サプライズなんて求めてません。
シューズが、事前に伝えた情報を簡単にまとめると、先ずある建物の中でターキら一味とマナは一夜を過ごし、日の出と共に奴隷の街「マホゼン」アレフら一行も行ったことのある街に向かい
そこでマナを「売る」らしい。
次に、その建物の中に見張り含めて十数人は詰めていて、包囲網を一切見つからないまま抜けきるのは困難を極める……らしい、アレフだけなら可能かもしれないのだが、今回はマナの奪取が目的、二人ではミスをしないと言い切れないのが事実だ
三つ目、マナは「力」を使えない状況に置かれている。手枷足枷に使われている錠付きロープと、マナの監視されている「部屋」がタネらしい。というのも
ターキは、マナが魔力や腕力その他諸々が並外れているのを何処からか耳にし、その為にアレフの「七つ道具」のような不思議な力を持った道具を集めたらしい
錠付きロープは、付けた人の筋肉、その運動を無理やり制御させる。そして部屋いっぱいに舞っていた埃は、吸うと魔力が正常に体全体を巡らなくなるという物珍しい代物、らしい
アレフ自身そんな物は聞いたこともないが、今もマナが逃げる所か騒ぎも起こして居ないのはおかしい。恐らく本当の事なんだろう、と納得した
さて、ここまで聞いてアレフの立てた作戦はこうだ
一つ、シューズは正面から乗り込み、アレフが逃げたとターキに報告。そして出来る限り多くの敵を連れて遠くへ離れる
二つ、自分とマスターは「イレーズンライト」を使って地中を進み、マナの居る部屋の下から穴を開けて救出、脱出
部屋の場所はシューズが知っていたので見取り図を簡単に書いてもらい、充分理解出来た。そこは問題無い
そして三つ目、そこまで動けばターキの事だ、きっと勘付くだろう。出来ることならマナの錠を解き次第逃げたいのだが、そう簡単にいくとは思わない
人生は簡単じゃないのだ。必ず躓く
その時のための保険……それは
(俺が囮になって時間を稼ぎ、地上に出たマナが外から火炎放射……敵に動揺を誘ってその間に逃げる……うーん不安定)
何度頭の中で反芻しても笑えてしまう
こんな不安定でリスキーな作戦で動いたのは生まれて初めてだ。いや、初めて盗みを働いた時以来かな?あの時も取り敢えず突っ込んでバックだけ奪うとか考えていたと思う……大差無いな
ガチャリ。ドアノブが回り、ねっとりとドアが開く
「やぁアレフ……見ない間に老けたね」
「それはお互い様みたいだな、ターキ」
部屋に入ってきたのはターキ、後えらくガタイのいい若い男が二人……のみ
(舐めてる……いや、そんだけ靴屋のが頑張ったのか?)
敵の少なさに半ばガッカリしながらアレフは何時でも跳ね飛べるよう腰を浮かし相手の動向に集中する
「おい」
「うっす」
ターキが人声掛けると、敏感に意味を察知した若い男の一人が壁についたスイッチをカチリ。と鳴らす
すると部屋の明かりがついた……ついたのだが何か部屋中暗い、というか黒い。どれだけ黒いかと言うと汽車の吐く黒煙くらい黒い
「これは?」
「君の娘がやったのさ。魔法の暴発とでも言っておこうか?それはそれは派手な爆発だった……アレは驚いたよ」
なるほど、それなら納得だ。それより
何故だが敵対する彼らから「匂い」を感じない。殺意や悪意……害の「匂い」がしない。それが逆に怖いのだが……
「アレフ、その姿勢キツいだろう?こっちに来たまえ……何もしないさ、ただ昔みたく二人で紅茶を楽しみたいだけだ。」
スン……やはりしない。こいつらにそういった所謂「負の感情」を一切感じない、ターキだけではない、後ろの若い男二人からはいっそ無関心の気配を感じる……何なんだこいつら、マナを逃がしてやる気でも無くしたか?
