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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
30/162

夜二人で歩く道はやけに美しく思えます。

「ほんっと……景色だけは綺麗だよな」


「昼は花の色合い、夜は月の光。まぁそれだけの所だけどね。ご飯も不味いし」


自分の父親が居る時とは打って変わってすっかり上品さを欠片ほども失ってしまったサシャ、その横で久々に見る景色を堪能しているのは我らがアレフである。サシャ家で死ぬ程魔法に付いて話した後、疲れて眠ってしまったマナを荷台の中に寝かしてやり、これまた眠りこけていた里長とマスターを素通りして二人は今、里の中でも民家の無いより森に近い部分を歩いていた


「何年ぶりだっけか、ここに来るの」


「十六年と五ヶ月よ。しっかり記録してあるわ」


アレフの何気無い言葉に、間髪入れず

それも自信満々にサシャが返す。先程からこれを何度か繰り返していた。

こうやって喋っていると、見た目相応の少女にしか見えないのだが、これで300歳……アレフの十倍は歳を重ねているのだから驚きだ


(まぁそんな事口に出したら怒るのは見えてるし言わないけどな……)


この手の驚きは自分の中で留めておくものと古来より相場が決まっている。


さてさて、そんな二人は何処に向けて歩いているかと言うと、サシャが「アレフが驚きそうな所」と薄い胸を目一杯張ってこれまた自信ありげに言ってみせた所だ。つまり目的地の場所はサシャしか知らない


これが罠で、目的地には里のエルフが大量に待ち構えている。なんて可能性もある、がアレフは取り敢えず行ってみることにした。勿論サシャを信頼している、という理由だけではなく。今のサシャが他のエルフと「協力」して獲物を仕留める。なんて事をしそうに思えなかったからである


何故そう思ったか。理由を一つ挙げるとするなら、それはエルフの里に入ってすぐの彼女らとの戦闘、その後仲間に回復魔法による回復を行っていた時の「目」だろうか


その目には慈愛が無かった。優しさ、慈しみ、仲間を見る時多少なりとも入るその感情、それがサシャの目からは欠落していた


人の目、その中を見ることを人一倍得意とするアレフはその事を素早く見抜いた。それと同時に疑問にも思った

以前……サシャが言うには十六年と五ヶ月前、ここに来た時に出会ったサシャと言う少女はもう少し仲間とのコミュニケーションを取っていた。笑顔も少なからず見れた、だが


何故か今横を歩くサシャは微塵とてそんな気配はない。俺やマナ、マスターのような客人に対しては普通に接してくれるが、里を歩いていて度々見かけるエルフらには目すら向けない。眼中に無い、と言わんばかりに無視していった


「……お前、何かあったのか?」


「そりゃ300余年生きてたら何かしらあふわよ」


「いや、そうじゃなくてだな……」


やらかした、思わず口に出てしまった

こうなると後には引けない、アレフはそういう性分だった。どうにかしてでもサシャの悩み?を聞き出したくなる


そして、こういう時は真っ直ぐ、回りくどい言い回しなんかは無しにして聞くのが一番早いと、盗人家業で心得ている


「サシャ、お前里の皆と喧嘩でもしたのか?っていう意味で聞いたんだ」


アレフの方をジッと見ていたサシャはそれを聞き、ピタリと足を止める


「……喧嘩、喧嘩ねぇ。」


そんな事をボソッと呟き、アレフの事なんか気にも留めずまた歩き出す


「おいサシャ」


「着いたら話すわ」


そう言ってまた歩く、慌てて横につけたアレフはサシャの目を見て驚いた。

それは、ここじゃないどこか遠くを見つめる寂しい目だった。まるで籠に入れられた外に夢見る小鳥のような……


そして、とても美しかった

今までサシャに抱いた事の無い類の感情、恋慕ではない

ただ、そんじょそこらの美術品なんて比べ物にならない。いや、一流の美術家でも作り上げられないような……


「アレフ?早く来ないと置いてくわよ」


「あ、あぁ」


すまない。とまでアレフは言ったのだがサシャはそこまで聞く前にもう前を向いて歩き出してしまった


▶▶▶


それからしばらく


「ふぅ……見えた見えた」


「今日は」えらく時間が掛かったと、サシャは続ける。アレフも、サシャがどこを見てそれを言っているのか一目でわかった。まだ少し距離はあるが、明らかに他とは違う。夜月の明かりが生い茂る木々の隙間から漏れ出ていている開けた空間、まるでそこだけ別の世界のような幻想的な雰囲気


それから一、二分歩いて二人は目的の場所に辿り着いた。遠くから見ても綺麗だったのだ、近くで見ればもうそれはそれは美しい。里は基本的に背の高い大樹によって空を覆われているのだが、今二人が居る半径5m位のこの空間だけは開けている。夜月が地面を照らし、星たちが煌々と輝いている


「どう?綺麗でしょ」


「あぁ……ヤバいな、これ」


思わず語彙を軽く失って、若者のような口ぶりになってしまった。しかしそれくらい凄い綺麗なのだ、空はまるで一枚の絵のような……それはどこを見渡しても同じように、まさに風光明媚

