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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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オークに晩ご飯を分けてあげました。


「よし、準備完了」


「かんりょー!」


夜。とある山の中でいつもの二人と一匹はキャンプの準備をしていた

といっても、テント等は荷台のおかげでいらないので木をくべて火を起こしたくらいだが


「今日も乾燥肉と果物か?俺飽きたぞ」


「ふっふっふ……最近マナにもそれ言われたからな。少し一工夫を加えてみる」


アレフはフライパンを取り出し、油をサッと引いてからいつもの乾燥肉といくつかの果物(カット済み)をぶち込む


「今日はこれらを炒めてみようと思う」


「いた、め?なにそれー」


マナが興味深そうにフライパンの中を見つめる。危ないので顔を少し離してやり、知っている限りの知識を伝える


「炒めってのは、こんな感じに油をフライパンに引いて野菜とか食べ物を入れて熱を通すんだ。最大の特徴は、割と簡単。って所だな」


「へぇー、パパすごいね!」


マナは大層嬉しそうに言う。何が凄かったのかアレフにはわからないが、楽しそうに笑っているマナを見れたので満足だ。それだけでも慣れない料理に手を出した価値があるという物だ


「っと!」


大仰にフライパンを動かし、中の肉と果物をひっくり返してみせる

それを見たマナは目を輝かせ、パチパチと拍手まで送ってくれた。役得


「ほれアレフ、胡椒」


と、マスターが小さな袋を口を使って投げてくる


「ん、ありがとよ」


受け止り、中を開けようとする、が


(袋ベッタベタじゃねぇか……あいつ結構な時間くわえてやがったな)


まぁ愚痴っても仕方ない。中身はどうやら無事なので、いくつか胡椒の「粒」を取り出し、手で思いっ切り握る


すると、粒は簡単に砕け、細かい粉のようになり、アレフはそれをフライパンの中にぶち込む


「いいにおい……!」


「腹減ってきたな……もういいんじゃないか?なぁ」


マスターが急かすのと、実際いい具合に火が通ったのもありアレフは各々の皿に取り分ける


「おぉー……」


「食うぞ。おいマナ、頼む」


フォークを渡してやり、いつもの食前の音頭を行う。先導をきるのはマナだ


「いったっだっきまーす!」


「「いただきます」」


バリムシャモグモグ。マナとマスターは勢いよく口にかき込んでいく。実に美味そうに食べてくれる


(これが料理人の心境……嬉しいもんだな。)


さて、そろそろ自分も食べるか


と。ガサリ……アレフの背後の草むらが少し揺れる


「……お前ら、一度食うの止めろ」


マナとマスターも気づいたのか、素早く手を止め、草むらを注視する


「おい。そこに居るのはわかっている

出てこい」


ガサリ、また揺れる。やはり何かいるのは間違いないようだ

しかし出てこない。あくまでシラをきるつもりか


(ならこっちから行ってやるか)


片手に空っぽになったフライパンを持ち、ジリジリと音を立てずアレフは草むらに近づく


「往生しやがれ……ん?」


背後からとんでもない熱気を感じる

それと同時に危険と、僅かな殺気も感じた。アレフはゆるりと後ろを向く


「ばんごはんをじゃましちゃー……やだーーー!!!」


瞬間、マナの叫びと、火球が「アレフの方に」放たれた


「うわっ!」


元々が泥棒なので身軽さは人一倍優れているアレフなので避けはするが、服が掠れてしまい一瞬で焦がされてしまった


「こ、このおてんば娘が……!」


「あ、ご、ごめんなさい……」


マナはシュンとしょげてしまった。そんなマナも限りなく可愛らしい、全力で愛でてやりたいが、残念ながら今はそれより優先しなくてはならない事がある


(草むらの向こう側はどうなった?何かいたとして生きているのか?あれを喰らって)


予想通り草むらは燃えカス一つ残っていなかった。が、その奥に煙をたてて半焼した「何か」がいる


「お、おいアレフ……ツンツンしてみろよ。生きてるかもしんないぜ」


「チッ……お前がやれよ」


と、言いながらもアレフは「何か」に近づき。フライパンでツンツンしてみる


(息は……あるな。それに何か見た事があるような……)


