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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
31/162

エルフが仲間になりたそうにこちらを見ています。

朝も朝、お日様が顔半分くらい出した頃。エルフの里、その入口辺りで一悶着起きていた


その中心に居るのは我らがアレフ一行

と言ってもアレフやマナが脚光を浴びているわけではなく、どちらかと言えばマスター目当てに群衆は集まっていた


「達者でなマスター」「気をつけてなマスター」「辛かったら帰ってきてもいいのよマスター」「むしろ里で暮らせよマスター」


なんてまぁ、普段からは考えられないほど大人気である。当の本人(馬)も満更でも無いようで頬を赤らめ、しきりに照れている


「止めろよお前ら、見送りなんて照れちまうじゃねぇか!アッ(ハッハッハッハッハーー!!!!」


騒がしいにも程がある。荷台の方とはいえまだマナは寝ているのだからもう少し気を使って欲しい。冗談抜きで


「おいアレフ、気ぃつけてな。ほら、これは昨日襲った詫び……まぁ、里からの餞別として渡さしてくれ」


「ん、あぁ……何だこりゃ」


渡されたのはそれなりに大きな壺で、見た目だけ若い老エルフなこの里長一人ではえらく重そうだ。両手をプルプル震わせて壺を持ち上げている


(これで昨日マナに飛びかかって行ったんだから勇気あるよなぁ)


それを受け取り、すぐさま中を開けてみる。万一爆薬でも仕掛けられていたら迷わず森の中に放って里ごと燃やし尽くしてやる。


「……?これは、梅か?」


「うむ、保存食は様々な場面で役に立つ。それがワシ秘蔵の梅なら尚更じゃ」


このジジイえらく自信満々である。だが長時間保存のきく食べ物は乾燥肉とかしか持ってないので、いい加減飽きてたのだ。実際、こういう餞別は死ぬ程有難い


「にしても、我が娘サシャは一体何処に行ったんじゃろ。お前らが旅立つというのに昨日から全く姿を見ていないのじゃが……」


ドキリ、アレフの心臓が跳ね上がり冷や汗が突如こめかみを流れていく


「や、俺も知らんな……昨日夜中まで話し込んだからな、ここに来る途中で果てて寝てしまったんじゃないか?道端とかで」


「あぁ……確かにそれは有り得るかもの。あれで肝心な所は抜けとる子じゃ」


何とか信じてくれたようだ、がいい加減バレそうで怖い。おそらく「あっち」も限界のようで荷台にかなりの数載せた木箱がガタガタ揺れ始めている気がする


「おいマスター、さっさと行くぞ。太陽が登っちまう」


「あーへいへい。ったく……何で日の出ちょい前に里を出なきゃいけないのかね……ったくよー」


なんて、マスターは非常にぶーたれる

まぁこちらの事情はマナ同様一切伝えて無いので俺が何故こんなに焦っているのかは知らないから、多少は仕方ないと笑って許す


「良いからよ、次に行きたいとこが出来たんだ。名残惜しいのはわかるけどよ……おい、マスター。聞いてるか?」


「聞いてらぁ!!なぁやっぱ上の奴らは腹立つよなー!お前らも今が好機だ、里長の野郎に目一杯愚痴垂れてやれ!」


「そーだ!」「里長様ばっか酒呑んでズルいぞ!」「そーだそーだ!」「歳のせいにして働かなさ過ぎだ!」「口調無理やり変えて年寄りアピールしてんじゃねぇ!」「「「そうだぁぁ!!!」」」


と、マスターが地雷か何か知らないが見事踏み抜いたようで、一気に民衆から感じる熱気が増していく。むしろ冷や汗が増していく辺り俺もおかしくなってしまったのだろうか


(いや、俺は正常。んでこれはチャンスだ!)


「おい里長、言われっぱなしじゃ自慢の娘に笑われるぜ」


「……娘に笑われなくとも、ワシは今しがたプッツン来た所じゃ。言われんでもやり返してやる。もちろん」


俺の肉体をもって!と言い切る前にマスターの近くに群がって騒いでいた民衆らに体一貫で突進していく。その勢いたるや老人とは思えない覇気である


「お、おいアレフ!助けてくれぇ!」


ついに乱闘騒ぎとなって土煙が荒く立ち昇るそんな中、一つの情けない涙声が響く。考えるまでもなく駄馬、マスターだろう


いつもならうるせぇ馬鹿!駄馬!と罵り倒す場面だが、この場に関しては自分にも責任があるのであまり苦言は残さず、盗人家業で仕込んだ身のこなしで喧嘩に夢中なエルフ共をかき分け、マスターを引っ張り出す


