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異世界旅行は愛する娘と共に  作者: 月見ヌイ
2/162

卵生まれの少女は俺の娘らしいです。

前回のあらすじ

卵から女の子が出て来た、以上


「パパ!」


「いや、パパじゃないから!ていうか君は一体何なんだ?人か?」


アレフは大いに動揺していた。卵から光が出てきたと思ったら、それが人の形を成し、人の言葉を喋り、そして自分の事を父親だという、この少女に


「???パパはパパでしょ。わたしはマナ!えーと……たぶんひとじゃない!」


何だよ人じゃないって、頭沸いてんのかこの子。と、頭の中で様々な感情が渦巻くアレフは、思わず茶色の毛がプリチーな馬、マスターに視線で助けを求める。いわゆるアイコンタクトというやつだ


(こ、この状況、俺はどうすれば良いんだ!?)


(知らんがな。お前が持ってきた卵の中身だ。好きにしろよ)


無言で助けを求めたアレフに、ピシッと冷たく返したマスターは、そのまま体を横にして、目を閉じてしまった


(ね、寝やがった。この野郎ぉ……)


「じゃ、じゃあマナちゃん。君、人じゃ無いなら、何なんだ?」


「んーとね、えーとね、んー……」


ダメだこりゃ。自分の事をマナと呼んだ少女は、首をグイングインひねって考えている様だが、一向に答えが出る気配がない


「と、とにかく……俺は君の父親じゃないし、卵から出て来たという事は、少なくとも本物の親が居るはずだろ?なら、そいつらの所に帰るべきだ」


「……ん、あはは!パパちょっとおばかだね!」


「マナ」が笑う。アレフは馬鹿にされた事も含めて、幼女相手に少しイラッとしてしまう


「な―――」「だって」


「だって、「おや」がいるとしても、たまごはパパがもってた。ならパパがパパなんだよ。「おや」は「おや」じゃない」


「む、んぅ……」


アレフは言い返せない。言っている事の意味はわかるし、何よりマナの目が本気だ。幼女のする目じゃない


「うわー……パパ、おそらきれいだね」


「あ、あぁ。そうだろ」


奇しくも、異性とこの景色を共有したいと思っていた所だったのでアレフは一瞬ドキッとしてしまったが、それよりもっとドキッとするものが目に入ってしまった


「……はぁ、この毛布貸してやるから体に巻きな。裸は不味い、特に他の奴らに見られでもしたら最悪お縄だ。」


いや、そうでなくても別件でお縄にかけられる可能性もあるが(犯罪者並みの感想)


「わ、ありがとうパパ!まいてー!」


毛布を渡そうとしたら、受け取らずバンザイしやがった。子供か……いや子供だ。仕方ない


(見るに身体年齢は10歳無いくらい……犯罪臭がぷんっぷんだな)


と、手先の器用さには人並み以上と自信のあるアレフは手早くマナの体に毛布を巻いてやる。落ちないように、ちょっと可愛らしく


「ありがとパパ!」


「はぁ……もう、お前の事は明日考えるか。眠いし面倒だし」


「ん、おやすみー!」


毛布はもう無いので極力風の無い荷台の中へアレフは潜り込む。もうだいぶ夜が寒い時期になってきた。冬も近い


「って、何でお前まで荷台入ってんだよ……毛布あるんだし外で寝ろよ」


と、マナもアレフに続いて荷台の中に入ってきた。もう横になろうとしている、寝る気満々だ


「だってひとりさみしいもん。パパはさみしくないのー?」


「いや……まぁ、別に」


「ほらーさみしいんじゃん!だったらいっしょにねよ?……だめ?」


上目遣いでねだるように、そしてアレフの事を案じるように……アレフの心は揺らいだ。それは長らく、生まれて自意識が芽生えてすぐ始まった泥棒生活で根付いた。根付かざるを得なかった「孤独根性」一人なんて寂しくないという、アレフの根幹。それが揺らいだ


(こいつはとんでもなく厄介な事になっちまったかな……)


アレフは後悔した、深く


「……はぁ。わかった、寝るよ。寝てやるから、静かにしてろよ」


「わーい!パパといっしょー!」


「うるせぇ……お、おやすみ」


「んふふー……おやすみなさい、パパ」


ぐぅ。アレフは息が、胸が詰まるのを実感した。おやすみと言ったら返事が返ってくる。なんて新鮮なんだ


マスターはいつも早く寝るし、その他に夜を過ごす友も居ないアレフの「おやすみ」に返事なんて帰ってきた事は無かった


(本当に、こいつ……どうしようか)


