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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
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馬鹿げた作戦の方がやり甲斐はあるんです。

「なぁ……おい、アレフってば。おいってば」


「…………………………………………」


一人と一匹は、歩いていた。シューズは「作戦」の都合上、別行動だ

さてさて、そんな一人と二匹がどこを歩いているかと言うと


地中。読んで字の如く、地面の中

何故?何故そんな所に居て、尚且つ歩いているのかというと……それは、アレフの立てた「作戦」の内容が深く関わっている


「なぁ、そろそろ説明してくれよ。何でこんな所通るんだ?わざわざ七つ道具まで引っ張り出して……普通に俺の足で駆け抜けりゃ良いじゃねぇか」


「そう簡単に行くならそうするさ……相手はあのターキなんだろ?だったらこのくらいしないとダメだ……と思う」


正直、これだけで足りるか自信が無い

何せ今回勝負を仕掛けてきたのは向こう、「あの」ターキだ。それなりに長い付き合いで手の内も幾らか知られている。勿論、この七つ道具の存在も知っているだろう


と、七つ道具の説明でもしておこう。

と言っても文字通りの物で、俺の盗人生活で獲得し、生命線として存分に力を発揮してもらった道具たちの事だ

「A5」「暗箱」「変音機」……と今までに使ってきたのもある。荷台は別、アレは

珍しくお金を払って買ったものだ。サイズ変更の五芒星もその時付けて貰った


そして今回、地中を進むにあたって使っている第四つめの七つ道具、その名は「イレーズンライト」、能力は「消す」

……消すのだ。大体何でも

人や動物は無理、無機物、特にある程度の広範囲を消すのに適している……理屈は知らない。ついでにこのライトを使って作りながら、今通っている特性トンネルが何故崩れないのか

その理屈も知らない。何せ同年代の奴らが勉学に励んでいるような頃からあんな薄汚れた仕事ばかりこなしていた

のだ。ちょっとくらい頭が悪くても許して欲しい……誰に許して欲しいのだろう、マナにだろうか?


「と……大体この辺りかな。おいマスター、何か臭ったりはしないか?」


「ん?あぁ……人の匂い、か?後何か埃っぽい気がする」


相変わらず優れた鼻だ。人の数十倍はあると本人(馬)が豪語していたが、実際その通りなのかもしれない。正直マナじゃなくてマスターが攫われていればこんな気苦労はせずに済んだ。出すとこに出せばそれなりの金になるだろうに……ターキもああ見えて抜けている。昔から毛ほども変わっていない


詰めが甘いのだ。出会った当初からそうだった……と昔話もいい加減にしておこう。そろそろ上も動くはず


「なーアレフー、何でこんな所通らなきゃ行けないんだよー……せめぇ、さみぃ、何か怖い」


……本当に何故ターキはマナではなくこの駄馬を盗っていってくれなかったのだろう。会ったら説教してやらなくてはならない。勿論、我が愛する娘を危険に晒したことも含めて


▶▶▶


さてさて、所変わって「外」

既に日は落ちた。ある一軒の「建物」に向かうはシューズただ一人、膝を震わせどうした物かと頭を回していた


(な、なんて言えば良いんだろう。素直に逃げられた、あっちへ逃げた。とデマでも流すか?……それで行くしか無いか。それ以上の下手な嘘はターキ様で無くとも感づきそうだ)


というわけで、一応腹を括ったシューズは「建物」の戸を叩く。出来るだけ強めに、何度も


そして幾らもしない内に、気だるげな顔をした老人が戸を開けてくれた


「誰だ……って靴屋の倅じゃねぇか。見張りはどうした」


「…………………に」


「に?」


「逃げられ、ました」


瞬間

老人の顔から血の気が引いた。引きすぎてシューズに対して怒るでもなく叫ぶでもなく、ただただ地面にへたりこんだ


「あ、あの……」


「……じゃない」


え?と思わずシューズは聞き返す

老人の声が、青黒く染った唇が震えて上手く聞き取れなかったのだ


「靴屋の……お前、それを言うのはワシじゃない」


ガシッ、肩を掴まれた。歳に似合わぬガッシリとした熟練農夫の手だ、その手が震え、目も震わせシューズの目を射抜く


「ターキ様に、伝えろ」


その目を、言葉を聞いてシューズは改めて今自分が何をしようとしているか、何と関わっているか認識し直した。自分は今から生まれてこの方、同じ麦を食べてきた仲間を裏切ろうとしているのだ。


引き返したくなった。正直に叫びたくなった「アレフは下にいる!地面の下に潜んでいる!」と……


(嫌、ダメだ!この街を救う為だろ!)


何とか己を奮い立たせたシューズは崩れ落ちた老人を通り過ぎ、ターキの専用室となっている個室へと駆け足で向かう。出来るだけ焦っているように見せたい、それに呼吸や動悸が乱れていればいくら「あの」ターキ様でも、そう簡単に嘘がバレたりしないはず……多分


「どうしました?えらく焦っているようですが……」


「えっ」


目が合った。曲がり角から思わぬ出会いがあった。これが綺麗な女性で、運命的な出会いだとしたらそれはそれは素敵な事なのだが残念、世の中そこまで甘くない


「タ、ターキ様……!?」


「君は靴屋の、確か名前は……んー、ちょっと出ませんね。それよりどうしました?君には見張りを命じていたはずですが」


い、いや落ち着け自分

どうせ今から会いに行く所だったんだ!それが少し早まっただけ、動揺するような事じゃない、落ち着いて用意した「嘘」を……!


