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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
50/162

ドア越しの貴女へ親愛を込めて……です。

そんなこんなでマナが一人屋敷内で奮闘してる頃、大人組はというと……


「ねぇアレフ?そのお爺さんって何処に住んでるの?場所聞かされてないんだけど」


「あっちだ」


アレフが指差したのは町外れの岬。老父はそこで一人隠居生活を楽しんでいるらしい。それは良い、それは良いのだが如何せんその岬が馬鹿みたいに遠い。どれくらい遠いかと言うと岬があるのか無いのかイマイチ分からないくらい遠い。サシャは軽く目眩を覚える


マスターはマナの付き添いに出てしまった。足は自分のモノしかない。歩くしかないのだが……正直そんな遠い距離歩いた事は無い。うん、絶対無理だ


「やっぱりアレフ一人で行って。私は部屋に戻って皆の帰り待ってるから……」


「馬鹿たれ。黙ってついてこい、さもなくばくたばれ」


アレフに容赦なく引きずられていくサシャの姿は、見た目年齢相応の子供っぽさで、目の死んだ町民らも思わず微笑ましさを覚えるほどだったとか……


と、いうわけでマナから遅れる事一時間。日はまだギリギリ姿を見せ切ってない頃。町が町だったらこのくらいにこぞって起き出し、朝鳥が喧しく鳴き出す頃合だろう……ここカナンはえらく静寂に包まれているが


さて、そんな町を荷物一つ持って出た二人は盛んに何かを喋りながら目的の岬を目指す。話題は専らマナの事で


「あの字、殆ど教えて無いのにあんな綺麗な字をかけるなんて……将来は何になるんだろうな。やはり魔法を極めたがるんだろうか」


「んー……流石のマナもたかが100年無いくらいで魔法は極められないと思うわ。神髄くらいはいけるかもだけど、真に極めようと思ったらエルフの寿命をフルで使わないと間に合わないわね。あと才能も必須……その部分は全然クリアしてるんだけどね、マナ」


つまる所、無理という事らしい。流石にどれ程天賦の才を持ってしても寿命という物には太刀打ちできないらしい


「あ、それなら寿命を伸ばす魔法とか無いのか?怪我を治す治癒魔法があるのならそれくらい有りそうな物だがな」


「あるわよ?延命の魔法」


でもね……とサシャは途端に表情を曇らす。何か不味い事を聞いてしまったかとアレフは少し慌てるが、サシャは大丈夫と、延命の魔法その名も「フェアリー・テイル」に着いて解説をし始める


「あれは禁忌と呼ばれる何個かの魔法、その一つでね〜……そもそも、寿命っていうのは神様の寄越したタイムリミットみたいな物じゃない?それを無理やり増やすんだから死ぬ程世の理を乱すのよ。そんな事をしたら先ず自分の体が耐えれない。もれなくリッチ化するわ……それも理性の無い文字通りモンスターへと、ね」


「延命の魔法か……物騒なんだな。そんなのがあと何個かあるんだろ?」


うん。とサシャが頷く

自白の魔法、従属の魔法、死の魔法その他諸々と禁忌は色々と存在し、一度犯罪に手を染めてしまった魔法使いはタガが外れてそういった危険な魔法を無作為に放ち、都市一つを壊滅させる程の危険な存在に成り得るらしい……恐ろしい話だ。そんな事を聞いてはあんまりマナに魔法と関わって欲しくなくなる


「でもまぁ、現代じゃそんな出回ってるモノでも無いし……そもそも魔法使いって減ったんでしょ?なら大丈夫よ。そもそもマナちゃん賢いもの。知ってても使ったりしないわ」


「そう……あぁ、そうだな。でもあの子が魔法を極めたいとか言ったら止めないと。もう少し危なくない人生を選ばせないとな……」


「出た親バカ!スリルの無い人生とかそれこそ死んだ方がマシよ。いやもうホント親バカ。あーバカバカ」


「黙れ馬鹿エルフ。お前に馬鹿って極東語で書けないだろ。調子にのんな馬鹿」


バカ!馬鹿!とその後も意味の無い、驚く程子供じみた口撃の応酬が双方から飛び交う。これが本当に子供同士の口喧嘩なら微笑ましい話だが、実際は30と少しの立派なおっさんと100越えの(人からして)超高齢の女性エルフがやり合ってるのだから情けない。


周りに人が居ないので気兼ねなく言い合える。近くにマナが居る時はこんな事決して出来ない。仲良くして、と本気で怒られるからだ。本当真面目な良い子へと育ってくれた事は嬉しいがたまにはこうやって激しく罵り合わないと互いに互いの関係を忘れてしまう


何時だったか、アレフはサシャに女性を感じた事があった。確か夜、エルフの森を2人で散歩している時だ。何故だか雰囲気がよろしい感じになってしまい、見た目だけで言えば15やそこらの少女に30と少しのおっさんはドキドキしてしまった。それ以来アレフはとても神経を張り、そんな事にならないよう気をつけていた


一方サシャはと言うと、そんな覚えは一切無かった。そもそもその夜散歩は自分をエルフの里から出る手助けをして欲しいと言いたかったからであって

別にアレフを色牙に掛けようとした訳では無いのだ。なのに事ある毎につっけんどんな対応をされるから無性に腹が立つ。少し体を寄せたら「近寄るな、馬鹿が移る」とか遠慮無しに言われるのだ


(バカは感染病じゃないし、そもそも私はバカじゃないっ……!)


