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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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子供は親の悪い所ばかり吸収していきます。

朝。港町であるカナンの朝は早い

船を持つ者は夜に漁へ出ていたのでその片付け。及び収穫を市場へ捌き出していく。アレフらの様に屋敷を追い出された商人らは諦めて町を出ていく者や根気良いというか諦めが悪いというか……そんな者らと様々な様子が見えた


そしてアレフの朝も早い。というか日に日に早くなっていっている。以前は一行の中で一番早いだとかそのレベルだったが、今となっては日の頭が見えるより早く起き出すようになっていた


(ジジイ、生きてんのかね……)


この町に来てから一度もその姿を見ていない。家は知っているので行けばわかるのだが、もし逝ってしまっていたら他の陰気で口の固そうな町民から話を聞いて回らないといけない。正直それは嫌だ、あの人ら本気で目が死んでいるから見てるだけで嫌になる


「んむぅ……もう、朝?」


そうそう、早起きといえばサシャもそうだ。エルフは総じて早起きらしいのだがサシャもまた例に漏れない。

例に漏れない、例に漏れないといえば一つ、今日は面白くもあり涙も溢れ出して来るサプライズがあった


「あれ、マナは……トイレ?」


「ん、これ」


品に欠けたサシャなりの答えを聞かなかった事にし、アレフは部屋のテーブルに置かれた一枚の手紙をサシャに手渡す。暫く待つ事数秒、サシャは両手でしっかり握った手紙から目線を上げると、椅子に座るアレフにニヤッと笑いかける


「将来あの子に見初められた男はすっごい苦労しそう。ねぇ?」


「はんっ、男なんて近寄らさねぇ。それより俺らも出よう。それなりに距離があるからな、荷台の積荷で朝飯は済まそう」


先に外へ出てしまった娘に負けてはいられない。とアレフは早朝に似合わぬ意気揚々っぷりで部屋から出ていく。


「……ふふっ、身勝手な父親だわぁ」


ほんの十数年前にエルフの里で会った流浪のおっさんと同一人物とは思えないアレフの父親っぽさに、何だか笑ってしまった。それと自分の父親とも重ねて見えた……「身勝手」という部分が主に重なる。アレフの方が余っ程好意的な意味だけども

と、いうわけで自分の寝ていたベッドを軽く片付けて部屋を後にする。愛すべきマナの手紙はテーブルにおいたまま―――


▶▶▶


「ん〜♪」


昨日はいつもより早めに寝て良かった。おかげで狙い通り父以上の早起きを実行する事が出来た。手紙は父とサシャが起きた時に慌てない用。字はあまり綺麗に綴れなかったが、きっと意味は伝わったはず。うん……多分。


「ふぁ……なーマナちゃん、俺屋敷に着いたら一眠りするからよ、何かあったら目一杯叫んでくれな?頼むぜ」


「うん!でもね、たぶんだいじょうふだ。マナ、マリアちゃんとおともだちになりにいくんだもん!」


お友達ねぇ……とマスターは寝ぼけ眼もそのままに勇み足のマナ、その少し後ろをとぼとぼ着いて行く。というのも、アレフ直々に「着いて行ってやってくれ」と言われ、マスターとしても断る理由が無かったのでその場で「了解」は示したものの、こんな早い時間帯とは聞いていない。ハッキリ言って驚いた


何せまだ朝鳥の鳴き声も聞こえない内に叩き起され、「いこう!」と元気いっぱいに言われてしまったのだ。早起きを何よりの苦手とするマナがそんな事をしてくるとは思ってなかった。

