エルフは出来ない事だらけのようです。
マナは勘違いをしていた。それもかなり大きな勘違いをだ
何を?エルフは皆魔法を使い、尚且つ自由自在に使いこなしている。と思っていたのだ
だが現実は違った。本当の事しか書いていないと喜んだその絵本の内容も百発百中では無かった
「いや、その絵本に書いてある事は全て事実……だがそれが発行されたのは今から随分と前だ。」
そう語るのは、泥だらけになりながら地面に倒れ伏す里の長、ナルベルというアレフよりも若く見える男だった
さて、そんな長の言葉も踏まえ今一度戦いを振り返ろう……。
▶▶▶
ナルベルの言葉を聞くか早いか、勢いよく武器を持って飛びかかってきた里のエルフたちは即座に反応したアレフとそもそも臨戦態勢だったマスターによって一気に過半数を蹴散らされた
元々エルフの戦闘スタイルは魔法を主体とした遠距離戦……それ無しでただの肉弾戦をするなら、長年経験を積んできたアレフらが遅れをとるわけが無い。そもそも負けるはずが無いのだ
何せ相手は槍や剣で戦うことに関してはほぼ初心者、そして必殺の気合いも持ち合わせていない。やはり負けるはずがない
しかし、勿論そんな中にも手練れも居る。それがあのナルベルの一人娘サシャだ。彼女は魔法が使えた。
『リベルタ・マフェア』エルフ語で
「風よ、打て」を意味するこの言葉は彼女が風の魔法を使った事を意味する
魔法とは基本的に単語が増える事にその威力を増す……その代わり詠唱は複雑に、そして必要な魔力が大幅に増えるというデメリット付き。その中でも単語二つの魔法というのは少し弱め
警告、警戒の意を込めたサシャが放った風の刃はマナの炎によって簡単にかき消された
「魔法?」
「うん、たぶん」
サシャが魔法かどうか見切れなかったのは理由がある。何せマナの炎は詠唱を必要としないのだ、詠唱無しで突如炎を出せば大道芸か何かと間違えられる。それくらい不可思議で初体験の事だったのでサシャは少し驚いた
対するマナは、少しでもこの魔法を操る女の人から技術を、知識を吸収しようと片時も目を離さない。瞬きすらしていないのでこれまたサシャにプレッシャーを与える。どんな種族も不気味さからくる恐怖には弱いものなのだ
しばしの間、サシャによる大小強弱多種多様な風の刃。その見事な一人連携ぶりに驚き、そして感嘆しつつも決して気は抜かないマナ、やられては元も子もないと全力の炎で全てをかき消していてく。という熾烈な攻防が繰り広げられる
そこには誰も近付けない。矢を放とうにも風が吹き荒れているので絶対にまっすぐ飛ばないというエルフ殺し仕様
それでもこの里の長であり、娘の親でもあるナルベルはこの一行一番の危険因子、この少女の動きを止めるべく決死の突撃を試みる。が、ダメ
呆気なくマナの炎に飲まれ、娘を助けに向かおうとしたのに、その娘に炎の中から助け出されてしまうという、父として男として情けない結果になってしまった。オマケに持病の腰痛が再発し、寝転がされてそこから動けない状態になってしまった
気がつけばアレフとマスターによって魔法の使えないエルフらは倒され、今も尚戦い続けているのはマナとサシャだけになってしまった
(アレフらが倒したエルフらからは血は流れていなかったので恐らく気絶しているだけと思われる)
「……この辺にしておきましょう。こちらの負けを認めます」
一人残ったサシャは、劣勢。即ち逆転不可の状態を素早く察し、何の躊躇いも無く降伏を宣言した
「やれやれ……おいサシャ、回復魔法打ってやれよ」
これまた知人に対し粗暴な態度ながら
地に伏すまで襲いかかってきていたエルフらを気遣うアレフ。マスターも同様に前足で体を揺さぶり、気を失っている者らを起こそうとしている
「わかりました……アレフ様の娘様、よく見ておいて下さいね」
そう一言わざわざ告げ、先程まで風の魔法を出していた彼女の手のひらからまた別の魔法が出てくる。
それはしっかりと形と自我を保っている「独立した魔法生命体」その名も
「ピュアーズ」、その意味はエルフ語で「生者」、己の体を構成する回復魔法を傷付いた人に分け与える、という便利極まりない魔法
「これのメリットは、各ピュアーズがその人に必要なだけ魔法を施し、より多くの人に届けれる。といった感じでしょうか……見た事ありましたか?」
「ううん……とってもやさしいまほうだね。」
えぇ。とサシャはニッコリとマナに微笑み……次の瞬間、自分の魔法で段々と元気を取り戻していく「違う」仲間達を遠巻きに見つめる時には、笑みは無くなっていた
その後、冒頭にあった通り、マナは少しエルフに失望し。溜め息を一つついたところで、一先ず戦いは終わった
▶▶▶
「はぁ……取り敢えず、君らの入里を許可する。サシャ、家に案内してやりなさい。私は皆とここら辺の修復をしてから向かう」
「わかりました父様……皆様、こちらです」