「ん、何か言ったか?」


「何でもないわよ!それよりまだつかないの?もう結構歩いたと思うんだけど」


アレフはちらりと片手に持った地図を見る。因みにもう片手ではサシャの手首を掴んでいるのだが……今は良い、とにかく地図を見て現在位置を推測し

てサシャに伝えてやる


「まだまだだな」


「うえぇぇぇぇ……………」


ちなみに先程の程度の低い口撃……バカの言い合いだが、両者共様々な感情こそ篭ってたものの恨み辛みこそありはしないので一切後腐れが無い。こういった関係を両者とも気に入ってるのでどちら共口にはしないが、とても心地良いと思う


しかし歩くのがキツイのはそれと全く別物。キツイものはキツいし、歩く距離が短くなるわけでない……サシャは本気の吐き気を患ってきたのを切に感じる。アレフに小休止を求め、細かく足は休めているものの全く疲れが取れない


「運動不足だな。読書も良いが普段からもっと動かないとダメだ……おい、大丈夫か?顔が青色を越して土気色になってきたぞ」


そんなこんなで結局2人が目当ての岬、そこにぽつんと佇む1つのボロ小屋を見つけたのは太陽が1番高い位置に昇る頃になった


▶▶▶


「私とお友達に……?今、お友達になりたいと、そう仰ったんです?」


「うん、そうだよ!あっ、おっきいこえだしちゃだめなんだった……」


時を同じくして、マナはマリアの部屋前でお喋りに興じようとしていた


本当はこんな所で座っていればいつ見つかるか分からないので部屋に入れて欲しいのだが……それをお願いするのはもう少し仲良くなってからにしようとマナは心の中でそう決める。


「にしても、貴女どうやってお屋敷に?どこか穴でも有りましたの?」


「え、あ、うん。まどがあいてて……そこからはいったの」


「ふふっ、それじゃ貴女は泥棒さんなのね。貴女のお父様と同じ、泥棒さん」


マナ的にはもう父は泥棒家業を辞めているので泥棒呼ばわりされるのは少し嫌だったが、致し方ない。笑ってくれたならそれで良しとしよう


にしても臭う。昨日のが嗅ぎ間違いでないのがよく分かる程の魔法臭さ。これもまた頃合いを見て聞いてみよう


「……それで、私とどうやってお友達になるつもりなのかしら。方法によってはウェルターを呼びつけて、貴女を屋敷から……いえ、この町から追い出さなくてはいけませんが。さぁ、仰ってご覧なさい」


(ほ、ほうほう……?そんなのかんがえてないよぅ、ど、どうしよう……。)


マナは頭を抱える。そんな簡単にいくとはハナから思っていなかったが、もう少し色々考えてから来るべきだった

適当な事を言えばきっとマリアは本当に自分を容赦なく追い出すだろう。


「どうしましたの?言えないんですの?なら残念ですがご退場願いますわ」


「えっ、いや。あの……マナ、いろんなとこ「たび」してきたんだけど。えっと、それのはなしとかしても、いい?」


最早咄嗟の思い付き、下手な逃げ道。

マナは自分の考えの稚拙さ、幼稚さを恨んだ。声質がどうであれ彼女は歳上

だ。そんな旅の話なんて聞いてくれないだろう……おしまいだ


(うぅ……パパごめん、ごめんね)


「旅の話!?是非、是非どうぞ!」


「えっ」


「早くして下さいまし!ほら、早く!」


このご令嬢ノリノリである。マナは少々呆気に取られたが、ドア越しだと言う事もあり、比較的早めに正気を取り戻し、急かされるままに話し始める

最初は海辺で出会った老婆の話、それから幽霊の街に沢山居た陽気な幽霊達の話。父から聞いた沢山の物語も交え

様々な工夫を凝らして、ドア越しで楽しそうに自分の話を聞いてくれる少女へ語り続ける。時折笑い、悲しみながら


強弱、大小織り交ぜたまるで楽しい楽しい物語のような実話がマナの口から紡がれていく。対するマリアの顔や表情はドアに阻まれて見る事は出来ないが、時たま聞こえてくる笑い声や興味深そうに入れる相槌がマナの緊張を弛緩させ、お互いに笑い合ったり随分と2人の仲が縮まり始めた。


