ロンギング・オブ・コンサート、です!
皆様は「鍛冶師」と言えば何を作っているイメージを抱くでしょうか……
例えば鉄を打ち、無骨な防具や流麗さ極まる刀剣だったりでしょうか
勿論そのような仕事を主にするドワーフは、ここ「ブラース」にもわんさか居ます、でもそれだけでは無いのです。
緻密で繊細なガラス細工をその太い指で黙々とこなす職人も居るし、家具や家を作り上げる集団も居るのです。でも農家は居ません。あくまで食料源は外から来た人間が売る食べ物のみ……と、そんな事を言いたいのでは無く
彼らはその多岐にわたる仕事の中に
「楽器」というジャンルも携えているのです。ドワーフらは日が暮れ、1日の勤めを終えた後各々が自らの楽器を持ち出し、一日の〆に気の済むまで楽器を鳴らし、それを肴に酒をかっ食らう
場所は特にパターンも、決まりも無いので現地に住む彼ら自身も今日はそのコンサートが何処で行われるのかわからず、見つけれない事もしばしばなのだ。が
現在、サシャとマナはそこに居た
▶▶▶
場は騒然としていた。場所こそ昨日と違うが昨日同様楽器の使えるドワーフらが陽気な音楽を奏で、それを肴に楽しむ彼らだったのだが……そこに突如敵対関係にあるエルフの女が姿を見せたのだ。演奏は止まり、飲んでいた酒を吹き出す者も居た
「ひゃー……いっぱい居るわね!」
「うん、それでサシャここでなにをするの?」
ドワーフはエルフ(サシャ)に目を取られて横に少女が居ることに気づかなかったが、しっかりと居る。手も繋いでいるのでドワーフがどれだけ沢山居ても迷子の心配は無い
「取り敢えず、あの楽器持ちの方へ行かないとね。ちょちょっと話つけてあれをBGMにショーを開きたいわ」
マナはハナっからサシャの意見に概ね同意(余程的外れなものは除く)なので
これにも頷いて同意を示す。ただそれはとても難しい事だろうと考える
サシャはドワーフの事を特別嫌ったり敵扱いしたりはしないのだが、対するドワーフはそうでない。全力でサシャを嫌悪し、罵倒し倒す
「さ、行くわよ。皆が見てる真ん中を歩くなんてちょっと興奮しちゃうわね!」
サシャはそれに気付いているのかいないのか、ズンズンとドワーフの間を進んでいく。ドワーフの方もサシャを避けるようにして、道を開けていくので一切の滞り無く目的の場所に辿り着いた
「……何の用だ、耳長」
楽器持ちのドワーフ、その1人が敵対心丸出しでサシャに話しかける。見れば持っていた弦楽器を武器のように構え
何か不審な動きをすればこれで攻撃すると言わんばかりの姿勢だ
(というか、いまけっこうあぶないんじゃ……)
もしかしたらサシャの熱に当てられて
状況の判断が鈍っていたのかもしれない。というかそうでもなければ、こんな四方八方から睨まれるような所に来ないだろう
そんな事を不意に考えてしまったマナは無意識の内にサシャの手を握る力を強く、強くしてしまう。元々の握力が人並外れたマナの手に力が加われば、それと手を握るサシャは猛烈な痛みと共にマナの感じているであろう不安を痛切に感じれてしまう。しまうのだ
(…………よしっ)
「マナ、手ぇ離してくれない?大丈夫、私はもう何処にも行かないから……」
優しく諭すように少女へ話しかけ、先程とは違ってソッと手を離すよう促す
。マナは基本的に勘の冴えた子だ、サシャの顔を見れば「何か」をするつもりなのはすぐにわかった。ならばここは言われた通り手を離すべきだと、素直にサシャの手を離し、一歩離れる
すぅ……と息を一つ深く吸い込み、出来る限りこの場にいる全員に聞こえるように―――
「私はエルフのサシャ!皆と友達になる為にここへ来たの!」
そう高らかに、楽器持ちのドワーフに顔は向けつつも全員に聞こえるように高らかにそう宣言した
▶▶▶
「俺、もう父親失格だな……最低だ」