「ほら」
ターキは手を差し伸べてくる
アレフは躊躇し、受け取り兼ねたが
この作戦において自分の本分は時間稼ぎ。どういった形であろうとこいつらの「足」を止めなくてはならない……
そして遂に、ターキの手を取った
「……俺は紅茶が苦手だ、昔からな」
「なら麦茶にしよう。この街自慢の一品だ」
アレフはゆっくり立ち上がり、そのままターキらと共に部屋を後にするのでした。どこまでも晴れない疑惑の感情を一旦腹の底にしまい込んで
▶▶▶
さて、その頃地中を駆ける一匹と、その上でしがみついている一人はというと
「なぁマナちゃん、お前よく見たらえらく煤まみれじゃんよ!何かされたのか!?それとも……」
「ほのおだそうとしたらばくはつした」
場に似合わぬ和やかさで駆け抜けていた。主にマスターが
緊張状態を一瞬で解くと、いっぺんにダレる。それがマスターの悪癖だったもちろん今回も例外ではない
しかし、作戦はしっかり伝えないといけない。さもなくば靴屋のだけでなくアレフまでも危険に晒す「プランB」が成り立たない
「でだマナちゃん、さっき言った通り
ここを出たら全力全開で「建物」を撃ち抜いてくれ。いっそアレフごと撃っちまうつもりでな!」
「えー、そんなことしたらパパいなくなっちゃうもん、まなそんなよやだよ」
マナはマスターの背をポカポカ殴る
大分軽めに叩いているのだろうが充分痛い。だが、そんな時間も経っていないはずなのに妙に懐かしく感じてしまう。これでは文句の一つも言えない
と、そんな事をやっていると
前方に光が見えた、目指していたこの穴の出入り口だ
「マナちゃん、一気に外へ出るぜ!」
「おぉー!パパをたすけよー!」
ここを出て細かく立ち位置を調整
マナのチャージ時間はきっちり警護し
建物に直撃とまではいかなくても、程よい所に撃ち込んでもらう。敵の混乱に便乗して逃げてきたアレフを回収し全力で走って逃げる……らしくはないが、もうそれしかない。この作戦、勝って終わらせ―――
勢いよく穴を飛び出したマスターは
前方、いや四方八方に広がる予想外の光景に……思わず言葉を失った
「いやいやいやいや…………マジかよ」
やっとこさ捻り出したのはそんな、唐突なプレゼントに驚いた子供のような
それでいて絶望しか感じないトーンで
マスターは呟いた
「お、おうまさん……?これって」
人に囲まれていた
「……マナちゃん、こりゃ作戦変更しなくちゃ駄目そうだな」
それも結構な数だ。マスターの単独行動なら危険も顧みず突っ込むのだが今だけはそうはいかない、何せ背中に生きる宝物を背負っているのだ。傷でもつけようもんならアレフに殺される……それにマスター自身、マナの事は大切な娘として意識し始めた所だ
これ以上危険には晒したくない
(ど、どうする……?アレフが居ない以上、俺がアドリブで突破するしかないんだが…………………………そうだ!)
「マナちゃん、魔法って連続で撃てるのか?」
マスターの急な質問にマナは首を傾げ数秒唸っていたが、答えが出たのか
明るい笑顔で
「いけるよ!ちょっとよわくなるけど」
そう言ってくれた「弱くなる」というのは魔法の威力が、という事だろう
しかしそれはマナ基準での話、魔法を使えない身としては飛んでも火力に変わりはないだろう
「よし、なら―――」
「おい、馬」
今一度踏み込んで駆けよう。そうマスターが準備したのとほぼ同時に何処からか声が掛けられる。男の声だ
マスターはそっちへ振り返る。飛び道具でも持ち合わせられてない限り殆どの攻撃は見てから回避余裕。というマスターの絶対的な自信ゆえの行動だ
しかし
「ほらよ、これお前らの仲間だろ」
そう声の主、男が投げやりに言うと
その横に立つ複数の男らが「何か」をマスターとマナの前に放り投げた
「ぐはっ……!」
それは人だった。血にまみれ泥にまみれ、来ている服はドロドロだったがギリギリ何とか人の形を保っている、というレベルでボロボロだった
そしてそれは、マスターの知る人間
「く、靴屋の……、てめぇ何で!?」
そう、それはシューズだった
先程も言ったが全身泥にまみれ、見る影も無くなっていた。仲間だったはずの彼ら、マスターらを囲む彼らにやられたのだ
マスターは驚いて声も出ないマナを背に乗せた事も頭から飛ばし、倒れ伏すシューズに急いで近寄る
「お、おい……大丈夫かよ、お前」
「……すまん、失敗した。ゲホッ、やはり俺は駄目な奴だった。お前らの足まで引っ張って……うぅ、ずまん!ほ、ほんとうに……」
最後の方は涙ながらの声だったので上手く聞き取れなかった、が何を言いたいのか、どういう心持ちでそれを言ってるいのかは充分わかった。痛い程に
今、マスターの腹は括られた
「マナちゃん、俺今から暴れるからその間にどっか逃げてな。終わったら迎えに行くから」
「……マナもたたかうよ。おうまさんよりつよいもん」
マスターはマナの言葉に思わず笑ってしまった。確かにその通りなのだが
それよりもその自信満々な口調、段々と父親に似てきているではないか
「むしろおうまさんがにげれば?まちがってもやしちゃいやだもん」
おっと、こういう憎まれ口を叩くのも父親そっくりだ。こんなとこばかり似るのは本当に辞めて欲しいのだが、というか……
「おっと!舐めてもらっちゃ困るな。こう見えて俺は馬界じゃ負け知らずの俊足だ……なぁマナちゃん、本当に逃げないのか?」
「うん!」
そう場に似合わぬ明るい声で、そう一言。マナはマスターの背から飛び降り
シューズを庇うように有象無象の前に立ちはだかる
(いやはや……格好良いじゃあないか)
マスターはこれまたニヤニヤしながら
マナとは逆向けに立ちはだかる。何が何でもシューズを守る姿勢だ
「マナちゃん、そっち任せるからな」
「…………」
返事が無い、訝しんだマスターは思わず背後を振り返る
「ん、マナちゃん?」
「おうまさん、ごめんね」
瞬間
マスターは立てなくなった、力が抜けた。まるで体の機能を一部無理やり止められたかのように……。体全体が「何故だ?」と悲鳴をあげている。脳はパニックを起こしている
「私に任せて」
意識が途切れる瞬間、最後に聞こえたのはえらくしっかりした「女の子」の声だった―――




