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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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カナン・リリ・マリアはかく語りき、です。

魔術とは、簡単に済ませるなら魔法の亜種。又は劣化版というのが世の一般的な認識だ。と言ってもそもそも魔法にしても魔術にしても童話や昔話にチロリと混じってくる程度の存在で、ある意味伝説の存在だった。一部の集落では神格化されていて信仰対象になっているらしい。実際に存在する魔法使いから言わせれば「馬鹿馬鹿しい」らしいが、魔術師と呼ばれる彼らはそうでも無い。むしろ進んで人前に出たり、犯罪に携わったり……裏に表に大活躍していった。


さて、そんな魔術師がどういった魔術を得意としているかというと……ズバリ「呪い」である。故に魔術は呪術とも称され、悪の象徴とされている。伝説扱いの魔法使いとはえらく違う評判っぷりである。しかし、魔法使いも魔術師も根本的には同じ存在。ただ少し魔術師の方が保有出来る魔力の絶対数が少ない。というだけなのだ


マリアは、生まれた時から魔法が使えた。両親は一族初の魔法使いの誕生を喜び、町の皆も全力で祝福し、喝采を上げた。生誕祭という名目で毎晩酒の大樽が幾つも開けられ、そして空けていった。それから数年……マリアと言う名の少女は、魔法使いでなく悪の象徴である「魔術師」レベルの魔力しか持っていないとわかった。少女は魔術師がどういった存在か童話や、母が話してくれた昔話によって知っていたからそれをわかった時泣き喚き、嫌がった


嫌だ、嫌だ、魔術師なんてなりたくない!……と。

そんな少女を、優しい両親と使用人、そして町の皆は笑って許した。ならなくて良いよ。君のなりたいものになればいいよ……と


「マナは魔法を誰かに教えてもらって使えるようになりました?それとも最初から知っていましたか?」


「えっと……うん、さいしょからだよ」


「そうでしょう。魔法も魔術もそこは共通していて、魔力を自力で補完している者は、生まれつき得意な魔法、または魔術を持ち合わせているのです。それは誰に教えられるでなく、最初から使い方を知っている……不思議ですわよね、私も知識だけで理屈はわかりませんの」


マナもわかっていなかった。言われてみれば何故だか最初から魔法の炎を出すことが出来た。その時は何の疑問も抱かなかったが、今思うと誰からも習っていない魔法が使えるなんて摩訶不思議極まりない。


「うふふ、貴女って本当に頭の中がそのまま表情に出ますのね。とっても可愛らしいですわ」


「う、うぅ……こどもっぽい、かなぁ」


「いいえ、とっても素敵ですわ……話を戻しますわね?それで、私も得意な魔術を持ち合わせているいるんです。名前は『エルジェーベト』」


名前と言っても、魔法の一つ一つに確かな名前など何処にも記されていないので、個人が愛着を込めて勝手に名付けているだけである。

マリアは続ける、エルジェーベトという自分の魔術は「魂が朽ちるまで生き続ける」という禁忌ギリギリの物らしく

世に知られれば自分だけでなく町や家族に迷惑がかかるかもしれない。そう考えた自分は屋敷に篭もり、静かに生きて行くことにした。と

それまで平然と会い、喋り、親交を深めてきた友人らとも徐々に顔を合わせる事も減り、終いには遊びに来てくれた友人らを泣く泣く追い返す事もあったという。


そしてそんな事があって暫くもしない内に両親が町を出る事になった。直ぐに帰ると言ってくれたのでその時は何の心配も抱かなかったが、何度夜を越え、そして朝を迎えても顔を見せない両親。次第に自分の中で不安が膨れ上がり、そしてパンクした。心の負担は必ず身体に悪い影響を及ぼす。自分の場合はまず風邪を引いた。最初こそ風邪薬を飲み安静にしていればすぐに治ると思っていた。自分も、使用人も


