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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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カーネルのジジイに会いに行きます。

「ジジイ、邪魔するぞ……って居ないのかよ。返事か無いから野垂れ死んでるかと思ったのに……」


「縁起でもない事言うもんじゃないわよ。にしても、どこに行ったのかしら?やっぱり海なのかな」


アレフとサシャは、町から数時間かけてやっとこさ目的の岬、そこにある一軒のボロ小屋の中でそんな事を駄弁っていた。


ついでに可愛と喉を潤すためテーブルに置いてあったポッドからお茶を一杯拝借したが、そこはご愛嬌。当の「ジジイ」に合えばその時言えばいいのだ。茶の一杯で怒るような奴でもないし


「とにかく、一度小屋を出て外を探さないとな……そんな顔すんなよ。そう遠くへは行ってないさ。何せ相手は死にかけのジジイだからな」


そんな顔、というのはサシャがアレフの「外を探す」発言に対して全力で嫌そうな表情を浮かべた事を言っている。確かにここまで歩くのはキツかっただろうが流石に女性がしていいような顔じゃない。例えるならせっかくの誕生日の夕飯に嫌いな食べ物を出された子供の表情、といった所だろうか。とにかく嫌そうだった


しかしサシャとしても岬、即ち海が見える場所はぜひ見て回りたい所なので結局はアレフに続いて外に出る。と言っても「ジジイ」の外見がわからないのでアレフにぴったり着いていくが


「なぁサシャ、海に感動するのは良いがせめて前を向いて歩け。転けるぞ」


「良いのよ……うん、これを見れただけでも歩いた価値あるわね。港町何かとは違う、自然の海って感じ……素敵ね」


本来の目的を忘れつつあるサシャに辟易するアレフだが、初めて「大自然」の海そのものを見た時の感動は確かに大変なものだ。それを邪魔するのも無粋なのかもしれない


というわけでサシャの事は一度頭から放り出してジジイ、ジジイと呼ぶ「カーネル」という屋敷の元使用人を見つける事に集中する。海の近くで生活しているのだから大概どっかしらで釣りでもして過ごしているのだろうと予想しているのだが、見つからない。

先程まで岩っぽかった足場もすっかり砂浜へと変わり、これはこれで歩きにくいな。と小さくぼやきつつ進む


(今頃マナは何をしているのか……無事に事は進んでいるのだろうか)


手紙曰く、要はマリア嬢と友達になりたいらしい。その為に色々頑張ってみる……と、その色々の部分を是非教えて欲しかったのだが、そもそもそんなに勉学をさせていないので、彼女に豊富な語彙を求める方がおかしいのかもしれない。親の自分の責任なので何の文句も言えないし、言わないが


と、手紙と言えば……


「おいサシャ、水を差して悪いがちょっとこれを見てくれ」


そう言ってポケットから取り出した一枚の羊皮紙。こんな紙切れで銀貨数枚の値段というのだから大変驚き……と問題はそこじゃない。

サシャはそれを受け取り、サッと目を通す


「……いつ貰ったの、これ」


「町を出る直前だ。だからお前が干し肉を貪り食っている時だな」


羊皮紙に書き連ねられた流麗な文字列。しかし内容はサシャに海の感動を一時忘れさせる程ショッキング且つ面倒な内容だった


「『伝え忘れてましたが、タイムリミットを用意しておきますわ。この手紙を受け取った日から2日。日が沈み、また昇り、沈み、そして昇るまでに父と母の居場所を掴み、叶うならば連れてきて下さいまし。それではご検討を祈ります』……2日って事は時間にしてあと36時間くらい?随分無茶な吹っ掛け方するわね。」


「あぁ、手紙を寄越してくれた若い使用人も申し訳なさそうな顔をしていた 」


そして随分と足早に去っていった。きっと自分の所のお嬢様がこれまた極東のかぐや姫よろしく無理難題を吹っかけ、それに苦心される事が大方申し訳無く感じてくれたのだろう。多分