という訳で、無事エルフの里に迎えられたアレフら一行はサシャに連れられ彼女の住まう里長の家へと向かっていた。アレフとマナはいつも通り荷台に腰掛け、マスターはそれを引きながら前を歩くサシャを追う。という形だ
「ねぇパパ、あのおねーちゃんとおはなししてきちゃだめ?」
「家に着いてからにしろ、お前もさっき戦ったばかりで疲れているんじゃないか?ほら、座れっての」
既に腰を浮かせ始めていたマナを抑えつけ、無理やり座らせる。マナは少し抵抗したが、父が自分を心配してくれているのをわかっているので、直ぐに引き下がる。父の言う通り、あの人らの家に着いてからでも遅くはないのだ
「んじゃ、マナちゃんが暇しねーように俺がちょっと小話でもしようかね」
ここで名乗りを上げたのは、後ろを振り向かず、依然としてサシャを目と脚で追い続けるマスターである
「ん、おもしろいやつ?」
「あぁ面白いとも。何で俺がこのエルフの里を嫌っているかってー話だ」
それを聞いたアレフはマスターを止めようと、口を動かそうとした……その瞬間、サシャがゆっくりと振り返り
ジッと何かを訴えかけるような目でアレフを見つめた
まるで(言わせてあげて)とでも言わんばかりの目だ。そんな目をされたら男のアレフとしては静かに引き下がるしかない。マナは気付いていないのかマスターが話すのを待っている
「……早く言えよ」
「よーし、アレフの許可も貰えたしこれでやっとデカい声で言えるぜ!……さてマナちゃん、ここの景色どう思う?」
マスターは嬉々として語り出す。やっとこさ溜まり溜まった鬱憤と共にこの里の真実をマナに伝えれるからである
「けしき?とってもきれいだとおもう」
「だろう?何でこんな綺麗なのかって言うとな、こいつらエルフの命を吸い取っているからなんだぜ」
ここからは、私こと地の文がお話させていただきます。何せマスターは大変口が悪く、喋っているだけでこの話に耳を傾けてくれている方々の気分を害する可能性があるからです
先ず、マスターの言った通り
エルフの里、その根幹は住民のエルフその命を持って成り立っているのです
と言っても寿命を吸い取っている訳ではありません。魔力を吸い取っているのです
先程の戦い、サシャ以外のエルフが得意の魔法を絡めた遠距離戦ではなく何故肉弾特攻を仕掛けてきたのか。そして何故マナは「このひとらまりょくがない」と言ったのか……それは全てこのエルフの里そのものの仕組みが原因なのです
自然と共に生きる。をコンセプトに野蛮な人類や、血肉の味を覚えた忌まわしい害獣らを避けるべく作られたこのある意味異世界、そんなエルフの里。いや、森は元々、木々のエネルギーを魔力に変換し、それを木々の栄養として循環させる事によって自然とエルフは見事に共存していました。エルフらが集めた血肉の味を知らない、綺麗な生き物らは
必要とせぬ雑草を進んで食し、それを栄養たっぷりの肥料、糞として森に還元する……そこでもまた共存が生まれていました。しかし、木々はいつしか立派な大樹へと成長し
その立派な見た目からエルフらもその木々を「聖樹」と崇め、奉りより多くの魔力、栄養を与える事になりました
するとどうでしょう、これまで絶妙なバランスで保たれていたパワーバランスはいとも容易く崩れ去り。エルフの命とも言える魔力は根こそぎ底を尽き
いつしか充分に魔法を操れるエルフなど居なくなってしまいました
まぁ、そういう訳でこの里に住む殆どのエルフは魔法を使えません。ならば何故里長の一人娘、サシャは使えるのかと言うと……短絡的に言って、偶然の産物だったのです。誰も意図せず、産んだ母すら驚いていました
……と、少々脱線致しましたね。
最後くらいはマスター自身の言葉でこの長ったらしい話を終わらせましょう
「つまりな、俺が言いたいのはよォ……この里の草!そこら中に生えまくっているいかにも美味そうな草!あれ全部食えねぇんだよ!お前らクソ耳長族が垂れ流しちまった魔力を食っちまったせいですっかり味が変わっちまって……何が自然と共存だ!生態系グチャグチャじゃねーかバカ!」
と、いうわけです。さて、そんな事を話している間に里長、そしてサシャの家に着いたアレフら一行
マナの目には未だ光が灯っている
アレフはあれ以来一度も後ろを確認したり、振り向いたりする事無くズンズンと自分の家へ歩いていくエルフの少女に内心疑問を持っていた
この以前見た時と見た目の変わらない
推定300歳の若輩エルフは、愛する娘の期待に添えるのだろうか。ここまで漕ぎ着けた徒労に見合う知識を披露してくれるのだろうか……なんて、自分だけでは答えの出しようもない疑問を
しかしそんな事は一度心の奥に仕舞い込んでおく。
アレフはキラキラと未知への期待に目を輝かせる愛娘と共に荷台から飛び降り、しっかりと手を繋いで二人は歩き出す
周りより一際大きな大樹の中に作られたサシャの家へと――――――――――




