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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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拝啓、親愛なる兄上へ、です。

極東の地「オオエド」

いつの間にか世界的に珍しい存在となってしまった「王権政」を固く信じ、永久へ続く島国。文化に優れ、少し天災が多い事に目を瞑ればこれ程過ごしやすい所は無いと語る者が後を絶たない


さて、そんな国の中心。即ち政の中心

「オオエド」の城、その城下町では何やら人々がザワザワと噂話に勤しんでいた。日頃から噂話が好きな事もあるのだが、今日はいつもに増して声が大きい。それに全員も全員話している内容が同じときている


「おい、お前聞いたか?大国の方から赤い龍が攻めてくるんだってよ」


「んな事とうに知ってらぁ。それによ

他の奴が言ってたが、その龍は火も噴くらしいじゃねぇか」


草履屋の親父と豆腐売りの親父までもが顔を寄せあってそんな話をしている

日頃はいがみ合い顔を合わせれば喧嘩ばかりの彼らだが、この話題に関してはどちらも熱心に話し合っている。今だけは喧嘩のけの字も有りはしない


さて察しのいい御仁なら彼らの言う赤く、火を噴く龍とは誰の事を指しているか何となくわかっただろう。どうせバレているし勿体ぶる事でもないのであっさり言うが、マナの事だ

では何故、もうマナの噂が立ち始めているのか?勿論マナ含め、アレフ一行はまだまだ極東とは程遠い……と言うか全くもって海の向こう。噂も流れつかないような距離である


今一度問う。何故、マナの噂がそんな状態で流れてきたのか……何てどれだけ大層に言っても、事実というのは時に無情なほどつまらなく、現実的なもの。今回で言うと―――


「コーガ様、宜しかったのです?あんなデマを流してしまって……街は中々の混乱っぷりでしたぞ」


「なぁに構わんさ。それに全部が全部デマという訳では無い……ほれ、これを見てみろ」


「男」がまた別の「男」にそう言い、立場上そういう訳にもいかないと渋る「男」を半ば無理やり引っ張る形で近付ける

見せたかったのは一枚の紙、書いてあるのは親愛なる弟の流麗な文字


首根っこを掴まれ、痛い思いをしながらも命令通りその書類の文字を追う「男」は平常から段々と目を丸くして驚く、そこに書いてあったのは世界的に有名な宝具盗みが極東を目指している。同行する者らも含めて是非捕まえてほしい


最悪殺しても構わない、人数によって充分な報酬も用意している……と


「コーガ様、こ、これは……?」


「あぁ、この最後の親愛なる兄上へ……と書いてある部分だけ少し筆圧が強いと思わないかね?愛を感じるなぁ」


コーガに未だ首根っこを掴まれた男は

えぇ……と内心ドン引きするが、顔に出せば絶対に怒るので内心に留めておく。にしてもこの頭領、弟が絡むと視界が極端に狭まる。わかっていた事だが仕方ない


(いや、しかし……なるほど、こういう事か)


先程から首根っこを掴まれっぱなしの男……もう少し詳しく言うと、痩せぎすでコーガと比べると一回り小柄な老父。彼は一人で納得していた

何故、この頭領が「ああいう噂」を街に流せと命令をしたのか。何故それが世界の大泥棒の事ではなく「赤い龍」なのか


「親愛なる我らが頭領コーガ様、やはり「全部」捕まえるつもりなのですね。」


「ん、あぁ。そりゃあな……その方が弟フーガも喜ぶだろう?ま、いつもの様にやろうや。なぁ?」


ここは極東の国「オオエド」そのど真ん中にそびえ立つ、城人呼んで「エド城」

城壁に囲まれた幾つかの建物を総じて一纏めにし、それをエド城と人は呼ぶ。その中の一つ、名は「本丸」その中の部屋の一つ、広さはそこらの宿舎程度、ほんのり暗く床は畳といった様子


コーガと痩せぎすの老父はそこで話をしていた。まるで内緒話のようにコソコソと、誰にもバレないように―――


▶▶▶


所変わって知恵の守護者、その本部

通称「ボス」が普段とは違いえらく引き締まった表情と服装で席に着いていた。その横にはこれまた正装で整然と立つフーガの姿もある。彼らは定例会と称される「会議」に出ていた……実に半年ぶりなのだが、いや、だからかえらく目線がキツい。居心地が悪いとはこの事を言うのだろうか


「……で、何故半年もの間定例会の出席を拒んでいた?理由があるなら聞かせてくれないかな」


「は、はい……自分はこういう堅苦しいのが苦手なんで、意図的に避けてきた……きました」


ペコペコ頭を下げながらこんな事を言うのである。先日廊下で大笑いし、フーガを無理やり昼飯に連れ込んでいたのとは全く別人、毛ほども同一人物に見えなかった。何故「ボス」などと呼ばれる人物がここまで畏まるのか……それには先ず彼の「立場」、役職とでも言うべきか。とにかくそれを話さくてはならない


そもそも彼の「ボス」という愛称はその尊大な態度と厳しさ極めつつある顔面から来たものだ。決して立場的に偉い訳では無い、兵隊で言う所の兵隊長くらいのものである。一般兵からすれば

