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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
24/162

父に感謝を、娘に愛を……です

『あーあー、主様、聞こえますか』


(あぁ、聞こえている。音質、音量共に問題無しだ)


絶え間ない炎撃をすんでのところで躱し続けながら、アレフは分身とのテレパシーを試み続けていた

結果は良好、ミスってマナの攻撃に当たりでもしなければテレパシーを敢行出来るだろう、だからこそ手早く済まさねば


(んで、何なんだその作戦とは)


『はい。いつか古い図書に書いてあったのですが、魔力には「底」なるものがあるらしく……底までいくとどんな魔法使いも魔法が使えなくなるらしいのです』


あぁ、そう言えばそれは聞いたことがある。無い者には詳しい感覚はわかりはしないが、図書によると無尽蔵と思われる魔力にも限度はある……とか云々。と、なるとマナも例外では無いのかもしれない


(わかったぞ、魔力が尽きるのを待とうって言うんだろ)


『ご明察、流石は主様です』


(なるほどそれは良い作戦だ。だからお前が狙われろ、そして死ぬ程攻撃されろ)


マナの攻撃が温い物ならその作戦は安定に富んだ「良いもの」となるだろうが

残念ながらそんな生易しくはない、その証拠にアレフも分身も一瞬たりとも足を止めていない。常に動き、マナの狙いが定めきれないよう炎を躱す


当たれば即死の真っ赤な炎を口から、手から、そしてそこら中に敷き詰められた魔法陣から、馬鹿みたいに湧き出てくる。それを避けながらテレパシーと会話するんだから、正直キツい。意識を二つに分けて別々に動かしているような感じだ


(何にせよ……ちょっと近づくのも無理そうだ、な!)


『ふむ……他の図書を参考にするなら、家族愛の力で洗脳を解き、ハッピーエンド。などはどうでしょうか?』


(お前が色んな本を読んでたのはよくわかった。ボツだバカ野郎)


『残念です』


こんな軽口を叩き合うのも、死と隣り合わせの現実から目を背けたいからかもしれない。ちなみに分身は、俺が二十三人目の主らしい。世界中を一枚のカードとして渡り歩き、行く先々で面白い本を読み漁っていたらしいのだ


と、まぁ今そんな事どうでもいいか


「ガァァ!」


バォン!!!


「ひぇ!?」


マナの口から放たれたこれまた派手な爆炎、それを紙一重でかわしたと思ったら背後から魔法陣から炎柱が湧いて出た、何とか体を捻って避けたがもうそろそろ限界か


(やっぱ受け身は苦手だ……!何とか状況を引っ繰り返さないと)


『主様ファイトー』


あの分身野郎、マナの背後に回り込んで狙いからわざと外れてやがる。そのせいでさっきから俺に攻撃が集中してるのか、なら


「おいマナ!後ろ見てみろ!」


言葉が伝わったかは知らないが、指で差したおかげでマナはそちらを向いてくれた、逃げ隠れていた分身と、ついでにこれまたコソコソ隠れていたマスターが見つかり、攻撃対象がそちらに移った。と言っても魔法陣からは無差別で完全ランダムなようで、時折炎柱は湧くが


そんな訳で、アレフは一応一息つく事が出来た。膝に手を置き、肩で息をする。と言っても完全に気を抜いている訳では無い、以前周りに意識を割いている


『主様酷い、私死んでしまいます』


なんて分身の愚痴と、マスターの悲鳴が聞こえてくるがそんなのはどうでもいい、無視だ無視。自業自得だ

仲間割れしている場合ではないのはよく分かっているが、まぁむかっ腹が立ったので仕方ない


……少し落ち着いた。膝から手を離し分身らを未だ攻撃し続けるマナの後ろ姿をジッと見つめる。そこにはいつものような可憐で、よく笑う天使のような愛娘の姿は無く、あるのは鬼、或いは童話に出てくる火龍のような恐ろしさ以上におぞましさまで感じる背中


「家族愛、か……」


何故か、先程分身が冗談混じりに言ったものがアレフの中で響き、何度も繰り返される「家族愛」


俺は、マナに愛を感じている。恋だとかそんなものでは無く、ただただあの子の笑った顔に幸せを感じ、あの子を笑顔にするべく様々な事をした。色々な街に行き、様々なものを見せ、様々な物を食べさせた……あの子は幸せだっただろうか


あの子は俺に愛を感じてくれていただろうか


「ガァァァァァ!!!」


マナの慟哭のような声が天に響く

その瞬間、アレフの脳に稲妻が走った


「そうか、それがあった!」


アレフは駆け出した、自分の咄嗟の思い付きに苦笑しつつも、それでも止まらない。もうやるっきゃないのだ


▶▶▶


マナの体はもうマナの物では無くなっていた。では誰の物か?誰が今も尚マナの魔力を回し続けるのか……それは恐らくマナの目の前に立つ「彼女」だろう


「あの……あなただぁれ?」


「私?私は龍、貴女と同じ」


マナはもう霧の中を走ってはいなかった。その代わりに、マナは真っ暗な闇の中で自分ともう一人、自分にそっくりな「もう一人の彼女」その二人で向かい合い、見つめ合っていた


