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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
29/162

魔法使いの話は長ったらしいと相場が決まっています。

「はい紅茶、マナにはホットミルク」


サシャは慣れた手つきでテーブルにカップを並べる。アレフ、マナ、そして自分の分を並べ終えると、木で出来た小さな椅子に腰掛ける


「改めて私の名前はサシャ……アレフは私の事覚えてる?」


「あぁ、覚えている。前に見た時と雰囲気が何も変わっていないから驚いた」


たかが数十年前の事だ、長寿のエルフからしたら僅かな時間なのだろうし当たり前の事ではあるが、普通の人である以上何度見ても慣れない、少しビックリしてしまう


と、マナの反応が一切無かったのが気にかかったアレフは、横にチョコンと座る娘の方を見てみる


「……おい、マナ」


「え、あ!ご、ごめんなさいパパ……」


何をしていたのかと言うと、もうそれはそれは死ぬ程キョロキョロしていた

品に欠けると、先程軽く叱った所だったのでまた懲りずにやっている事が少し意外だった。基本的に叱れば、同じ過ちを犯すような子では無かった為だ


「構わないじゃない。マナちゃん、こんな家初めて見るでしょ?」


「う、うん……ここ、とってもすてき!かわいくて、おしゃれで……おちつく」


「だってさ、アレフ」


「はぁー……わかったわかった。でもマナ、こいつに聞きたい事があるんだろ」


叱る事を諦め、代わりにコツンと軽く握った拳でマナの小さな頭を小突いて

そう言うと、マナはハッとしたようにサシャへと体ごと向き直す


「まほう!おしえてください!」


「無理ね」


一刀両断、たった一言でマナの願望を断ち切ってしまった。あまりの無作法

そしてあまりの遠慮の無さ。このサシャの挑発と取れる行動に一早く反応したのは他の誰でもない、アレフだ。

手前に置かれた紅茶を一息に煽り、ドンとカップをテーブルに叩き付ける


「……理由は?何となくだとか言いやがったら家どころか里中に火ぃ放つぞ」


「そんなんじゃ無いわよ……えーと、ほらアレフ、何時までもカッカしてないでそこに置いてる本を取って」


サシャが指差したのはテーブルより向こう側、無造作に本が山の如く積まれている所。本を取れと言われても一体どの本なのやら……と、重い腰を上げて取り敢えずそちらに向かったアレフは一冊の本に目を留める


(これは……エルフ式魔術の言語訳版か……サシャが言ってたのはこれか?)


一先ずそれを手に取り、軽く積もった埃を払ってから椅子に座るサシャへ見せる


「これか?」


「うん、ノーヒントでよく分かったわね。流石は盗人と言うべきかしら?」


「残念、もう盗人家業は引退したんだ」


それなりの大きさと重量を持つ本をテーブルの上にドン。と置き、アレフは先程自らが座っていた椅子に座り直す

元々サシャの行動に怒った訳ではないので、そこまであからさまな態度はとらないが、少し不満があるのは事実だ

せっかく本を取ってきてやったのだから、それを使って「魔法を教えない」という事に、さぞ満足のいく説明をしてくれる事だろう


アレフは、殆ど空になったカップを持ち上げ、僅かに残った紅茶を啜り上げるのだった


▶▶▶


さて、こんな所クソ喰らっちまえとエルフの里大嫌い症候群な馬、マスターはというと例の如く留守番を頼まれていた


本人は外の匂いを嗅いでると鼻が腐りそうだから中に入れろと延々グズっていたのだが、ついにアレフから一言

「うるせぇ」と言われマスターは大人しく諦め、黙って家……大樹の前で待つ事にしていた


(にしても臭ぇ、そこら中から魔力に侵された自然の匂いがしやがる……あれだ、薬品の匂いとすげー似てる)


「あぁ……早く終わんねーかなー」


と、向かいの大樹。その上の方から何か落ちてくる。エルフの里長だ

戦いの片付けをしてから向かうと言っていたので、それが終わったのだろう


「まだまだかかるじゃろうよ。残念ながらな」


「はぁぁ……っておい、何でお前もこんな所で座り込んでんだよ。家に入れよ」


何故か里長は、自らの家に入るのではなく、マスターの横、野っぱらの上にドッカリ座り込んでしまった


「貴様らは魔法の知識を得に来たんじゃろ?ならワシが行っても仕方ない。何せ魔法を使えないんじゃから……」


「やっぱ、もうここで魔法を使えるのはサシャだけなのか?」


里長は重く頷く。少し見ない間にすっかり老人っぽい仕草や口調になってしまったが、見た目だけで言えばアレフよかよっぽど若い。まぁそれでも御歳800くらいにはなるこのエルフは千年生きれば長寿と言われるから、中々の老人と言えるのだろう……見た目は変わらないが