すっかり日も昇り、屋敷内にも喋り声や人が歩く音が聞こえるようになってきたのだが喋ることに集中しつつあるマナはそれに気付く事が出来ない。


「それでねそれでね、サシャがまほうでわーっていっぱいのほしをだしてね!」


「えぇ、えぇ!……っと、申し訳ありませんマナさん、一度止めてください。」


マリアは何度かドアを叩き、言葉と共にマナの話を……少し勿体ないが中断させ、耳を澄ます。いつもより少し早いが、これだけ騒げば誰かしら勘づくかもしれない


「ふぇ?……あ、あしおと……!」


どうやらマナも気付いたらしいが、少し遅かった。毎日の生活から得る経験上、もう足音は逃げたり隠れたりするには遅い程近い距離で鳴っている。いや、隠れる場所はあるか


(私のお部屋……うん、それしかないわよね。それしかない、けど……)


「わわっ、ねぇマリア、どうしよ。どうしよ……壁壊して逃げたら怒られるかな!?」


「どんな建物でも壁を壊されたら怒られますわよ。この場合は私が怒ります……あの足音、恐らくウェルターですわね。本っ当に、間の悪い……」


あの無骨で無口でそれで居て父や母がいる頃から屋敷に仕える最古参、あの男ほど扱いにくい男はいないと思っているマリアは、少し迷いを憶える。

果たしてこの少女、マナを自らの部屋に招き入れるべきなのかどうかを


(自分はカナンの現当主……盗人を見逃すだけならまだしも匿ったとあれば……えぇ、絶対怒られるでしょうね)


「ま、マリア……どうしようどうしよう……なんでここまどとかないの!?」


「………………。」


ガチャリ。先程まで背中を預けていたドアから何か音がする。何事かと驚き

周りをキョロキョロ見渡していたマナはバッ、と音の方を振り向き。何の音だったのか感づく


「あら、ドアの鍵が壊れてしまいましたわ。これでは泥棒さんの侵入を許してしまう……ワタクシ、ナニモワルクアリマセンワー」


見事な棒読み、だが今のマナにそれを突っ込む余裕は無かった。

そして


トン、トン、トン


「……?お嬢様以外の声が聞こえた気がするのですが、気のせいでしたか。」


ウェルターがマリアの部屋前を視界の中に入れる頃には、至っていつも通り

何も無い廊下に一つだけポツンとドアがあるだけ。少女の姿なんて見えやしない

ウェルターは首を傾げつつ、自分の勘違いという事で結論づけて自分の仕事に戻る。「お嬢様」はまだ起きていないようなので朝食ももう少し後で良いはず―――


…………………。


「せ、せーふ?」


「えぇ、セーフです。良かったですわね、可愛らしい泥棒さん」


マナはドアにくっつけていた耳を離して、ゆっくりと部屋を見渡す。先ず暗い。電気を付けてないのだろうがそれにしても暗い。おかげですぐそこに居るマリアの姿が……姿が、姿、が


「え、え?マリア、だよね?」


「えぇ、マリアよ。私はマリア……そうね、ちゃんと名乗っておくわ。私の名はカナン・リリ・マリア。以後お見知りおきを……どうしたんです?ぼうっとして」


そう、そこに居たのは紛れもなくマリアだった、声が証拠だ。そこは良い。背丈も自分と同じくらいなのもある程度予想出来ていた。小さい大人も居るだろう……だが、問題はそこではない


マリアの体は、まるで人形の様だった

片目はガラス玉。元は美しかっただろう髪の毛は酷くくすみ、埃が絡んでまるでゴミ玉の様になってしまっている


服はどうだ?ボロボロ、擦り切れている。長年同じ服なのだろう、所々虫食いがあり、薄らカビらしき物も見える


そして極めつけは体、先ず片腕が無い。綿は漏れ出し、汚れで最早元の肌色が分からないレベル。


マナは、暗闇の中でそれらを視認した

元々夜目の聞く方だったのが災いしてしまったのだ。おかげでマリアから目が離せなくなり、足、そして体が震えだしてしまった


(だ、ダメ……ともだちのからだをみてこわがるなんて、そんな、そんな……ダメだよ。ぜったいダメ)


マナは、改めて自分はとんでもない所に足を踏み入れたのだと認識した。助けは消して来ない、それでも―――


この子、マリアと仲良くなりたい。


「……お、おはなし!、つづけるね!」


「えぇ!よろしくおねがいしますわ!」


こうして、マナの長い長ーい一日はやっとこさ朝を迎えた。幸い旅の物語はまだまだ底を尽きそうにない


何とか、どうにかしてこの子に自分を「友達」だと認めさせる、その為にマナは話し続ける。

それにどんな意味があるのか、本人もわからないままに。


続く

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