマリアへと足音無く近づくと────




ギュッ……と優しく、そして温かく抱きしめた

マナの目から、涙が零れたのが遠くからでも視認できる。こうなると例え腹の音一つでも許されない。一行は静かに見守っていた。見ると、どうやらマナも涙ぐんでいるようだ


そんな事は知りもしない夫妻は、長年独りぼっちにしてしまった娘を抱きしめる。徐々に力が篭もっていく。自分の背中に、熱い涙の流れを感じる。それを受けてまた一段と抱きしめる力が強くなっていく


「すまん。ご褒美、こんなのしか思いつかなかった」


「うふふ、死んでしまうと娘に充分なプレゼントもあげれないなんて……親として情けないわ、ごめんね。マリア」


二人とも、そう言って冗談っぽく笑った。腕の中の娘が同じように笑ったのを感じる。ふと、そんな娘が顔を上げた。見ると涙の姿は見えなかった。跡はあるが、いつの間にか拭いてしまったらしい。代わりに……いや、代わりと言うべきではないか。とにかく、マリアは笑っていた。それは、マナが迎えに来た時に見せた笑顔に勝るとも劣らない「子供の笑顔」


「お二人共……ほんと、ズルいですわ」


こうされて、自分が喜ばない訳が無い事を知っていて……とまでは残念ながら口が回らなかった。一度拭きはしたが、やはり涙とはそう簡単に引っ込んでくれないもので、我慢していた涙は無情にもマリアの頬を伝ってしまう


そのせいで最後まで言えなかった。だがおかげで覚悟が決まった。今の今まで……二人が生きている時にも言えなかったこのセリフを、今、言おう


「パパ、ママ……私、二人の事……ぐすっ、世界で、一番」


「だい、すき……っ!!!」


後半へ続く。

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