極東へ行こう!、です
昼、太陽もサンサンと天高くから光を注ぐ圧倒的昼。アレフら一行はいつもの如く旅を続けていた。
場所は渓谷、山の中でも一際美しく一際事故率の高い所だ。何の前触れもなく土砂が崩れだしたりして、人がよく死んでいる
しかしまぁ、土や地面そのものと根強い関係を持つエルフが「大丈夫じゃない?」と雑に言ったので、何かあったら全てあいつ、サシャに責任を押し付けようと思う
「すぅーー………ふぅーーーー………とっても気持ちいいわね。やっぱり山や川は人生に必須なのよ」
「さよけ」
ちなみにマナは寝ている。寝る子は育つとよく言うので寝かしっぱなしにしているが、これで夜寝つけないとか言われたら少し困るだろうな
マナは寝付けない時はとことん時間がかかるタイプだ。ぴったり横に着いてやって寝て落ち着くまで優しく腹をさすってやらないといけない。別に嫌ではないのだが、自分も早く寝ないとあの駄馬……マスターの忌々しい歯軋りのせいで眠気が削がれてしまう。そのせいで寝れないまま夜を明かしてしまう事が何回かあった
「なぁアレフよー、俺何でかよ、極東を思い出しちまった。」
「あぁ、極東…………懐かしいな」
うん、確かにそれはわかる。このえらく綺麗な水の流れとか極東そのものだ
まぁ、あそこは水だけでなく大概の何もかもが美しかったが
「極東?何それ、聞いたことないわ」
わかっていた事だがサシャが興味津々といった様子で食いついてきた。知らないのは意外だったが、「極東」というのも伊達では無いのでサシャの持つ本の中には一切の情報が無かったのかもしれない。
ここぞとばかりに長々と講釈たれるマスターの言葉に耳を傾け、手早く脳内メモに情報と絵をサシャは書き連ねていく。そういう時のサシャの顔はオークばりに厳しい顔をしているのだが指摘しても怒りそうなので、見て見ぬふりをしておく
さて、未だ進み続ける渓谷だが勿論終わりがある。上流に向けて進んでいたはずなので、ある程度の所で止まってそこで川釣りに勤しむ手筈となっている。マナとサシャは初めての釣りという事で大変喜んでいたのだが、マナは寝てしまったのでその分も俺が頑張らなくてはいけなくなるだろう
さて、釣りと言ってもそんな本気で取り組むだけの時間も道具も根気すらもこちとら何も持ち合わせていない。夜が暮れて前が見えなくなる前に夕食分の魚は確保しないといけないし、マトモな道具なんて高すぎて手がつけれないのでそこらの木の枝と紐と、干し肉をちぎった餌を使って魚らの興味を誘わなくてはいけない。こう改めて考えると釣れる気が毛ほどもしない
(マナが眠ってて良かったな……)
「―――と、言うわけよ。すんばらしいぜ、アソコは」
「え、えぇ。まるで高尚な絵画のような目美しい世界ね……まるで夢物語、ぜひともこの目で見てみたいわ」
「……何でこっちを見ながら言うんだよ。言っておくがな、あんな遠い所そう簡単に行けないぞ」
サシャはそれを聞いてぶぅーと頬を膨らますが、実際結構遠いのだ。どれくらいかと言うと片道だけで軽く二月は掛かる。海も越えなくてはならないので、いつ以来かの船も乗らなくてはいけない。その為にはまた船の持ち主に話をつけなくてはならない
極東ツアーなるものがあれば幾分楽なのだが、そんな気の利いたものなど存在しないのでやはり民間の船でチマチマ進むしか道はないという面倒臭さ。
はっきり言ってクソ面倒なのだ
「むぅ〜……!アレフってたまに凄い動くくせに何でこんな時はやる気出してくれないのよー!」
「はいはい、マナが起きちまうから静かになー……と、マスターここで良いぞ」
ずっと膝に乗せていたマナを起きないように横にしてやり、アレフは止まった荷台から降りる。サシャは逃げるなと後を追いかけてきたが釣りスポットとして程よい場所を見つけただけだ。決して逃げる為では無い……二割くらいはそうだ。残る八割はサシャには内緒である、バレたらきっと怒られる
「ほらこれ、サシャの分だ。やり方は教えてやるから頑張って沢山釣ってくれ」
「うぅ〜……納得が、納得がいかない」
結局終始グチグチと文句は垂れ続けていたが、思いの外川釣りを楽しめたのか事前に用意していた箱いっぱいに魚を入れる時にはサシャの顔は満点の笑顔へと変わっていた
だから、だからこそアレフは油断していた。もうサシャの頭の中に極東の事など残っていないだろうと……もう、この話は無かった事になっただろうと
▶▶▶
「きょくとーいきたい!」
そう思い込んでいたからだろうか、マナのこの急な発言にいつもの三割増しくらいで驚いてしまった。サシャと自分で釣った魚を焼いている時だったので危うく、焚き火の中に魚を突っ込んでしまいそうになった。それをすんでの所で止めれたのはやはり心のどこかでマナがそれを言うのを「予感」していたのだろうか……まぁそこは今気にする所では無いので置いておく
「何で極東に行きたいんだ?」
「えっとねー、サシャとね、おうまさんがきょくとーはとってもきれいですごいところだ!っていってたんだー、だからいきたいなって!」
寝起きなのにえらく元気なマナは、その元気さ余って背中に飛びついてきた
別にマナは軽いので気にならないが、これがサシャのせいで覚えたオネダリの技なのだとしたら頭が痛くなる。
いつか俺以外の男にこうやって体を押し付けて何かをお願いする時がマナにも来るのか?と思うと頭痛吐き気、そしてとめどない涙が一度に襲ってくる
そんな未来潰してやる。一生俺がこの子を養っていくのだ
と、少々脱線したが、これで三対一だ
三は極東に行きたい側、一は自分、つまり行きたくない派だ。多数決で言うとボロ負けである
しかしこの形はアレフからすれば馴染み深く「またか……」と思わず嘆きたくなるものだった
何故ならこの形は、行く先を決める時の形。自分は「景色のいい所」、他の二人と一匹は「明確に行きたい所」と言った具合、こうなると自分に勝ち目はない。口で勝てた試しもない……つまり
「ねぇぱぱ〜」「アレフぅ〜おねが〜い」
「へいへいへえぇぇぇぇぇい!!!」
「……っせぇなぁ。わかった、わかったよ。次の目的地は極東だ。だから魚食え」
今日も今日とてアレフの負けで話は終わるのだった……。
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極東、知識者で言う所のジパングはマスターの語る通りの都市である。四季によって表情を大きく変え、その一々が世界に誇れる美しさというのが最大の魅力。食べ物は美味しく、工芸品にも趣向が凝らされ、世界中に高値で出回っている。持っているだけで自慢出来るという代物。そんな豪奢を極めたような都市だが、何とエルフのように自然を愛し、質素こそを物の本質と捉える文化も持ち合わせているとの事だ
行けば先ず楽しまずにはいられないだろう。だからこそ、話だけでも聞いてしまえば夢を見、絵を描き、そして実際に行ってみたいとなる。自明の理だ
しかし、平穏しかないような都市は世界中に存在しない。どれだけ栄えようとも……いや、栄えれば栄えるだけ、その都市の影、闇は濃く深くなっていく。ジパングも例外ではない
今回も、数年ぶりになる「宿敵」の再来を数ヶ月前から彼ら独自の技、「占い」によって敏感に察知し、今か今かと待ち続ける。そんな彼らの名を人はちょっとの敬意と目一杯の畏怖を込めてこう呼んだ
「忍」、と―――




