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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
22/162

燃え盛る炎はまるでナポリタンのようです。

さてさて、対するターキの立てた作戦の全貌はこうだ……といっても、この作戦の参謀、作戦を考える者はターキではない。故に「ターキの立てた作戦」を知っている者は彼と、筋肉が自慢の脳筋男が二人のみ


先ず、アレフの見張りに選んだ男は必ず反旗を翻す。それもわざわざアレフとマスターを引き連れた上で


そしてアレフとマスターは、俺にバレないようこそこそとあの女の子を助けに行く。見張りの男……名前は忘れたが、彼は恐らく別行動。陽動を務めると踏んだ


さてさて、ここまで予想が当たっていたとしたらもう僕にする事は無い。敵は自ら網の中に飛び込んできている


「それが今、目の前に広がっている結果……何処か不備はあったかい?」


「いーや……なんにもない」


「建物」の二階、大きく開かれた窓からアレフとターキ、そして脳筋二人は全てを見ていた


具体的に言うと、マスターとマナが穴から出たかと思うと急に武装した男らがあいつらを囲むように飛び出し

靴屋の倅をゴミのように扱い、キレたマスターが戦おうとしていた……のだが、何故かフラっと倒れた。なんてまるで前回の説明でもしたいのかっていうレベルで全部見ていた


「僕の考え、結論を言わしてもらうと

君が今最も嘆き、悲しむ事はあの子を失う事だと思った。違いはないね?」


「あぁ……そうだな」


そしてアレフは、今もジッと外を見つめていた。倒れ、動けなさそうな一匹と一人を庇うように立つ愛する娘を


ただし絶望の目では無く、どちらかと言うと「期待」と「興味」の目でジッと見ていた。ターキはそれが面白くなかった


(ふむ……これではつまらないじゃないですか)


「なぁターキ、お前あの子の事どれくらい知ってて誘拐したんだ」


「ん?そ、そうですね……魔力と腕力が並外れていている事とかですか」


冗談めかしく笑いながらそう返答すると、アレフも心底可笑しそうに笑う。当初予定し、期待していた顔とは全く違う物だ


「くくく……そうか、まぁ間違ってないがな。だがお前は大事な部分をわかってないな」


「と、言いますと?」


「あの子は『優しい子だ』……さてターキ、早速取引といこうか?「俺をあそこに向かわせろ」」


ターキは、アレフの言う意味が毛ほどもわからなかった。何を言っているのだこいつは、といった具合である

まぁそれも無理はない。不利な状況である筈のアレフから「取引」という言葉が出たのだ……立場が逆ではないか?


「ま、今は見ておけよ。直にわかる」


なんて頭の中を見透かしたかのようなアレフの言葉に、また一つ苛立ちを覚えるターキなのでした。


▶▶▶


さてさて問題のマナはというと―――

絶賛燃え上がっていた、炎というよりは「火事」それも山でも燃えたかという勢いと規模でその体を燃やしている


その中にいるマスターとシューズの姿は見えない。しかし常識的に考えて

こんがり焼きあがっているか、もしくは骨まで焼け尽くしたかの二択


取り囲んでいた男らは、マナが燃えがるや否や距離をとった。幸い被害者はゼロで、皆目の前の光景に口をあんぐり開けながら呆然と見ていた


一言「何が起きている?」が総意で、結論。しかし誰もこの場から逃げないのは「その後」が頭をよぎっているから

作戦が成功し、街が活性化してからの自らやその家族の周囲からの扱いが頭をよぎったからだ、がこれ以上詳しくは語るまい。問題はマナの方だ


「いつか父が言っていた……人を、仲間を傷付けるような人になるな。と、そういう人間を見つけたら怒ってやれ、と……今、私はその教えを実行する」


瞬間、炎が一変に収縮した。収縮先はマナの体。まるでパスタでも啜るかのような勢いで体に吸い込まれて行った

炎は、その小さな体の中を駆け巡る


それはマナからすれば「懐かしい感触」だった。生まれて初めてやる事のはずなのに何故かやり方がわかる、どうすればより力が出せるか知っている


(まるで自分が自分じゃないみたいだ)


