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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
32/162

女性陣は水辺で遊びたいそうです

『知恵の守護者』

人々から敬意の念を込めてそう呼ばれる、世界機構。この星の四方八方に広がる様々な国家を一纏めにし、絶対的な法を世界に広め、法を守護する……彼らは正しく、守護者だった。


「って、何でェ!この見出しはよォ。まるで今の知恵の守護者がァ、守護者してねェみてェじャねェか!」


「聞き取りにくいのでもう少ししっかり発音してください、ボス」


フカフカの椅子にドッカと座り、新聞を広げている一人の老夫。その横には

丸眼鏡に七三でキッチリ分けられた髪型、アンド皺一つ無いタキシード。という執事っぽい男の二人が朝っぱらから何やら大声で会話をしている

……大声なのは「ボス」の方だけだが。


「ふぅーむ……それで?これがァなんやと言うんじャ?おい、フーガ」


「ん、あぁすみませんボス……空を見ていました。本日も大変美しい晴天です」


「ボス」の眉間にシワがよる。彼は大変感情が顔に出やすいともっぱら評判なのである


「てめェ、俺の話聞いて無かったのかァ……えェ?フーガよォ」


「その新聞ですが、本日の帝都全体に配られております。発刊した部署は明日もそれに似たような新聞を出そうとしてるとか何とか……いかが致しましょう」


「無論潰せ。てか聞いてンならそう言えよ馬鹿ヤロゥ、コノヤロゥ」


フーガと呼ばれる男も、意地の悪い男で、怒るとわかっていて一度聞いていないような素振りを見せ、すぐに切り替える。のらりくらり、と言うべきなのかちゃらんぽらんと言われるべきなのか……判断の難しい人間である


さて……潰せ。と命を下されたフーガは「ボス」に一礼し、無言のままスゥッ……と姿を消した


「ッたくよォ……「忍」ッてェのはあんな面倒くせェ奴らばッかなのかッてんだよ、ッと」


何の為にフーガがこの新聞を渡してきたのか分かり、もうこれ以上読み込む必要も無いのだが他にする事も無いのでペラリ、またペラリと捲っていく

すると、えらく見覚えのある名前がチラリと見えた。写真もなく、文が少しだけあるだけだが間違えようもない


俺の知恵の守護者人生上最大の敵で、最も腹の立つ犯罪者……なァ俺はてッきり死んじまッたかと思ッてたわ


「なァ……「大犯罪者」よォ……!」


アレフ、そんな名前の男が、また何処かにフラっと現れた。なる文を見つめ「ボス」と呼ばれる男は静かにほくそ笑むのだった


▶▶▶


「うぅ寒……くも無いか」


「あら、風邪でも引いたの?無理しないで横になっても良いわよ、私が代わって番しとくし」


体を竦めて身震いしたアレフに、サシャが母親かと言いたくなるくらい気を使ってくる。心配されて悪い気はしないが、余計なお世話とも言える


「構わない、どこかで俺の噂をしているだけだろう。」


「パパ、うわさされるとさむくなっちゃうの?」


などと可愛らしくも純粋な質問を投げてきたのは我が愛しの娘、マナ。今日も実に可愛い。この女性二人は荷台の後ろの方でサシャが里を出る時に持参した本を読み漁っている。酔わないのかと心配だが、今の所その心配も要らなさそうだ


「お前の事噂してるとしたら、知恵の守護者の馬鹿共かサシャんとこの里長くらいのもんだろ。ププッ!」


「そうかもな。それよりお前の声を聞いて気分が悪くなった、死んで詫びろ」


マスターの尻に落ちていた木屑を投げつけ、アレフはバタンと荷台の中で横になる。実に良い天気だ

雲一つない美しい晴天。天晴れだ


「お!なぁアレフ、湖見つけた!」


マスターが緩やかに歩みを止め、右側遥か遠くを顔を巧みに使って指す

湖、それは素敵な知らせだった。何せ綺麗な水は街で買えばそれなりに値段が張る。飯屋に行けば、肝心の飯より水の方が高いというのもザラである。


女性陣も湖と聞き、目を光らせ本を置いて荷台からマスターの指す方向をジーッと眺めている。もう完全に行く気でいるようだ


「まぁ良い。マスター進路変更、湖」


「「「いぇーい!!!」」」


サシャを旅の仲間に向かい入れて数日

その間に得たアレフの見解は、子供が一人増えた。というものだ

マナは別としてサシャはアレフより100倍近い年を生きているのだからもう少し落ち着いて欲しい。そのせいかマナのテンションもいつになく高くなっている……まぁ良いのだけれども


