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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
33/162

夜にする昔話はやけに盛り上がります。

「ねぇアレフ、マスターとの出会いを教えてくれない?」


森。月明かりすら届かないほど深く、暗い暗い森の奥底

そんな所でもほんの少し木々の隙間くらいは空いている。そこでアレフ一行らは夜を過ごそうとしていた。いつもの如く荷台の中に人数分の寝袋を敷き

さて寝よう。となった所でサシャのこの発言だ


「別に昔話くらいならしてやるが、何でよりにもよってこいつとの話なんだよ」


「えー?だって気になるし、ねぇマナ」


「うん。そういえばマナもきいたことなかった!おしえてパパー」


何だかサシャと旅をするようになってからマナのおねだりスキルが上がっているような気がする。こう体を寄せて可愛らしく言われてしまうと断れなくなる自分が恨めしい。しかし可愛い

暗箱(カメラ)で記録に残すべきか本気で検討してしまう


「教えてやりゃ良いじゃねぇか。大して面白くはないけどな」


まぁ昔話のメインキャストがそう言うのだ。これ以上嫌がっても味方はいないのだしこういう時はサッサと折れるに限る


「……わかった。わかったから寝袋に入れ。そして眠くなったら素直に寝てくれていい」


「「はーい」」


かくして、昔話「アレフとマスターの出会い」始まり始まり〜


▶▶▶


〜十五年前〜


アレフ十五歳、絶賛空き巣活動中


「へへへ、大量大量……っと」


ドタドタと忙しく階段を駆け上がる音がする。流石に窓ガラスを蹴破って三十秒、むしろやっとこさ動き始めたというレベルだ


(引き際の見間違えは盗人の終わり)


年上の同業者がクドいほど言い聞かしてくれた「長生きのコツ」の一つを頭の中で反芻させながら、自ら蹴破った窓ガラスから脱出を試みる、が


「げっ」


下に見張りが複数……ザッと見ても十人近くいやがる。その内二人がこっちを見て「見つけたぞ!」なんて叫んでやがる、これが最悪ってやつか


(冗談じゃねぇ……上にはいけねぇしな、どうしたもんか)


長生きのコツ二つ目、「決して上には逃げるな」その理由は上にそれ以上の逃げ道はそこに用意されていない、行けば袋小路……詰みだ


なら、やる事は決まっている


その時、バタン!!!とドアを開けるでなく押し破って、ガタイだけ無駄に良い大男、計五人が部屋に押し入ってきた


「お縄につけクソ泥棒!んで死ね!!」


全員手には剣や、モーニングスターその他諸々といった立派な武器を持ち合わせている。

片やアレフはと言えば短剣が一本、これでは到底捌ききれないだろう

それにアレフは背中にくくった袋いっぱいに詰まった宝、重量物がある


(長生きのコツ三つ目、諦める時はサッサと諦める……だな!)


また袋を買わないと調達しないといけないのは実に手間だが、こんな所で捕まるよかよっぽどマシだろう。アレフは自分の胸元をにある袋の結び目をガシッと掴んで大男五人と対峙する


「けけけっ……ンだよガキじゃねぇか。おいてめぇ、ンな仕事じゃなくて体でも売っぱらっちまった方が儲かるぜ?」


「ギャハハッ!こんな汚ぇガキ誰が買うんだよ、結局野垂れ死にじゃんかよ!」


その他三人も下品に大笑いし始める、どうやら油断してくれているようだ。


僥倖、これは思ったより簡単そうだ


「……なぁ、お前らこれの価値知ってるか」


そう言ってアレフが指さしたのは自ら背負う袋、もう片手は常に結び目を持ち続けているが、空いているもう片方で盗もうとした宝によってパンパンに膨れ上がった袋を指す


流石の大男らも脳まで筋肉で作られているわけではないようで、アレフの担ぐ宝入りの袋を見ると獲物を見る野蛮な獣の目に変わる。実にアレフと似たような目だ


「欲しいか?」


「そりゃあな。ま、いつか俺らがお前の代わりに盗み出してやるからよ。大人しく殺られてくれや?」


このよく喋る周りより一回りデカい男がリーダー格なのか、彼の言葉で他の四人がジリジリと距離を詰めてくる


万事休す。アレフは一体どうやってこの窮地を脱出するのだろうか

それは実に簡単で、単純な事だった


「…………じゃあ、やるよ」


ボソッと男らに聞こえるかギリギリのラインの小さな声で呟くと、小さな体を全力で捻った


「遠心力」軸となるアレフの体による急旋回、小さな体全部を使った全力。それは一般人を軽く凌駕するパワーを生み出した

さて、ンなもん生んで何になると言うのか?