「最低なのは前からそうだろ」
こちらアレフとマスター、彼らもやっとこさサシャらを追いかけるべく外をうろつき始めていた。荷台は宿屋の倉庫に置いてきたので今は身一つのマスターの背に、雨雲と化したアレフがどんより乗っているという形だ
「ったくよぉ、失言の一つや二つでそんな落ち込むなよ。ちょい前の輝いてた自分でも思い出して元気出せよ」
「出ねぇよ……あ、馬と同列扱いが不味かったのか……?わかんねぇな」
「振り落とすぞこの野郎……はぁ。取り敢えずよ、あいつら見っけたらちゃんと謝れよ。目ぇ見て謝りゃちょっとは許してくれるだろうよ。」
マスターはあくまでアレフの味方を通すつもりなので、フォローを入れつつ進言もする。日頃どれだけいがみ合おうとこういう時に支え合う辺りはしっかり長年の相棒っぷりを感じさせてくれる。まぁ今回に関してはアレフが完全に悪いので、謝罪は一人でやってもらうが
と、その後もグタグタ会話しながら
街を歩いていると、何故だかドワーフの姿が全然見えない事に気付いた
マスターが言うには、「何かあっちの方にいっぱい集まっている気がする」との事なのだが、どうだろう
わざわざ敵視されている奴らが集まっている所に行くだろうか……サシャなら行くか
「恐らくマナちゃんも一緒だ。アレフ、ちょい急いだ方が良くないか?」
「あぁ……頼む。」
願わくば何も起きてないでほしいが
もし……もし、彼女らが窮地に陥っていたらすかさず助けに入ろう……そして、サラッと謝罪を述べるのだ。出来る限りスマートに、自然体で
もしかしたらそれがきっかけで許してもらえるかもしれない―――なんて、救いようのないほど格好悪い事を考えながら走るマスターの背に乗っている
アレフは、道を曲がって曲がって真っ直ぐ行った所で見つけた目的の場所で
大層驚くのでした。
▶▶▶
先ずアレフとマスターが見たのは広場のような円形上に広がった道いっぱいに集まった異様な数のドワーフの姿である。目測だが、この街に住むドワーフの八割くらい居るのでは無いだろうか?
次に気がついたのはその中心、そこに立ち何かをしている二人……サシャとマナである。大勢のドワーフらに囲まれ、自らの背後には何やら楽器らしきもの(距離が遠くてよく見えない)を手にしたドワーフも居る。正しく四方八方から目線を浴びて二人は「何かをしている」
「なぁおい、そこのおっさんよ。お前だお前」
「ん?おぉ、何じゃ。今度は喋る馬か、今日は色々起こるなぁ」
老ドワーフの口振りからしてやはり何かあったらしい。聞くところによると
何とあの二人、惜しげも無く魔法を披露し「ショー」を敢行しているらしい
「ひゅー!やるねぇアイツら。んで、どうすんだよアレフ」
「無論止めさせる、このまま進め」
今の所ドワーフらはマナらの事を静かに見つめるだけだが、このまま何事もなく終わる訳が無い。何せ彼らの中心に宿敵のエルフ、それも女が居るのだ
何も起きない訳が無い……馬鹿な妄想抜きにサッサとあいつらをこの場から助け出し、いっそ街から出てしまおう
「あ、パパだ!サシャ、パパがきたよ!」
「やっと?思ってたよりかかったわね……マナ、前座はお終い、こっから本気よ。」
二人は目配せし、互いに頷くとそれまでやっていた魔法の演舞を止め、火力を上げる。後ろのドワーフらには「気が乗ったら演奏して」とお願いしてある。
残念な事にまだ演奏は始まっていないが、きっと直に始まる。オーディエンスも一度引っ込んだ酒が回って祭りが始まるだろう。それがサシャの描くショー、コンサート。
「演目は『ロンギング・オブ・コンサート』!どうぞ酸いも甘いもご堪能あれ!!!」
瞬間、サシャが上へ何かを投げるように腕を天へ振り上げる。釣られて大衆はいつの間にか暗くなり始めた空を口を開けて見上げる
(先ず一つっ!!)
