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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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港町カナンは思ってたより雰囲気暗めです。

少女はベッドに横たわっていた。

特に何をするでなく、ただただ横になり、惚けていた。部屋の外からは慌ただしく廊下を駆ける音が響いてくる。時たまドアが強めにノックされるが、恐らく待たされ続けた客人らだろう。

どうせ貿易や商売の話、そんな事は聞き飽きた。それにどれだけ聞いても自分には損得がわからない。いつの間にか大分少なくなった使用人らにその手の話はつけてくれと頼んでも両親がなまじ自分に「権利」を寄越した為に、それも出来ないらしい


「つまんないなぁ……」


少女、マリアは姿勢を変えながらそう呟く。両親が居なくなってからというもの、まるで時間が止まってしまったようだ。何をしてもつまらない、好きだった本も読まなくなり町の友達に至っては顔も合わせていない……きっと誰一人自分の事など覚えてはいない


というか自分が皆の顔を覚えていないまである。何にせよ会ってもわからない可能性が高いので今更誰かに会う気にもならない……友達も、客も、使用人にすらも


少女が望むはただ一つ、両親が帰ってくる事。それが叶えばきっとこの退屈な時間も終わる。止まった時間も動き出す―――


▶▶▶


「着いた、やっと着いたぜおい……くっそキツかった……」


「おいマナ、サシャお前らいい加減起きろ、カナンに着いたぞ」


荷台に揺られて静かに眠る二人を揺り起こし、アレフは町の入口に立て掛けられた看板を読み上げる


「ようこそ ここは港町カナン です」


これだけ苦労して辿り着いた後にこれを見ると何だか煽られている気がしてきた。軽くムカつく

だが、やっとこさ辿り着いた達成感もある。森を抜けてそれからも色々な事があっただけにゆっくり一息つけるというものだ


「んぁ、ついたの……?」


寝ぼけ眼を擦りながらマナが呟く。首を縦に振り肯定してやるとマナはニッコリ笑った。寝起きであんまり喋る気にはならないのだろうが、きっと喜んでいるのだろう

サシャはというと、どれだけ体を揺らそうとも毛ほども起きる気配を見せない。仕方が無いので放っておく事にした


それから、町に入ったアレフ一行は適当に道を進みながら、建物と人の顔をチラチラと傍目で見る。盗人家業を営んでいた頃からのクセ……というと聞こえが多少悪いが、建物はともかく人の顔、表情や雑談の内容を気にするのは町の内政や秘密の情勢を知るのに有効な手段なのだ。別に犯罪に繋げようだとかそんな魂胆は無い……無い


と、マナが寝起きじゃなかったらまず疑われ、そして怒られていたであろう変態行為の末、アレフはある一つの答えに辿り着く


「何か辛気臭いな……」


「港町にしちゃあな。前行ったリリハラとかと比べると何か静かだ」


マスターも似たような感想を抱いていたのかアレフの呟きに同調してくる。

実際静かなのだ、人の顔一つとっても何処か影を帯びており、港町特有の活気は見る影も無くなっている

森に入る前に立ち寄った妖精都市アムタラで出会った見張り妖精「ハネ」が行っていたカナン夫妻云々が関係しているのかもしれない


荷台から降りて話を聞いてみようかとも思ったが、既に日が暮れ始めている。森を出た時には日が昇りきっていたので仕方ないのだが、出来れば早急に今晩の宿を抑えておきたい


結局、宿をとってからでも遅くはないだろうという事で一先ず、進路を変え

て一行は宿を探す事になった。幸い目当ての手頃な価格で泊めてくれる宿は直ぐに見つかったが、未だ眠り続けるサシャを部屋まで運びベッドに寝かすのに手間取ってしまい、気がついた頃には日はすっかり落ちていた。


「おなかすいたぁ」


そんなマナの要望もあり、サシャを除く二人と一匹はどこか馬でも入れる飲食店を探すべく再び町を歩き出す……付け加えるなら、お持ち帰り等も出来るような店を


▶▶▶


町の飲食店と言えばやはり大衆酒場だろうか、様々な人間が集い、呑み、食い、大いに語り合う夜一番明るい建物である。である、はずなのだが……


「暗いな、それに人の気配も無いし……ここ本当に港町なのか?」


「いや間違いなく港町だろ。言いたいことはわかるけどよ……」


幾ら基本的に活気溢れる港町と言えども多少静かめな所だってあるかもしれない。マスターは自分にそう言い聞かせ、先程から感じる拭い切れない不安さを心の奥底に仕舞い込む。

アレフ同様町に入ったら色々観察してしまう自分だが、どうにもこの町は何かおかしい。具体的にどうと言われると少し困るが、何処となく違和感を感じるのだ。例えば何故か町の皆、老若男女を問わず俯いて暗い顔をしていたり、他の所から貿易の話でもしに来たのであろう客人らは苛立ちを隠さず乱暴に振舞ったり……


取り敢えず二人と一匹は酒場に入る。

子供連れで入るような店では無いが、こういう色々な人間が訪れる酒場は情報が集まりやすく、時に各種商い屋から重宝されるものだ。それに馬を入れても怒られなさそう……という勝手なイメージも助長しているが