そんな事を終始考えていたアレフは結局、そのまま眠ってしまった。もちろん夢の中でもマナに悩まされたが


▶▶▶


と、いうわけで朝。圧倒的、朝


「おいいつまで寝てんだロリコン野郎」


日も顔を見せてだいぶ経つ、早寝早起きが日課になったマスターはいつもの如く日が昇る直前に目を覚まし、日の出を静かに眺め、それから相棒のアレフを起こすのだが、基本的に中々起きない、そして今日は特に寝覚めが悪い


「ちっ……子共の方もグッスリじゃねぇか」


何を気ぃ抜いて寝てやがんだかな。とマスターは地面に唾を吐き、誰にでもなく悪態をつく


(どーする気なのかね……やっぱ身売りとかか?いや、こいつに限ってそんな度胸無いか……)


「って、そうじゃねぇ!早く起きて飯作れっつーの!!!」


一瞬暗いことを考えたマスターは首をぶんぶん振り、第一の目標を果たすために最後の手段をとりにかかる


「喰らえっ!必殺、後ろ足蹴り!」


バゴッ!バゴッ!バゴッ!と一つ、二つ、三つ、マスターは後ろ足で荷台に蹴りを入れる。技名に一切の捻り無し


「んん……んー!……もぉーー!!!」


震動で先に起きたのは子供の方、マナ

だった。未だ起きないおっさんの方に苛立ちながらも、少しくらい会話を、と思ったマスターはマナに向き直り


「お、おはようお嬢ちゃん……フヒヒ」


「……」


(し、しまった。アレフ以外の人間と会話慣れしなさ過ぎて気持ち悪い奴みたいな喋り方しちまった……!?)


「……」


「あ、あれ……?お嬢ちゃん?」


反応が無い、表情も無い。等しく無だ

まさかあまりの気持ち悪さに絶句してしまったというのか。だとしたらちょっとショックで今日は歩けないかもしれない


「お、お……」


「お?」


「おうまさんがしゃべったー!?!?」


マナは目をサンサンと輝かせ、マスターの顔間近まで急接近した。そこかよ


「いや、まぁ。喋る馬を見た事ない奴もいるよな……でも卵から出てきたお嬢ちゃんには言われたくなかったぜ」


「あ、そっか!マナも「変な方」だもんねー。ごめんね、おうまさん」


い、いや。とマスターは顔を背ける

顔が近い、近すぎて眩しい。目がやられそうだ


(……変な方?)


そう言えばさっき、変な方とか言ってなかったか?変な方とはなんだ。馬が喋ろうが人が卵から生まれようが個人の自由だ。「変な方」呼ばわりされる筋合いはない


「おい、お嬢ちゃ―――」


「うるせぇ、ふぁ……」


変な方とは何か聞こうとした、ちょうどそのタイミング。ちょうどマスターの頭の中からアレフの事がすっぽ抜けたその瞬間


目覚めやがった


「……おい、何だよマスター。朝っぱらから不細工な顔で睨みやがって」


「こういう顔なんだよバカ野郎!クソみたいなタイミングで起きやがって」


「あ、パパおはよー!」


マナはアレフに跳ねて抱き着く


「あ、あぁ。おはよう……マナ」


んふふー、とマナが笑う。もうアレフにマスターの馬面は見えない。目にも入らない。無いも同然


「ちっ……朝飯食おうぜ、早く。おい」


マスターが再び荷台を後ろ足で蹴飛ばす。苛立ちを込めて、少女にギュッと体を抱きすくめられて涙目になっている変態に唾を一つ飛ばして、急かす


「パパ、マナもお腹空いたー」


「……ん、あぁ。わ、わかった。そうだな」


余程、抱き心地が良かったか、心に馴染んだのか、しばらく余韻に浸っていたアレフは、意を決して皮袋を手に荷台を降り、手早く準備を始める


「よぉアレフ、俺は驚いたよ。お前がこんなにヨレるなんてよ」


「俺自身も驚いたよ……本当にどうしようか、あの子」


荷台から足だけ垂らしてプラプラさせているマナを背中越しに見つめたアレフはマスターに半ば助けを求めるような視線を送る。昨日と同じように


「だから知らんって。ありゃお前のもんだ、好きに扱えよ」


「お前のもんって……お前他人事過ぎないか?」


「だってそうだろ?おい、手元見ないと危ないぜ」


果物の実をナイフで切り分けていたアレフはマスターの言葉に慌てて視線をそこに戻す。何故か苛立ってしまっている。何故だろう


(……身売り。いや、それはダメだ。人としての一線を越えてしまう気がする)


マスターの予想通り、そこまで犯罪根性を持ち合わせていないアレフはあっさりと一つの選択肢を捨てる


(となると、何だ。何がある?)