何時だろう。結構昔の気がする……

この人とは違う頭についたデカい耳

この香ばしい体臭……


「おいマスター、お前覚えてないか?」


「あ?んー……わからねぇ、けど多分知ってるやつだな」


残念ながら俺もマスターも覚えてなかった。マナはまぁ知らないだろう。何せ生後一年経って無い。知らない事の方がよっぽど多いだろう


「おいお前、大丈夫か?」


「ぐぅ……あぁ、大丈夫だ、が……腹が」


「腹が?」


「へ、減っ、た……!」


半焼した「何か」が顔をガバッと上げる

すると、アレフはこいつが「何か」思い出した


「お前、オークか」


オーク。獣人、猪の顔に人の体。手には巨大な斧。なるほどよく見ると確かにオークだ、一度気づくとよくわかる


と、なると話は早い


「おいマスター、それちょっと食わせてやれ」


「チッ……まぁオークには恩あるしな。仕方ねぇ」


マスターは自分の皿を器用に口を使ってこちらに投げてくる。それを受け取り、オークの前に置いてやる


「食え」


「あぁ……すまねぇ恩に着る!」


そう言ってオークは皿の中に入った炒めた乾燥肉と果物を豪快にかき込んでいく。涙を流しながら


そしてオークには、種族として代々受け継がれるとある特殊な能力がある。

それが「異常なほどの治癒能力」

オークが皿の中を口にかき込む度にみるみる怪我、火傷が治っていく


「うめぇ!うめぇ!」


「よー、それ食ってからで良いから色々教えろよ?」


「あぁ!話す、何でも話す!」


そう言ってオーク、声からして多分男のオークは最後の小さな欠片まで口の中に放り込み、豪快に咀嚼し、飲み込んだ


「うぅっぷ。ごちそうさん、いや助けられたよ」


「いや構わない。それより何でオークがこんな所に居るんだ、集落はずっと離れているだろう」


オークは元々、人と同じようにある一箇所に固まって住む。家も建てるし仕事もする。おとぎ話のイメージのせいで粗暴に思われるが実際のところは真面目だし、普通に会話もできるし、人の女性は襲わない


「オークの女より強くて怖いから……だったかな」


「あ、あぁ、人の女は怖い。奴らは俺らを家畜以下にしか見てないから、……」


それもまたおとぎ話のせいだろう。皆警戒しているのだ


だがクイーンオブ無知なマナにはそんなこと関係ない、オークの事を顔がくっつく程の近距離で眺める


「おいマナ離れてやれ。そいつ泡吹いて白目剥いてやがる」


「あ、ご、ごめんね。はじめてみるからきになって……」


「い、いや大丈夫。君は彼の娘さん?」


うん!とマナは元気よく首を縦に降る

何気ない事かもしれないが、アレフはそんな事にとても嬉しくなる。それが当たり前になっていく感覚がとても嬉しい、正直痺れる


「スンスン……なぁ、もしかしてお前の仲間もいるのか?」


マスターが鼻を鳴らす。彼はそこらの人よかよっぽど優れた鼻を持っておりアレフもそれを心から信頼しているので、恐らく本当に居るのだろうなと身構える


「おっと、俺から皆に伝えてくるよ。この人らは安全だって、その後にもう少し詳しい説明をさせてくれ」


「……わかった」


いつの間にか怪我一つ無くなったオークは暗闇と化した木々の奥に消える

時折物音と、複数の声が聞こえる辺り

本当に他にもオークが潜んでいた様だ


「よく気づいたな」


「まぁな……それより、前に会ったのが古すぎるからか知らねぇけど、オークのオの字も思い出せなかったぜ」


「ほ?パパとおうまさん、あのひとらにあったことあるの!?」


「あの人……では無いけどな。また別のヤツだが同業者にいたんだ、オーク」


それはまだアレフが絶賛バリバリ犯罪を犯していた頃。空き巣やスリといった姑息で陰鬱な犯罪を繰り返すのに対し、派手に爆発させたり、人気のある所で豪勢に強盗したりしていた


そんなオークがいた……確か、名は


「待たせた。ほら皆、この人らだ」


と、名前を思い出すより早く先程のオークが帰ってきた。後ろに男女大小様々なオークが着いてきている、と


(何か知った顔が……あっ)


