猛炎は未だ寂しく揺れています。
さて、前回とてつもなくダサい登場をぶちかましたアレフですが、現在もその情けない格好でしがみついたままでマナもマナで軽くパニックになって体をブンブン振っているだけなので……
先に「敵」、マナの粛清対象の彼らはどうなったかを説明しようかと思います……と言ってもその実とても簡単な事で、マスターが目を覚まし、現状を理解し、先ず殺られそうな奴らをまとめて逃がした、というだけの話である
まぁ、唯一そのマスターによる行動の問題として何か上げるなら「炎の壁を裸一貫で突っ切った」という所だろうか
裸と言っても元から馬なのでアレだが
背にはシューズを乗せ、諦めたように目を瞑りながら泣いている「情けねぇ」男たちを頭で全員無理やり押し込んでそのまま炎の壁をぶち破ったマスターだが、「彼は」無傷である。シューズも火傷等は見えない。敵の男らは大小様々な火傷は見れるが全員生きている
手早く処置すれば跡も残らないだろう
「と、言うわけだ。お前ら力はあんだろ?親分の所にでも担いで行ってやれ」
マスターは炎の壁の外側で立ち尽くしていたえらく筋肉モリモリでアホそうな顔をした男二人組に「敵」の男らを渡す。彼らが一体どこの誰かは知らないが、どういう奴らなのかは知っている
アレフから聞いたのだ
と言っても直接聞いたわけでは無く、所謂テレパシー……と言う奴だ
マスターが目を覚まし、すぐさま現状を理解し行動に移したのもこれが原因なのだが、アレフの言う「七つ道具」とかでは無い
純粋にマスターとアレフの中で交わされた「契約」の能力である……が、今はその説明は止めておこう。何せ現状それどころじゃない
マスターはシューズをその背中からゆっくり降ろし、筋肉男がそれを肩に乗っけるのを確認してからもう一度炎の壁の方を振り向く
(さーて……俺も参戦すっかね!)
地面を蹴り上げ、一頭の馬は躊躇無く業火の中へ消えていった
男らは、マスターの言葉通り主人の待つ「建物」へ駆け足で戻って行く。感情は無い、言葉も無い、だからこの後彼らがどうなろうが欠片ほどの興味も無い…………が、その主人はどうなのだろうか?なんて疑問が唐突に浮かんだ
一体、主人は今何を思っているのだろうか?
▶▶▶
「おいマナ、ジッとしてろ!お前が暴れたら落ちるだろ!」
さて、アレフはというと……暴れるマナから落まいと必死こいて押さえ付けていた、というか掴まっていた
何せ今こいつを離せば、せっかく馬が逃がした男らを追いかけ、追撃をかましてしまいかねない。そうなると抵抗の手段を持たない彼らは今度こそ焼き殺されてしまう
「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」
(チッ……言葉が通じない、これでは埒が明かないな)
このままではいずれ振り落とされる。迷ったアレフはマナの背中に生えたその翼に目をつける
「そうだ!」
ガシッ。アレフは両足をしっかりマナの腰でロックをかけるように巻き付け
空いた両手で翼を掴む
「ガァ!?」
マナは驚いたように余計暴れる。もうアレフが誰かもわかっていない、敵が誰か見方が誰かなんてもうマナの中には無い。全て「敵」、翼を掴んでくるこいつも例外無く「敵」
コロス
「ガァァァァァァァァァァァ!!!!」
「あーもううるせぇな!!」
耳元で叫ばれては何より先ず鼓膜がやられそうだ。迷っている時間はない
「ふぅん!」
アレフは唐突に体を反らせ、全体重をかけて未だ握り続けるマナの翼、その方向を修正する。修正先は地面だ
(このまま俺ごと落としてやる!)
「ガァ!!!」
「んがっ!?この……抵抗するな!!」
ただマナもそのまま身を任せる訳が無い。翼の向きを無理やり変えられたのなら元に戻せば良いだけの話だ。そして先ずこいつを振り下ろす!