流石に走るわけにはいかないので、いつもより幾ばくか速いスピードで荷台を引っ張っていく。女性陣も喝采を上げてマスターをどんどん煽っていく


結局、しばらくも経たない速さで目当ての湖のほとりにアレフらは辿り着いた


▶▶▶


刻進んで日暮れ、雲一つ無かった空にはすっかり夕の暖かな色が広がっていた。下着だけになり水浴びを存分に堪能したマナとサシャは、アレフの起こした焚き火に当たり、体と服を乾かしている


つい先日サシャに色香を感じたばかりのアレフだが、改めてこう見てみると

街に行けばそこら辺を走っている子供となんら変わらない。エルフ特有の肉付きの薄い……よく言えばスレンダーな体もそういった感想を抱かせる

まぁ要するに子供っぽいのだ、このエルフ。


「おいお前ら、毛布持ってきたから服が乾くまで被っとけ」


「お、気が利くわね。」「パパありがとー!」


前述の通りこちらからすれば手のかかる子供が一人増えたくらいのものである。大した負担にもならないので、どうって事は無い。食料の減り方が少し速いのでどこか街に寄らないといけなくなってしまったのは予想外だったが


「おいマスター、水は汲めたか」


「馬に、水汲み、頼むような奴はぁ世界中でおまえだけだぜ!……よっと」


ちゃぷん、ちゃぷんと一歩ごとに水をこぼしながら器用に大きな鍋を頭に乗せてマスターがこちらに歩いてくる

それを確認してから、荷台に積んだ木箱から幾つか野菜を取り出し、手早く処理する


「マナもやるー!」


「服を乾かしてからにしろ。それにマナには大事な仕事を用意してある」


毛布で自分の体を包みながら、マナがオネダリしてくる。流石に濡れた下着だけで料理の手伝いをさせる訳にはいかない(火傷等が怖い)ので、片手でそれを制し、代わりに仕事を用意してやる。これは以前サモラに行った時にターキから教えて貰った子供のオネダリ、ワガママを制する効果的な方法らしい。流石に子持ちの父親は説得力があった、勿論効果もあった。おかげで

元々素直で良い子のマナが割り増しで良い子になっている。天使にでもなりたいのかというレベルで尊い


と、言うわけで


「アレフ、今日の夕飯は何だ?」


「ポトフ」


マスターから水がいっぱい入った大鍋を受け取り、二つの取っ手にそれなりに長い木の棒を通す。それを焚き火の傍に準備しておいた支えに乗せ、位置を合わせる


「これで準備は完了だ。サシャ、お前こんなの見た事ないだろ」


「えぇ、アレフって結構頭使えるのね……もう少し馬鹿なのかと思ってたわ」


全く悪びれる様子もなく平然とサシャが言う。マスターは(あ、これアレフ怒るやつだ)と思ったが、その意に反してアレフは決して怒らない。それどころかニッコリ笑ってみせた


「……何笑ってるの?私、顔に何かついてる?」


「いぃや……別に」


不気味な笑みを浮かべたまま、大鍋が到着するまでの間に下準備を済ませておいた野菜たちと、一口サイズより少し大きめに切ったウインナーをそれなりに鍋へとぶち込み、それをかき混ぜるようのレドル(要するにおたま)をマナへと渡す


「これに胡椒を適宜加え味を整える。マナ、お前を信じてこれを託す……頼むぞ」


これもターキから聞いた技で、子供、その中でも特にマナのような責任感の強い子に「頼む」と一言添えるだけで、集中力はもちろん、より強い責任、そして何より自分への自信が身に付く

らしい、これは初めて使うので効果の程は知らないが、信頼足りうる言葉だ

それに、マナの目に熱意の炎が浮かんだ辺りこれまた効果のある話なのは間違いないだろう


結局、マナはそれから誰の力も借りずほぼ一人でポトフを作り上げ、父から感謝の言葉と暖かい抱擁でもてなされた。そして、やっとこさ夕食の時……


「な、何で私の分が無いのよ!」


サシャは喚いていた。アレフ、マナ、そしてマスターまで自分の皿を用意し、ポトフをレドルを使って皿の中に入れ、皆すっかり食べる準備万端なのに自分の皿だけ無いのだ。

喚いて当然とは言わないが、仕方ない


「サシャ、うるせぇぞ」


「うるさくないわよ!だって――ヒッ!?」


「俺の事を馬鹿と言った罪だ。黙って待ってろ、そしたら後で冷めたポトフを腹いっぱい食わしてやる」


アレフがギロリと睨み、喚くサシャを抑え込んで温かなポトフを食べ始める

(ここでいただきますを言わない辺りマスターに育ちが悪いと罵られる原因なのだが当の本人は一切気にしていない)