「もうその見た目変わらないのが魔法みたいなもんだけどな、俺らからしたら」


「はっはっはっ!そうかそうか」


里長は顔を上げ、さも嬉しそうに笑い

ポンポンとマスターの大きな体を叩く

しばらく笑っていた里長は、急にシン……。と頬に笑みを浮かべたまま静かに空を見上げる


「まぁ、今暫く待とうよ。暇潰しくらいならこの老いぼれにも出来るから……」


「……はぁ、わかった。わかったよ」


里長の言葉の端々に微かな絶望の念を感じてしまったマスターは、それ以上の抵抗を一切諦め、共に暇を潰す事にしたのでした


▶▶▶


「マナ、魔法を使う時何を考えてる?」


「えっと、からだのなかにあるまほうをこう……まんなかにあつめる、とか」


アレフの持ってきた本を広げ、サシャとマナは頬をくっつけて中を見漁っている。アレフはと言うと完全に蚊帳の外、居ないもの扱いである


先程からしきりにサシャが質問し、マナが少ない語彙から必死に言葉を選び

出来る限り分かりやすいよう返していく。というのが続いている

端的に言って「魔法を教えてもらう」というのは断られてしまった。聞くとサシャの使う魔法は全て古代から伝わるエルフ魔法ならしく、人がそれを操るのは「無理」らしい。故に自分の使う魔法は教えれない。と言われてしまった


ならばと諦めの悪いマナは、魔法の暴発を防ぐ術をサシャに問うた。流石に全部突っ撥ねるのは申し訳なく感じたか、サシャはそれを受け入れこうやって本を使って完璧にマナの問いに応えようとしている……という訳だ


(チンプンカンプン、って奴だな……俺もマスターと一緒に外で待ってりゃ良かった)


そしてアレフは今更ながら後悔していた。さっきからどちらに話しかけても返事は一切返ってこないし、名前を呼ばれたかと思えば「紅茶お代わり」「みるくちょーだい」である。悲しい


マナは別として、サシャの遠慮が全くと言っていいほど無い。知人とはいえ

これ程まで無遠慮な奴だっただろうか


(倒れてる仲間を見る目もえらく冷めてたし……やっぱこいつ何かあったのかな?)


逆に何もないのに、客人をこんな雑に扱ってそれはそれでお前どうしたっていう所。しかし別に無理やり聞くような事でもないので取り敢えず、アレフは蚊帳の外に甘んじておく。マナが満足ならそれで良いのだ


自分では無く、今日初めて会ったはずのエルフの少女に異様なほど懐き、ベッタリくっついているのは少し気に食わないが……


「うん、うん。なるほど、わかったわ」


と、サシャが何度か大きく頷く。マナの魔法暴発について何かわかったらしい。突如立ち上がったサシャを不思議さとワクワクで満ち溢れた目で追うマナ


「それはきっとオーバーロード(過積載)ね。元々自分が持っている魔力に加え、別の何かから得たエネルギーが自分自身の積載量を超えて暴発する、それがオーバーロードよ」


「おーばーろーど……べつのなにか?えねるぎー?」


マナは首を傾げる。彼女には難しい単語が少し多すぎたようだ、サシャは一度咳払いし、指をパチン!と鳴らす


すると、どこからか何処ぞの学校にでもありそうな大きな黒板とチョークが

飛んできて、サシャの後ろで急停止した。サシャはチョークを持ち、黒板に何やら絵を書いていく


「私にもオーバーロードの経験はあるの、その時はここの木々に吸われた魔力を吸い上げてみようとして、軽く積載量を超えて見事暴発したの……こんな感じね」


サシャが、一度黒板の前から退く

するとそこには簡単な人の全身と、一本の木々が描かれていた。上手さはそれなり、どちらかと言うと下手な部類


「この木から得たエネルギーが、こう私の体に入ってきて……そして私が元々持っている魔力と結合して……すると一気に流れ込んでくるから……」


と、絵を次々書き足しながらサシャは口早に説明していく。マナには難しいであろう単語が大量に並べられ、その上分かりにくい絵。マナはしっかり理解出来ているのだろうか、俺は別にハナから理解出来なくて良いのだが、あんな専門的な呪文(みたいな言葉)を並べて、マナにはわかるのだろうか


「あ、そうだ!」


マナが声を上げる。何か思い出したように手も叩く


「マナ、何かわかったの?」


「うん!わたしね、その、おーばーろーど?になるまえ、おうまさんにねさわったの!」


「あぁサシャ、おうまさんってのはマスターの事だ」


一応口を挟んでおく、にしてもマスターに触ったらオーバーロードしたのだろうか?だとしたら、マスターから魔力を吸った。という事になるのか


(何か俺もだいぶ理解しちまってるな)