「エルフってよ……童話じゃもうちょい知的だよな……?」


「あぁ、マナが寝てて助かったな。こんなの見たら幻滅しちまう」


今更な気もするが……まぁ、大人の喧嘩なんてどの道見せるものじゃないので、もう別れの挨拶も待たず

一方的に「じゃあな」とだけ言い残して二人と一頭はエルフの里を後にした


▶▶▶


「ふわぁ……んん、んあ。パパ、おはよ……おうまさんも」


「「おう、おはよう」」


里を出てそれなりに時間も経ち、太陽もすっかりその体を空に出し切った頃

やっとこさ寝坊助のマナは起きた。そろそろもう少し早起きの習慣をつけてやりたい


と、寝起き一番

マナが何か勘づいたように鼻を鳴らす


「スン……スンスン、ねぇパパ、なんかサシャのにおいがする」


「ん、そうか?」


「はっはっは!サシャの匂いはちょいとキツイんじゃないか!?あの魔法オタク、偶に風呂も入らず部屋に篭ってるって里長が言ってたぜ?」


マスターの戯言は軽く流し、アレフは事前に準備しておいた一冊の本をマナに手渡す


「……これ、あ!これ、きのうの!」


「あぁ、サシャがお前にあげるってさ

匂いはそれのせいじゃないか?」


そっかぁ。とマナは嬉しそうに目を細め、本をギュッと抱き竦める。そういう事をしそうだと事前に本の表紙をよく拭いておいたのが功を奏しそうだ

何せ元が埃まみれだったから、そのまま抱きつかれちゃ服まで埃だらけになってしまう。


「……もう、さとでちゃったの?サシャにおれい、いいたかったなぁ。」


「まだ届くんじゃないか?大きな声でありがとう、って言ってみたらどうだ」


一瞬、とても残念そうな顔をしたマナだったがアレフの言葉を聞いてすぐに前を向き、立ち上がる

こういう時はマスターも気を利かす。

来た道を約180度回転し、エルフの里があるであろう(見えないが)方向に荷台を向けてやり、そのまま停止する


スゥゥ……と、マナは深く息を吸い込む。魔法についての知識を沢山教えてくれた、父やマスターとはまた違った「恩人」とも言える、美しいエルフに向けて全力の感謝を絶対に届ける為に


そして


「サシャーーーー!!!ほん、ありがとおぉぉーーー!!!!」


……シン、と静寂に包まれる。目立つ山もないこの辺りではこだますら存在しないので、マナが叫んだ後は「風の音」ぐらいだけしか、しなくなってしまった


「……ねぇ、パパ。とどいたかな、マナのこえ」


「ん、届いたんじゃないか?なぁ?」


「うん、凄い届いたわ。そんなに喜んでくれるならもう少し持参してきたら良かったかしら」


まぁ、そんな感じである。この後マナとマスターは飛び上がる程驚き、落ち着いてから何故こうなったか等を懇切丁寧に説明してやった


「はぁー……なるほどなぁ。さすがアレフ、驚かしてくれるぜ!……何だよサシャ、えらく顔が近いじゃねぇか」


「いやぁ……私、臭うかしら?」


「いや全然、自然な香りがしてとても素晴らしいです、はい。あの、拳収めて?怖いし、なぁサシャ……ダメだ!アレフ助けてくれ、こいつガチギレしてる!」


「『飛べ、下郎め』」


サシャの単語二つの短め詠唱による風魔法がマスターの顎を撃ち抜き、そのまま体を空彼方へと吹っ飛ばす


と、まぁ一悶着あったが

これにて当分の間、いつもの「二人と一頭」でなく「三人と一頭」になる事が確定した


荷台は随分と多いサシャの荷物のせいでかなり重量を増すだろうが、そこはこちら(主にマスター)がカバーする。問題は無い……あるとすれば


(次に里へ行ったら俺は里長にぶっ殺されるんだろうなぁ……)


なんて心配くらいである


かくして旅は再開する、一人増えようが旅の目的は決して変わらない。ただ

少し騒がしくなる事は、必然だろう

そうなればいつもより多く会話をし、いつもより多く飯を用意し、いつもより寝袋を多く敷いて、いつもより多い人数で夜を過ごすのだ


旅は終わらない。様々な形に変化をし、色もどんどん変わっていく、だが終わらない、旅は、終わらない―――

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