アレフの手が完全に止まる


「おいアレフ。悩むのは後にしろよ」


「あ、あぁ」


結局、アレフはカットした果物いくつかと、乾燥肉として準備し、各自に取り分ける


「じゃ」


「「「いただきます」」」


数分後


「「「ごちそうさまでした」」」


と、いうわけで出発。旅、再開


「何処へだよ」


当たり前のように荷台に乗り込んだ二人にツッコんだのは、この朝一番元気なマスターだ。というかこのツッコミも当たり前で


身売りをしないとなると、この所在素性、名前と性別以外一切不明のこの子供をどう扱うのか


「取り敢えず、こんな格好では可哀想だから最寄りの街で身の回りをもう少し小綺麗にしてやろう……その先はその先考えるさ」


「……ふむ、良いだろう」


マスターはアレフの出したこの回答に快諾出来なかった。曖昧なのもそうだが、どちらかと言うと「共存」それを選んだような、それもアレフは半ば無意識で選んでしまったような気がしてしまったからだ


(まぁ、無理に「捨てろ」とは言えないし……それしかねぇかな)


「わかった、行こう。ここから最寄りとなると……あ、「マホゼン」だ」


戦慄。アレフの顔から突如として血の気が引く。真っ青、動揺


「マホゼンか……」


「まほぜんってなにー?」


マナが無邪気に聞いてくる。アレフは無言でフォローを求め、マスターもそれに気づきはしたが、無視。

正に我、関せず


「はぁ……、マホゼンっていうのは人の売買……売ったり買ったりが平然と行われるような、簡単に言うと酷い街だ」


「ふーん……」


わかっているのか居ないのか、マナは生返事を返す。せめて酷い街って部分は伝わっていてほしいのだが


「でも、おようふくほしい……」


なら仕方ない


「行くぞ」


「構わん」


可愛い女の子のお願いなら、聞かざるをえない。迫り来る街の脅威だろうが何だろうが、きっちり守って可愛い洋服を買ってやろう。そう固く決意する大人一人と、馬一匹なのでした


▶▶▶


最寄りと言えども、まだ少し距離はある。そう言えば自己紹介がまだだったと、アレフとマスターは時間潰しに自己紹介をする事にした


「最初は俺、馬のマスターだ。つっても、人の言葉を喋れるってのとチョイとイケメンって事以外言うこと無いな」


人の言葉を話せるってのだけで充分お釣りが返ってきそうな濃さだが、最後にボケやがった。それも自分では心から思ってそうだから余計にタチが悪い


「うまづらー!」


「ぶふっ!!!」


思わず吹いてしまった、マナはこういう事も言えるのか。マスターは聞こえないふりをしている、馬耳東風という奴か。昔東洋の国で聞いたな


「パパはー?」


「俺、俺か……俺はアレフ。フルネームは長いし言いたくないから、アレフだけ覚えてくれ。特徴とかは……あんま無いな、すまんなマナ」


ここで職は泥棒とか言えば喜んで貰えるのかもしれないが、何分人の心なんてわからないのに、子供の考えなんて微塵もわからないアレフは嫌われるのをビビって最低限の情報だけを伝える


「最後はお嬢ちゃん、一発かましてやれよ」


「あ、マナもいいの!?やったー!」


無邪気。とても無邪気だ

見ているだけで心が洗われる


「マナのなまえはマナ!マナだよ。えっとねー、たぶんすてられて、パパがパパになってくれて、それで、えーとえーと……」


「マナ、そんなに焦らなくてもちゃんと聞いてやるから。ほら、落ち着けよ」


「えへへ……じゃーね、マナのひっさつわざ、みせてあげる!」


そう言ってマナは、荷台ギリギリに立ち、空を見上げる


「ひ、必殺技?」


「はは!良いぞお嬢ちゃん、ぶっぱなせ!」


聞こえてないのか。返事が無い

その代わりに不気味な音が聞こえてきた。地獄の底から響くような、呻き声のような……いや、これって


「地面が揺れてる、のか……?お、おいマスター!」


「何だよこれ!?まさか、お嬢ちゃんがやってんのか!?」


いや、まさか。いや、でも他にありえないのか?マナに近づいてみる


(えっ)


「ふぁいあー!」


瞬間―――


太陽がサンサンと輝く空に、花火が打ち上げられた。いや花火じゃない、アレは、火球。炎だ


「……うわ、あつ!あっつ!マジで炎だぜこれ!」


散り散りに降り注いでくる火の粉、火球の残骸から逃げ惑うマスターは内心

最高に昂っていた

奇しくも、アレフも同様の感情を覚えていた


((この子、とんでもない「宝」じゃないか!?))


そうそう、そういえば問題の街

「マホゼン」はもうすぐそこ。姿は見えてきた


はてさてこの一行、この先どうなるのだろうか



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