「「「「あっ」」」」「は?」


部下四人は敏感に危険を察知し、リーダーは未だアレフの考えに察しがつかない。まぁ今更どっちでも関係無い

既にアレフの射程圏内である


「喰らえ脳筋野郎共!んで死ね!!!」


アレフの体から生み出されたぱわーを受けるのはその背に担がれた「重量物達」つまり宝、アレフは袋の結び目を掴む手に力を込めて「ぶん投げた」


「「「「「んがっ!!?!?!!??」」」」」


見事も見事、袋ごと投げつけられた宝は上手い事全部脳筋ゴリラ共の顔面にクリーンヒットし、鼻血と共に全員ぶっ倒れた


「いぇーい」


全くもってラッキー……まさか全員に当たるとは思わなかった。一人くらい当てて動揺させてその隙に……とか思っていたのだが、我ながら恐ろしい程にツいている


と、愉悦に浸っている場合ではなさそうだ。またもや階段から大量に駆け上がってくる音が部屋中に響いてくる

どうやらこの街の知恵の守護者らが騒ぎに感づいて来やがったらしい


「思ったより速いな……仕方ねぇ、作戦変更。ちょい手伝え脳筋リーダー」


鼻血を流し、白目を向いて無様にぶっ倒れるリーダーの首根っこを掴み

一切の躊躇無く「窓から投げ捨てた」

これ以上窓ガラスを割っても損しか無いので、投げ捨てるのは勿論既に壊した所からだ……と、問題はそこではない


「う、うわっ何だ!?」


「上から人が……!?おいあんた大丈夫か!」


場は上々、犯罪者が近くに居ると分かっていても怪我人が上から降ってくりゃ嫌でも反応してしまう。そこら辺が甘いのだが、まぁ人らしい反応で良いと思う……それを窓から見ていたアレフは、「いける」と確信し……飛んだ


入れ替わりで部屋に人が沢山駆け込んできたような気がするが知ったこっちゃない。こちとら既に空中だ


「あっ、おい!上からまた何かが!」


「なにぃ、また怪我人か!?」


騒いでる騒いでる。出来ればそこから退いてくれれば嬉しいのだがそこまで贅沢は言わない、先程あれだけの幸運を掴んだばかりだ。気をつけないとあっという間に足をすくわれてしまう


「いや違う!アイツは盗人だ!」


そう気づくや否や警備の男らは自らの剣を抜き、アレフが着地し次第確保する構えだ


「おいおい大層な出迎えだなぁおい!」


アレフは歓喜し、もうすぐそこに近付いた地上に腹ばいの姿勢で

それと同時に唯一捨てなかった「宝」でありこの警備がなりに硬い面倒な屋敷に来たの「目的」が起動し始める


アレフが地上に着くまで残り僅か五……四……三……二……


「構えぇ!!!」


(今だ!)


アレフはその瞬間、警備たちが空からの襲撃に備えるべく構えをとったその瞬間、「宝具」と呼ばれるこの屋敷最大の宝を起動し、未だ気絶する「餌」に釣られ集まった数人の警備を、一瞬で気絶させた…………そして、他の警備や駆けつけた知恵の守護者らがその場に辿り着く頃には、そこにアレフの姿は塵ほども残ってはいなかった


▶▶▶


アレフは先程の屋敷から一変、スラムとも言える程荒れ果てた路地裏をとぼとぼ歩いていた。手には「宝具」であるブーツを持っているが、何故か元気は無い俯いて、トボトボといった様子


「はぁ……」


溜め息と思い足取りの理由、それは今日の稼ぎが主な原因だ。何せあれだけの危険を冒して手に入れたのはこのブーツのみ……いや、これを売れば一攫千金間違い無し、というか裏ルートにさえ流せれば一生食いっぱぐれないだろう、がアレフはこれを売るつもりは毛頭無かった


何故かは後で語るとして、今はとにかく金がない。稼ぎもない。故に飯も無いという見事な無い無い尽くしである

いつもの様にゴミを漁るのもアリだが

せっかくの大仕事後……少しくらい豪勢にいきたいというのはワガママだろうか


と、その時だった。薄暗い路地裏の隙間からチラリと豪勢な「厩舎」が見えたのは……同時にアレフの脳内で良くないベクトルのシナプスが弾け飛んだのは―――


▶▶▶


「って所で一段落するんだが……寝たか?」


「起きてるわよー。マナは寝ちゃったけど」


見ればマナはすっかり眠ってしまっていた。寝てもいいと言ったのはこっちな手前文句は言わないが、やはり喋っている途中で寝られると少し心にくる

が、まぁ仕方ない。これ以上夜更かしをされて早起き癖がつかない方が困る


「ねぇアレフ、早く続きを話してよ。中途半端で止められちゃむしろ気になって目が冴えちゃう」


「へいへい……わぁったよ」


かくして、アレフの昔話はまだまだ続く―――


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