何故自分がもう一人いるのだろう

何故彼女の目はあんなに怖いのだろう

何故自分は彼女を知っているのだろう


何故―――「ねぇ、私」


「えっ、あ、なに?」


見れば「彼女」は、すぐ肌が触れ合う程近づいてきていた。少し目を離し思考の海に潜りかけていた間に距離を詰めてきたのだ

マナは驚いて思わず一歩下がってしまう


「ねぇ私、手を出して」


「わ、わかった……これでいい?」


マナは「彼女」の言う通り手を差し出す

「彼女」はその手を取り、無理やり開いて掌がよく見えるように動かした

少し痛いような気がしたが、反抗して怒られる方が怖いのでジッとしておく


「……綺麗な手」


そんな事を考えていたので、「彼女」の言葉にマナは心底驚いた。嘲るようにそれを言うなら分かるが、そうではなくまるで慈しむような優しい声色で言うのだ、心底驚いた


「本当に綺麗ね……ほら、私のを見てごらん」


「彼女」はそう言って、マナの手を握っているのと逆の手を差し出し、掌を見せる


「……っ!?」


「驚いたでしょ……いつか貴女もこういう手になるのよ、多分」


マナが見たのは肌は黒く焦げ、腐ったようにグチャグチャに焼き尽くされた掌。マナにはわかった、それが魔法による物、魔法を使い過ぎた結果だと


「……いたくない?」


「痛いわ!もう死んじゃうくらい痛い……って、しっかりしてよ、ほら」


泡を吹いて倒れかけたマナの背に腕を回し、「彼女」は支えてやる


「これじゃあの人も苦労するわね、ってホントに気絶しちゃったし……夢の中でくらいしっかりしなさいよね、私」


マナを寝かし、「彼女」はどこまでも続く暗闇に溶けていく

当分自分の出番は無いだろう。本当はもう少し話したかったのだが、気絶されては仕方無い……けど

これだけは言っておこう、それを言いにここに来たのだから


すぅ……と消えゆくボロボロの手で眠るマナの髪の毛を撫で、ポツリ


「私は貴女、貴女は私……このままでは貴女は私のように魔法で自分を殺してしまう……けど、パパなら。大好きなパパなら何とかしてくれるから……その時は一緒に言いましょう」


ありがとう、と


▶▶▶


アレフは考えた。恐らくマナの中にまだ知能は、考える力は残っていると

故に……もし、もしマナが俺に愛を、特別な感情を抱いてくれていれば、声は届くかもしれない、と考えた


(おい分身!マスターと一緒にそこを離れろ!今すぐにだ!)


『その指示、待ち侘びておりました。何分私、指示が無いと逃げる事もままなりませんので』


こういう時の分身は行動が早い

軽々マスターを抱き上げ、地面を一蹴りして一瞬でマナの射程外へ逃げていく。マスター共々今の今まで逃げ続けていたのだから大した物だ、そしてここからは俺の仕事


マナは逃げた分身らを追うべく、俺に背を向けている。好機は今、逃がしてはならない!


「うおぉぉぉぉぉーー!!!!!」


「ンガッ!?」


アレフはマナに抱き着いた。先程のように情けなく、みっともない格好ではなく、ガッチリとマナが動けないように


(あっづぅ!あつ、あっつ!マナの体熱過ぎて溶ける!)


ヤバい。細胞が焼け焦げ、死に絶えていくのがよくわかる。わかるが放さない、放したらもうチャンスは来ない


(マナを、助けられない!)


アレフは熱さに耐え、更にしがみつく

全ては愛する娘を助けるために


「マナ!マナ、聞こえるか!?俺だ。アレフ、お前の父親だ!」


聞こえているのかいないのか、マナは拘束から逃げるべくより激しく暴れ回る。熱量もそうだが、その圧倒的な腕力のせいで今にも吹き飛ばされそうだ


「おいアレフ何してやがる!んな事したらお前が死んじまう!」


マスターの悲鳴にも近い声が聞こえる

全くもってその通りだと思うが、意地でも放さない、放しやしない


「放してたまるかっての……なぁマナ

聞こえてるか?聞こえてるよな、だってお前は強い。こんくらい屁でも無いだろう……?」


「ガアアァァァァァァァァァァ!!!」


「魔力全開の炎を空に撃ち込め!それで全部終わる!お前はもう戦わなくて良い、もう誰も傷つかなくて良い!」


正直、マナが、そんな事を気にしながら暴れ回っているのかはわからないが

嘘八百、あっていたらそれで良いし、間違っていても構わない。それで良い

俺はマナを信じているから


と、その時


「……おいおいマジかよ」


マナの動きがピタリと止まった。ほんの一瞬手前まで嵐の如く暴れ回っていたのに、唐突に止まった

マスターはあんぐり口を開けて、驚いた。横の分身も驚いた


(そう、そのままで良い……流石マナ、良い子だ……!)


アレフは片腕をマナの体から外し、そっ……と自分のポケットに手を忍ばせる


(第五の七つ宝具……こんなの使う時が二度と来るとは思っていなかった、が)


来てしまったものは仕方ない。ある物全部使って、マナを助けるまでだ


「いでよ第五の宝具「ミュルリプティカシオン」!んで持って……くっつけ!」


ミュルリプティカシオン、その名の意味は「増幅」

小さく丸い磁石のようなその機械は

くっつけた対象の持つエネルギーを無理やり引き出すというイマイチ使い所に欠ける道具……だが今回に限っては


ボォン!と派手な音を上げ、マナの体がより一層激しく燃え上がる

勿論その体を強く抱き締めているアレフの体も、炎に包まれる。が、アレフはその力を緩めはしない


「今だマナ!全力の一発を、魔力を限界まで高めた一発を……撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」


アレフの叫びに、マナの炎はさらに勢いを増す。高く、強く、激しく、雄々しく、そして美しく


そして、アレフらの真上だけでなく

そして、サモラだけでなく、この世界の人々、その殆どが一瞬夜が明けたのか?と勘違いをする程に、明るく、そして暖かい光に包まれた


そして残ったのは、静寂だった―――

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