そのマスターもマスターで、せっかくの温かい飯だとサシャの事など気にも留めず自分の分を食べ始める。残るはマナだけだが、案の定オロオロしている


何故か今日は父が意地悪だ。何故だろうか、サシャと喧嘩でもしてしまったのだろうか


(それならサシャがパパにごめんなさいすればいいんだけど……)


それは恐らくありえないだろう。ここ数日、四六時中共に過ごしてみてわかったのだがこの綺麗なエルフ、大変プライドが高い。謝っているどころか自分の非を認めている所など見た事も無い


けど、どうにかして皆全員でご飯を食べたい。せっかく温かい料理を作ったのだ、味に正直自信はないが皆で食べれば幾分マシになるはずなのだ、それに一人で食べるご飯なんて寂しいにも程がある


(せめて何かお皿があれば……うーん)


「……………………………………あっ」


「ん、どうしたマナ?何か居たか?っておい!マナ!?」


「ちょっともってて!」


何か思いついたのか、タタタッと湖の方へマナは駆けていく。目当ては湖に入ってすぐ、あのえらく粘り気のあった土だ


以前、どこかの街で「粘土」なるもので遊ばせて貰った事があるのだが、もしかしたらその粘っこい土なら粘土同様形を整形し、固める事も出来るかもしれない


マナは体を包んでいた毛布を外して、躊躇い無く湖の中へ入っていく


「ここだ……!」


早速目当ての感触を見つけ、すぐさま水の中に潜る。目を開けたりは怖くて出来ないが何処に何があるかは大体わかる


(このくらい、かな?)


適量手に掴み取り、頭を湖から出す

心配だったのか父も来てくれた。その優しさをサシャにも向けてあげて欲しい……いや、それで自分に向かなくなったら嫌だからやっぱり良いや。その分私がサシャに優しくしてあげれば良いんだから


何て考えながら、土を両手に抱え必死こいて湖からでたマナは、アレフに採れたての土を見せる


「はぁ、はぁ……これ、かためたら、おさらになるかな?」


「お前これを取りに湖に!?…………いや、うん。そうだなそれで形作って焼き上げれば土器になる、と思うぞ」


自分の娘は一体何をする気なのだろう

アレフは心配そうにマナを見つめる

水中は思ったより苦手だったのかいつになく息が荒れている。大丈夫だろうか


そんな心配をよそにこれで皿が出来ると確信したマナは急いで、土を練る

出来るだけ綺麗な形に仕上げたいが何分そこまで手先が器用な方ではない

ある程度で妥協してしまう


(このくらいでいいよね……!)


やはり今回も形は妥協し、あまり綺麗とはいえない形で手を止めてしまう。

まぁ皿としての機能は充分に果たせそうではあるので問題が無いと言えば無いのだろう。


さて、問題はここからだ。皿にするにはここから「焼き」をしないといけない

焼きすぎると焦げ屑も残らないだらうしかと言って弱すぎても意味は無い……だがしかし、試すには良い機会だろう


「パパ、ちょっとはなれててね!」


「何をする気だマナ、ちょ、お前まさか……!」


アレフは感じた、マナが魔法を放つ時必ず現れる空気の機微、これを感じたという事はマナはこれから魔法、炎を放つつもりなのだろう。だとしたら大変危ない、アレフは慌てて距離をとる


それを視認したマナは準備完了と言わんばかりに一、二回と軽くジャンプし

これから放つ魔法の威力、その最終微調整をしていく


(うまく、いきますように……!)


その日、いつもに増して夕焼けが紅く美しかったとそこらの街で話題になった。しかし、その原因は誰も知らず

まさか、一人の少女がそれをやったと言っても誰も信じなかっただろう……


え?結局皿を作るのは上手くいったのかって?……いきましたよ。マナが頑張ってお手製土器を作っている間に、レドルを使って大鍋から直接ポトフを食らうガサツで無遠慮なサシャを見て

もう一発、派手に炎をぶちかましていましたけどね(笑)


それでは、またいつかお会い致しましょう。地の文でした。

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