ボゥン!豪快な爆発音が空に鳴り響き、地面へ暴風が吹き荒れる。エルフが遂に喧嘩ふっかけてきたのか!?と一瞬ドワーフらは色めきたつが、暴風が止み、目を開けた先に広がる視界いっぱいの光景に思わず口を止める
それは、雪だった。いや、雪と言っても本物ではない。時期的にも有り得ない。それは恐らく魔法、「治癒魔法」の妖精たちの命の灯火。故に儚く、美しく大衆の目に映る
そして灯火は儚いままに弾け、霧散する。余りに一瞬の出来事に大小様々に飛び交っていたサシャへの罵声や、興が醒めたと帰路へ着こうとしていた諸々が全て動きを止める。最早指一つ動かせない
完全に、「魔法の魅力」に呑み込まれていた。それも無意識の内に……勿論、これで終わりなわけがない
(れんしゅうどおり、れんしゅうどおり……っ!)
今度はマナだ。そこでやっと宿敵の横に立つ少女の存在に気付いたドワーフらは、今度は何をする気だ……と固唾を飲み、緊迫感満々で静かに見守る
しかしマナが空に放ったのは、サシャのような暴風でも淡い白雪でも無くただ虚ろに天へ昇る火の玉。悲しげにひゅ〜……なんて音まで鳴らしている。それは誰の目から見ても失敗、そのせいか正気に戻ったドワーフらがまたもザワザワと騒ぎ出す
「なぁアレフ、これもしかして……」
「あぁ、間違いない。『火の華』だ」
正しくは火の華の種火……言わば準備の段階。あの今は哀しさと正気を取り戻す象徴の如く天へ昇るあの火の玉が
マナのベストな高さまで昇りきった時
(多分こいつら死ぬ程ビックリするんだろうな……)
アレフの予想は恐らく当たるだろう
ここにいるこの一人と一馬、あとエルフ一人除けば誰もこの魔法が成功だと思っていない。虚を突く、という奴だ
「……サシャ、これくらい?」
「えぇ完璧よ。後の段取りは分かってるわね?」
うん、と一つ頷いて深呼吸をしておく
ミスは決して許されない。サシャの名誉や近くで自分の事を心配そうに見ている父の事も確かにあるが、今はこの
「サシャ」を見ている、ドワーフらの度肝をブチ抜いてやりたい!
「てんかっっ!!!」
爆発。と言っても無骨な炎の膨張では無い……火の華。華という名が付くのにただの炎では名前負けである。必要なのは「芸術性」マナはそれを以前から練習していた。自らの魔法の可能性を広げるために
そしてその努力は今、昇華する
太陽も空気を読んで頭を引っ込め、すっかり黒に染まった空に色も形も、サイズまで様々な華々が咲き乱れる
それは先程の治癒妖精の灯火に勝るとも劣らない美しさ。ドワーフの主な感想は「おぉ……」のみという圧倒的な完封っぷりである
「やった……!!!」
「えぇ、最高の出来ね。流石はマナね」
サシャは、マナの頑張りを知っていたので喜びも一入だろう。頭を撫でてやり、負けてられないと改めて気合を入れ直す。この場にいる全員に、自分の人生三百余年の成果を見せるのだ。そして、願わくばエルフの繊細な芸術を
この愛すべきモグラ……ドワーフたちへ伝えてみせる……と、サシャはそう決意する
ロンギング・オブ・コンサート……情景の演奏会。それはまだ序章、つまりまだ始まったばかりである。治癒妖精の雪、火の華……さてさて、次は一体何をするつもりなのだろうか―――
そんなわけで、40話に続く