と、言う訳でアレフは荷台を仕舞いマスターを自由にしてやる。その間マナは酒屋の戸を開けて店に入っていく。

何分始めてくるタイプの飲食店、気になって仕方が無いのだろう。別にアレフもそれを咎める事も無く、マナのやらせたいようにさせる


と言うのも、マナ自身がサシャと出会ってから幾らか成長しているのだ。精神的に、少しだけ。早寝早起きこそまだ身についてはいないが、以前よりも自分自身の意見を持ったような気がする。それは恐らく良い事なのだろうとアレフもマスターも喜び、ある程度好きにさせてやる事にしていた


「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


だから、こんな悲鳴さえ聞えなければ一人と一匹とも慌てて店の中に入らずに済んだのに……同時に戸をくぐろうとしてしまったので、当然そんな余裕はない戸だ。互いに体が挟まり抜くのに四苦八苦する


退けよ、お前が退けよと言い争い、最終的にアレフが無理やり体をぶっこぬいて店内に入る。そしてそれなりに広い店の中にマナの姿を見つけ、慌てて近寄る。マナは女の子座りで床にへたりこんでいて、何やら怯えた様子で前方を指差す


「あっち、あっちぃぃぃ………!」


と、その指差した先にあったのは店員が立っていそうなバーカウンターの向こう側、そこにうつ伏せで両腕に顔を埋めている白髪混じりの男性、服装を見るに恐らく店員……一息にここまでわかったが、何故マナはこれだけ怯えているのか?基本的に人懐っこいマナは知らない人にもガンガン話しかけるタイプの子供だ、人見知りでない以上理由はこの店員にあるはず……


と、アレフはバーカウンターに近付き

男性の店員に声をかけようと、した

しかしすんでのところで気付いた。

彼は口から赤くドロっと液体を口から流していたのだ。第一印象は「血」、顔色も悪く、死んでいるように見えた


だが人一倍死人を見てきたアレフに言わせれば彼は死んでなどいなかった。ついでに口から吐いているのも血ではない。恐らくワイン、それも結構上等な奴だろう。仄かに葡萄の香りがする


「おいおっさん、客が来たぞ。起きろ」


ユサユサと肩を揺らしてみる。男性の店員は酒で寝潰れていたにしては寝覚めよく起きて、大きく伸びる


「ふぁーあ……ん、あぁすまん、客なんて滅多に来ないからよ……好きなとこ座って注文してくれ。メニューは席にある」


男性はアレフの後ろ側、ガラガラのテーブル席を指差し、のっそり立ち上がって奥の(恐らく)厨房へ消えていった


「ぱ、パパ……?」


「もう大丈夫、席に着いて注文しよう」


マナの小さな手を引いて立ち上がらせ、それから軽く頭を撫でて落ち着かせてやる。精神的に成長してもまだ子供、頭を触られてくすぐったそうに、そして嬉しそうに目を細める様はまだまだ年相応の幼さがあった。


折角なのでマナの好きな所に座らせてやろうと思いテーブル席を振り向いたらうちの駄馬が「まだ?」と言いたげな表情でテーブルの一角を占領していた。道理でこっちに来ないわけだ

マナもあそこで良いと言うので、何だか癪だがマスターの選んだテーブル、もとい椅子に座る。それから軽く周りを見渡すと本当に客が少ない。ゼロという訳では無いのだが、僅かばかり居る客も先程の男性店員と同じように酒に潰れてテーブルに突っ伏して寝ている。あまりマナの教育上よろしくないので、手早くテーブルに置かれたメニューを手に取り、各々に決めさせる


「マナこれ!みーとすぱ!」


「俺コーンスープ、それと海鮮サラダ」


「おーい、注文良いかー!?」


先程厨房に消えていった男性店員……というか一人しか居ないからアレが店長なのか。まぁ今更なので店員で良いが

暫くもしない内に男性店員は伝票片手にテーブルへ駆けてきた。淀みなく全員の注文を伝え、それから最後にボソリ、と周りの客に聞こえないように男性店員に質問してみる


「この町、何かあったのか」


それは何気ない質問のつもりだった

聞き方に問題があったとも思えない、ごく自然なものだった。だった筈なのだが、それを言った瞬間

辛うじて残っていた男性店員の表情、感情の証が消えて亡くなってしまった


「……注文、承りました。暫しお待ち下さい」


やはりこの町には何かある。ではその何かとは何か?アレフは遂に答えが出ないまま注文したシーフードピラフを平らげ、代金を払い、宿に戻ってマナと共にベッドにへ潜りこんだ


(明日、カナンの屋敷へ行こう。何かあるとしたらあそこだろうし、少なくとも何かヒントくらいはあるはず……)


酒場を出てからマナがずっとひしっと体にくっついていたので少し汗ばんだ体をベッドの中軽く拭きながら、アレフはそんな事を考える。明日はきっと忙しくなる、早く寝ないと


「おやすみ、マナ」

「パパおやすみー……」


そんなに店員が(ワイン)を口から吐いているのが怖かったのか、体を離れようとしないマナを愛おしく思い、そして子供特有の高い体温を最近酷くなりつつある夜冷えを耐える為の湯たんぽ代わりにして、アレフもまた町と共に眠りにつくのだった―――

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