と言える。そして極めつけはサシャだ


先程変に意識してしまったせいで、この景色も相まってとても綺麗な女性に見えてくる。


(ま、不味いな……)


ここで女性、特に知人と変な関係になってしまうと後々面倒な事になる。直感でそう悟ったアレフは途端に冷や汗をかき始める


何てアレフが色々考えている間に、サシャは空間の真ん中、台座のように置かれた切り株にゆっくり腰掛ける


「ほらアレフ、ここ」


トントン、と自分のすぐ隣を指し、早く座るよう促してくる。アレフは一瞬断ろうかと悩んだが、段々とサシャの眉間にシワが寄り始めたので大人しく座る事にした。何せ相手は魔法使いのエルフ。マナならまだしもたかが元盗人のアレフでは太刀打ちしようもないのだ


「……何よアレフ、もしかして緊張してるの?」


「だ、黙れ。お前みたいなガキ臭い奴に緊張なんかするかよ」


アレフのあまりにも必死な弁解が面白かったのか、サシャは口元を手で隠しクククッと小さく笑う。その仕草もまた嫌に女性らしく見えてきて、アレフの動揺は更に加速していく


(ヤバい、ヤバいな。汗が止まんねぇ)


今になってサシャに異性を感じるとは思わなかった。こんな所で思わぬアクシデント、ピンチ、生命の危機……!


(そ、そうだ話題を変えよう!)


「で?さ、里の皆と何があったのか聞かしてもらおうか?」


少々声が上擦ってしまったが問題無い

サシャはアレフの方をチラッと横目で見て、それから遠い、遠い夜空を愛おしげに見つめる


暫く、場はそのまま静寂に包まれる

もどかしさに押し負け、アレフがもう一度サシャに話しかけようとした瞬間、一瞬早くサシャの口が開いた


「一人なの、私」


「……は?」


星明かりに照らされてるからか、えらく潤んだ目を夜空に向けサシャはそう言った。そして、対のアレフは間抜けな声を漏らした


「この里で魔法を使えるの、私一人だけなの。だから魔法について他の人と話したのも今日が初めて……説明が下手くそだったのはそのせい……にしたら駄目、だよね」

「ねぇアレフ、魔法って何が出来ると思う?」


急な問いかけにアレフは一瞬戸惑うが

先程のサシャへ感じた感情よりかは対処しやすいと、直ぐに持ち直す


「何が出来るって……そりゃ色々出来るんじゃないか?」


と、アレフが軽くそう言うとサシャの握り拳が頭にぶち当たる。「いてっ!」と驚いてサシャの方を振り向くと、そこには眉間にシワを寄せて少し頬を膨らませたあまりにも分かりやすく不機嫌なサシャの顔がすぐそこにあった


「アレフ、魔法はね……そんなに便利なものじゃないの。色々なんて出来ない

出来る事しか出来ないの……わかる?」


「お、おぉ……そ、そうなのか。なんかすまん、謝るからそんなにむくれるな」


手を合わせ、謝罪のポーズを取って謝るとサシャは幾分落ち着いたのか取り敢えず頬を膨らますのを止める


「はぁ……里の皆もそう、自分に使えないからって魔法に夢を見てるの。何でも出来て凄い便利な物だって」


それなりに深く座っているので軽くブラついている足をブラブラと揺らしながら、サシャはポツリ、ポツリと言う


「でもね、使い過ぎたら倒れちゃうし溜め込むとオーバーロードするし、マメに使って体から魔力出さないと体調崩したり……色々不便なの。知らなかったでしょ」


「あぁ、知らなかった……へぇ、そうだったのか。」


「ふふっ。それでね、私旅に出たいの!こんな狭い所で一生を終えるんじゃなくて、外に出て、魔法の知識をもっと深めたいの!本を読むだけじゃわからない事ばかりだし、満足に人に教える事も出来ない……そんなのつまらないもん!だから―――」


段々と語気が強まっていく。と同時に

アレフはサシャに対して動揺など色付いた感情は一切飛んで、代わりにいやーな予感を感じた。次にサシャが何を言うか手に取るようにわかってしまう


「「旅に連れてって」」


男と女、二人の声が綺麗に被る。


「な、何で私の言う事わかったの!?」


サシャは驚いて、目を見開いている。

先程から思っていたが、こいつは結構感情が顔に出やすいタイプの奴らしい

前から知っている奴だと侮っていたがまた新しい発見をしてしまった。と

サシャの疑問にそろそろ答えてやらねば


「……魔法使った」


まぁ、真面目に答えるつもりも無いが

(先程無駄にドキドキさせられたお返しである)


「ま、魔法!?アレフ魔法使えたの!」


その後、騒ぎに騒いだサシャの大声で寝ていた奴や、家(木)の中でゆっくりしていたエルフらがこぞって家(木)から飛び出してきたのは言うまでもない


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