毛ほどもわからんと話を聞いていたが

どうやら自分が思っているよりもサシャの話を理解しているらしい。我ながら驚きだ


「ふむ、マスターに……成程ね」


サシャはまた黒板に何かを書き連ねていく。今度は絵ではなく何かよく分からない文字?らしき物を書いている様だ


「マナ、貴女のオーバーロード。その原因がわかったわ……これ、読める?」


サシャが先ほど同様黒板の前から退く

近くに居るマナは勿論、未だ椅子に座り肩肘を付いてボケーッと見ているアレフもその黒板に書かれた「文字」らしき物を見つめる


(何だ、あれは……ここら辺の文字じゃないな、エルフ文字とも違う、か?少し似ているような気もするが)


「……かん、じょう?こころ?かな」


「正解。流石、私の見立て通りね」


「え、マナはあれが読めるのか?」


「なんとなく……うん、えほんにあったとおもうけど、パパわかんないの?」


マナはむしろ何故読めないのか、という顔でこちらを見てくる。正直心に突き刺さるのでそういう目は辞めて欲しい……切実に


「私が思うにね、マナは感情をエネルギーに変えれるんじゃないかな」


「かんじょう?」


「人の気持ちよ。マナがオーバーロードした時って敵と戦っている時だったんでしょ?だったらマスターも何らかの感情……殺意とかあったと思うの」


それは多少なりともあるだろう。その時は見ているだけだったが、傍から見てても分かるくらいの窮地だった。マスターがマナを守る為に殺意満々になっていてもおかしくはない


「つまり、それを魔力に変えてマナは体内に蓄積させて、オーバーロードしかねない状況を引き寄せた。という事か」


「えぇ、気になるのはそれを「無意識」でやったっぽい所ね……多重人格とかが可能性あるけど……」


「たじゅうじんかく?」


サシャがまた黒板を使って多重人格について説明し始める。その間、アレフは腕を組みサシャの解説を頭の中で整理する。思ったより理解してしまったので折角だから、もう少し頑張ってみる事にしたのだ


(つまり、マナは生き物の悪感情を吸えるのか?確か、マナが駄馬野郎に触れた後、あいつは意識を失って倒れていた……加減、無意識、多重人格……)


やはり、マナは凄い。俺の知らない事

出来ない事を簡単にやってみせる

しかし、出来ない事だって沢山ある。それを俺やマスターが補い、マナの成長に繋げてやらなければならない


「―――と、これが多重人格よ。わかった?」


「うん、わかった……けど、マナたじゅうじんかく。なの?マナのなかにもうひとりマナがいるの?」


「それは断言出来ないわ……けど、その可能性はある。そのマナの中に居るマナが現れる時、その時がまたオーバーロードが引き起こされる時なのかもしれないわね」


と、ここまで話した所でサシャはもう一度指をパチン、と鳴らす。すると黒板とチョークはまたどこかへ飛んでいく


「はぁ、喋り疲れた……こんなに喋ったのは久しぶりかも」


サシャは大きな溜め息をつき、椅子にドカリと座る。何だか段々と仕草に可憐さが無くなっている気がする。まぁ俺は別に良いのだが、マナが割と驚いている。サシャの行動がイメージしていたエルフとズレているのだろう


「マナも一度座ったら?立ちっぱなしで疲れたでしょ」


「う、うん」


マナはサシャに言われた通り自分の席にチョン、と静かに座る。その顔にはエルフへの失望以外の様々な色が浮かんでいた。そりゃそうだ、何せオーバーロードや、多重人格その他諸々一変に教えられ混乱しているに違いないのだ。


こういう時こそ自分の頑張り時だ


「つまり、マナの魔力暴発はオーバーロードという名前で、それは己の限界を越えたエネルギーの蓄積が原因。なんだな」


「ん、そうね。」


「なら、何か対策とかないのか?例えば外的要因で蓄積され過ぎたエネルギーを抜き出すとか……」


サシャは腕を組んで難しそうに唸る

見た目だけでいえば大人になりかけの子供にしか見えないが、これで俺の十倍(300歳)は生きている。それだけ知識を溜め込んだエルフがこれだけ悩むのだから相当難しい事なのだろう


それからも、世界でも数える程しか居ない魔法使い同士(一人使えないが)の談義は長々と続いた


▶▶▶


気が付けば、外もすっかり暗くなってしまった。太陽は山の向こうに消え、代わりに月が闇夜を照らし出す時間帯


眠ってしまったマナを荷台の寝袋に寝かせたアレフとサシャは、月の光だけに照らされる道を二人だけで歩いていた。以前にアレフがこの里を訪れた時以来、何十年ぶりの再会を分かち合う為

に―――――――

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