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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
40/162

ロンギングをもうちょっと、です。

前回のお話

ドワーフの集い、そのど真ん中に襲撃したサシャとマナは「ロンギング・オブ・コンサート」という名の魔法ショーを始めた。

治癒妖精の雪、マナ渾身の火の華と大技を続けすっかりドワーフの心を掴んでしまった二人は段々と気持ちがノッてきてしまい、ここにいる全員に魔法の凄さを見せてやろうと更に意気込んでいた……以上。


「流石マナね」


マナが今までの隠れた修行の成果を存分に発揮し、サシャはそれを頭を撫でるという行為と簡単な言葉で賞賛する

こういうのは言葉を尽くすより、簡単かつ心を込めて言われた方が余っ程嬉しいものなのだ


それを今までの人生、その経験則から知っていたサシャは笑顔で心からこの少女を賞賛し、後に続かんと体内で盛んに蠢く魔力を操作し、準備している魔法へと紡いでいく


先程も連ねたが、雪に火の華。これ並かそれ以上のインパクトを出さないといけない。生半可なものではこの大衆のボルテージを上げることは叶わないだろう……だがしかし、そんな圧に負けているようではいけない。仮にも自分は齢三百歳のエルフ、少女にだって負けたくないのだ


それに、レパートリーならまだある


(派手かつ見栄えのいい魔法の代名詞!)


「皆!手ぇ上げて!」


サシャは貯めに貯めた魔力を片腕に集中させ、手を振りかざす。最初こそ反抗的で、今にも暴動を起こそうとしていたドワーフらだが、既に二連続で呆気に取られている。そして純粋にこのコンサートを楽しみたい、そんな感情も生まれてきた所だった。だからサシャが促せばすぐに誰も彼もが太い腕を振りかざし、さぁ何を見せてくれると興奮して煽り出す


一人、二人三人、気がつけばそこに居る全員(アレフら含む)が手を振りかざしサシャの行動を注視している

サシャは笑った。やはり魔法は凄いと

長年敵対視し、今の今まで殺されるほどの殺気を全方向から感じていたのに

たった二発の魔法でそれが掻き消えた


(やっぱり魔法には、不思議な力がある……恩もある。だから、今返す!)


「行くよ『トウィンクル・スター!』」


サシャが唱えたその瞬間、ドワーフやアレフ、腕を振りかざしていた全員の手のひらから小さな光が元気よく飛び出した。これは何だ!?とあちこちから驚きと好奇心の入り交じった声が響いてくる。サシャはそれを笑って答えた


「これは皆の中にある小さな魔力よ!せっかくのコンサート……皆の力も借りて最高のものにしたいの!だから、少しの間だけ私に貸してちょうだい!」


エルフという事を差し引いてもサシャという一人の魔法使いに全幅の期待を持ち始めたドワーフらである。一も二もなく「良いぞ!」「やれやれー!」なんていう嬉しい声が街に響き渡った。


そうなれば場の期待に答えない訳には行かないサシャである。準備していた二つ目の魔法……いわゆる「飛行能力」それを暗に使ったサシャはごく自然に

空へ飛び上がり、ドワーフらから出てきて自由気ままに同じく空を飛んでいる光たちに全員集合を命じる。サシャの魔法で呼び出したのだから光からすればサシャはいわば母。特に反抗もせずスンナリ集まり、整列する


「さぁ、行くよ!」


サシャはそう一つ光へ命じ、闇夜高く急上昇していく。「ついてこい」と命じられた光らも躊躇なくその後を追って高く、高く母を追う。と、サシャはドワーフらの視界からギリギリ見える辺りで急停止、そして急滑降へ切り替える。光もまたそれを追う


「あぁ、あれじゃ。あれはきっと流れ星じゃ……!」


「ふぅむ、綺麗じゃ……帝国らの鉄翼を思い出す隊列っぷりじゃな。」


これを見たドワーフらの感想はこうである。だがしかし、これでは物足りない。もっと凄いのが来るはずだ、と誰もが予想、期待している


(わかってるわよ。三つ目の魔法、準備!)


んなもん折り込み済みだと、地面へ急滑降しつつ笑ったサシャは自らの体へ叫ぶ。生まれて初めて全力の魔法を放つ。きっと上手くいく、そして万雷の喝采を頂くのだ。と、どうやらサシャの準備が整ったらしい


「『リファイン(精製)』!!!」


サシャは唱えると同時に九十度角度転換し、ドワーフの頭スレスレを並行に

最大速度で飛び回る。無論その後を着いてきていた光も同じように動く、だが、その形がサシャの唱えた魔法によって大きく変わっていた


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」」」


それを視認したドワーフらは一斉に歓声を上げる。サシャに続き自分の頭上スレスレを飛んでいるのは、何と動物やモンスター、魑魅魍魎、百鬼夜行。

言うなれば異種族らによる戦の如き形相だった。それに対しドワーフらは子供のように相好をくずし、はしゃぎ立てる

何分生まれてこの方、街の壁を越えたことが無い者が殆どなのだ。外に何があるか憧れ、夢見た者も決して少なくない

マナも同様にうわぁぁ!と歓声を上げ、手を叩く


「よぉし皆、散っっ!!!」


サシャの指示を受けた生き物ら(光)はそれぞれ飛び出した時同様、自由に空を飛び回る。まるでそれは動物たちのパレード。自由に鳴き、走り、生きる

そして極めつけは再び鳴り始めた火の華の爆音。そして火の華本体

宙に浮く動物らを眺むため、常に上を向き続けるドワーフの目には動物らの背後、背景に突如彩りが添えられたように見えた。中には感極まって泣き出す奴も出てきた


ドワーフは生まれた時から鍛冶師である。毎日目にするのは焼けた鉄とそれを打つ鎚、そして大して美味くない上にすっかり飲み飽きたにごり酒。それだけである。それが今、目の前で生まれて初めてドワーフと人間と馬以外の生物を目にし、鮮やかな色を背景にそれらが踊るように「生きている」


