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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
53/162

娘の不機嫌は気にしない事にします。

タイムリミットに設定された2日後まで後どれくらいだろうか……ここからカナンに戻る頃にはすっかり日も暮れてしまっている事だろう。大きな都市等であれば夜間でも明かりがついていて、多少なりとも動けるのだが、ああいう港町全般は総じて夜真っ暗である事が多い。勿論夜に船を出す者だっているが、それの殆どが漁船。町の灯りとは何の関係もない……つまり夜になったらもう寝るしかなくなる。今日が終わるのだ


だからこそ、アレフはすぐにでも町に戻って色々考えたかったのだが………


「も、もう無理ぃ……勘弁してぇ……」


「…………………はあぁぁぁぁぁぁ。」


知識要因として同行させたのは良いが今の所、足を引っ張ってしか居ない存在をアレフは心からの溜息で迎えてやる。こうなるとこれ以上は歩いてくれないので半ば強制的に休憩へと移行する。つまり大幅なタイムロス


「おいサシャ、町に着いたら腹一杯晩飯食べさせてやるから元気出せよ。ほら」


「もう魚料理飽きたぁ!お肉食べたい!野菜も採りたい!」


駄々っ子かお前は……と2度目の溜息が漏れる。カリカリしていても仕方ないのは分かっているので、落ち着きを取り戻す為にサシャ同様地べたに座り込んで、少し「思考」してみる事にした。


先ず、マリアは魔術師と呼ばれる存在だった。これは事前にサシャが予想していた事だったので大して驚かずに済んだ。本場の魔法使いであるサシャ曰く「魔法に似た何かの臭いがする。けど沢山重なっていてどういう物かは分からない」との事だった。これと先程わざわざ会いに行ったカーネルの話と照らし合わせると成程、納得がいく


魔法に似た臭い、その原因はマリアの使用する魔術なのだ。そして彼女の使用人らが屋敷の外と通じている以上、彼女の耳にも町の様子は聞こえているはず……それなのに何度も、何度も魔術を行使し魂を吸い上げているというのなら、それ即ち故意である


サシャが沢山重なっていて分からない。と言っていたのは恐らく、魔術の術式、及び陣を細かく書き換え、効果を微妙に変えていったのではないだろうか……以上、自分の中で完成した一つの結論でした……なんてな


(これ、今のサシャに言っても耳に届くか……?)


「はぁ……、はぁ……!」


無理だな。そうと決まれば水でも飲ませてサッサと回復してもらうに越したことはない。床も壁も天井も無い野ざらしの大地では休んでも万全の状態にはもってはいけない。それに、いつまでもぐうたら休んでいたらこの見るからに体力の無さそうな(実際無い)エルフを最悪担ぎ上げて宿に帰らなくてはならないかもしれない。何せ町ではマナが待っているだろうからだ


マスターに同伴させているとはいえ、自分の目は届かない場所に彼女がいる。それだけで胸が張り裂けるほど心配だし、今すぐにでも駆け出したくなる。なるのだが、焦ってはいけない。

何事も……例えば盗みを働く時などは焦りなど禁物、あってはならない。


「おいサシャ、ゆっくり飲めよ」


だからこそ、元から決めていた通り皮袋に入れた綺麗な水をサシャに手渡した。出来る限り優しい顔と口調を添えて


しかし


「あ、ありが、と……!?う、うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………」


礼を言い切るより先に出て来たのは全力の……いや、詳しくは言うまい。掻い摘んで言うならばサシャの口から朝食が漏れ出ただけだ。

出すだけ出したサシャが、力尽きたように大の字に地面へ横たわるのを見て


(あぁ、ミスだったかなぁ……)