どうやら口調や喋り方が変わり、しっかりしている事は自覚していないようだ。体の方も確かめるように軽く動かしている


そして、確認を一通り終えたマナは

「敵」を一瞥し、深く息を吐く


「死ぬほど眠らせてやる、クズ共」


マナの言葉と共に空気が、地面が震える。所々に大小様々な魔法陣が現れている、が普段そんなもの目にもしない「敵」たちはその危険度が分からず、未だ判断に迷って逃げあぐねている


そしてマナも、もう待つ気は微塵たりとも有りはしない。「敵」は全て燃やすという心意気である


そこから先はまさに地獄絵図だった

逃げ惑う人々、追うように無限に魔法陣から湧く炎柱。さらに逃げ惑う人々

阿鼻叫喚、陰惨無残、炎の壁でまるで虫かごのように囲われ逃げる事もままならない状態。取り囲むための男たちが逆に囲まれている現状は、余程の変態でもないと笑えない程酷い物だった


「も、もう勘弁してくれーー!」


「助けてくれーー!!!」


なんて声も断末魔のように夜空高く響いている。さて、マスターとシューズはというと……まだ目は覚ましていない。マスターは特に安らかに眠っている。息でも引き取ったかというレベルでよく寝ている


にしても不思議なのは、無防備極まりない人一人と馬一匹に一切被害がない

どころか、無造作に連射される炎柱が当たりもしないのか……である。

まだ辛うじて、そういう善悪の判断はつくらしい、がそれを忘れるのも時間の問題のようだ


「ガァァ……ガァァァァァ……!!!」


マナが静かに、低く唸ったかと思うと

前にアレフと夜空を見た時に使った「翼」がバサリ、と背中に現れ、そして空高く飛び上がった


「コロ、ス……ゼンブ、コロス!!!」


もはや、目に正気はない。持てる力を余すことなく振り絞って「敵」を狩り尽くす獣……今のマナは、獣だった


頭の中には、もう何の為に戦うのか

何故自分は戦っているのか、何をすれば終わりなのかなんて事微塵もありはしない。あるのは虚無、真っ赤に染った虚無だ


どこまでも果てしなく続く「無」

マナはこれまた懐かしい感じだと思った。昔、長い間このような感じに包まれていた気がする。そして周りに大きな「何か」が居て、見守られていたような……そんな事を虚無の中に夢見るだけ、マナの中にはもう何も残っていない。ただ殺戮するだけの生き物と化してしまった


もう何人たりともマナを止めることは出来ない。炎の中で炎によって熱く焼き尽くされるのみ……もう助かる余地は無い


こんな作戦参加するんじゃなかったと母や子供の事を頭の中に巡らせる馬鹿な「敵たち」は逃げるのに疲れたのか、その場で次々にへたり込み出す


「も、もう無理だ……」


「俺たち死ぬしか無いのか……?助けは、ターキ様は助けに来てくれないのか?」


男らは、せめて最後に願うならターキによる助けを求める事にした。長らく信じ、いつだって導き支えてくれた本物の街の「長」を


そうだ、あの時だってそうじゃないか

ドラッグの密輸がバレて他国に淘汰され、今にも街が潰れそうになった時

流星の如く現れ街を再建させ、もう少しで以前以上に素晴らしい街に戻せる所まで持っていってくれた


彼らにとって唯一無二の英雄、それがターキ、バディ・ラン・ターキなのだ


だが、英雄は助けに来なかった

マナは翼を一打ちし、炎の風を起こす

風圧で無理やり一箇所に固められた男たちは死にたくないと天に拝む者、諦め悪く泣き喚く者と多種多様……しかし、全員「絶望」していた。もう、終わると


こんな爆弾みたいな少女に手をかけた時点で自分らの敗北は必死。今になって悟った比較的賢い男も数人居た

が、もう全てが遅い、遅すぎた


「シ、ネ……!!!シネ、シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネェェェェェェェ!!!」


息もぴったりに恐怖で目を閉じた男らの顔にひたすら熱い熱風がかかる


(あぁ、死ぬのか……)