という訳で今に至る。まぁどうせ自分は屋敷に入れてもらえないので、入口横で待機でもしておけば良いだろう

何せこの子は火も噴くし空も飛べる。

何かあっても大概自分でどうにか出来るはず……まぁ、こんな事言ってはアレフにしばき倒されてしまうので決して口にはしないが。


「お、見えてきたな」


「あれ?でも、あそこあいてない……」


マナの言うあそことは入口の事で、絶賛閉め切られていた。そりゃまぁ日の出も待たず開門はしないだろう……とマスターは珍しくせっかちなマナを苦笑と共に見つめ、「どうする?」と聞いてみる。一度宿に戻ると言うならそれで良いし、ここで待つというのなら風邪を引かないように何処か風避けの程良い場所を見つけなければならない……ならないのだが、残念。マナの答えはどちらでも無かった


「まどならどこかあいてるかも……」


「え、えぇ……!?マナちゃん今日どうしちまったんだ?まるで盗みを働く時の糞親父とソックリだぜ?」


人気の少ない朝早くに屋敷に忍び込み、狙いの宝(屋敷の嬢さん)を盗み出す。アレフがいつの間にか手解きしたのたらいざ知らず、マナのやろうとしている事は本当に父親そのものだった


「……マナちゃん、大人しく一度戻ろうぜ?別に屋敷のお嬢さん……マリアさんとか言ったか?その子も逃げやしないしよ。ほれ……な?」


閉じ切った門と、その奥にあるこれまた鍵のかかった入口を見据え、マナはそこからピクリとも動かなくなってしまった。マナのくせなのか、一度考え込むと他の全てが機能を停止する。傍から見たら電池の切れた機械の如き形相だった


それから数分。何か思い立ったのか、マナは正面玄関を諦め屋敷の横へぐるりと廻る。勿論後ろにはマスターも着いてきている

口でこそ「もう帰ろう?」と言いはしたがその実、初めてこの子が自分一人で何かをしようとしている事が嬉しく思えて、出来る事なら何とかしてやりたい。というのが本音である。故に黙って付き合っていた


「んー、あそこのまど。どうかな?おうまさん」


マナが指差す方向には一つ、小さな窓があった。見ればどうやら換気のためだか何だかで少し隙間が空いていた。

距離的には少し遠いが、何とかならない事も無い


「てかマナちゃん、空飛ばねーのか?飛べばあそこなんか簡単に行けるだろ」


「んー、あれつかれるし……それに、たぶんまほうつかったらバレちゃう。」


マナは難しい事を頑張って説明しようと苦心したが、それより先にマスターが「わかったわかった」と止めに入ってくれた。恐らく長くなる事を察したのだろう


「んじゃ、俺が咥えて投げてやるから。後はマナちゃん一人だ、頑張りな」


「うん、おねがい!」


有言「即」実行。マスターはマナの服を咥えると、首の筋力を限界まで捻り上げ、それを爆発的なエネルギーに変えてマナを斜め上にぶん投げる。歯が何本か持ってかれるのを覚悟したマスターだったが、マナが軽いのもあり何とか無事だ。投擲位置もほぼ狙い通り

あの少し開いた窓のすぐ側に……べターン、とマナは壁にぶち当たる


「い、いたいぃ……」


痛い、主に全身が痛い。マスターの全力投擲により見事な曲線を描いて柵を超え壁に届いたまでは良いのだが、受け身等考えてなかったので見事全身を打ち付けてしまった。

だがこんな事でへこたれる訳にはいかない。折角ここまで来たのだ。幸い窓はすぐ近く、手を伸ばせば届いた。


極力音を立てないように窓を開け、充分な隙間を確保したら窓枠に手をかけ

スマートに中へ入る。その様は熟練の盗人。言うならばアレフに瓜二つの所業


中を見渡す。人は居ない

使用人らが夜通し屋敷内を歩き回って警備しているかもと考え今もその可能性は拭えないが、取り敢えず今に限っては大丈夫そうだ。物音に気付かれた雰囲気も感じない

そうと分かればマナは足音を立てずに長い廊下を駆ける。マリアの部屋の位置は何となくわかる。あくまで何となくだが……


駆ける、駆ける、駆ける。曲がり角があれば一度止まり人の有無を確認し、また駆ける。マナは必死だった

何に必死なのか、ずばりマリアを友達にする為だ。これだけなら至極単純な理由で、それも私利私欲の為だけに聞こえる。だが、マナの胸中では実に様々な事柄が蠢いていた


例えば、マリアの不自然な程に若い声

だとか……父の言う事が真実なら彼女は自分よりずっと歳上のはずである。なのに声だけ聞けば自分と同じくらい……いや、歳下かもしれない。勿論声だけでそんな事が分かるはずがない