そして先程の有象無象共々焼き殺す!
(ハハッ……パワーえげつな過ぎるな
これちょっと、早速失敗かも……!?)
「おいバカ野郎!何の為のブースターだってんだボケェ!」
と、下からすごく聞き慣れた、むかっ腹の立つ声が聞こえる。が、今回はそのクソ腹立つ声と声の主に感謝しよう
そう、そうだよ!その為のブースターだった!「逃げる時」にしか使わなかったからすっかり失念していた!
アレフは何か思いついたのか、急激に体制を安定させつつあるマナの腰に巻き付けた両足をパッと放す
マナは当然混乱する。と言っても頭で考えている訳では無いので、どちらかと言うと「混乱した」、を本能で感じた
(無理やり引き摺り落とすなら……これが一番、速いっ!!!)
放した両足は宙からマナの「翼」の比較的硬い部分へ回り、ガッチリ引っ掛ける。狙い通りだ、そして
「第四の宝具!「リヒト・シュネル」!」
アレフの意志を込めた声に共鳴したかのように、履いたブーツが青白く光り出す。リヒト・シュネル(速き光)は呼んで字の如く「速いのだ」
もう少し分かりやすく言うならば……と百聞は一見にしかず。見た方が早いか
「ふんぬゥ!!!」
青白く光ったアレフのブーツ、その靴底に二つの小さなブースターが見え、そこからオレンジ色の熱エネルギーが
段々と現れてくる。小さな熱エネルギーは徐々に勢いを増していき、終いには再びマナの体制を崩しだした
「堕ちろ、マナ!!!」
更に火力を上げたブーツのパワーに押され、マナの視界が引っ繰り返される
と、次の瞬間
ドォン!
上下が引っ繰り返ったかと思うと、もう地面に叩きつけられていた。痛みは痛覚ごと脳の中に蔓延る霧の中に飲み込まれているので、地面に衝突した衝撃しか伝わらない。ただ現状は理解出来なかった。何せ急な事だ
ドォン……!
「っと、着地も完璧……俺、まだまだ現役でいけるな」
「お、泥棒家業復活か?応援するぜ?」
追って地面に着地したアレフの傍にマスターが駆け寄る。その結果一人と一匹対一人、という位置関係になる
ノソッ……と翼を仕舞い、立ち上がったマナは、アレフとマスターを酷く鋭い目で睨みつける。獲物を狩るのに水を差され死ぬほど苛立つ野の獣のような目だ
(しょ、正直マトモにやり合って勝てる気しないんだが……おいマスター、代わりにやるか?)
(やる訳ねーだろバカ、こちとら火傷まみれじゃ!)
なんてコソコソいがみ合っている間にもマナはゆっくりとその間合いを詰め始める。アレフらに飛び道具が無い以上リーチの差は歴然、手は早めに打たないといけないのだが……
何も案が無い。いや、色々と考えてはいたのだがマナの圧倒的な迫力を前にして、生半可な作戦の無意味さを思い知った、ハッキリ言って予想以上だ
(……おいアレフ俺一つ思いついたぜ)
(なんだ、言ってみろ)
(お前が囮になって時間を稼ぎ、その間に俺が逃げるんだ。んでどっかから助けを呼ぶ……どうだ、完璧だろう)
お前それ絶対そのまま逃げる気だろ
と、わざわざ口にするのもアホらしい
ので一発、糞駄馬の頬を殴り、正面から来る「娘」を見つめる
(ブースターが使えるのは出来てあと一回……それも弱火程度、殆ど意味が無い……か)
「取り敢えずやれる事をやるしかないか……!」
アレフはポケットからA5を取り出し、いつぶりかの呪文を唱える
「『映える光、その背後には闇』」
と、A5は塵に消えそれと同時にマナの炎によって煌々と照らされ出すアレフの影が、激しく暴れ、蠢き出す
「現れろ第二の俺、そして力を貸せ」
「…………顕現、承知」
さてさて、一体いつ以来かの分身の登場、これで人二人と馬一匹対「人」一人という位置関係……しかしたかが分身