「何にせよ、船を借りる為にはやらなきゃダメだからな。さっさとカーネルを探さないと……」


「呼んだか?」


「うぉっ!?」「きゃっ!」


突如背後から声をかけられ、アレフとサシャの2人は驚いて割と珍しい声を出してしまう。振り向くと白髪をオールバックで纏めた筋肉質ジジイが腕を組んで立っていた。間違えようもない、本日のお目当て、カーネルのジジイだ


「珍しい顔が見えたと思ったら、まさかの女連れ……見ない間にすっかり色付いたなアレフ」


「……うるせぇ、急に出てくるなよカーネル。驚いただろ」


カーネルは一体どこから湧いて出たのか、隠れる場所がどこかにあったかと周りを見てもここは砂浜、隠れる場所など有りはしない。


「え、えっと……貴方がカーネルさん?」


「あぁ、その通りですよ目麗しいエルフのお嬢さん。それで、何か用事でも?」


「用事、そう用事がある。おいカーネル、カナン夫妻は何処に行ったんだ?」


アレフはカーネルとの距離を詰め、早速本題に入っていく。アレフが前に出た事によってサシャはその背後へ逃げるように隠れた。もしかしたら怖がっているのかもしれない


そして、「夫妻」と聞いたカーネルだが

それまで浮かべていた胡乱な表情から段々と感情の篭もった、どこか人間味のある顔ヘなっていく

それは何処か悲しい、哀しい笑みだった。目は潤んでいるように見える


「旦那様と、奥様……か。懐かしいな。俺が屋敷を出て少ししてから外へ旅立って行かれたんだ。貿易の為にな……」


それからカーネルは海を見つめる。いや、見つめているのは遠く、果てしなく遠い「何処か」だろうか。とても、寂しそうな目だった


「それで、今は……?」


聞いたのはアレフでなくサシャだ。アレフの背中を盾のようにして怖々と口を開く。そんなにカーネルが怖いのだろうか?誰に対しても明るく接している所しか見た事がなかったのでこっちも少し驚きだ


対するカーネルは薄ら笑みを浮かべながら、少しずつ言葉を選ぶように区切りながら話していく。


「俺が町を出て……こっちに住み始めて、暫く。お二人が町を出る事を耳にした。慌てて会いに行ったんだ、大丈夫なのか?……と、小さなお嬢さん一人残して、そんな遠くまで行って……二人は大丈夫、すぐ帰ってくる。と笑顔で返した、俺はそれを信じたんだ。」


だが、二人は帰ってこなかった。カーネルはそこまで言うと溢れる涙に言葉を止めた。嗚咽が零れ、屈強な肉体がプルプルと震えている。アレフが知るカーネルはもう少し若く、筋肉も更に厚く、それでいて笑ったり泣いたりするような人間味のある人物では無かった。


彼も、俺も老いたのだな……ふと、そんな事が頭をよぎる。後ろでカーネルをじっと見つめるこのエルフにはまだ分からない感情かもしれない。


「そう、それで居場所だったな……実は、旦那様と奥様のお二人は今カナンに戻られている。町に居るんだ」


「え、そうなの!?なら何でマリアは二人を見つけろなんて……」


「死んでたんだ。死んで帰ってきた」


サシャは思わず口を噤む。アレフはカーネルの口ぶりからだいたい予想が着いていたのでそこまで驚いた様子は見せない。ショッキングな事実に違いはないのだが


「紛らわしい言い方をして悪かったな。お二人が町に居るっていうのは語弊がある。遺体として帰ってきたのだ。今は町民の手によって作られた立派な墓で静かに眠っておられる」


「なるほど、だから町の雰囲気があんなに暗く……」


自分らが信じていた領主が遺体となって帰ってくれば人によって差はあれど大小様々ながら心に闇が生まれるだろう。それが10年と少しも続くかどうかは俺には分からないが、大切な人を失ったと考えるとそれも有り得る事なのかもしれない