「アレフが逃げましたか?」


(えっ)


第二の「えっ」は口には出なかった

代わりにシューズの心の声を担当する脳細胞らが一斉に動きを止め、冷や汗を無い額から垂らした


(な、何でバレた……!?こ、こうなったら押し通すしかねぇか……?)


しかないか、頑張ろう。さもなくば下にいる奴らだけでも何とか逃がす


「すみません、少し目を離した隙に……しかし、逃げた方向はわかっているので大勢で追えばまだ間に合うかと!」


「……ふむ」


ゴクリ、思わず生唾を飲んで喉が鳴ってしまったが聞こえてはいないだろうか、シューズは先程から止まる気配のない額の冷や汗を腕で拭う


「ふむ、ふむ……いやはや流石はアレフ。結界くらいじゃ足りませんよね……しかし逃げたか、まず助けに来るかと思ったんですが……ふむふむ」


「あ、あのターキ様、逃がしてしまい申し訳―――」


「いえ、予想通りなので問題ありません。ハナから期待してませんから」


ターキがサモラの人間に恐れられる大きな理由はこういう冷めた事を柔和な笑顔で平然と言う所が大きく関わっている。ターキ本人に自覚があるかは知らないが、彼が笑うだけで周りの人間はその度に肝を冷やしているのだ


今回もそう、例に漏れずシューズの肝は冷え上がっていた。


「わかりました、今この中に居る人間の八割を君に預けましょう。必ず見つけて下さい、出来るだけ手早く、迅速に」


「りょ、了解致しました!」


思わずビシッと敬礼してしまったシューズを視界から消えるよう踵を返したターキは、誰にも見えないよう口をニンマリひん曲げて、笑う


「さーて、私も動かなくてはなりませんね……!」


その時、ターキは思わず部屋で未だに眠りこけていたマナが飛び起きるほど危険なオーラを醸し出していた……


▶▶▶


ドタドタドタ…………トンネルの天井から土煙が沢山降ってくる、上で大量の何かが移動している証拠だ。どうやら靴屋の倅は作戦を遂行したらしい……なら、こっちもやる事をやらなければ彼の勇気を無駄にしてしまう


「マスター……用意はいいか」


「いや、用意もクソも作戦の内容を毛ほども聞かされてないから何も出来ないんだが」


マスターの言葉を聞いているのか居ないのか、アレフはイレーズンライトの電源を入れ、その光を「上に向けて」放った


「よしっ、ドンピシャリだ」


地面を文字通り消し、その先にあったのは木の床、建物の床だ。光で消し過ぎないよう絶妙な高さを狙って掘り進めてきたが、流石アレフ。狙い通りの結果になった……そしてこれまた狙い通り、というかシューズの見解が正しければ


「この上にマナがいる……はず」


「あー……なるほどな。お前が何をしたいのかちょっとだけわかった」


ようは例の如くこの床もそと不思議アイテムで無理やりぶち抜き、マナを迅速に回収してこの穴を逆流、出入り口はわざと遠めに作ってあるので途中でバレる心配も少なくて済む。まぁ、それでもゼロでは無いが



「なら準備頼むぞ。一瞬で済ます」


「あいよ」


そう言ってアレフはライトをしまい

素手で木の床を抜く、釘が刺さっているがこれはコツがある。慣れれば素手でも簡単に床は外せる……と


(よし、外れた……靴屋の倅が言うにはここにマナが―――)


キョロキョロ、と部屋の中を見渡す。マスターの鼻通り確かに埃が充満してある、事前情報通りマナがここに居るとしたら健康に悪影響が出そうな……


「んぅ……?」


と、背後で無垢な声が聞こえた

アレフは急いで振り返る


「マ、マナ……!(小声)」


マナが居た。シューズは正しい情報をくれていたのだ、なんて良い奴、アレフは心からシューズに感謝する


「パパ……おむかえ?」


「あぁ、ちょっと待ってろ(小声)」


自ら作った小さな穴から体を無理やり捻り出し、アレフは部屋に入る

そしてすぐさまマナに駆け寄り、ギュッと抱き締める


「悪かった、危険に晒してしまって」


「んーん、マナもじぶんでにげれなくてごめんね?いろいろやってみたんだけど……」


頭を撫でてやり、急いで手枷と足枷を外す。これまた鍵が必要な錠だがこんなもの自前の針金一本でどうとでもなる。はっきり言ってここまで来たら楽勝だ


「逃げ足の速さが武器……ですもんね」


ドアの向こう、部屋の中が暗くて曖昧だがその向こう側に数人の「敵」が居て、その内一人は俺のよく知る人物だというのはよくわかった


ガチャ


「よし、外れた……!マナ、あの穴から下に逃げろ。マスターが待ってる……ほら、先に行け」


マナは返事の代わりにアレフの頬にキスだけしていき、小さな穴を難無く潜り抜け下に逃げる。そのままマスターと共に逃げてもらう……俺はもう少しだけこっちに残る事にした


(あぁわかってるさ!ターキの狙いは俺だけ……俺さえ捕まえれればマナらは逃げれるはず!なら、俺は―――)


アレフは己の立てた作戦の馬鹿げ具合に思わず吹き出し、目の前のドアがいつ開いてもいいように、そこに座り込んだ。後は「アイツら」に任せよう。そう腹に決めて

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