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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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エルフ嬢はドワーフの事がモグラに見えているそうです。

土霊。童話では「ドワーフ」という名でよく登場する背の小さな鍛冶師たち。彼らが創作物の中で描かれる時は決まって毛むくじゃらで、酒をよく飲み、そしてエルフと仲が悪く度々喧嘩をしている……大体そんな所だろうか。

そして、童話の中でしかドワーフを知らないマナは、まるっきり信じていた

そんなドワーフはいっぱい居て、さぞお酒臭いのだろう、と


「着いたぞマナ、ここがドワーフの街だ。あー、名前は……」


「ブラース、じゃなかったかしら?いや、始めてきたけど中々に壮観ね」


へぇ、とマナは現在くぐっている最中の門をマジマジと見つめる。というかこのブラース、エルフであるサシャのリクエストで来る事になった。何故わざわざ宿敵の巣窟に行きたがるのかとアレフはサシャに聞いてみたのだが


「食べ物の好き嫌いもそうだけど、エルフ皆がドワーフを嫌ってる〜とか古いわよ。だって尊敬に値する種族なのよドワーフって!」


これを切り口に長々と語られた。あまりに長すぎて憶えているのは「行き過ぎた技術力は魔法と同等」という部分のみ

だ。何故かそこだけ耳によく残っている……が、そこしか憶えていないなんてサシャには口が裂けても言えないので、この話をして以来内容を全部憶えている体で彼女と会話をしている

実にソワソワしてしまうので軽く後悔もしている


さて、そんなわけでドワーフの街「ブラース」にやって来たわけなのだが、まず目に付いたのはその「壁」。出入り口は門一つのみで、他は完全に閉ざされているという……エルフとは全く違う方法で他の国、そして世界と隔離しようとしているのではないかという、何とも堅牢さが伺える

と、言うのもブラースで暮らすドワーフ全員が鍛冶一本で生計を成り立たせているのだが、もしその技術が他の国に流れてしまえばたちまちその生計が崩れてしまう。それを避けるために外からも、内からも漏れないよう四方八方壁で覆っている……とサシャが教えてくれた


一応門の入り口と出口、その両端に警備の兵らしき機械があり、自分らが入る時には微動だにしなかったが

これがひとたび何か街で問題が起こってしまうと、門が閉まり街から出ることは容易でなくなる。と、これまたサシャは言っていた


「てか、何でお前そんなに色々知ってんだよ。今まで里から出た事無かったんだろ?」


「ふふーん、秘密って事にしておくわ

秘密の一つや二つあった方が女性は魅力的に見えるらしいし、ね?」


何が、ね?なのだか……まぁ深追いしてまで知りたいわけでも無いのでそれ以上の言及を取り止め、一先ず観光がてら街の中を周ってみて、適当な宿を見つけ次第そこで休憩する。事前に決めておいた流れを遂行する為、マスターに適当な道を選んで歩いてもらうよう指示を出し、アレフはマナとサシャが荷台から落ちないようしっかりと見張る。興味を持つのは良いが、体ごと乗り出したりするのは本当に止めて欲しい。半分大人のサシャはまだしもマナに怪我でもされたらこっちがショックで寝込んでしまいそうだ


「えほんの「どわーふ」といっしょだぁぁぁ……!!!」


「えぇ、男女性別問わず髭もじゃで上から押し潰したような背丈……最高ね!」


それに、先程から彼女ら(特にサシャ)を見つめるドワーフらの目がとても痛いのだ。ちょっと殺意漏れているくらいの目線をバシバシ感じる。サシャはそれに気づいてないのか、褒めてるのか貶しているのかよく分からない感想を述べている


(こ、これは一刻も早く宿を見つけなければ……!)


この阿呆エルフはわからないのだろうが、自分がドワーフの事を「好きだ」と言っても、向こうはそうとは限らないのだ。一方的な好意や興味は、逆にお互いの間に溝を産むという事を知らないのだ


決意したアレフは、マスターに「早く進め、どんな宿でも良いから見つけろ」と、そう指示を飛ばすのでした


▶▶▶


このブラースという街、驚く事に「鍛冶屋」以外の建物が何処を見渡しても全く無い。食べ物を売る店や換金所、果てには宿すら無かった。こんな偏った店並びで街としての経営はちゃんと成り立っているのか?


