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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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馬が人の言葉を発しちゃダメですか。

「んじゃ、続き話してくけどよ……これ、面白いか?なんか恥ずかしくなってきたし止めたいんだけどよ」


「あら、面白いわよ?持ちネタにしても良いと思うわ。ほら、だから早く話してー」


多分こいつは話の面白さ云々ではなく一を聞いてしまったら十までキッチリ聞かないと気の済まないタイプ……全何百巻という小説も読みきるまで寝ない、というタイプなのだろう。実に面倒くさい


まぁ、話してりゃいつか眠ってくれるだろうしもう少しだけ話そうと思う。

まだ若かった俺と、ムカつく駄馬との出会いを―――


▶▶▶


さて前回の続きという事で、場面はアレフが路地裏からえらく豪勢な厩舎を見つけた所から始まる。


「グェヘヘヘヘヘ………………!!!」


一体どんな悪どい事を思いついたのか大変汚ったない笑い声を上げ、ジッと物陰から厩舎を見つめている。若い頃とはいえ主人公がしていい顔ではないのだが、ここにはそれをとがめる者も居ない。故に結構な時間、アレフはそこで厩舎を見つめ続けていた


(人の出入りは少ない……中に居る可能性……いや、いけるか)


目測だけなので些か心許ないのは仕方ない。ちょっと餌を貰っていくだけだし、チャッと腹括ってやる事をやるとしよう


そう軽く心に決めたアレフは、極めて軽い足取りで路地裏から厩舎のあるメインストリートの方へ出る。時間帯が良いのか比較的人通りも少ない

やるなら今がチャンスだろう。むしろ今しかないと言える


「おじゃましまーす(小声)」


そのまま一切足を止めることなく、アレフはいとも容易く厩舎への侵入を成功してみせる

中はと言えば、牛や馬といった至って予想通りの生き物が専用の部屋にズラリと並べられていた。それは仕切りで区切られているが一つ一つの部屋がアレフの日頃泊まる貧乏宿よかよっぽど大きく、綺麗だった。自分は家畜以下なのだとアレフは暗い再確認をしてから本来の目的を思い出す


(餌は……あっちか)


扉から見て奥の方に山積みにされた家畜らのエサが見える。別に人が食うわけでは無いのだから良いのだろうがそれにしてもカバーもかけないとは案外ここの家畜らも大切に扱われていないのかもしれない。まぁそれでも自分と比べりゃよっぽどマシなのだが


「あぁそうだよ。黙っててもエサが出るだけ俺よか恵まれてんだよお前ら……ちくしょう」


牛や馬には毛ほども意味は伝わらないだろうが別に構わない。むしろどれだけ言っても反論されないのでドンドン不満が溢れ出てくる。それは恵まれた環境に置かれている動物らに対してだけでは留まらず、段々と国、世界全体への大規模なものに変わっていく


「だいたいなぁ!何で十五のガキが命賭けて盗みなんて働かなきゃいけねーんだ!何で世界はそんな俺を微塵足りとも許さない!訳わかんね!」


山積みのエサへツカツカと大股に歩きながら、もうそれはそれは大きく、そして怒気を毛ほども隠さず吠えたてる

どちらが獣か分からなくなってくるレベルだ

エサのもとへ辿り着いた後も溜まりに溜まった掃き溜めのような罵詈雑言を一頻り叫び一旦満足したアレフは肩で息をし、一度深呼吸する。獣臭い


「んじゃ、ちょっと貰ってくわ。悪いなお前ら」


気の済むまで叫び、気が済んだら食い物を堂々と盗っていく。そこらの山賊か野の獣と大差ない生きる「野蛮」と化したアレフは山積みのエサを両手いっぱいに持てるだけ持ち(ブーツは靴紐を使い腰にひっかけ、ぶら下げている)

サッサとこの場を離れようと出口へその身を翻す。と、視界の隅に何か動くものが見えたその瞬間アレフは歩く野蛮モードから瞬時に仕事モードに切り替える


(チッ……ちょっと騒ぎすぎたか。この厩舎の関係者か、はたまた屋敷の追っ手か……一番面倒なのは知恵の守護者の奴らか)


まぁあれだけ騒げば誰か来てもおかしくはない。だが、モードを切り替えても微妙に熱が冷めきらないアレフの脳はそんな事まで考えてはいない。今彼の頭の中には、誰が居るのか、何を持っているのか、どうやって逃げるか。の三つのみである

というかその三つさえキチンと抑えておけばいかなる条件でも逃亡は出来るというのがアレフの持論であった。これは先輩から教えて貰った「生き延びるコツ」とはまた別のヤツである


(他に出入り口は……窓高すぎんだろ。他に非常出入り口っぽいのも無い……やっぱ現実的なのはあの出入口だけか)


大抵こういった大きい建物にはわかりやすい出入口が二つ以上付いているのが相場なのだがここではその理屈は通らない。「エサを持って」逃げるとすれば入る時に通ったあの出入口ただ一つ

まぁ、何にせよ相手の姿を見てからで良いだろう。銃とか持ってたら即逃げる、素手ならちょっと相手してみる。そんな感じ


(スン、スン……あれ、なんか人の匂いしねぇな。ここが獣臭いからか?いや、でも古いのはあるよな……)