しかし、容態は段々と悪化していった

他の町から医者を呼び、例外として屋敷内に招き入れ、そして診てもらったが


「これは、もう……………………」、と


匙を投げられてしまった。それからだろうか、段々と屋敷内に使用人の姿が見えなくなり、自分の部屋を訪れるのがウェルターだけになっていったのは


「今思うと当たり前なんですわ。誰だって治らない風邪を持った人と同じ屋根の下過ごしたいなんて思いませんもの……正直、とても寂しかったですわ。病気の辛さより、誰の顔も……自分の顔すら見えない孤独さは何より辛かった……」


マリアは何処か遠くを見つめ、心底虚しそうにその何処かへと、呟く


「それでも、死にたくなかった」


▶▶▶


それからマリアは、起床時間の全てを魔術の準備にあてた。例に漏れず使い方や準備に必要なものは最初から自分の頭の中に浮かんでいたので、一番の敵となったのは日に日に落ちていく体力、そして筋力だった。

何せ一日毎にみるみる腕が細く頼りなくなっていき、ペンを持つ事すらままならなくなってしまっていた。寿命もあと僅かだろう。自分の体だ、残された時間の短さなんて算数の問題を解くより簡単。あまりに簡単にわかるので涙が出てしまった程だ


本当は悲しみに押し潰されて今にも死んでしまいそうだった。体はギリギリを保とうとも、一人きりの生活に心が限界を迎えようとしていた。だがどうだろう、父や母が帰ってきた時自分が亡くなってしまっていたら……

恐らく、いやきっと両親二人とも悲しむだろう。涙を流すだろう


せっかく2人の凱旋に沸き立つ町の皆もそんな2人を見たら喜びも削がれ、寧ろきっとどんより暗くなってしまう事だろう……そんな事は一縷も望んではいない。ならば、意地でも生きるしかない。そして自分には生き延びる術がある


ある寒い日、遂に準備は最終工程を終え、何時でも魔術を放つ事が出来るようになった―――


「まって!その、えっと……える、えるじぇー……」


「エルジェーベト、ですわ。それがどうか?」


「えっとね、そのエルジェーベト?のこうかをきいてないな、って……ごめんね、とちゅうでじゃましちゃって」


あら、とマリアは驚いたように口元に手を当て、それからペロッと布で出来たやけに赤い舌を出す。どうやら失念していたらしい


「失礼、今更ながら言いますと『エルジェーベト』は吸血の魔術、と言っても吸うのは血ではなく、微量の生命力ですのよ……さて、これを踏まえた上で元の話に戻るとしましょう……。」


魔術、エルジェーベト。その発動のトリガーは自分の持つ魔力と、残りの寿命全て。つまり死と引き換えのこの魔術。なら吸い取った生命力は何処に行くのか……ここがこのエルジェーベトのミソなのだが、事前に準備しておいた大きな陣の上に1つの人形。町に住む人形師に誕生日のお祝いとして頂いた1品なのだが、それを陣の上、それも真ん中に置いておくと吸った生命力はそちらに貯蔵され、使用者の魂も朽ちた元の体から抜け出し、人形の方へ移っていった


即ち、中身はそのままに「器」だけ入れ替えたのだ。魔術は見事成功し、自分は決して朽ちない人形の体を手に入れ、半永久的に両親の帰りを待ち続ける事が出来る……そう思っていた


「けどもう、見ての通りですわ……ふふっ、お恥ずかしい話ですが、私人形も壊れるというごく普通のことすら知らなかったんですの。ぜひ、笑って下さい……ふふふっ、本当、可笑しい……」