「あぁ成り立ってらぁ。それともなんだ?兄ちゃん俺らが法を犯してるってぇ言いてぇのか?」


「いや、そんなんじゃなくてな」


「兄ちゃん、こん街にはお前さんらみたいな外から来た奴らも居る。そいつらが外から持ってきた物を買って俺らは生活してんだ。わかったか?」


物は試しと道行くドワーフ当人に聞いてみたが、何だか素っ気ない上に大分苛立っている様子。まぁ原因はサシャのせいなのだろうが


「見てマナ!モグラが人の言葉を喋ってるわ。不思議ねぇ〜……!」


「お前は黙ってろ馬鹿女!」


ここで馬鹿エルフと言わないのはアレフの気遣いである。こんな人目のある所で「エルフ」の名でも出せばたちまち目をつけられてしまうだろう、その辺の気遣いなのである


「……兄ちゃんの連れはちょっくら珍しい見た目だな。それに何か田舎臭ぇ」


ドワーフはサシャに比べて多少精神年齢が大人なのか、大声で詰り、煽る事はせずアレフにだけ聞こえるような小声でそうボソッと呟いてくる

連れ(サシャ)があれだけ騒いでたら返す言葉もない。と反論する気など毛頭ないアレフはぎこちなく笑い、受け流す


「そりゃどうも、わざわざ呼び止めて悪かったな」


「んや、礼には及ばねぇよ……それとな、兄ちゃんの面に免じて一つ教えてやる」


ドワーフは一度地面に置いていた自らの荷物を担ぎ直し、アレフの顔も見ずにぶっきらぼうに一言

「一つだけ宿屋はあるぜ」そう言って足早に去っていった。いや、足が短いからちょこまか足が動いていて焦ってるように見えるだけか……それにしても


「サシャ、お前ドワーフの事嫌いじゃないんだよな?」


「えぇ!とっても好きよ。だって最高の研究対象じゃない?モグラなんて、何しても死なないもの」


やはり、エルフの言う「好き」や「嫌い」は信用ならない。心底ひん曲がっていると固く理解したアレフは最早終始無言で街の風景を眺めるマナが、こんな奴にならないよう頑張って教育しよう。そう決意したのでした


▶▶▶


と、いうわけで比較的親切だったドワーフのいう「たった一つの宿屋」を見つけるべく街中を周ってみるが、どこにも見当たらない。先程同様道行くドワーフに声をかけて教えてもらおうとしても、立ち止まってもくれない

最早街中にサシャの噂が広まってしまったのか。先程からドワーフらの目線がより一層厳しく、痛いものになった


「おいどうするよアレフ……って、何してんだお前」


「何って、見たらわかるだろ。サシャを縛りつけてんだ」


先の見えなさに困ったマスターは、助けを求めるべく荷台の方を振り向いたのだが、返ってきたのはそんな馬鹿げた答えだけで、サシャは口を塞がれモゴモゴ言いながら暴れており、マナは未だ無言で外を見ている。時折「わぁ」と感嘆の声が漏れているが、この状態ではいくら声をかけても返事が返ってこないだろう


(ていうか、こいついつの間にそんな趣味を………長年共に過ごしてもわかんねぇ事ばっかだなぁ。)


束縛趣味とは少しレベルが高いが、まぁアレフ本人曰く、人とは日々成長すると言うらしいから、性癖もまた成長してしまったのかもしれない。我が相棒ながら流石といえる


「んで、宿屋どーするよ。見つかんねぇぞ」


「あぁ……どうしたもんかな」


サシャをギチギチに縛り終えたアレフはマナの横に座り込み、考える

もうこの街の中は一通り歩き終えた

それで見つからないのだから、まず考えるのはそもそも「宿屋」など無く。あのドワーフに騙された、という物だ

考えたくはないが、それも有り得ると思ってしまう


「おい兄ちゃんら、ンなとこで何してんだ」


「「あっ」」


声のするほうを振り返れば、見えたのはそのドワーフである。先程より荷物が減っているのを見ると一通り仕事を終えたのがわかる。空を見れば気づかない内にすっかり赤く染まり、そりゃ仕事も終わるだろう。という時間帯なのがわかる


「もしかして宿屋の場所、わかんなかったか?」


「ははっ、お恥ずかしながら……」


この後、幸運な事にそのドワーフが宿まで連れてくれて、俵の如く縛り上げたエルフと共に宿入りして死ぬほど変な目で見られましたとさ。


ドワーフ、鍛冶師の街「ブラース」そこには魔法や科学の欠けらも無い粗暴で、野蛮で、それでいて熱い街。そこで生まれた彼らは生まれてから死ぬまで大きなトンカチを振るい続け、世界でも名高い「ブラース製」の武器、防具を生み出し続ける。彼らの生活は鍛冶と共にある。必要最低限の食料と浴びるほどの酒を余所者の商い人から買って、生活する

そんな毛むくじゃらで怒りっぽいドワーフは、エルフが大嫌いだった―――

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