正しく、大自然の形相を呈するコンサート、ショー、そしてパレードを目の当たりにしていた。と、火の華の爆裂音、そして自分らドワーフの歓声のみだった聴覚に新しい音が加わる


西の海国でアコーディオンと呼ばれる珍しい鍵盤楽器である。髭を一纏めに括った周りよか一回り歳食いの老ドワーフが笑顔を浮かべて一人、周りの楽器持ちを差し置いて演奏を始めた。

それはこのコンサートに相応しい陽気でハイテンポな一曲。たった一人でそれを演奏するのは相当難しいだろうに

老ドワーフは見事弾きこなしていた。

そして、若いドワーフら楽器持ちも負けてはいられない。自分らも音楽でこの祭りを盛り上げ、心から参加するのだと、大変気合を入れて続々と演奏に参加していく。残されたのは弦楽器を武器にサシャへ喧嘩を売ったドワーフのみになってしまった


その間にもサシャの魔法による演舞、コンサートは更に熱を帯びていく。単純な物だがやはり音楽の有無は生き物のテンションに大きく左右してくる。勿論今回も対象内、観衆もサシャもマナも笑顔とパッションが溢れて止まらない。魔法使い二人による出し惜しみ一切無しの魔法連射、派手さも美しさも留まることを知らずより観衆、ドワーフは魔法への興味、魅力に取り憑かれる。信仰と言ってしまっても良いかもしれない


いや、そもそも「魔法」に対する信仰なのだろうか。確かに魔法による見たことも無い演出には驚き、大いにヒートアップしたが何時だって一番輝いて見えたのは魔法使い、サシャとマナの二人のように思えた。彼女らは敵のど真ん中に突如割り入り、喧嘩を売るでなく寧ろコンサートの観客として我々を選んだ。それが何の目的かはわからない、だが我々は、ドワーフはいつの間にか一人のエルフと、人の少女に目と心を奪われてしまったようだ


そうどこか悟った弦楽器の楽器持ちは

ふっ……と自虐的に一つ笑い、自分の「武器」を本来の持ち方に戻し、全力で掻き鳴らし始めた


音、彩、命、魔法今全て揃った、そう今ここに

「ロンギング・オブ・コンサート」

憧憬の演奏会は完成したのである。


▶▶▶


祭りの喧騒もすっかり鳴りを潜め、何だかついさっきまでの絢爛豪華さが嘘だったかのように思える、そんな暗い街並み、騒ぎ疲れたドワーフたちは既に寝床につき、明日もある仕事の為に眠りについていた


そして、それはサシャらも同じであった。観衆のドワーフらが口添えしてくれた事もあり無事に当初の宿に泊まれる事になった。という訳だ

ただ一つ、いや二つだけ最初の予定と変わった点があった。一つはサシャが普通にベッドの上でマナと体を抱き合い、寄せ合って幸せそのものな表情を浮かべ寝ている事だ


そして、もう一つ。眠りについてしまった彼女からすればもう終わった話なのだが……当事者、アレフはこのクソ長い夜が今に明けないかと心から望み続ける長い夜の始まりだった……え?何をされているかって?


それは、とても簡単な事で


「なぁアレフ、そこまでいくと流石の俺もお前の事が不憫に感じてきたぜ……」


「ふふへぇ(うるせぇ)」


アレフはマスターと同じ、即ち倉庫で眠りにつかされる事になった。いやまぁこれだけでもアレフからすれば充分に罰なのだが、これだけでは甘いとサシャの悪どい笑みによって、体を縄で雁字搦めにされ、猿ぐつわを噛まされ

横に寝かされていた。軽く拷問のレベルである


マスターも同情するレベルの士業だが

アレフは別段苦にも思っていなかった。というかこれで済んで良かったと心から安堵していた


(そう、マナに嫌われたりでもする方が余っ程キツいし……うん、そう。これはまだマシな部類……黙って耐えよう)


心から、安堵?していた。とにかくマナとサシャは情けなくも平謝りするアレフに罵詈雑言を投げかけるでも一発殴らせろとか言うでもなく、黙ってこの罰を受けろ。と、それが終わり朝になったらもうこの一件は綺麗さっぱり忘れよう、と二人は言った


だから黙って耐えるのだ。このクソ駄馬と夜を共にするのも長年の付き合いの中で慣れている。こいつの寝言や歯軋りが馬鹿みたいに激しいのも心得ている。こんなもの苦でも無いのだ


「よし!可哀想なアレフに俺が情をかけてやる!」


マスターはそう言うと自らの腹をアレフの枕として差し出す。こんな優しさ何処に隠し持っていたのかとアレフは驚くが、こんな奴にも案外救われるものだ。と大人しくその優しさを受け入れることにする……これならすぐに眠れそうだ


と、次の瞬間


ブゥォォォォォォォォォォォォォ!!


マスターのそして腹の奥底からケツにかけて猛烈な「屁」の音が響き渡る。一瞬気が緩んでいたからだろうか、それともここ(倉庫)が密室だからだろうか


その晩珍しくもブラースの街に、獣の悲鳴にも聞こえる大きな大きな鳴き声が響き渡ったとさ―――

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