「ボス」かもしれないが、もっと偉い人物らは当然存在する


そして現在、会議室に居る中で最も立場が低いのが「ボス」であり、お付きのフーガ。どこを見ても自分より偉い人ら、そりゃもうペコペコせざるを得ないのである


「……聖司、彼にはそろそろ何らかの罰を与えるべきだと、勝手を承知で意見します。どうかご聖断を」


その偉い人らの一人が手を挙げ、意見を述べる。それに同調し「そうだそうだ」と声を上げる。そして聖司というのは今ここに居る中で最も偉い存在。言わば神様みたいなもの。見た目しわくちゃのクソジジイだが、彼が一言死ねと言えば喜んで死ななくてはならないくらいの発言権を持つ。故に「ボス」はビクビクしていた


(だ、だからよォ俺は行きたくないッてたんだバカ野郎……)


(仕方ないでしょう。絶対来いって書類の中で念を押されたんですから……会議サボったくらいで命は取られないでしょう、多分)


まさか口に出せるわけないので目だけでそう会話しながら、二人は聖司の判断を待つ。毎度の事だが一々判断に時間がかかる。そのせいで場に変な緊張感が出てくる。これもまた「ボス」の会議嫌いの理由、胃が痛くなるのだ


その後もたっぷり間をとり、全員冷や汗が額を伝って自らの肘を置く円卓にポタリ、と流れ落ちる頃。やっとこさ聖司が口を開く


「…………許す。」


やっと、やっと口を開いたと思えばこの一言だ。むしろ一言のみなのだ。確かに重みは段違い、寿命も少し縮んだ気がする。何せ全員が「どっはぁぁぁぁぁ…………」と今の今まで吐けず、口の中に留めておいた息を吐くのである

その場の重さがよく伝わってくる


しかし聖司の言葉には続きがあったようで、またも口を開き始める。それを視認した偉い人ら(ボスとフーガも含む)はピシッと背を綺麗に伸ばし、聞く姿勢を整える


「…………だが君らには、宝具盗みの逮捕を本格的に命じさせてもらう。そろそろ何としても捕まえておきたい。全員、知っておるだろう?彼奴はまたも世の明るい方……平和の下へ姿を見せつつある。やるなら今しかないのだ」


ボスとフーガは聖司が言い終わったのを確認し、同時に立ち上がる。この場にいる誰よりも背が高く屈強な体を持ち合わせたボスが立ち上がったので聖司を除く十数名の「偉い人ら」は一瞬動きを止め、怯んだような様子を見せる

が、それはどうでもいい。立ち上がった二人は聖司の目をしっかり見据え、それから見事な30度お辞儀で「命」に応える。どんな内容であれ、聖司から命を受ければそうやって応えるのが習わしでありルール。彼らはその例に漏れずきちんと応えてみせた、そして


「「お任せ下さい」」


この言葉を残し、会議室を後にした

これまたルール……暗黙の了解と呼ばれる領域のものだが、命を受けたら直ぐに行動へ移しだすべし。という物がある。彼らはそれをしっかり行った


それから数分ほど本部内を歩き、会議室にどうやっても声が届かないであろう距離と確信した二人は


「「ぶっはぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」」


と、先程聖司が喋った時並か、それより大きく息を吐く。息と言うより鬱憤とでも言った方が正確なのではないかというくらい吐き出し、落ち着かせる


「ボス、自分もう会議出たくないです……あれは耐えれない。ホント無理」


「忍びが愚痴なんてこぼしてんじャァねェや……ま、これで俺が会議に出渋る理由がちッたァわかッたろ……」


わざわざ人気のない方へ来たのだ。二人は本音をぶちまける。フーガは途中から敬語という概念を頭からすっぽ抜かしていたが致し方無い。ボスとしてもそこに突っ込む気力は残されていなかった


「……それで、どうやって捕まえるんです?今まで苦労し尽くしているのに、今更そう簡単に捕まえれますかね。」


「やるッきャァねェだろ……でなきャまたあそこに行って今度は謝罪しないとダメなんだぜ?ヤダろ、そんなん」


嫌ですねぇ……と、フーガは短い時間ながらもすっかり疲れ切ってしまった脳を何とか動かし、どうするべきか考える

ボスはというと、今朝フーガとはまた別の部下に調べさせていたアレフの動向をまとめたメモに目を通した。そこにヒントがあるのでは、と思ったからである……そして、最後の一文に目を通した瞬間、ボスはある事を思い出す


「なァフーガ、お前極東出身だッたよな?ご親族ッて居るか?」


「何です急に……えぇ、居ますよ。兄一人だけですが」


他の親族、例えば父や母がどうなのかは敢えて口にしない。聞かれても居ないしわざわざ教えるような事でもないからだ。ボスもそこは掘り下げない。気を使ったと言うよりは元から興味が無かったからである


では何故聞いたのか

もちろん、それこそがヒントであり、突破口となり得る事だからだ


かくして数日後、ボスの指示で「賞金首の確保」とその賞金を記した書類がフーガの飼う渡り鳥によって極東、実の兄の元へ届くのだった―――


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