「……ねぇ、マリア。もしかしてエルジェーベトっていまもつかってるの?」


「……えぇ、使っておりますわ。でないと私のこの体は崩れさり、魂も還ってしまいますもの」


マリアの表情は曇っている。体が人形でなければ涙すら流しているだろう

彼女は自分の存在が町に負担を掛けているのを承知で今も生きているのだ。

そのせいで町はまるで闇に覆われたようにひっそりと静まり、活気は失せて

まるでゴーストタウンのようになっている。それでも彼女は人々の生命力を少しずつ奪い、命を繋いでいる


「つまりですね、やっぱり魔術師は悪の存在だったんですの。図らずも私は童話に出てくる魔術師のように人々に迷惑をかけ、そして儚く滅びゆき、人々は活気を取り戻す……さしずめ貴女達は勇者といった所かしらね」


そう言って今度は自虐的に笑い出すのだ。マナはそれを黙って見つめる事しか出来なかった。元々父やサシャ、おうまさん以外の生き物と関わりの少ない人生、こういう時になんて言えば良いのか、どんな表情で彼女を見てあげればいいのか皆目見当もつかない。


(うぅ……このへやのにおいのりゆうはわかったけど……!どうしよう、このふんいき!?)


己の対人経験の薄らを呪いたい。しかし床のこの魔法陣っぽいの、そういう意味があったのか。サシャが見たら一発で意味を理解できるのだろう。これは対人経験と更に知識の浅薄さも呪わなくてはならない


しかし、一人キョドキョドしているマナを見てもマリアは微笑を浮かべながら、こう続ける


「正直、父と母が文字通り帰らぬ人になった事は何となくわかっているんです。だから貴女達には本当に無理難題を押し付けてしまいました……本当、申し訳ありません」


「そ、そうだよ。なんであんなこといったの?パパとママをさがしてみつけてきて。なんて……」


時に悲しそうな表情を見せるマリアは基本的に何処か余裕を感じさせる笑みを浮かべていた。しかし、マナのこの言葉を聞き、返答する時の様子は


―――マナ曰く、自分と同い年くらいの少女のような笑顔だったという。人形の体越しに見せたマリアは心からの笑みと共にこう言葉を添えた


「マナは知ってますか?好きな人に程、意地悪したくなるのが乙女心。という物なんですのよ♪」


「…………………………ほぇぇっ!?」


▶▶▶


「―――と、言うわけでな。お嬢様の魔術によって町そのものの生命力が吸われているんだ。わかったか?」


「俺はわからん。サシャは?」


「わかるわよ。にしても『エルジェーベト』ね……うん、良いセンスしてるわマリアちゃん」


別ベクトルで喜んでしまっているが理解出来ているならそれで良い。後で分かりやすく説明してもらおう……。


「さて話す事は話した。後は自分らで何とかしてくれ……俺は仕事に戻る」


「あ、おい待てカーネル!」


カーネルは胡乱気な表情でアレフを睨む。確かこの筋肉爺は海の仕事(詳しくは知らん)を営んでいるはずだった。昔の記憶なんで少し曖昧だが……いやいや、今それは良いか


「いや、その……ありがとう。色々話してくれて……あー、それだけだ。早く行けよ、仕事」


顔を真っ赤にして、そうぶっきらぼうに言い放ったアレフはサシャを引きづって足早に去っていってしまった。泥棒特有の特技である逃げ足は衰えていないようで、一瞬のうちに遥か遠くの方まで行ってしまった


そんな、一部昔のまま自分の前に現れ、そして台風の如く行ってしまったアレフを目で追いながら、カーネルは思わずポツリと呟く


「……あいつ、歳食ったなぁ。いつの間にか礼なんて言えるようになったのか」


カーネルの知るアレフは、もう少し傍若無人で無法者。礼なんて素直に口にするような出来た奴ではなかった。

自分も確かに歳を食ってしまったが彼奴もまた、同じように年齢を重ねたらしい


「ま、頑張れや。糞ガキ」


ただそれでも、自分からすればどれだけ月日が流れようと糞ガキは糞ガキだと、そして糞ガキは「らしく」人様に迷惑をかけて生きろ。と言外に滲ませつつ……己の仕事場、海の中へ飛び込むのだった―――


続く

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