と思うアレフなのでした。

……因みに、カナンへ着いたのはアレフの大体予想通り、すっかり日も落ちた頃だった。


▶▶▶


さて、アレフとサシャがカナンへ戻ってきて幾らかした頃、夕食を取るため数時間ぶりに集結した一行は、何時ぞやの陰気な酒場へと繰り出していた


「「「「…………………………。」」」」


マスター込みで三人と一頭。これだけ居るというのに、テーブル上で鳴る食器とフォークの擦れ合う音以外何も聞こえなかった。

理由は二つ、一つ目はサシャの顔色が未だ戻っておらず体調が目に見えて優れていない事。もう一つはマナの機嫌がとんでもなく悪い事だった


何故かは知らないが、アレフとサシャがカナンへ帰ってきた時に町の入口で二人を待っていたり、「ただいま」と声をかけるより早くアレフの体にギュッとしがみついたり……色々と普段のマナとは違う、どこが違うとはハッキリとはわからないが、表情もムスッとしているし恐らく、屋敷でマリアと何かあったのだろう。


このまま黙って不味い夕食を食らうのもいい加減飽きてきたので、アレフは一発勇気を振り絞り、自分のすぐ横の椅子にかけて静かにスパゲティを啜る娘に声をかけてみる


「マリアと友達にはなれたか?」


「……………うん。」


「何か新しい発見だとかあったか?気になった事とか面白かった事……細かい事で良いから教えてくれ」


「…………うん。」


何故だか一拍置いてマナは返事している。返事が返ってくる辺り自分に怒っているわけではないという事がわかってアレフは少し安堵する。


(帰りが遅かった事に対しては言い訳のしようがないしな……こうなるとやはりマリアの事か?)


「マリアね」


「ん、お、おう。」


これまた唐突にマナ自身から口を開いたので今度はアレフが返事に一拍置いてしまった。サシャもマナが何を語るのか気になるようで、スパゲティを汚くかっ食らうのを中断し耳を傾けている


マナはテーブル全体、自分を見つめる父とサシャの目線をしっかり視認してから再度口を開く。何分あまり人に聞かれたくない内容だ。幸いこの酒場は前同様繁盛した様子もなく、それどころか前より客が少ない。というか居ない。店主も酒に酔い潰れてカウンターで眠っている

そこまで確認してから、ゆっくり切り出していく



「マリアね、ひとじゃなかったの。」


「「……えぇ?」」


「マリアね、まじゅつしなんだって。それでね―――」


それなりに大きな声で話そうとも構わないと判断したマナは、次々とマリアに会いに行って得た情報や感想、その他諸々を大人二人に伝える。できるだけ分かりやすく、漏れのないように


「ほう、ほう……ふむ。」


「あぁ、なるほどね〜。だからあの臭いか」


サシャはどこか納得したように何度も何度も頷く。特に魔術師の話と魔術エルジェーベトの話には食いついていた


そして父アレフはというと、自分の話を聴きながら全く違う事を考えている様子だった。何だろう、既に解決の方法を考えているのだろうか……


「それでね、パパとママにあいたくてずーっとにんぎょうのからだでいきてるんだって……これくらい、かな。ごめんなさい、こんなことしかはなせなくて」


「いいえ、充分すぎるわ。友達作りの片手間にこれだけ情報を仕入れて来たのだから立派が過ぎるほどよ。ねぇアレフ」


「あぁ。流石自慢の娘だ……それでマナ、最後に聞かせて欲しいんだが、マリアとは友達になれたのか?」


「……………。」ズルルルルルルル、と

マナは下品を承知で大きな音を立ててスパゲティを啜り上げる。これでもう話はお終いと言わんばかりに

アレフも、娘が話したくなさそうにしているのを感づきそれ以上は尋ねないようにした


結局、会話もそこそこに4人前のスパゲティはすっかり皿から消え、会計を眠った店主の前に置いて真っ直ぐ宿へと一行は帰っていった。


道中、サシャはコソッとアレフに口元を寄せて「何か方法は思いついた?」と聞いてみる。彼なら何か一つくらい面白い方法を思いついているかと考えたからだが、予想通り何か思いついていたようだ。ニヤリと笑い、マナに気づかれないようコッソリと耳打ちする


