いつも通りの朝です。
最近、アレフの朝が早い
その理由は至って簡単、そして明確
この前の徹夜昔話、あれが数日経った今日も悪影響を及ぼしてくる。まぁ単純に生活リズムが少し狂ったのだ
元々朝型人間のアレフからすればほんの少しいつもより早起きになってしまった。というレベルなのだが、この場合迷惑を被っているのは主にサシャだ
マスターやマナほど眠は深くなく、それでいて寝覚めも悪くない。となるとアレフと共に日が昇りきらぬ内に起き出し、ゆるりと朝食の準備をするのも中々道理にかなうというものだ
勿論それは今日も例外ではなく……
「ふぁーあ……おはよ、アレフ」
「ん、おはようサシャ……静かに頼むぞ、マナを起こしたら可哀想だ」
今日も今日とて荷台の中で寝袋を並べ寝ていた三人の内大人一人と、少し大きめの子供一人は何をきっかけにというわけでなくほぼ同時に目を覚まし、朝の挨拶を交わす
その後、寝袋をしめやかに仕舞い、荷台から降りて近くの川で顔を洗う
「ぷはぁ、今日も良い朝ね」
「あぁ。風の匂い的に昼ぐらいから雨が降りそうだがな……朝飯は何が食いたい?」
「ベーコンエッグ!」
またか……とアレフは嘆息し、顔を拭く用のタオルをサシャにポイッと投げ
朝食の用意をするべく、必要な物を荷台から引っ張り出す。それもマナを起こさないため物音を極力立てないようにゆっくりとしなければいけないので
少し時間がかかる。まぁそれは仕方ない、可愛い寝顔を守る為だと思えば多少の苦労も厭わないというものだ
そんなアレフの頭には一つ、とある疑問が浮かんでいた。ほんの小さなものなのだが、起き抜けの時間帯はこうやってたまにしょうもない事をボーッと考えてしまうものなのだ……と、一応その疑問の内容を伝えておくと
(エルフって肉食えたっけか……?)
というか卵もダメなんじゃ無かっただろうか。生き物臭いとかいう理由でエルフらは肉や魚その他諸々食べなかったはずなのだが……サシャはそういうのを一切気にしている様子が見れない
単にアレフの知識が古いのか、はたまたサシャが少しズボラなのか……
「なぁサシャ、お前好きな食べ物は?」
「全部好きよ?年寄りは好き嫌いが多いけど、それって偏食よね。お肉にだって生きるために必要な栄養はあるもの」
という意見である。取り敢えず好きな食べ物を聞いてみただけなのだがご丁寧にアレフの疑問まで答えてくれた。心でも読まれたか、聞かれるのをわかっていたのか……まぁそこは良いか。
ちなみにサシャのいう「年寄り」というのは彼女の父である里長や里にいた殆どのエルフらを指しているのだろう
確かにあいつらは偏食家っぽい気がする
と、やっとこさフライパンと食べ物を適量取り出したアレフは荷台からほんの少しだけ離れた所で簡単に調理を始め出す。サシャは手伝いこそしないが近くでその様子をジッと見つめる
「…………」
「……サシャ、なんか手伝ってくれるか。見てるだけじゃつまらないだろ」
サシャは首を横向けにブンブン振る。余程やりたくなかったのか、結構強めに振っている。脳震盪にならないか心配になるくらいだ
それだけ拒絶されては無理に手伝わせる気にもならないので、今日も今日とて一人で黙々と作業を続ける
火を起こし、肉を焼き、卵も焼き、切っておいたパンにそれを載せていく
気がつけば太陽は昇り、鳥が鳴き始めた。マスターが起き出すのはこの頃。マナはもう少し後、完成した朝食を鼻元に近づけてやっとこさ起きるのである
「むぅ…………なんでぇ、今日もベーコンエッグかよ。これで五日連続だぜ」
「マスターおはよう」
「ベーコンエッグはこいつのリクエストだ。文句はこいつに言え」
予想通りマスターが起き出す。鳥の声で起きるとかこいつの不細工さにあるまじきメルヘンっぷりである。実に不愉快。不愉快なのでこいつのベーコンエッグだけ少し小さめにしといてやろう
▶▶▶
全員分の朝食を配膳し終わった所でマナを揺り起こし、顔を洗わせて皆で朝食を嗜む。別に料理が得意なわけではないがベーコンエッグだけは異様に人気、特にマナとサシャから好評である
暫くもしない内に食べ終わり、出した物を片付け出発の準備を手早く済ませ
次の目的地について熱く相談し始める
最大手はサシャ、明確に行きたい所を提示してくるので大概彼女の意見が通る。マナもサシャの味方というのも影響している。アレフの敗北は必定なのだ
「んじゃ、出発すんぞー」
「「いぇーい!」」「いえー」
今日も今日とて口論で負けたアレフは他の二人と比べて一回り低いテンションで手を挙げ、それを馬鹿にしたように笑ったマスターを軽くどつく。いつも通りの光景、いつも通りの朝
何処にでもある、なんでもない平和な朝。アレフはそれを噛み締めていた
サシャもそうだ。何気にマスターも喜んでいた。アレフと出会って以来スリルのある楽しい人生が味わえたが、たまにはこういう和やかな雰囲気も良い
そして、マナも……
「しあわせだなぁ……」
「ん?マナ、何か言ったか」
マナはふと考えていた事が口に出ていた事に気づき、慌てて口を抑える。父はそんな自分を見てて優しく笑っている。横ではサシャも微笑んでいる
マスターは知らない。でもきっと笑っている
どこを向いても笑顔がある。優しさに包まれているのが身に染みてよく分かる
以前自分は「母が欲しい」と父にねだった事がある。無理を承知でだ
それは自分と同じくらいの年齢だろう子供たちに憧れ、羨んだ。それだけだ
けど、父は結果的にとはいえサシャを旅に迎え入れてくれた
出来ることなら、この幸せがずっと続いて欲しい……そんな事を願うは何の変哲もない、いつも通りの朝だった