それもアレフより更に力の無い分身
(分身はA5の持ち主の半分程度しか力が無い。持ち主の体調等に影響は無い)
不利な事に一切変わりない
(他の七つ道具も出せば良いんだが……おいマスター、時間稼いでくれないか)
(死にそうだし、パス……もうちょいマシな事言えよアホンダラ)
例えいつか俺が死ぬ事になっても、意地でもこいつよか永く生きてやる。んでこいつの間抜けな死に顔にとびきり臭い屁をかましてやるんだ、死ね
そんな事をアレフは固く誓いながら
それでも変わらない現状の打破を目指し頭を動かし続ける。もう殆どマナの間合いの中、もういつだって攻撃されかねない
「おい分身……何か案はあるか?」
「ありますが主様、二分の一程度で大失敗しますがよろしいですか?」
二分の一程度で済むなら文句はない。作戦の内容をすぐにでも聞き、実行に移したいところなのだが、何せマナからえげつない熱気を感じる。もう歓談する時間も無さそうだ
「おい分身、それは直接脳内で伝えろ。取り敢えず回避優先、決して当たるな」
「御意」
「ガァァァァァァァァァァ………!!」
マナの開いた口から炎のテラ付きが見える。あれに触れたら一瞬にして焼き尽くされること請け合い。なんてそう簡単に死んでたまるか、こちとら二十年ちょい泥棒家業で修羅場潜り続けたんだ。今更魔法なんて怖くもない
「ガァァァァァァァァァァ!!!!!」
こ、怖くない……うん、大丈夫、多分
「えぇい、娘にビビってたまるか!散りやがれお前ら!」
二人と一匹は各々別の方向に動き出す
マナは微動だにせず、気配だけでその行く先を察知していたが炎の壁から外に出るつもりが無いのを悟るや否や
再び、魔法の発動体制に入る
もう空は飛ばない、あの男は危険
飛び道具は無い、遠くから攻める
焼き尽くして殺す、馬も殺す、急に出てきたもう一人も殺す
頭の中の霧は、濃度を増していく
▶▶▶
自分には父と呼ぶ人が居る、面倒を見てくれる兄のような生き物も居る。しかし自分は知っている、全ての生き物には「母」と呼べる存在が居る事を
なら自分の母は誰だ、どんな人なのだろう、何処にいるのだろう……何故姿を見せてくれないのだろう。自分は今
何処かわからない霧の中を駆けている
自分は何を捜しているのだろうか、母か?なら捜し物は見つかるのだろうか、何故捜しているのか……憧れか?
無いと言えば嘘になるのだろう、この世に生を受けて少し、行く先々で家族という物を観る機会が何度かあった
その度胸が苦しくなった。父が嫌だとかそんな事毛ほども思わない。むしろ自分の父があのような人で心底幸せだと思っている
だがそんな父も、ましてや自分自身答えれない。説明出来ないことがある
それは「一体、マナという一人の人間は何者なのか?」という事
一体、自分は何なのだろう
普通の人間は卵からではなく母の腹の中から生まれる。しかし自分はそうでなかった……先ず自分は普通ではない
次に魔力、自分の中で至って普通の事として血潮と共に平然と流れ続けるこの魔法の素も他の人、それこそ父にも流れていないらしい……なら自分は何故流れる……やはり自分は普通でない
自分は普通では無い……自分は人では無いのか?なら自分は何なのだ
自分は駆ける、終わりは見えない
死ぬまでこの霧の中を駆け続ける
きっと終わりは無いのだ。この疑問を死ぬまで抱え、疑問に埋もれ死んでいく……嫌だ、嫌だな。そんなの
「だから……誰か助けて」
なんて悲痛な言葉も、霧にかき消される
マナは未だ駆け続ける
終わりのない疑問の答えを求め
ただ、ひたすらに―――




