いつの日も捜し物には時間がかかるものです。
「つまりな、あれは魔力の暴走なんじゃないかと思うのよー。マナちゃんは力に飲み込まれた……って、わけだ」
「ねぇパパ、おそらきれいだねー……」
「あぁ、そうだな。今日もよく晴れている」
「…………俺の話を聞いてくれよ」
いつも通りの二人と一匹は、野を歩いていた。しかし、珍しく目的地はある
それは童話の中で耳長族と揶揄されている「エルフ」、その里である。人の目には映らないよう術が施されているそこを見つけるのには、ちょっとしたコツがある
「……よし、ここでいい。マスター、鳴いてみてくれ」
「鳴くより泣きてぇよこっちは……喋っても喋っても無視されるしよー……」
今日のマスターは、文句が多い。このセリフを聞くのも今日で四回目だ
まぁ、人にも馬にもそういう時くらいあるだろう。適当に宥めて予定通り高らかに鳴いてもらう
マスターは人語を容易く操る。それには様々な事情があるが、それは一旦隅に置いておいて……まず前提として完全な馬であるマスターは、馬らしく高らかに「ヒヒーン」と鳴ける。そしてその鳴き声は遠く、遠くまでよく響く
「エルフの隠された里を見つけるには音の反響を使うとわかりやすい。よく耳を澄ましておけよ」
「うん!」
ヒヒーン、ヒヒーン……ヒヒーン……ヒヒーン……………ヒヒーン
段々と遠ざかっていくのがよく聞こえる……アレフとマナは耳を澄ましてそれを感じる。そして
「……あ!」
マナが何かに気付いた
アレフもそれに気付いてはいたのだが
せっかくだし娘に気付いてほしいと黙っている
「あっち、おとのひびきかたがへん!」
「そうだな。流石は俺の娘、耳まで良いとなるといい加減叱る所が無くなってしまうじゃないか」
なんてまぁベタ褒め、そしてベタ惚れである。以前あったマナ暴発の一件いらい、マナに対するアレフの思いは一段と強くなった。心から泣いて、泣いて、泣きあったのだ。仲良くもなるというものだ
「おいバカ親、行くぞ」
「あぁ、すまないな……よし、行こう」
簡単な地図に方向の印をつけて、また別の目的地に向けて進み出す。これを何度か、それぞれ別の場所で行い、エルフの里を割り出すのだ。これがまた中々に時間と手間のかかる作業なのだが、根気よくやらねばならない
「にしてもよーマナちゃん、なんであんな辛気臭ぇ耳長族なんかの所に行きたいんだ?何もねぇぞ、本気で」
「んー……サモラでみたえほんにね、かいてあったの。えるふさんはまほうがとくいで、なんでもしってるって」
なるほど、確かに療養中する事も無かったマナは街にある童話を読み漁っていた。その中に童話ではメジャー級なエルフの話があっても何ら不思議じゃない、にしても「何でも知っている」は言い過ぎだと思うが
「マナはそこに言って魔法の話が聞いてみたいのか?」
「うん!」
まぁそういう訳でアレフは必死こいて
エルフの街を探しているという訳だ
一応何度かはフラリと立ち寄った事はあるが、その時は偶然の結果で、すぐに追い払われてしまった。今回もそうなる可能性がない、とは言い切れないのが事実
(だが、マナは悲しませたくないからな……)
要するに見栄を張りたいのである
馬であると同時にアレフと同様に男であるマスターはそれを咎めたりはしない。咎めても仕方ない、男の性と言われればそれで終いだからだ
マスターはそれを理解していた
故にそれ以上文句は言わず、黙って作業をこなした……そして
遂にエルフの里、その場所が見つかった。平原のど真ん中、一見すると何も無いように見えるがアレフの持つ地図
そこに付けられた幾つかの✕印から照らし出されたのが、ここだ
「でも、どうやってなかにはいるの?」
「呪文がある、それを唱えればエルフの里へ通ずる『門』が開く」
なるほど、とマナは頷く。確かに自分が見た童話の中にそんな話もあったと思う。と父が手に何かを書き始めた
くすぐったくて少し笑い声が漏れてしまう。一体何を書いているのだろう
「マナ、読んでみろ」
「ん、えーと……『い・ざるは・えたーにあ』?パパ、これなんていみ?」
その時、マナが手に書かれた文字を読み上げたその瞬間。門は開いた
とてつもなく大きな音を上げて、ゆっくり向こうの世界を開けていくように
「イ・ザルハ・エターニア……道を塞ぐ門の歌……って意味だ。この光景は本当に見事だよな」
「いざ中に入ったら何も無ぇけどな」
全くマスターはいつまで経ってもそればかりである。先程まで頑張って愚痴吐きを耐えていたのに、目的地が見つかった途端これだ
マナは対照的に目を輝かせている
この子は目に入ったもの何にでも猛烈な興味を示し、尚且つそれを全身で表現してくるので見ていて面白い
(にしても、自ら魔法の勉強を……)
共に顔を泣き腫らし、日も経って幾らか気は晴れたかと思ったが案外この子の中であの、魔力暴発は結構大きなものとして心に根づいてしまったのかもしれない
「……まぁ、それもまた成長へと繋がる道なのかもな」
かくしていつも通りの二人と一匹は滅多に人が入ることが叶わぬ、まさしく童話の世界へと繋がる門を潜り消えていくのでした―――