もう泣き喚く者も居なくなった。揃いも揃って黙り込み、来るべき最後の瞬間を静かに受け入れる。だから


「情けねぇ」


マナが炎を打ち出すほんの一瞬、手前


そんな軽い口ぶりの言葉と吹いた一陣の風、それを感じた瞬間何を思ったかはわからない。ただただ、静かに涙を流していた―――


▶▶▶


時間を少し戻して、アレフら「建物」でそれを遠巻きに見ていた数人はというと……大きく動きがあった、具体的に言うと


「じゃ、こいつら借りるぞ」


アレフがマナたちの所へ行く事になった。あまりの凄惨さにターキが音を上げたのだ「もう駄目だ。あいつらを助ける手段は何かないのか……?」、と


アレフはこうなる事を読んでいた。あそこまで行くとは思わなかったがマナが本気を出せばあれくらい容易い事なのだろうと、そしていつか溢れ出す才能は爆発するだろうと


そして、アレフは助けに行く事になった。「敵」の男らを、ではない。そんなもん知ったこっちゃない、結果的に助けれればそれでいいが……取り敢えずマナ、マスターそして靴屋の倅を助けに行くのだ


さて、そこまで決まったのはいいが

問題はある。先ずあの炎の壁、あれを越えなければ助けるもクソも無い

勿論中央突破は不可能、そんな事すればあまりの高温で一瞬にして燃え尽きるだろう、オチが見える


ならば、とアレフが考えたのは

終始喋らないこの脳筋男二人、ターキから借り受ける事だ。自らの脚力にこいつらの人並み以上の腕力を加えれば取り敢えず炎の壁より高く飛べるはず


「良いか?息を合わせるんだ、何か合図を出した方がわかりやすいだろうが、何か好きな掛け声はあるか?」


「「……」」


しかし何せこいつら無口だ。俺が炎の壁へ駆け出したらしっかり着いてきたが、こうも喋らないとコミュニケーションの取りようがない


「喋らないと、マナに頼んで燃やすぞ」


「「……………」」


(ふむ、恫喝もダメか。中々強情だな)


「まぁ良い、喋れなくても言葉の意味はわかるんだろ?だったら合図は俺が出す。わかりやすい「一、二の三」、合わせろよ?」


「「……」」コクン


一応頷いてくれた。よく見ないと分からないくらい小さくだが……まぁ何とかわかったので問題無し


(ターキはこいつらとどうやってコミュニケーション取ってるんだ……?)


他にもあいつには色々と聞かなくちゃいけない事がある。まぁそれは後回しで良い、今は…………


「よしっ、ここで良い!行くぞ!」


アレフは炎の壁とある程度距離がある所でブレーキをかけ、後ろの二人にも「止まれ」と手で示す


脳筋二人はその手を見て、お互い顔を見合わせ、小さく頷いてからそのゴツイ手をギュッと握った

アレフはそれを確認し、その握られての上に飛び乗る


「んじゃ行くぞっ!一、二のって、おい待t」


瞬間、アレフは空を飛んだ

本当は自分の脚力も足して、高く飛ぶつもりだったのだが流石に脳筋、そんな物無くともどうとでもなるらしい


(でもタイミングは合わせて欲しかった!)


しかしまぁ何にせよ炎の壁は無事越えた。翼で空を飛ぶマナが視界ど真ん中に入る、こちらには気づいてない様だ


(僥倖……!)


アレフの狙いは、ハナっからマナのみ

悲劇の根源さえ捕まえれば後はどうとでもなる!というのがアレフの考えだ


と、いう事で

ガシリ。アレフはしっかりと抱き掴まった……何にかって?勿論マナだ

しかしその体制が幾分悪すぎた。上手いこと前から抱き着いた形になったので、まるで母親に甘える赤ん坊のような格好になってしまった。アレフは後悔した。ちょっと恥ずかし過ぎる、と

自分がそういう性癖を持っていればこんな羞恥心も生まれなかったのか?なんて事まで頭を回しながら……


さてさて、何にせよそんな阿呆なアレフはマナの暴走を止めるため、新たな力を解放する―――かもわからない。

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