だが、そこに「魔法」が絡んでいるとすればどうだろう。サシャも言っていたがマリアの部屋から濃密に煮詰められた幾多の魔法、その鼻がツンとくるくらいの臭いがしていた。

サシャと出会ってから自分は実に多種多様な事を学んだ。食べれる野草だとか、父親への能率的なおねだり。そして魔法……聞くに魔法とは世界の真理すら解き明かす神聖な物から、人に牙を剥く「武器」にも変わり得る。実に千差万別、故に恐ろしい、故に多くを学び何が良くて何がいけないかを知らなくてはならない……何てまぁ長々とサシャは語っていたが、要するに「魔法と一口に言っても色々ある」という事なのだ


だとしたら、もしかしたらマリアの体に異変をもたらす「魔法」があるかもしれない。それならば、仮にマリアがその魔法を解くことを望んでいるのならば、それが出来るのは今この町にいる中では自分とサシャくらいしか居ないだろう


更に言うなら、マリアが口と心を開いてくれるなら歳の近い(かもしれない)自分の方が良い……それと、もしかしたら友人として思ってくれるかもしれない。とそういう訳だ

つまり、今必死にマナが駆けるのは私利私欲の為と言うよりかはマリアの為だ。まぁ私利私欲も少しはあるのだが


そして、マナの記憶力と鋭い嗅覚が功を奏したのか無事にマリアの部屋っぽい所まで辿り着く事が出来た。だが気を抜いてあっさり近づいてはいけない

最も恐れなくてはいけないのは、ゴール直前。誰しもそこが一番気を抜くのだ、と父から耳にたんこぶが出来る程日常的に言い聞かされている。


(しゅういかくにん……ききみみをたてて……トラップはみえない。よし、いこう!)


念入りな確認を済ませ、やっとこさ最後のゴールテープを切ったマナは否、ここからが勝負だと気合を入れ直し……少し呼吸を整え、意を決し木製の質素なドアを三度ノックする


トン、トン、トン


「…………」


困った、返事が無い。声を出す訳にもいかないのでもう一度ノックしてみる


トン、トン、トン


「…………」ゴソッ


(……っ!うごいた!マリアだ!)


「…………どちら様、ウェルター……では無さそうね。暗殺屋なら戸をノックするのは些かおかしいし……ねぇ、あなたはだぁれ?」


「マ、マナです。アレフのむすめの、マナです。あの、きのうも、きました」


聞かれたら答えなくてはと、なるべく小声で言ったはいいが噛み噛みだ。言い終わってからマナは後悔と羞恥心に塗れて顔を真っ赤に照らす


「アレフ、マナ……あぁ。分かりました、えぇ分かりましたとも。それで何の用ですの?こんな早朝に、寝首を搔くにしてももう少しゆっくり寝かしてからにしてほしいですわ」


「ねくびだなんてそんな!ちがうの、あの、わたしね……その、えっと」


マナはドア越しに居るはずのマリアを思い、手元をモジモジとさせる。因みに立ちっ放しもアレかと思い、三角座りで、ドアを背もたれにしている。その状態で、ずっと用意していた言葉を口にする勇気を溜めている。溜めて、溜めて、そして意を決した


「わたし、マリアとおともだちになりにきたの」


これにて、マナ一人による壮絶な「友達作り」の火蓋が切って落とされるのだった―――。


続く

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