「マナが眠ったら久々に散歩でもするか。手伝って欲しい事があるんだ」


「えぇ良いわ。喜んで誘いを受けてあげる」


その後宿に戻ったアレフは、ベッドでマナが眠るまでずっと添い寝し続け、すっかり寝息を立て始めたのを確認してサシャへ目で合図する。食ってすぐ眠るという駄馬そのものと化したマスターは勿論、一日で真新しい事を沢山経験したマナは、部屋から出ていく2人に気づくこと無く無邪気な寝顔で眠りについていた。


その夜、町外れでぼんやりと青白い光が二つがまるで気ままな幽霊のように、これまた大人の人影二つと共に浮かんでいたのだが、それに気づくものは誰一人として居なかった。


▶▶▶


「おォいフーガァ、ちゃんと二つ目の仕掛けは用意したんだろうなァ!?」


「そんなに騒がなくともちゃんと用意しましたよボス。そろそろ目的地に辿り着くはずです……お茶はいかがですか。良い知らせは座って待つに限ります」


知恵の守護者、本部その一室で「ボス」と呼ばれる男は忙しなく行ったり来たりの往復をし続けていた。何処か落ち着きがない様子で、椅子に座って茶を啜るフーガとどっちか上司かわからないレベルである。


「なんでよォ、この俺が毎日聖司さんに急かされなきャいけねェんだよちきしョう。あ、茶ァはくれや」


落ち着く為に茶を飲むのではない。動いて喉が乾いただけだ。長年「ボス」の下で働き続けるフーガは内心理解しつつも、それを口にする事はなく

「わかりました」と一言、それから席をたって直ぐに準備を始める


「それにしても、うらぶれ貴族のお嬢様は役目は全うするんでしょうかね?」


「どうだかなァ。しかしよォ、時間くれェは稼いでくれると信じようや。じゃねェとやッてらんねェぜ」


どうだろうか。子連れとなっても相手はあの大泥棒……少女一人に足止めしておけなどと言うのは結構な無茶だと思うのだが……自分の上司、ボスは日頃こそドンと構えているが偶にこうやって全力で狼狽え、正常な判断が出来なくなる時がある。それは、例えば極端にストレスを受けた時や自分の思い通りにいかなかった時……子供か?と一言言いたくなる所であるが、そんな事すれば一変に昇進ルートが彼方へ飛ぶので心に留めておく。


本当に、この知恵の守護者という職場は世知辛い。同僚に夢を追ってこの職場へ来たと言っていた者が居たが、彼は今一体何処で何をしているのだろう。少なくとも、ここでは無い何処かなのは間違いない


その点自分は違う。自分は自分のために働いている、昇進したい。その一心である……故に、今回ボスが請け負ったこの仕事。「大泥棒を捕らえろ」というこの仕事は決して落としたくない


何故なら上司の手柄は手下の手柄でもあるのだから……特に、特殊作戦群でもある「忍」の自分はこういう難題をこなすとグンっと立場が良くなる


「そういう事ならやはり座って待っていましょう。部屋を彷徨っても結果は落ちてませんから……あ、これ熱いので気をつけて下さいね」


「おう。ありがとよ」


ボスはフーガが手渡した湯呑みの中身を一息に飲み干す。何故だか嫌な予感のするフーガだったが、その不安の種がわかるより早く……


「あッちャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?!」


ぶっしゃぁぁぁ!と派手な音と共にフーガの顔面目がけて熱々の茶飛沫が飛んできた


知恵の守護者に務めるある職員は言う。その時、フーガの聞いた事も無い絶叫が聞こえたと……またある者は言う、彼の日誌に死ぬ程ボスの愚痴が書かれていた、と。


そして文末にはこう添えられていたらしい。


「願うならば、この作戦が成功し……何よりも先ず上司が変わりますように。」と―――。


続く

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