相手の位置を把握しようと、人並み以上と自負する嗅覚を使ってみたがイマイチ微妙な結果。というより謎な結果だろうか。ここが何処だとしても一切新しい人の匂いがしないとか頭おかしい。するのは先程路地裏から見ていた時に入っていった人間のものであろう少し古い人の匂い、それも微かなものだけだ。今忍び込んできた人の匂いは微塵足りとも無い。何度嗅いでみても変わらない。それに気づいたアレフは額に少し冷や汗をかき始める


(匂いのしない人類とか……魔法とか忍びとかしか心当たり無いんだが……いや魔法は有り得ないか、なら忍びか)


どの道クソ面倒臭い相手というのは変わらない……緊迫した空気が厩舎の中に広がり、それを肌で感じ取った動物らが激しく鳴き出す


(……エサ、諦めるか)


一般人ならまだしも、神出鬼没の忍を

食いもん泥棒の片手間で相手にするのは不可能と言える。こういう時は屋敷の時同様パッパと諦めて逃げるのに限る。そうと決まれば、サッサとエサをそこら辺に投げ捨てて逃げる姿勢を整える


「…………行くか」


逃げ道が一本しかない以上、進む道も一つ。家畜の入れられた部屋のどこかに「敵」が居るのだろうが、そこを通らざるを得ない。姿が見え次第ナイフで一撃喰らわしてやる


「…………」


スタ、スタとアレフが一歩進むごとに足音が響く。余程集中しているからか

他に物音が無いからか……よく響く

不意に、何か不自然な雰囲気を感じ取った。動物の居る部屋、基本的に一部屋に一匹という割り振りなのだが、とある一部屋だけ二つ影が見えた……ような気がする


アレフは手に持っていたナイフをグッと握りこみ、深く腰を落とす。対象の懐に飛び込む構えだ


「おい、いつまでも隠れてないで姿を見せたらどうだ。位置は掴んだ。言っておくが何時でも攻撃できるぞ」


「……」


返事はない。ついでに動きもない

少しでも姿を見したらそこにナイフを突っ込んで逃げるつもりだったのだが勘づかれたのかスカされてしまった


(もう、出入り口まで走りきるか?)


「なぁ何してんだ」


「え」


背後から、男の声が聞こえた

足音は無かった、気配も全く感じなかった。出入り口は一つ。自分の正面にある一つだけ。背後には無い


(な、何で後ろから声がすんだよ……)


ゆるり、と後ろを振り向く。一体どんな恐ろしい形相の人間だろう。やはり忍びが本筋だろうか、だとしたら取り敢えず真っ直ぐ逃げるのは諦め、よう

あきら、め……よう。いや、え?


「え?」


そこに居たのは、馬だった

立派な毛並み、筋骨隆々の体、えらく不細工な顔……うわ、本当に不細工だな


「お前、今俺の事不細工だと思ったろ」


それに人の言葉を喋っている。やっぱり忍の変身だろうか、というかそうであってほしい。変身にしては不細工だが……いや、本当に不細工なのだ。馬相手に同情してしまう程に


(いや、でも口にするのは不味いか?)


「……お前が人の言葉を喋る事に驚いてるだけだ」


「いーや、んなら俺の顔をそんな変な顔で見ねぇだろ。嘘までつきやがってこの野郎……と、それは一旦置いておくが、おめぇは一体どこの誰だ。ここに何の用だ」


「名前は言わん、生まれは忘れた。ここにはエサを分けて貰いに来た」


アレフは迷わずそう答える。

相手は忍、これ以上嘘をついてもどうせバレてしまう。変身……もとい変わり身の術は下手くそだがこの忍、人の心を読むことは出来るようなのだ


「ほーん……所謂盗人って奴だな?」


「あぁ、そうなるな」


「マジかよガチ犯罪者じゃねぇか。見つかったら即死刑なんじゃね?」


「有り得る。このブーツとか国宝らしいぜ」


相手が読心術つきの忍だとしても、何故アレフはここまでベラベラ喋るのか

それはこの馬……まぁ中の人はいるのだが、馬の顔がどうにも憎めない顔をしているのだ。まぁ不細工なのだが


「ふーむ……まぁ座れや。腹減ってんだろ?飯食おうぜ」


馬はそう言って先程アレフの捨てたエサを咥え、持ってくる。「ほれ」とそのままアレフに渡し、その場にドッカと座り込む


「座れよ、俺はお前に手ぇ出したりしねーからよ。の代わりに話し相手にはなってもらうがな」


「お、おぉ」


アレフも馬とエサを挟んで対になるように座る。何だかこの馬の言葉は信じれるような気がするのだ。何故だろうか、アレフの人生史上初めての感情、及び出来事である。やはりこの顔がキーなのだろうか……いやはや、本当に類を見ないレベルで


「不細工だなぁ」


「前言撤回。やっぱお前蹴っ飛ばしてやる」


と、いうのがアレフと馬、後のマスター初めての出会いであり最初で最後な大喧嘩の始まりであった


▶▶▶


「ふぁ……ねっむ。なぁサシャ、続きは明日にしないか?もう寝たいんだが」


「いやよ!アレフとマスターの喧嘩が気になるんだもん。ちょっと休憩したら続きを話してよね!」


虚ろなアレフとは対照的に煌々と目を輝かすサシャに閉口しつつも、何だか昔を懐かしむのも悪くないな……なんて頬を綻ばすアレフなのでした―――

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