「バベル、バベルのおっさんか!」


「はっは!やっぱりお前かアレフ!小僧から特徴を聞いた時からもしやと思ったんだ!」


一際ごつく、口元に立派な髭を蓄えたオークがアレフに近づく、アレフも滅多に見せないほどの笑顔で手を差し出す


ガシッと握手した二人は、久しぶりの再開に喜びあった


「ね、おうまさん。あのひとだれー?」


「あぁ、あいつはバベル。昔アレフと同業者だった奴だ……ま、歳で身を引いたけどな」


「おいマスター聞こえてんぞ!俺はまだ元気なのに家内がうるせぇから仕方なしに身を引いたんだ!嘘つくんじゃねぇ!」


マスターに怒号が飛ぶ。その間に小僧と呼ばれたオークが他のオークらを

炎を囲むように座らせる


「あ、あの……バベル様、アレフ様。話の続きをしてもいいですか?」


「む、そうか。俺らの集落の話をしなくてはならないのだったな」


そう言うとバベルは、もう一度アレフの手をギュッと握り、他のオーク共々

ドカッと地面に座る


「すまない、続けてくれ」


「あ、はい。えっと、事の発端は半年ほど前……」


元々集落として長年根付いていた土地に段々と人の姿が見れるようになってきたのですが、最初の方は特に被害も無かったので、脅威とも思わず見て見ぬふりをしていました


しかしある時、大勢の武装した人間が集落のすぐ前まで来て「この土地を開け渡せ。抵抗すれば攻撃する」と言ってきたのです。我々は抵抗しました、何故長年共存してきた土地を、急に現れて渡せと言ってきた者に渡せるものですか


しかし、人間は強かった。当時我々のリーダーを務めていたオークは見せしめとして殺され、我々はそこから追い出され、途方もない旅に出る事を強いられました


そこで、統率力、腕力、そして人間の世界に肩まで使っていて理解の深いバベル様を、恐れながら呼び戻し、それからこの山を見つけて細々とすごしているのです


と、まぁ小僧オークな話をまとめるとこんな所だった。その一部始終を聞いていたアレフは腕を組み、下を向いて唸っていた


「我々はもう争わない。争いはまた別の争いを呼ぶと……俺らはよく理解しているだろう?アレフ」


「そうだ、な……」


バベルは立ち上がる


「それによ、何も俺らは現状に絶望しているわけじゃ無い。確かに食いもんはねぇが、それだけだ!こいつらと笑い、喧嘩し、また笑い……くくっ、超楽しいんだぜ?」


アレフは顔を上げる。見ればバベルだけではない、小僧オークやその他も皆一様に笑顔を浮かべている。無理に作った笑顔じゃない、照れや、誇りを感じる本物の笑顔


「パパ、このひとらすごいね」


「……あぁ。あぁ、自慢の仲間だ」


▶▶▶


二人と馬一匹、オーク多数は宴とはいかないまでも豪勢に酒を飲み、物を食った。全てアレフの荷台に積まれた物だ


「あっはっは!そんな事もあったか!」


「てめぇ!忘れたとは言わさねぇぞ!」


アレフとバベルを中心に、オークらは滅多にない、と喜びながら酒を楽しんでいた。その遠くでマナとマスターは

アレフの渾身の笑顔を見つめていた


「ふふっ……パパのあんなかお、はじめてみた」


「そうか。ま、お嬢ちゃんに向ける笑顔とは全く別物だろうな。ありゃ下品が過ぎる」


マスターの言葉にマナはぷぷぷと口元で手を抑え、声を噛み殺しながら小さく笑う


「ふぅー……ねぇ、おうまさん」


「あ?何だ、酒は飲まさないぞ」


マスターは知らない、自らの背中に乗る少女の真剣な、それでいて寂しげな瞳に


「マナにも、あんなともだちできるかな?」


故に、マスターは気一つ使わない心からの言葉でこう答えた


「出来るさ。おじょ……マナは良い子だからな」


「……うふふっ、おうまさん。やさしいね……ふぁ、もうねるー」


「あぁ、おやすみ」


しばらくすると、マナの静かで規則正しい寝息が聞こえる


「マナちゃん、友達より仲間を作れよ

友達はイザという時横に並んでくれないけど、仲間は肩組んで共に戦ってくれる……ま、何時かわかるか」


眠った少女にそう投げかけた言葉は

誰にでもなく、夜空へ消えていった


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