「町の雰囲気?何か変な事でもあったのか?」


「ん?あ、あぁ。いや、町全体に活気が無くてな、他の港町と比べて随分と静かになったな。と思ったんだが。なるほど夫妻が死んだなら合点もいくな」


アレフは一人うんうんと頷き納得していた、が、カーネルは何やら不思議そうに首を傾げて


「いや、それは変だ。いくらお二人を失ったからといってそこまで悲しみの尾を引かせる程ヤワな奴らじゃないはずだ…………………………………あっ。」


「な、何だよ。まだ何かあるのか?」


カーネルはカナンのある方向を向き、グッと睨みつける。まるで忌々しい物でも見るような嫌悪感に塗れた表情で

こう一言、ポツリと呟いた


「マリア様は、魔術が使えるんだった」


▶▶▶


「―――でね、パパがこういったの「うしのにくなんてぶーつのそことおなじじゃないか」、って!」


「ふふふっ、アレフったらそんな事を言ったのね……ふぅー、少し休憩させてもらえる?沢山笑っ疲れてしまったわ」


マリアは目端に浮かんだ笑い涙を軽く指で拭き取り、だらしなくベッドに横たわる。相当に年季の入った物なのかえらく軋んでいるがマリアはそれを気にする様子も無く自分の全体重をかけて笑いの余韻に浸る


マナは、取り敢えず一段落した事に安堵しつつ、この変わった形相をしている少女、そして少女の部屋をキョロキョロと見渡す。何があるのかと気になったのもそうだが、友達の部屋に入る。という行為そのものが初めてだったので緊張しているのだ。


(にしても、さっきウェルターさんがきたときはビックリしたなぁ……)


今度は足音も何も無く、忽然とドアがノックされ「お嬢様、朝食をお持ちしました」等と声がかけられるのだ。平然と話をしていた自分とマリアは石になったのかという次元で動きを止めてしまった。その後マリアが適当にフォローを入れ事なきを得たが、確実に怪しまれはしただろう……それから少しだけ音量を落とし、部屋の外から聞こえる音に耳を向けながら話していた


「……マナは、本当に色々な場所へ行ってきたのですね。ほんの少し……羨ましいですわ」


「マリア……」


マリアは部屋の天井を見つめているので、どんな表情を浮かべているかマナから見えない。もしここに父がいたら声の調子だけででもこの子の感情の機微を読み取るのだろうか……マナはふとそんな事を頭に浮かべる。残念ながら自分は人の感情に鈍感だ。父のようには振る舞えない

だからこそ人一倍真摯であろうと思う


そんなマナの頭の中を読んだのか、マリアは薄く笑い、ゆっくりと口を開く


「マナ、貴女は私の友人ですか?」


「……うん。マナはそうおもってるよ」


人形のような顔に浮かんだ表情、薄く薄く貼り付けられた微笑に安堵の色が混じる。そしてマリアは、自分の事を真っ直ぐに見つめるこの少女もまた異能の持ち主である事をわかった上で続ける


「マナ、次は私の事を話したいのですが……よろしいかしら」


「え、う、うん。もちろん……でも、いいの?」


「ふふふっ……マナ、良い友人関係を築くコツはですね、嘘や隠し事を極力しない事ですわ♪……それに、見てわかる通りですし、何となく予想着くでしょう?」


マナはマリアの言う「わかるでしょう?」に素直な反応が出来なかった。わかっている、彼女が既に「人」じゃなくなってしまっている事やこの部屋がサシャの本に乗っていた魔法の亜種……「魔術」という物で埋め尽くされている事を。だが、マリアはそんなマナの様子から自分の発言に確信を抱く

やはりこの子は勘づいている。と、そして知った上で自分の事を「友達」と呼んでいるのだろう、と


「ほんと、変な子……ふふっ」


続く

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